インタビュー
IGG Japan代表のHenry Wu氏に聞いた,「ロードモバイル」をはじめとするIGGグループの日本戦略について
発表会の内容を見ても分かるとおり(関連記事),本CMの狙いがカジュアルゲーマーへの訴求であることは見てとれる。今回はこれらのプロモーション展開や,スマートフォン向けモバイルゲームについての考え方などを,IGGグループの日本支社 代表取締役,Henry Wu氏に聞いてきたので,ぜひ一読してほしい。
作る場所よりも,出す場所を明確に
4Gamer:
本日はお時間をいただき,ありがとうございます。
Henry Wu氏(以下,Henry氏):
こちらこそ,本日はよろしくお願いします。
4Gamer:
はじめに聞いておきたいのですが,Henryさんはゲーム業界においては,開発面とビジネス面のどちらが本分となるのでしょう。
Henry氏:
ゲーム業界では開発面ではなく,主にビジネス面で関わっています。現在はIGGグループの日本支社と,同グループの韓国支社の代表取締役として,大局的な視野でサービス展開を取りまとめています。まあ,私個人はコアゲーマーですが(笑)。
4Gamer:
IGGはシンガポールの本社を中心に,北米やアジアなど世界10か国に支社を置かれていますが,グループ全体の企業戦略とはどのようなものでしょう。
Henry氏:
IGGがほかのゲーム企業と最も異なる点は,グローバルサービスを中心としていることにあります。
4Gamer:
といいますと。
Henry氏:
ほとんどのゲーム会社は,自国で作ったゲームを,自国で展開してから,グローバル展開に挑戦しています。しかし,我々は最初からグローバルマーケティングを第一とし,重要なマーケットに向けて,ゲームの開発とサービスを進めているのです。
4Gamer:
つまり,中国で作ったから中国で配信するのではなく,アメリカ市場を狙い撃ちするためのゲームを中国で作る,といったことですか。
Henry氏:
そうです。IGGのモバイルゲームは北米,欧米でサービスを開始してから,中国をはじめとするアジア地域で展開してきました。そのため,ゲーム内容も全世界で通用するものを想定し,設計しています。支社によって地域ごとの特色がゲームに反映されることもありますが,これは本当に面白いゲームを作り上げるためのエッセンスと捉えています。
4Gamer:
その中で,IGG日本支社にはどのような役割が任されているのでしょう。
Henry氏:
話が少し遡るのですが,よろしいですか?
4Gamer:
ぜひ,お聞かせください。
Henry氏:
IGGは2006年の設立当初,PC向けブラウザゲームの開発とサービスを中心としていました。しかし,2012年にアメリカ支社から送られてきたデータをきっかけに,グループ全体で大きな方向転換を決断しています。
4Gamer:
おそらく,モバイルゲームの開発を中心にするという舵取りですね。
Henry氏:
そのとおりです。
4Gamer:
そのアメリカ支社から提供されたデータというのは,どのような内容でしたか。
Henry氏:
当時の提供タイトルのサービス状況に関するレポートです。そのとき,我々がアメリカで提供していたPC向けブラウザゲームのDAU(デイリーアクティブユーザー)は約3万でしたが,同時期に提供を始めていたスマートフォン向けモバイルゲームのDAUは約30万と,大きな開きが生まれていたのです。これをチャンスと捉えたIGGは,グループ全体の方針を転換しました。その結果,2013年にはスマートフォン向けモバイルゲームである「キャッスルクラッシュ(Castle Clash)」が大成功を収め,香港市場への上場も果たしました。
4Gamer:
なるほど。ただ,ここまでの話だとまだ日本支社は関わっていないように思えますが……?
Henry氏:
ここからです(笑)。この「キャッスルクラッシュ」ですが,実は日本でも配信を行いました。ただ,一時期の成功が得られたものの,継続性を欠く結果となりました。
4Gamer:
アプリを配信するだけ,に留まってしまったと。
Henry氏:
はい,それはほかの地域と比べて,非常に特殊な日本市場に対して,日本のユーザーの皆さまを満足させることのできる“運営体制”がなかったことが原因であると考えました。また,当時はマーケティングも不十分であったので,ほかの地域ほど大きな成果を生み出すことができなかったことも反省点です。
4Gamer:
2013年というと,今日まで続く,スマートフォン向けモバイルゲームの世界的ブームの黎明期とも呼べるタイミングでした。まあ,現在のモバイルゲームはもはや,カンブリア爆発というイメージに近いですが。
Henry氏:
そしてその結果を元に,日本市場に特化した体制を整えることを目的とし,2015年にIGG日本支社が設立されました。今後は配信するゲームに合わせた運営を行いながら,随所に日本的なフレーバーを取り入れていきたいと考えています。
4Gamer:
これまで,さまざまな海外パブリッシャの方々が日本市場の特異性を語ってきましたが,Henryさんもそういった空気は感じ取りましたか。
Henry氏:
それを明らかにするのもまた,日本支社に課せられたミッションです。世界で大成功を収めた「キャッスルクラッシュ」が,運営はともかくとして,日本では成功しなかった。これ自体が,日本の市場がほかの地域とは何かが違うことを現わしていると言えます。我々は日々,“どうすれば日本で成功できるのか”を考えています。
4Gamer:
日本支社を設立するまでには,どのような市場研究をされたのでしょう。
Henry氏:
日本支社の設立前にも,IGGのタイトルをいくつか,日本のパートナー企業をとおして配信していました。それらもまた大きな成功にはつながりませんでしたが,今日に至る大きな勉強となりました。ただ,それでもまだ日本市場は独特ですね……(笑)。北米などで成果を上げた方法をそのまま持ってきても,大体は不発でしたし。
4Gamer:
では,それらを踏まえてサービスを開始した「ロードモバイル」についてはいかがでしょう。日本のゲーマーに,どのようにリーチすると考えたのでしょうか。
「ロードモバイル」については,先ほど紹介したグループ全体の戦略の一環でもあるので,実のところ“日本だけを狙ったモバイルゲーム”とは言えません。本作は全世界で6000万ダウンロードを記録し,DAUも100万人以上という人気作品なので,純粋に作品が持つパワーを日本のユーザーにも伝えていきたい,というのが考えの元でした。
4Gamer:
失礼を承知で言うと,同じようなスタートを切った「キャッスルクラッシュ」の二の舞になる可能性も示唆されていたのでは?
Henry氏:
ええ。実際のところ,ゲーム内における日本人プレイヤーの数は,他国のそれと比べるとまだまだ少ないです。ですから今回は,日本で親しみのあるお笑いタレントを起用したTVCMを企画しました。
4Gamer:
今回の本題ともいえる話題です。ここで聞かせていただきたいのですが,今回のTVCMで日本のお笑いタレントを起用した狙いを教えてください。
Henry氏:
本作は,RTSとMMORPGの要素が合わさった,ストラテジーゲームとなります。しかし,ストラテジーというと,カジュアルなプレイヤーには「難しそう」と思われてしまいますので,カジュアル層にもアプローチできる表現を模索しました。
4Gamer:
発表会で内田理央さんが口にしていたように,一見すると本作は情報量が多い複雑なゲームに見えますが,何も知らずにゲームを始めても,ガイドに従っていけばスムーズに遊べる作りになっています。印象の壁をどのように越えるのかが重要な課題なんですね。
Henry氏:
完成したCMを視聴したとき,狙いどおりの内容になっていたのが良かったです。
4Gamer:
内容に関しては,どのような狙いを持っていたのでしょう。
Henry氏:
映像自体が見て面白いこと,短時間でゲーム性が把握できること,そして最も重要なことは“日本の皆さまに親しみのある内容”になっていることです。
4Gamer:
確かに,日本人の感性に合っているというか,見慣れているような映像に仕上がっていました。
Henry氏:
まあ,初めての試みなので,TVCMの影響がどのように出てくるのかは,これからの楽しみです(笑)。
4Gamer:
CMの放送開始は,本日ですもんね(※CMはインタビュー実施日に放送開始となった)。
Henry氏:
より多くの人に見ていただけると嬉しいです。
4Gamer:
「ロードモバイル」は日本配信を決定してから,実際に正式サービスを迎えるまで,どれくらいの期間で進められたのでしょうか。
Henry氏:
約3か月です。
4Gamer:
随分とスピーディですね。
Henry氏:
ローンチのタイミングでは,言語のローカライズ作業がメインでした。また,元々「ロードモバイル」のシステム自体が多言語での展開を想定していたので,スピーディな対応につなげられました。
4Gamer:
となると,ゲーム内容にはあまり手を加えていないわけですか。
Henry氏:
IGGのモバイルゲームはこれまで,各地域ごとに修正と改善を加えて提供していましたが,本作はグローバルサーバーを介して,全世界のプレイヤーとリアルタイムでマッチングします。その特徴は日本版でも活かしていきたいと考えました。しかし,それはあくまでローンチまでの話で,以降の運営では日本にあわせた施策を行っています。実際,日本風のお城を実装したり,日本限定のゲーム内イベントを実施したりしています。
4Gamer:
自国の色とかって,思わず選んでしまいますよね。
Henry氏:
ただ,「ロードモバイル」の根本的な面白さは,“世界各国のさまざまなプレイヤーが入り混じる状況”を楽しんでもらうことにあります。それこそ,国境で区分けするのではなく,グローバルなゲームとして日本のプレイヤーにも参加してほしいのです。
4Gamer:
7月に日本オンラインゲーム協会(JOGA)が発表した市場調査レポートからの一例ですが,2016年の日本のオンラインゲーム市場の売り上げは,スマートフォン/タブレットが約1兆1517億円,PC/コンシューマゲーム機が約922億になったと明らかにされました。これらの事情を踏まえつつ,Henryさんは近年の世界のモバイルゲーム市場をどのように捉えておりますか。
Henry氏:
グローバルな視点では,モバイルゲーム市場にはまだまだチャンスがあります。将来的な市場でいうと,インドやブラジルといったスマートフォンの普及率が発達段階にある地域は,今後は大きな市場に発展していくと考えています。
4Gamer:
それでは,日本市場の動向についてはいかがでしょう。
Henry氏:
日本は市場規模が大きいのですが,スマートフォン端末の普及を鑑みると,現状がピークにあるでしょう。ゲームのクオリティや端末の性能は飛躍的に向上しましたが,端末の普及率が横ばいになり始めていることから,これから先は,これまでよりも緩やかな発展になるだろうと考えています。
とはいえ,日本には醸成された大きな市場が存在しているのは確かなので,今後はさまざまな取り組みをとおして,IGGのゲームに対する支持を集めて,ファンを増やしていきたいところです。
4Gamer:
Henryさんは既存のモバイルゲームのマネタイズについては,どのような考えを持っていますか。
我々はマネタイズを考える際,1つの方針を掲げています。それは“プレイヤーに負担をかけ過ぎない”ことです。今後もモバイルゲーム市場では新たなマネタイズの概念が生まれるかもしれませんが,我々はそういったものに安易に飛びつかず,短期的な利益も狙わず,常に“プレイヤーにゲームを楽しんでもらうための方法”を模索していきたいです。
4Gamer:
先日,中国で開催されたChinaJoy 2017には足を運ばれましたか。
Henry氏:
ChinaJoy 2017では,Googleさんなどの関係各社との話し合いの場を持ちました。そこで「ロードモバイル」をはじめ,さまざまなゲームのデータを持ち寄り,分析したところ,IGGのゲームは“プレイヤーの継続率がほかに比べて高い”という結果が出ました。
4Gamer:
ゲームを送り出す立場としては,それはとても嬉しいことでしょうね。
Henry氏:
私はこの結果が,IGGが最も誇れることだと思っています。
4Gamer:
ちなみに,DAUが100万人以上という「ロードモバイル」の収益がどれくらいなのか,教えてもらうことはできますか。
Henry氏:
「ロードモバイル」は現状,全世界で毎月約4000万ドルを売り上げています。ですが,このゲームはまだまだ発展途上にあると考えています。次の目標は,全世界で毎月8000万ドルを売り上げることです。
4Gamer:
話は変わりますが,日本のみならず,Henryさんが今気になっているゲームやテクノロジーはありますか。「Pokémon GO」やVRといったものが,分かりやすい例になりますが。
Henry氏:
「Pokémon GO」は配信が開始されたとき,私もプレイしました。私は長くサンフランシスコに住んでいますが,ある日,近くの素晴らしい景観の海岸にたくさんの人がいたのです。しかし,その人たちは美しい景観には目もくれず,ひたすらスマートフォンを弄っていました。そうです,彼らは,ポケモンを探していたのです。その姿を見たときに,新しい時代の幕開けを感じましたよ(笑)。
4Gamer:
そういった場面は,私も覚えがあるところです。
Henry氏:
ARやVRといった新技術は,手に取れる段階にきたらすぐに体験しています。しかし,これらの技術はむしろ,ゲーム以外のコンテンツをとおして,今後さらに磨かれていくのではないかと考えています。
ちなみにVRについての余談ですが,とある知人はヘッドマウントディスプレイを装着してVRゲームを遊びながら,酔いの限界がきた瞬間,脇に置いておいたバケツに吐いて,その後すぐにVRゲームを再開するという壮絶な体験を話してくれました。私はさすがに,そこまでたどり着いていません(笑)。
4Gamer:
そこまでのめり込んでプレイする知人がいることから見ても,Henryさんのゲーマー度合いはかなりのものなんでしょうね(笑)。もう1つ,IGG日本支社では日本人のスタッフと,Henryさんら海外のスタッフが混じって仕事をしているように見受けられますが,ほかの支社も多国籍のスタッフで構成されているのでしょうか。
Henry氏:
IGGの支社は,大体このような感じです。ゲームと地域に通じた現地スタッフを集めてから,その方々と円滑にコミュニケーションをとれる海外スタッフが合流するため,自然と多国籍になっています。それがIGGの掟……というわけではなく,どの支社も自然とこうなってしまっているだけです(笑)。
4Gamer:
現地スタッフがいない海外法人というのも,それはそれで不安になりそうです。ちょっとしたボタンの掛け違いに気付けなさそうといいますか。
Henry氏:
外からデータを見て,それを元に該当地域のマーケティングを進めるのも手ではありますけどね。でも,やはり現地の人がどのように思うか,感じるか,考えるかを実際に現地の人に聞くほうが,絶対に信頼性が高いです。IGGの支社はそれこそ「ロードモバイル」の世界に近いんです!
4Gamer:
「ロードモバイル」の世界に,ですか。
Henry氏:
はい,「ロードモバイル」にはプレイヤー同士のコミュニティ(ギルド)が存在し,世界各国のプレイヤーが,それぞれのギルドで活動しています。それらはRPGが好きだからとか,PvPが好きだからとか,いろいろな動機や目的のために,国境を越えて手を取り合っています。IGGもそれと一緒で“各々の動機や目的のために人が集まったら,自然とこうなった”というのが,正解なのかもしれません。
4Gamer:
今回はさまざまな話をありがとうございました。最後に,今後の抱負などを聞かせていただけますか。
Henry氏:
我々IGGは,「Find your ally, Find your fight!」をスローガンに進んでいます。
4Gamer:
あなたの同盟を見つけ出す? その,どのような意味でしょう。
Henry氏:
直接的な翻訳をすると,意味がズレてしまいそうなので,記事にする際はぜひ英語の語句のまま使っていただければ(笑)。「ロードモバイル」もそうですが,IGGのゲームはグローバルに展開しています。ゲームの内容も,ほかのプレイヤーと一緒に遊んで,コミュニケーションを取りながら楽しむことを前提にしています。ぜひ,実際にIGGゲームをプレイして,「Find your ally, Find your fight!」の精神を体現してもらいたいです。
いずれは新TVCMで使った「さあ、世界一のヒーローへ。」のように,日本の方々に親しみのある独自のキャッチコピーみたいなものを掲げられたらいいですね。
4Gamer:
期待しております。本日はありがとうございました。
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