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[SPIEL’15]総重量10kg越えの超大作「MEGA CIVILIZATION」はいかにして生み出されたのか。ゲームデザイナーに聞く,その狙いと手応え
木製の箱を含めて重量は堂々の10Kg越え,プレイ人数は最大18人(ちなみに最少は5人),プレイ時間に至っては最大12時間と,どこを切り取っても「メガ」と呼ぶに相応しいこのタイトル。果たしてデザイナーは何を思い,何を求めてこんな怪物ゲームを作ってしまったのだろうか。
会場で自らデモプレイを仕切っていたオランダ人ゲームデザイナー,FLO DE HANN(フロ・デュ・ハーン)氏の手が空いたところを見計らって話を聞いてみた。
「MEGA CIVILIZATION」公式サイト(オランダ語)
「Civilization」についての準備運動
さて,本題に入る前に,少し情報を整理しておきたい。「Civilization」の名を冠するゲームには,複数のプラットフォームに渡って名作が多いため,とかくさままざまな誤解が発生しやすいのである。
- 「MEGA CIVILIZATION」は,PCゲームの「Civilization」シリーズとも,「Sid Meier's Civilization: The Board Game」とも関係がない。
4Gamer読者的には,「Civilization」と言えば“Sid Meier's”の冠がついたCivilizationシリーズを連想すると思うが,「MEGA CIVILIZATION」はPCゲームのCivilizationとは直接には関係がない。もちろん,文明の興亡を扱ったゲームという点では一致するが,それだけである。
同様に,PC版のCivilizationシリーズをベースとして作られたボードゲーム「Sid Meier's Civilization: The Board Game」もまた,「MEGA CIVILIZATION」とは直接の関係を持っていない。
- 「MEGA CIVILIZATION」がベースにしているのは,「CIVILIZATION」(Avalon Hill)という,1980年に発売されたマルチゲームである。
「マルチゲームって何だ?」と思われるかもしれないが,1980年当時は,本作のように多人数が参加して競い合うボードゲームは,「マルチ(プレイヤーズ)ゲーム」と呼ばれていた。近年では,3人以上で遊ぶゲームはごく当たり前に存在するが,昔は1対1が基本であり,多人数で相争うゲームは少数派だったのだ。
……とまあ,いろいろ面倒くさいが,つまり以下のインタビューにおいては「CIVILIZATION」という言葉が出てきたら,それは1980年に発売されたボードゲームを意味するのだ,ということを念頭に,読み進めていただきたい。
8年がかりで実現した夢
4Gamer:
まず本作,「MEGA CIVILIZATION」の特徴から教えてください。
僕はオリジナル版の「CIVILIZATION」がとても好きで,それをベースにした拡張版を作りたいと思い,開発を始めました。「CIVILIZATION」に比べると,「MEGA CIVILIZATION」はマップがより大きくなり,プレイヤーは最大で18人まで受け入れられるようになりました。また技術の種類は倍になり,災厄の種類もかなり増えているんです。
4Gamer:
ということは,より複雑になった?
FLO氏:
いえ,ゲームの要素は増えましたが,手番を管理するゲームメカニクスは,完全に新しいデザインになっています。だから,「1人のプレイヤーの手番が長くて,ほかのプレイヤーが暇になる」ということは,それほどないと思いますよ。
4Gamer:
なるほど。
FLO氏:
歴史的なリサーチも,より深く行いました。「MEGA CIVILIZATION」は複数のエリアに分割されたマップを用いるゲームですが,それぞれのエリアの名前は歴史的に見てより正しい名前が採用されています。そのほかで言えば,ビジュアルが大きく変わっていますね。モノクロで印刷されたかつてのカードも好きでしたが,「MEGA CIVILIZATION」ではカードもカラーになりました。
4Gamer:
「CIVILIZATIONがベース」とは言うものの,ほとんど新しいゲームに近いわけですね。それだけのゲームをこの規模で作るとなると,開発は大変だったと思いますが,どれくらいの時間がかかったのでしょうか?
FLO氏:
8年かかりました。
4Gamer:
8年!? それはまた……すごい時間ですね。でも確かに,テストプレイを考えると,それくらいかかりそうな気もします。
FLO氏:
そのとおり,テストプレイは実に大変でした。なにしろまず,テストプレイヤーのスケジュールを調整して,18人集めるところからスタートですからね(笑)。
4Gamer:
それは大変なんてものじゃないと思いますが(苦笑)。さておき,近年のボードゲームは,プレイ時間が短くなる傾向にあるように思えますが,このタイトルはプレイに12時間かかるという超ヘビー級です。これほどのものを開発し,かつ正式にリリースするというのは,かなり勇気が必要なことのように思えるのですが,いかがでしょうか。
FLO氏:
そうですね,僕は短時間で終わるゲームも好きですけど,それ以上に長時間かかるゲームが好きなんですよ。例えば「1830」※とかね。ただ,だからといって非現実的なプレイ時間が求められるゲームが遊びたいわけでもありません。あくまで1日程度,それも24時間という意味じゃなく,例えば朝9時くらいにゲームを開始したら,夜9時くらいには終わる,そんなゲームがいいと考えています。
※鉄道ゲームの金字塔として知られる「1830: Railways & Robber Barons」(Mayfair)のこと。運の要素が完全に排除されており,行動と結果に完全な再現性があるのが特徴。Mayfairからはこのほかにも「18xx」シリーズと呼ばれる鉄道ゲームがいくつも出版されており,「MEGA CIVILIZATION」を出版している999 Gamesは,実はこの「1830」の現在の販売元でもある。
4Gamer:
確かに,それくらいなら土日で合宿するタイプのゲーム会を開けば,徹夜しなくてもちゃんと決着しますね。
FLO氏:
だから「MEGA CIVILIZATION」では,プレイ時間として最長12時間をひとつの目安としています。もっとも,18人でプレイすると,さすがに12時間では終わらないんですけどね(苦笑)。でもこの場合でも,16時間程度で終わります。あと,18人というのもコダワリがあって,僕はこれくらいがリビングルームに入れる上限人数だと思うんですよ。
4Gamer:
えっ? いや……日本のリビングルームだと,その半分でも厳しいですけど(苦笑)。
FLO氏:
そうなんですか? まあ,ともあれただ巨大なだけでなく,ちゃんと楽しくプレイできなくてはならない。だから,長時間楽しめるけれども,現実的な時間できちんと終わる。それが僕のデザイナーとしてのポリシーなんです。つまるところ,「MEGA CIVILIZATION」は自分の「好き」を集めて作ったタイトル,とも言えますね。
4Gamer:
とても高い理想を追求されていると思います。実際に,ここSPIEL’15での売れ行きも好調のようですし。ちなみに,これは自分でも馬鹿げた質問だと思いながらお聞きするのですが,拡張セットとかはあり得るんでしょか?
FLO氏:
もう既に巨大なゲームですからね(笑)。ただ,今の「MEGA CIVILIZATION」に何かを加えるのではなく,新しい地域を舞台にしたバージョンというのは,あり得ると思います。アジアはもちろんですが,個人的には中南米も面白そうです。
4Gamer:
おお! 中南米,いいじゃないですか。
FLO氏:
ただ,実際に作るとなったら入念な歴史的リサーチが必要になりますし,テストプレイだってかなりかなりかかります。僕は,自分のゲームを完璧かつ素晴らしい状態でリリースしたいので,やるとしたらまた数年がかりになるでしょう。
4Gamer:
「MEGA CIVILIZATION」以外の,別のゲームというのはいかがですか?
FLO氏:
ずっと温めているゲームのアイデアは幾つかあります。「MEGA CIVILIZATION」と並行して作るのは時間的に厳しいので凍結していましたが,無事リリースされた今なら可能かもしれません。そのときは,もっと短時間で終わるゲームにしたいですね(笑)。
4Gamer:
ちなみになんですが,ウォーゲームはどうでしょうか。「CIVILIZATION」が登場した時期はウォーゲームが盛んだった時代でもありますから,世代的に被っているのではないかと。いや,これは個人的にウォーゲームが好きなだけなんですけど。
FLO氏:
ナポレオニック※とかは遊ぶことがありますが,ウォーゲーム全般で言うと,僕はあまり遊ばないですね。やっぱり「CIVILIZATION」のように,交渉したり交易したりのゲームが好きなので,戦争がメインになるものはあまり……。
※ナポレオン戦争を扱ったウォーゲームの1ジャンル。基本的にプレイに長時間が必要で,かつ盤面が美しく,いろいろと“濃い”ゲームが多い。これを遊んでいる人に「ウォーゲームはあまり遊ばない」と言われるとその,困ります。
4Gamer:
分かりました。まだ聞いてみたいことはいろいろあるのですが,もう次のゲームが始まってしましますね。最後に日本のボードゲームファン,あるいはボードゲーム開発者に向けて,なにかメッセージをいただけますか。
FLO氏:
じゃあデザイナー志望の人向けになってしまいますが,「夢を追いかけろ」「決して諦めるな」という二つの言葉を贈らせてください。そのうえで,ゲームを愛することと,それが楽しいものだということを忘れないこと。これを強く言いたいですね。
4Gamer:
お忙しいところ,本日はありがとうございました!
8年越しでゲームを完成させるだけあって,FLO氏は大変に情熱的,かつ確固としたポリシーを持ったデザイナーであった。「長時間かかるゲームは好きだが,遊べないゲームであってはいけない」というのは,古いボードゲーマーにとって,とても含蓄がある言葉と言えるだろう。
「MEGA CIVILIZATION」は,一見してプレイ不可能なほど巨大なゲームに見えるかもしれないが,参加人数もマップの広さも,実は柔軟に変更できるようになっている。例えば人数が少ないときは,マップの半分だけを使い(それでも208×144cmあるのだが),さらに一部を進入禁止にして地域を絞ることも可能になっている。
パッケージ重量10Kgという重みに負けない心があれば,日本の住環境でも十分にプレイ可能なはず。日本国内で手に入れられるかはともかくとして,機会があればぜひトライしてもらいたいタイトルである。
「MEGA CIVILIZATION」公式サイト(オランダ語)
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