連載
【Jerry Chu】ゲームは「動詞」と「名詞」で成り立つ
Jerry Chu / 香港出身,現在は“とあるゲーム会社”の新人プログラマー
Jerry Chu「ゲームを知る掘る語る」Twitter:@akemi_cyan |
ゲームは「動詞」と「名詞」で成り立つ
ゲームとは,プレイヤーとクリエイターの会話だ。
昨今のRPGでは,キャラクターのセリフやカットシーンでストーリーを一方的に伝えることが多いが,ゲームは本でもノベルでもない。本来,言葉に頼らなくても意思疎通が可能なメディアだ。
「Uncharted 4: A Thief’s End」(邦題 アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝)や「Rise of the Tomb Raider」で周囲とは色の違う岩を見つけたら,「そこが登れるところだ」と言われずともプレイヤーは理解できる。「INSIDE」では指示がなくても「右に向かって歩く」だろうし,黒いスーツの不審者が姿を見せると,その正体を知らなくても物陰に隠れたくなる。「スーパーマリオブラザーズ」をプレイしたことのない人も,「スーパーマリオラン」では無性にコインを拾いたくなるはずだ。
言葉で説明されなくても,プレイヤーは画面から「何をすべきか」を直感的に理解する。クリエイターが「名詞(岩,敵,コイン)」を差し出し,プレイヤーはクリエイターに与えられた「動詞(登る,隠れる,拾う)」で返事をする。
ステージの地形とオブジェクトの配置から攻略法を思いついたときに,「ああ,そういうことか」「分かったぞ」と思ったことはないだろうか。誰かと心を通わせて,何かが伝わってきたような感覚である。
それは,まるでプレイヤーとクリエイターとの以心伝心であり,言葉に頼らない会話である。
FPSの「会話」は単純だ。「敵」が出てきたら,プレイヤーは銃でそれを「撃つ」。しゃがんだり,ジャンプしたりすることもあるが,FPSの主役はもっぱら「銃撃」である。
「FPSは銃を撃つばかりで単調なもの」と思われがちだが,実はFPSでも「動詞」と「名詞」の幅を広めることで,さまざまな個性を見い出せる。今回は2016年のFPSタイトルのうち,「Titanfall 2」と「DOOM」のシングルプレイキャンペーンを比べつつ,FPSの魅力を掘り下げてみたい。
「Titanfall 2」の強みは,「銃で撃つ」以外にも多種多様な「動詞」を用意してくれる点だ。シングルプレイキャンペーンでは超人的な身体能力を持つ「パイロット」として,「タイタン」と呼ばれるロボットと共闘する。FPSと言えば,とかくマルチプレイに注目が集まるが,本作のシングルプレイキャンペーンは非常に完成度が高い。
「Titanfall 2」はFPSだから,「走る」と「銃で撃つ」は当然のことだ。そのうえ,プレイヤーは「ダブルジャンプ」と「壁を走る」によって,高い機動力を発揮する。こうしたアクションに慣れてくると,ようやく「タイタンに乗る」ことになる。タイタンの圧倒的な火力で,敵を鎮圧するのは爽快感抜群だ。
これだけでも十分に画期的なFPSと言えるが,「Titanfall 2」のシングルプレイキャンペーンはさらに新しい動詞を用意している。中盤になると,プレイヤーは閉鎖された研究所を探索して,タイムトラベル装置を入手する。
研究所が崩壊し,野生動物と植物がはびこる現在。まだ機能している研究所に,大勢の兵士が押し寄せる過去。プレイヤーは2つの時空を往復することになるのだ。
「現在と過去を行き来する」というゲームデザインは,決して斬新なギミックではない。しかし,「Titanfall 2」のタイムトラベルはシームレスだ。ボタン一つで,別の時空の同じ場所に飛んでいく。
「タイムトラベルをする」という動詞を追加することで,新しいゲームプレイが可能になる。大勢の敵に遭遇したら別の時空に撤退し,敵の背後に回り込んでから戻ってきて奇襲を仕掛ける。弾切れになったら,別の時空でリロードすることで無防備な時間を作らない。足場が崩壊して進めなければ,まだ健在だった過去に飛んでみる。レーザー防壁があれば,セキュリティシステムが老朽化した現在に戻る。
タイムトラベルと壁走り,タブルジャンプを何回も繰り返さなくては突破できない難関も存在する。「タイムトラベルをする」だけではなく,「タイムトラベルをしながら,敵と戦う」「タイムトラベルをしながら,壁を走る」といった複数の動詞を組み合わせることでアクションの深みが増している。
「電子スイッチを操作する」デバイスも登場する。ロボットのスイッチを入れて仲間にしたり,ジャンプしながら電子スイッチを操作して足場を作ったりと,既存の動詞群に新たな変化をもたらしてくれる。
新しい動詞をプレイヤーに与えるタイミングも絶妙だ。タイタンでの戦闘は爽快だが,その力を満喫したところでタイタンとは別行動になる。前述の「タイムトラベルをする」と「電子スイッチを操作する」についても,特定のステージにしか登場しない。
新しい動詞をプレイヤーに与えながら,新鮮さが失われる前に切り捨てて,別の動詞を用意する。こうしてプレイヤーを飽きさせないのが,「Titanfall 2」の最たる魅力だ。
「Titanfall 2」が「動詞」に富んでいるなら,「DOOM」は「名詞」の幅が広い。
近年のFPSはミリタリー系が多く,敵はライフルを持つ兵士ばかりで食傷気味だ。それに対して,「DOOM」は「火星基地に悪魔が召喚された」という奇天烈な設定を生かして,ほかでは見られない個性的な敵が登場する。
敏捷な「インプ」は群れをなして襲ってくるが,単体では脆弱だ。「ヘルレーザー」は離れた位置からレーザーを撃ってくるが,接近してしまえば脅威ではない。「マンキュバス」は攻撃範囲が広く,攻撃力も高いが,動きが鈍い。「ピンキー」の体当たり攻撃は脅威だが,弱点の背中を狙えばすぐに倒せる。「カコデーモン」は空を浮遊しながら攻撃してくるが,攻撃が遅いので回避するのは容易だ。
「DOOM」の敵はまるで将棋の駒のように,それぞれ得意不得意がある。どれを先に仕留めるのか,どう弱点を突くのか。敵の特徴に応じて戦略を練り,有利に立ち回る。それが攻略の鍵となる。
主人公が扱う武器も千差万別だ。小回りが効くショットガンは,硬い敵に対して火力が足りない。ガウスキャノンの威力は抜群だが,すぐに狙いを付けられないし,連射にも不向き。ロケットランチャーの攻撃力と攻撃範囲は抜群だが,近距離戦では爆風に巻き込まれるので使いにくい。地形や残弾数,敵との相性に応じて武器を切り替える必要がある。
「壁を走る」や「タイムトラベルをする」といった派手さはないものの,「DOOM」は敵と武器の種類を増やすことで,ほかのFPSとは一線を画し,戦略性の高い戦闘を実現している。「火星で悪魔を戦う」という設定を生かして,豊富な「名詞」を揃えたのが,「DOOM」の強みだ。
2016年はFPSが豊作の年だった。
「Titanfall 2」や「DOOM」はもちろん,「Battlefield 1」のシングルプレイも秀逸で,チャプターごとに「戦車に乗る」「戦闘機に乗る」「ステルスで敵を撹乱する」といった異なるシチュエーションが用意されている。主役となる動詞が次々に変わるという点で,「Titanfall 2」に近いと言えるだろう。
また,カンブレーの戦いやガリポリの戦い,アラブ反乱など,さまざまな「シーン」を通じて第一次世界大戦を体験できるのも印象的だった(プレイヤーの立場は連合国軍側のみ。しかも,描かれるのはほとんどが1917〜1918年の戦闘という構成は偏っているが)。
8月に海外でリリースされた「Deus Ex: Mankind Divided」もFPSだが,「会話する」と「隠れる」に主眼を置くことで,ステルスアクションやRPGの色が濃い。FPSのように敵を掃討してもいいし,1人も殺さずにミッションをクリアしてもいい。あらゆるプレイスタイルを許してくれる,懐の深いゲームだ。
インディーズゲームでは「SUPERHOT」が一際光った。「プレイヤーが動かなければ,時間は止まったまま」というギミックのみを突き詰めた意欲作だ。止まった時間の中で弾道を予測し,敵の銃弾を掻い潜りながら反撃の機会を探ることになる。
FPSはエキサイティングなものだが,「SUPERHOT」はプレイヤーに熟考と注意力を要求する。「動詞」でも「名詞」でもなく,世界の仕組みを司る「ルール」に手を加えることで斬新な体験を作り出した。
FPSは「銃を撃つ」だけのジャンルとして一括りにされることもあるが,動詞と名詞を増やしたり,ルールに工夫を加えたりすることで千変万化する。非常に表現方法が豊かなジャンルだ。
今回,取り上げた「Titanfall 2」や「DOOM」「Battlefield 1」などは,見た目こそ似ているが,内容はまったく異なる。2017年もFPSファンとして,さらなる傑作と出会えることを期待したい。
■■Jerry Chu■■ 香港出身,現在は“とあるゲーム会社”の新人プログラマー。中学の頃は「真・三國無双」や「デビルメイクライ」などをやり込み,最近は主に洋ゲーをプレイしている。なるべく商業論を避け,文化的な視点からゲームを論じていきたい。 |
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(C)2016 Bethesda Softworks LLC, a ZeniMax Media company. DOOM and related logos are registered trademarks or trademarks of id Software LLC in the U.S. and/or other countries. All Rights Reserved.
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