レビュー
ポケモン初心者,そして大人にもオススメできる意欲作。「ポケットモンスター サン・ムーン」をレビュー
本作は,ポケモンシリーズとしての王道を堅守しつつ,随所に施された改良によって,かなり遊びやすくなっており,久しぶりに遊ぶ人や,今からポケモンワールドに入門する人にもオススメできる内容になっている。まだプレイできていない人は,年末の時間があるタイミングにぜひ! ということで,その魅力をお伝えしていきたい。
南国を舞台に,大人も楽しめる王道のシナリオが展開
本作の舞台となるのは,ハワイを思わせる南国「アローラ地方」。自然豊かな4つの島と1つの人工島を中心とした,温暖な島々からなる地域だ。プレイヤーはこのアローラ地方へと引っ越してきたばかりの主人公として,さまざまな人やポケモンに出会うことになる。
謎のポケモン「ほしぐも(コスモッグ)」を連れた神秘的な少女「リーリエ」とともに,島めぐりに旅立った主人公。そこで出会うのは,悪事を働くならず者「スカル団」と,強さに固執する用心棒の「グラジオ」や,「エーテル財団」を率いてポケモンを保護する「ルザミーネ」といった個性的な人々だ。島めぐりの試練の先に,主人公は何を見るのだろうか?
スカル団の用心棒であり,強さを求める少年「グラジオ」。主人公が行く先々に現れてバトルすることに |
「エーテル財団」の代表「ルザミーネ」。溢れんばかりの愛情でポケモンを保護する |
これまでのシリーズでは,主人公が各町にあるジムを巡って「ジムリーダー」とのポケモンバトルに挑み,勝利の証としてバッジを手に入れるというのが基本的な流れとなっていたが,本作ではこれが「島めぐり」と呼ばれる儀式になっているのが,ゲーム進行上の大きな変更点だ。独自の文化が発展してきたアローラ地方で,子供達が一人前のポケモントレーナーになるためには,4つの島それぞれにある試練を受けなければならない。試練の内容はポケモンバトルだけでなく,間違い探しやポケモンの鳴き声についてのクイズ,特定の場所でポケモンを撮影できる新要素「ポケファインダー」による写真撮影などさまざま。どのような試練が待ち受けるのか分からないので,島めぐりを進めていくのはなかなか楽しい。
島めぐりでは,「キャプテン」たちがさまざまな「大試練」を出してくる |
キャプテンのひとり,「カキ」の大試練はなんと間違い探し |
例えば,主人公を導いてくれる「ククイ博士」などは,大人の視点から見るとより味わい深い人物だろう。コミカルな人物に見えるのだが,シナリオを進めると,内面には強い信念が宿っていることが分かる。島めぐりの試練を経た彼は,自分が最強になるのではなく,アローラ地方から新たなトレーナーを送り出すべく活動する。自分を育んでくれた地元に奉仕し,他者の為にチャンスを作りたいという感覚は,大人であればより共感できるのではないだろうか。
シナリオのメインテーマである親子の関係も味わい深い。相手への愛情や,子離れについてまでもが描かれている。大人であれば,親の理屈と子の言い分の両方が理解できるため,子供の時に遊ぶのとはまた違った感じ方ができるはずだ。
敵役として登場するスカル団も印象的で,彼らは単なる悪党どもではなく,島めぐりから落ちこぼれてしまった子供達や,かつてポケモンに罰された人々の集まり。島めぐりという旧(ふる)い風習や,気まぐれなポケモンに振り回された影の存在だ。社会のせいで不遇な境遇に追いやられ,鬱々とした日々を過ごす彼らには,同情できる部分もあったりはする。
このように舞台設定や登場人物は魅力的で,シナリオを進めるだけでも,かなり楽しめるものとなっている。「とあるポケモンととある登場人物の服装が似ている理由」など,プレイヤー側でさまざまに想像を巡らせる余地も残されており,クリア後も考察を楽しめるだろう。
さまざまな改良でさらに遊びやすく
シリーズの大きな魅力といえば,さまざまな野生のポケモンとバトルし,これを捕まえて仲間にしていく要素,そしてコアなゲーマーも唸らせる奥深い育成・バトルだろう。こうした魅力は,今回のサン・ムーンにももちろん受け継がれている。加えて,細かな改良により,かなり遊びやすくなっている印象だ。
改良の中でも大きいのが,マップや「ひでんわざ」,そして「タイプ」と「わざ」の相性と言った,初心者には若干ややこしい点が分かりやすくなっていることだ。
これまでは,岩場や水上などの地形を踏破するには,ポケモンにひでんわざを覚えさせておく必要があった。「いあいぎり」で木を切り倒してもらったり,「かいりき」で岩を動かしてもらったりと,ポケモンと助け合って旅をしている実感が得られる要素だ。ただ,同時に「ポケモンが覚えられるわざの枠を圧迫してしまう」「進みたい地形に対応したひでんわざを持つポケモンをパーティに入れておかないと進めない」といった,煩わしさがあったのも事実だろう。サクサク進めるために,ひでんわざばかりを覚えてくれるポケモンを常に連れていたという人も多いかと思う。
しかし本作では,「ライドギア」を入手することで,「ラプラス」の背に乗って水上を進んだり,「カイリキー」に岩を押してもらったり,これまで行った場所へ「リザードン」に連れて行ってもらったりと,通常とは別枠のポケモン達に移動を補助してもらえる。ポケモンと共に助け合う面白さと,ゲームとしての利便性が融合しているというわけだ。
バトル面では,相性が可視化されたことが,プレイのしやすさという点で重要なポイントだ。ポケモンバトルでは,ポケモン自身と,ポケモンが使うわざにそれぞれタイプが設定されており,両者の相性が非常に重要となっているが,タイプだけで18種類で,これに相性も絡んでくると,なかなかに複雑。とくに久しぶりにプレイする人の場合,「ほのおはくさに強い」レベルならともかく,「フェアリーってナニ?」ということにもなりがちだ。
その点,本作では,一度バトルした相手なら,わざ選択時にその効果が表示されるようになったので,何を選べばいいのか分かりやすい。とくに本作では,新ポケモンだけでなく,これまで登場したポケモンが「アローラの姿」と呼ばれる新たなフォルムで登場するので,タイプがややこしいことも多く,非常に助かる新要素だ。
初めて出会うポケモンの場合は,こうした情報は表示されず,スリリングなバトルの楽しさが失われていないのも嬉しい。
そのほか細かな点だが,下画面のマップに周囲の地形や次の目的地の表示が行われ,しばらくゲームを遊んでいなくても,やるべきことがすぐに思い出せるといった点もありがたい。
新要素の「Zワザ」でさらにバラエティに富んだバトルが展開
バトルまわりの新要素として面白いのが「Zワザ」だ。Zワザとは,トレーナーがポケモンに力を与えて放つ強力な大技で,使うにはシナリオを進めると手に入る「Zクリスタル」が必要となる。Zクリスタルは,「ノーマル」「かくとう」「ほのお」「みず」など,わざのタイプと同じ数だけ存在し,ポケモンが持つわざと同じタイプのZクリスタルを持たせれば,Zワザが使用可能となる。既存のわざをZクリスタルで強化して繰り出す感じだ。
Zクリスタルは「どうぐ」と同じ扱いとなるのだが,Zワザは1回のバトルで1度しか使えないため,むやみに連発というわけにはいかない。もちろん,通常のわざと同様にZワザも相性の影響を受ける。従来のどうぐを持たせるか,Zクリスタルにするかは楽しい悩みどころで,どうぐの選択肢が広がってさらに頭を使うようになったという印象だ。
また,攻撃系だけでなく,補助系のわざについてもZクリスタルで強化されるのが面白い。例えば,普通なら何も起こらない「はねる」もZワザにすれば攻撃力が一気に上昇したり,相手に確実に攻撃を当てる「みやぶる」は,Zワザだと同時に急所に当たる確率を高めてくれたりと,戦略的にもかなり奥深くなっている。一度手に入れたZクリスタルは無くなることはなく,数の制限もないため,パーティ構築の自由度が高くなっているのも嬉しいところだ。ただ,通常のわざと比べると演出が長くなるあたりは,玉に瑕と言えるかもしれない。
もう1つ,バトルの新要素として「乱入バトル」というものも追加されている。これは,相手のポケモンがバトル中に仲間を呼び,最大2対1のハンディキャップマッチになるというもの。野生のポケモンが相手の場合は,何らかの状態異常にすれば仲間を呼ぶのを防げるため,補助系のわざを持つポケモンが脚光を浴びるという点は面白く,乱入を繰り返させることでレアなポケモンが出現するなどの仕掛けも用意されている。
ただ,通常行動とは独立した形で仲間を呼ぶため,事実上の2回行動になっていることに加え,相手が2体いる時はモンスターボールも投げられない。ポケモンをゲットするにはHPを減らさなければならないため,戦闘が長引くことになり,その分仲間を呼ばれるリスクが高まってしまうのも問題だ。
システムを理解すれば,育成のやりこみなどで役に立つ要素なのだが,シナリオ進行上で煩わしく感じることもあり,ここだけは本作で素直に喜べない試みだと感じられた。
まとめると,味わい深いシナリオや奥深いポケモンバトルといった伝統はそのままに,Zワザのような新要素や,相性の可視化やひでんわざの廃止といった改良を加え,さらにプレイしやすくなったのがサン・ムーンといえるだろう。対戦を楽しみたい人には,Zワザでこれまで以上に奥深いバトルを。シナリオを見たい人には,遊びやすくなったシステムでスムーズな進行を。最初に述べたとおり,久しぶりにポケモンに触れる人であっても本当におすすめできる内容になっているので,ぜひ遊んでみてほしい。
「ポケットモンスター サン」公式サイト
- 関連タイトル:
ポケットモンスター サン
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ポケットモンスター ムーン
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(C)2016 Pokémon. (C)1995-2016 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc
ポケットモンスター・ポケモン・Pokémonは任天堂・クリーチャーズ・ゲームフリークの登録商標です。
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