レビュー
6コア版Broadwell-Eは「ゲーム用途で理想的なハイエンドCPU」か?
Core i7-6850K
そのとき筆者はもう一歩踏み込んで「ゲーム用途では4コア8スレッドあれば,あとは動作クロック勝負となりがちだったりするので,i7-6950Xよりも高クロック設定で,かつPCI Express 3.0を40レーンを持つ『Core i7-6850K』あたりが狙い目ではないか」という話もしたのだが,まさにそのCore i7-6850K(以下,i7-6850K)を,4Gamerでは独自に入手することができた。
6コア12スレッド対応で,定格3.6GHz,ブースト3.8GHz動作となり,新しい自動クロックアップ機能「Turbo Boost Max Technology 3.0」が機能した場合には4GHzにも達する仕様のBroadwell-Eは,多数のPCI Express(以下,PCIe) 3.0レーン数を求めるゲーマーの理想的な選択肢となるのだろうか。テストしてみたので,その挙動をまとめてみたい。
国内未発表のゲーマー向けマザーを利用。用いるメモリモジュールはPC4-19200仕様に
実勢価格は7万6000〜8万円程度(※2016年7月4日現在)。決して安価ではないが,少なくとも,同19万6000〜20万円程度のi7-6950Xよりは間違いなく現実的な選択肢と言えるだろう。
というわけで,さっそくテストのセットアップに入るが,今回のテストにあたっては,ASUSTeK Computer(以下,ASUS)の国内未発表「Intel X99」マザーボード「ROG RAMPAGE V EDITION 10」を用いる。
最も目を引くのは,最近,各社の上位ラインナップで定番の要素,「PCIe x16スロットを物理的に保護する金属シールド」を採用するところだろう。ASUSは金属シールド付きのスロットを「SafeSlot」と呼んでいるが,ROG RAMPAGE V EDITION 10では,4本あるPCIe x16スロットがすべてSafeSlot仕様だ。
また,最近,ASUS製のゲーマー向けマザーボードで採用例の増えている,色や光り方をカスタマイズできるイルミネーション機能「AURA RGB Illumination」を採用するのもトピックと言えるだろうか。
Serial 6Gbpsを10ポートに加え,PCIe x4接続のU.2(SFF-8639)も1ポート備えており,ハイエンドSSDに対応できる |
USB 3.1 Type-A×2,Type-C×2を標準装備。また,2系統の1000BASE-TにはIntelの「I218V」(物理層)+「I211-AT」(論理層+物理層)を採用している。3x3 MIMOに対応するWi-Fiも利用可能だ |
i7-6950Xのテスト時は,スケジュールの都合でPC4-17000モジュールを使うことになったが,パソコンショップ アークの協力で,JEDECの仕様に100%準拠したPC4-19200対応モジュールを入手できたため,メモリ周りはフルスペック動作を期待できることになる。
そのほかテスト環境は表2のとおり。CPU以外のテスト条件をなるべく揃えるため,今回比較対象として用意した「Core i7-6700K」(以下,i7-6700K)でも,メモリ設定はDDR4-2400としている。
SMD4-U16G26M-24R-Qは,Micron Technology製の最新モデルとなるx16bit DDR4チップ(DQS bit 1:16)を実装しているのだが,これを認識できないマザーボードはまだ意外に多い,ということなのだろう。最終的に選択したSMD4-U32G48M-24R-Qはx8bitのMicron Technology製チップを搭載しているため,こちらに切り換えたという次第である。
Broadwell-Eのメモリコントローラ自体が対応できないわけではなく,実際,パソコンショップ アークの検証ではASRock製のIntel X99マザーボードで問題なく動作しているとのこと。なので,ROG RAMPAGE V EDITION 10がUEFIアップデートでx16bitをサポートすればいいはずだが,x16bitは“新しすぎる”がゆえの未対応に出くわす可能性があるということは,当面の間,意識しておいたほうがいいかもしれない。
4コアを最大4.4GHz動作させた状態でも検証
テスト解像度は1280×720ドット,1920×1080ドット,2560×1440ドットの3パターン。CPUの性能差が出やすい低解像度に加えて,多くのゲーマーにとって実際のゲーム解像度となる2解像度も加えた次第だ。
ただし,Ashes of the Singularityでは,1280×720ドットという解像度の選択肢がそもそもメニューに出なかったため,代わりに1280×768ドットを使用したことをお断りしておきたい。
なお,今回のテスト目的はあくまでも「i7-6850Kはゲーム向けなのか」なので,基礎検証的なテストは行わない。Broadwell-EというCPUの基本特性は,i7-6950Xのレビュー記事で確認してもらえれば幸いだ。
今回は,ベンチマークレギュレーション18.0で採用するタイトルのテストがすべて問題なく完走したことをもって「安定動作した」と判断することにしたが,結論から言うと,今回は6コア中4コアのみ,Turbo Boost Max Technology 3.0の上限を4.4GHzに引き上げた状態で安定動作した。もちろんこのとき「Hyper-Threading Technology」は有効だ。
「6コアあるんだから6コア全部引き上げないとダメなんじゃない?」という指摘はもっともで,もちろんそういうテストを事前には実施しているのだが,テストを通じて,6コアすべての動作クロック上限を引き上げると,ゲームのフレームレートが上がらないことを確認できた。そのため,変則的なオーバークロック設定を行った次第である。
時間の都合で,徹底的な原因究明までは行っていないものの,いろいろ試した限りでは,6コア全部の動作クロック上限を引き上げたときに性能が出ないのは,Turbo Boost Max Technology 3.0の影響ではないかという気がしている。
この仕様を採用するがゆえに,全コアの動作クロックを同じ水準で固定しまうと,Turbo Boost Max Technology 3.0が有効に機能しなくなり,結果としてゲームのフレームレートが低下するのではないだろうか。
ただし,レギュレーション18.0とは別枠でのテストとなるAshes of the Singularityは,オーバークロック設定に対して恐ろしくシビアで,6コア中4コアだけ4.1GHzまでクロック上限を引き上げるといった,相当にコンサバなオーバークロック設定でも,テスト中にWindowsを巻き込んでBSoDで落ちるという現象に見舞われた。
DirectX 12タイトルだからなのか,Ashes of the Singularity個有の現象なのか判断はつかないが,いずれにせよ,CPUへの負荷のかかり方がほかと異なるのは確かだろう。Ashes of the Singularityにおいてi7-6850K@4.4GHzのスコアはN/Aとなるので,あらかじめお断りしておきたい。
※注意
CPUのオーバークロック設定はメーカー保証外の行為です。最悪の場合,CPUやマザーボードをはじめとする構成部品の“寿命”を著しく縮めたり,壊してしまったりする危険がありますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。本稿を参考にしてオーバークロック動作を試みた結果,何か問題が発生したとしても,メーカー各社や販売代理店,販売店はもちろん,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。
定格では比較対象から一段落ちるi7-6850K。4.4GHz設定で見栄えのするスコアに
では,テスト結果を順に見ていこう。まずは「3DMark」(Version 2.0.2530)からだ。
グラフ1は「Fire Strike」「Fire Strike Extreme」「Fire Strike Ultra」の総合スコアをまとめたものだ。相対的に負荷の低いFire Strikeだとi7-6850K@4.4GHzがトップに立った。i7-6850Kおよびi7-6700Kに対して約8%,i7-6950Xに対しては約3%高いスコアだ。
一方,“素”のi7-6850Kは,i7-6950Xの約95%で,i7-6700Kとほぼ同じスコアに落ち着いている。
個別のスコアを見てみよう。おもにGPU性能を見ることになる「Graphics score」をグラフ2に,CPUスコアを見ることになる「Physics score」をグラフ3にそれぞれまとめてみた。
Graphics scoreだと,i7-6950Xのスコアがわずかに低めであることを除くと,スコアに大差はない。基本的にはGPUテストの結果なので,これは妥当と言っていいだろう。
Physics Scoreはマルチスレッド処理に最適化されたCPUテストの結果となるため,当然のことながら,コアおよびスレッド数がスコアと直結する。10コア20スレッド対応のi7-6950Xが圧倒的なトップで,次に6コア12スレッド対応のi7-6850Kが続き,4コア8スレッド対応のi7-6700Kが最下位という並びに違和感はない。
「コア数勝負」なので,i7-6850K@4.4GHzのオーバークロック効果は,確かにあるが限定的だ。
実ゲームではどうだろうか。グラフ4,5は「Far Cry Primal」のスコアをまとめたものとなる。
描画負荷が高くなればなるほどGPU性能がスコアを左右するようになるため,2560
十分に高い動作クロックになっているはずのi7-6850K@4.4GHzですらまったく歯が立たないことからすると,描画負荷の低い条件におけるFar Cry Primalではメインメモリへのアクセス性能がスコアを左右するようになっており,結果,デュアルチャネルアクセスであるがゆえに遅延の小さなi7-6700Kが優勢になっているということなのだろう。
なお,「ノーマル」プリセットの1280
続く「ARK: Survival Evolved」(以下,ARK)では,やや面白い結果を残している(グラフ6,7)。すべてのテスト条件でi7-6700Kがトップを取り,2番手がi7-6850K@4.4GHzというのは変わらないのだが,描画負荷の高い「High」プリセットで,i7-6700Kのスコアが突出しているのだ。
i7-6700Kのスコアが突出した要因としては,上もで述べた「Broadwell-Eの4チャネルメモリコントローラが持つ遅延の大きさ」が考えられる。ただ,それだけだとすればスコア差が大きすぎる印象もあるので,ARKでは4コアを上回るCPUコア数をうまく扱えていない可能性が高く,それゆえに多コアでクロックの低いi7-6950Xが最下位に沈んだ,といった感じだろうか。
「Tom Clancy’s The Division」(以下,The Division)のテスト結果がグラフ8,9だが,端的に述べて,CPUごとの違いはほとんどない。描画負荷の低い条件で,i7-6850Kがスコアを落とすのはFar Cry Primalと同じ傾向だが,それだけとも言える。
ここまでとはまた少し変わった結果が,グラフ10,11の「Fallout 4」では得られた。描画負荷の低い「中」プリセットではi7-6950Xがトップで,2番手がi7-6850Kとなり,描画負荷の高い「ウルトラ」プリセットだと,i7-6850K@4.4GHzとi7-6950X,i7-6700Kがほぼ横並びという結果になった。CPUコア数かCPUコアクロック,あるいはメモリ性能が一定レベルにあれば,GPU性能でスコアが決まるレベルに達するという印象だ。
CPUコア数も動作クロックも比較対象と比べて中途半端で,かつメモリ周りのレイテンシも大きなi7-6850Kは,見事に“一人負け”である。
DirectX 11への対応以降,マルチスレッド処理への最適化が一段と進んだ印象を受ける「ファイナルファンタジーXIV:蒼天のイシュガルド ベンチマーク」(以下,FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチ)だと,i7-6950Xのスコアが目に見えて高い(グラフ12,13。標準品質(デスクトップPC)の1280
レギュレーション準拠のテストでは最後となる「Project CARS」のスコアがグラフ14,15だ。
スコア傾向は,Fallout 4と比較的似ており,i7-6950Xの高いスコアが目を引く一方で,i7-6850K@4.4GHzも健闘し,i7-6700K並みのスコアは示すことができている。
グラフ16,17は,今回特別に実施したAshes of the Singularityの結果だ。先にお断りしたとおり,i7-6850K@4.4GHzのスコアは取得できていないが,「DirectX 12では,GPUに対するコマンドバッファをスレッドごとに持てるため,スレッドの効率が上がる」とされるので,コア数が多いCPUほど有利になる可能性がある。それを見た結果ということになるが,描画負荷の低い「Standard」ではその傾向を感じられるものの,「Extreme」では,GPU性能がスコアを左右するという,見慣れた傾向に落ち着いた。
サンプルが1つしかないので,これだけでDirectX 12タイトル全体を語るわけにもいかないのだが,今回の結果を見る限り,「CPU性能は,一定レベルにあれば,あとはGPU勝負」という点で,DirectX 11とDirectX 12で大きな違いはないようにも感じられる。
動作クロック分? i7-6950X以上に消費電力が高いi7-6850K
いつものように,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を使って,システム全体の消費電力を記録してみたので,その結果も掲載しておこう。
テストにあたっては,ディスプレイの電源がオフにならないよう設定したうえで,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各ベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時とすることにした。
結果はグラフ18の通りだ。まずアイドル時から見ていくが,i7-6950Xのテスト時に80W台だったBroadwell-Eは,今回,100W台となった。これはマザーボードが変わったのが最大の理由で,メモリモジュールの高クロック化も若干影響しているものと思われる。
そして気になるアプリケーション実行時だが,i7-6850Kの消費電力は,i7-6950Xと同じレベルかそれ以上。Broadwell-Eの全ラインナップで最も動作クロックの高い影響が露骨に出ている印象だ。また,i7-6850K@4.4GHzは,i7-6850Kに対して39〜77W高く,最大ではテスト対象で唯一400Wを超えるといった具合に,オーバークロック動作の代償を支払うこととなっている。
なお,i7-6700Kは300W以下で推移し,ゲームにおける電力効率ではBroadwell-Eを圧倒する。まあ,これは当然でもあるのだが。
なお,CPUクーラーに簡易液冷モデルを使っていることから,温度測定結果のグラフは省略する。
i7-6850KはOC前提のCPU!? PCIe 3.0レーン数にこだわらないなら,Skylake-K&Sのほうが幸せになれる
とくに,i7-6950X以上の消費電力を示しながらこの結果なのはつらいところで,“おいしいCPU”かと思ったら,びっくりするほど中途半端だったと言わざるを得ないだろう。
その意味でi7-6850Kは,ゲーム用途だと,オーバークロックが前提のCPUということになりそうである。Ashes of the Singularityにおける挙動という不安要素がないわけではないものの,オーバークロックすればひとまずi7-6700K相当のゲーム性能と40レーンのPCIe 3.0,そして一部のマルチスレッド最適化済みアプリケーションでメリットのある6コア12スレッド対応が得られるわけで,そういう使い方に向けた製品という理解が正解ではないかと思われる。
ただし,オーバークロックを設定を行うと,ただでさえ高い消費電力が跳ね上がるため,その点は覚悟が必要だ。どうしても大量のPCIe 3.0レーンや6基以上のCPUコアが欲しいというのでなければ,ゲーマーはBroadwell-EよりSkylake-KやSkylake-Sを選んだほうが,幸せになれる可能性は高い。
デスクトップPC向け10コア20スレッド対応CPU「Core i7-6950X Extreme Edition」レビュー。Broadwell-Eの可能性を探る
「Core i7-6700K」「Core i5-6600K」レビュー。Skylake世代の第1弾となる倍率ロックフリーモデルは,ゲームプレイにメリットをもたらすか
Intelのi7-6850K公式情報(英語)
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