「そうだ アニメ，見よう」第100回は「映像研には手を出すな！」。アニメーション制作に青春を懸ける女子高生3人組の奮闘劇

　2016年にスタートした本連載もついに100回目。隔週掲載なので約4年かかっているわけだが，その間打ち切りにならなかったのは，読者の皆さんのおかげにほかならない。いやホントに。編集長の気まぐれでいつなくなってもおかしくない，本連載に今後も熱いエールを！
　というわけで，記念すべき「そうだ アニメ，見よう」第100回のタイトルは，アニメ制作に青春を懸ける女子高生3人組の奮闘を描いた「映像研には手を出すな！」。大童澄瞳氏が「月刊！スピリッツ」（小学館刊）で連載中のコミックをアニメ化した本作は，アニメ制作をサイエンスSARUが担当。脚本を木戸雄一郎氏，監督は「四畳半神話大系」や「夜明け告げるルーのうた」などの湯浅政明氏が務めている。

「映像研には手を出すな！」

　高校1年生の浅草みどり（CV：伊藤沙莉）は，アニメーションは“設定が命”と力説するほどのアニメ好き。スケッチブックにさまざまなアイデアを描き溜めながらも，引っ込み思案な性格のせいで，アニメ制作への一歩を踏み出せずにいた。
　そんな浅草の才能に，いち早く気づいた友人の金森さやか（CV：田村睦心）は，同級生でカリスマ読者モデルの水崎ツバメ（CV：松岡美里）が，実はアニメーター志望であることを知り，共同でのアニメ制作を持ちかける。3人は脳内にある“最強の世界”を表現すべく「映像研」を設立し，早速活動を開始するのだった。

　まずは，同好会から部へ昇格するために，予算審議委員会で活動をアピールしようと金森が提案。作品の上演を決定するが，期間が50日しかないため，浅草と水崎は大急ぎで制作に取り掛かる。しかし，問題は山済みで……。


　毎シーズン，観切れないほどの本数がオンエアされている“アニメ”だが，その制作工程は意外と知られていないのではないだろうか。本作は，アニメ作りに情熱を燃やす女子高生3人の目を通して，その制作の過程や苦労，そしてなによりも“楽しさ”を描いた作品である。
　幼いころから空想好きでさまざまなイメージボードを描き溜めていた浅草，役者になることよりも人物を描くことが楽しい水崎，そこにプロデューサー気質の金森が加わり，なんともパワフルな3人組が誕生。彼女達から生み出される作品は，当然エネルギーに満ち溢れた，見るものを圧倒する快作だ。絵を描いたことがない人であっても，その熱量に圧倒され，きっとワクワクできるはず。


　しかし，その作品が生み出されるまでの3人の作業風景は，作品以上に面白い。廃屋のような倉庫を部室に改造し，親に見つからないように泊り込みで作業に没頭。屋外で湯を沸かしてカップラーメンをすする。まるで，“終わらない文化祭”を見ているようだ。
　アニメ制作の楽しさと，ちょっと変わった女子高生達の学園生活を存分に味わえるのが本作「映像研には手を出すな！」なのだ。

浅草達の“最強の世界”を映像化

　空想好きの浅草は，しばしばその空想の世界に2人を巻き込むことがある。第1話ではイメージボードの飛行機に3人が乗り込んで，アクロバティックな飛行シーンを披露しているが，この空想の世界を，監督の湯浅氏は線画の背景で大胆に表現。原作のシーンを膨らませて，イマジネーション豊かな“最強の世界”を見せてくれた。


　湯浅監督と言えば，TVアニメ「ピンポン」や劇場アニメ「夜は短し歩けよ乙女」など，Flashアニメ（Adobe Animateを使用して作ったアニメーション）を多用した独特の世界観を持つ作品を世に送り出した，アニメ界の奇才として知られる人物。本作を制作するにあたって「漫画は行間がいっぱいあるので，そこにあるものを想定しつつ作っています」とインタビューで語っている。


　第1話以降も“最強の世界”のシーンはたびたび登場し，第3話では戦車に乗ったり，宇宙空間に飛び出したりしている。こうした現実とイメージの“境界線のあいまいさ”が，夢見がちなみどり達の高校生活を楽しげなものに見せてくれているわけだ。

ダンジョンのような芝浜高校

　本作のもうひとつの主役とも言えるのが迷宮のような学園「芝浜高校」だ。湖に面した人工島に建設されたこの校舎は，増改築を繰り返したため複雑怪奇な建造物に成り果てている。校舎側からは見られない時計台や，キャットウォークのようにつながった渡り廊下など，一見意味が分からない構造の校舎を，みどりは“公立ダンジョン”と呼び，ここの探検を日課にしている。
　この背景をサイエンスSARUは原作の持つ独特の世界観を丁寧に描き出し，現実味のある建物として登場させている。銭湯やコインランドリーの細部にまでこだわった職人芸に注目してほしい。



　湯浅監督の久々のTVシリーズに，女優の伊藤沙莉さんが声優に初挑戦，さらにNHKでは異例の4話一挙の再放送など，話題に事欠かない本作。しかし，それよりも作品の完成度の高さが，今期の話題をさらった要因と言ってもいい。全12話とのアナウンスがされているが，終わってしまうのが惜しい作品である。できれば次回作にも期待したいところだ。
　ちなみに，chelmicoが歌う主題歌「Easy Breezy」に合わせて，浅草ら3人のキャラクターがダンスを踊るオープニングは，湯浅監督が自ら絵コンテを手がけたもの。ポップで中毒性の高いこの曲にはまってしまったという人は，公式サイトの「こちら」で公開されているので，チェックしておこう。

TVアニメ「映像研には手を出すな！」公式サイト

TVアニメ「映像研には手を出すな！」公式Twitter

放映データ
2020年1月〜3月まで
全12話

キャスト
浅草みどり役：伊藤沙莉
金森さやか役：田村睦心
水崎ツバメ役：松岡美里
百目鬼役：花守ゆみり
さかき・ソワンデ役：小松未可子
藤本先生役：井上和彦
ロボ研小野役：小野友樹
ロボ研小林役：小林裕介
ロボ研後藤役：綿貫竜之介
ロボ研 関役：井澤詩織

スタッフ
原作：大童澄瞳
（小学館「月刊！スピリッツ」連載中）
監督：湯浅政明
脚本：木戸雄一郎
音楽：オオルタイチ
キャラクターデザイン：浅野直之
美術監督：野村正信
色彩設計：中村絢郁
撮影監督：関谷能弘
編集：齋藤朱里
音響監督：木村絵理子
アニメーション制作：サイエンスSARU
OPテーマ：chelmico「Easy Breezy」
EDテーマ：神様、僕は気づいてしまった「名前のない青」

■Blu-ray情報

映像研には手を出すな！COMPLETE BOX＜初回生産限定版＞
2020年6月24日発売

品番：1000759757
POS：4548967439076
フォーマット：Blu-ray
組数：3枚組　(本編ディスク2枚＋サントラCD1枚)
価格：32,800円　(税込み)
収録話数：１〜12話

【初回生産限定版特典】
超豪華10大特典！
(1)原作・大童澄瞳新規描き下ろし漫画
(2)原作・大童澄瞳描き下ろし特製アウターボックス
(3)キャラクターデザイン・浅野直之描き下ろしBlu-rayケースジャケット
(4)音楽・オオルタイチ　オリジナルサウンドトラックCD
(5)アニメ作品解説＆設定資料集
(6)第１話＋OP（湯浅政明監督作）絵コンテブック
(7)オリジナルTシャツ
(8)音曲浴場牛乳瓶
(9)B5クリアファイル3枚
(10)エンドカードイラストポストカード6枚

【商品仕様】
映像特典：
・湯浅政明監督、原作・大童澄瞳参加　ED制作の舞台裏
・湯浅政明監督、原作・大童澄瞳による音声ＳＥアフレコ演技指導映像
・アニメーションプロセス（原画・動画・完成）ムービー（＃１〜12）
・ちびキャラミニアニメ　（＃１〜12）
・よりぬき映像研（＃１〜12）
・映像研の日常・チャットムービー
・ノンテロップＯＰ、ＥＤ
・PV・CM集ほか

音声特典：
キャスト＆スタッフによるオーディオコメンタリー
(C)2020 大童澄瞳・小学館／「映像研」製作委員会