インタビュー
「魔界戦記ディスガイア」15周年記念,日本一ソフトウェア新川社長ら開発陣に歴代タイトルを振り返ってもらった
今回4Gamerは,15周年&初代のリマスター版発売記念ということで,岐阜県にある日本一ソフトウェア本社におもむき,代表取締役社長の新川宗平氏をはじめとする,ディスガイアシリーズの開発に深く携わってきた開発陣にインタビューを行った。歴代タイトルを振り返るとともに,今後についても聞いてきたので,その模様をお伝えしよう。
外川 良氏(写真左)
「魔界戦記ディスガイア3」のDLC制作から参加。以降のシリーズではドット絵やアニメーション,レベルデザイナーなどとして活躍。
松田岳久氏(左から2番目)
最初に参加したのはディスガイア3。シリーズにはプログラマーやディレクターとして携わり,現在はアプリ版にも関わっている。
新川宗平氏(中央)
日本一ソフトウェア代表取締役社長にして,同社のゲーム制作に今でも深く関わる開発者でもある。初代ディスガイアではシナリオ執筆や挿入歌の作詞,ゲーム中の説明文などのテキストも手掛けた。
池田真一氏(右から2番目)
初代ディスガイア立ち上げ時の主要メンバーで,ドッターとして携わる。「魔界戦記ディスガイア2」ではディレクターに就任。
山本義紀氏(右)
初代ディスガイアの開発中に入社し,池田氏と同様ドッターとして開発に参加。ディスガイア2を経て,ディスガイア3ではアートディレクターに。
ゲーム性重視,ストーリーはオマケ。“何でもあり”な「魔界戦記ディスガイア」が2003年に完成
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずはディスガイアシリーズ15周年おめでとうございます。
新川氏:
ありがとうございます。
4Gamer:
今回は,歴代ディスガイアの開発裏話を聞いていこうかと思います。さっそくですが,2003年発売の初代ディスガイアについて,開発の経緯からお聞かせいただけますか。
ディスガイア制作のきっかけは,それよりも前のプロジェクトからの流れにありました。もともと日本一ソフトウェアは,初代PlayStationの頃にデビューして,当時はパズルゲームや麻雀ゲームを出していたのですが,これがあまり売れなかったんです。
このままいくと恐らく(会社が)潰れるなと考えて,それならばRPGでも作って華々しく散ろうということで企画したのが「マール王国の人形姫」(以下,マール王国)でした。
4Gamer:
懐かしい。マール王国シリーズは,何作か続きましたよね。
新川氏:
ええ,幸い売れてくれまして,会社も何とか息を吹き返しました。マール王国はストーリーを重視したタイトルだったんですが,もっとゲーム性を高めたものも作りたいと思って企画したのが,PlayStation 2で出した「ラ・ピュセル 光の聖女伝説」です。でも,ラ・ピュセルの実売は5万本程度で,我々が予想していたよりは売れず,10万本の壁を越えるにはどうすればいいのか,その時点ではさっぱり分からない状態で。
それならいっそ開き直って,とにかくみんなで面白いものを詰め込もう。ストーリーはオマケでいいからゲーム性に特化しよう,という発想で生まれたのがディスガイアです。その中で,「魔界」や「悪魔」を題材にすれば,何をやっても許されるだろうと考え,ベースとなる世界観が作られていった……というのが私の認識なんですが,(池田氏を指して)彼らは違うかもしれないので,私も聞いてみたいですね。
その認識で間違いないですね。魔界の設定自体は,ラ・ピュセルの時点であったんですけど,これは確か,なぜか突然追加されて生まれたものだった気がします。
4Gamer:
え?
池田氏:
開発の終盤,ストーリーモードを作り終わったあたりで,出社したらいきなり魔界が増えていたんですよ。
新川氏:
確かにそうだったかもしれない。
池田氏:
でもこの設定なら,好きなことを楽しくできるんじゃないかと盛り上がって,それがディスガイアに引き継がれた形です。
あとはシステム面で,ゲームデザイナーがやりたいと思ったことをできる限り実現できるようサポートしていこうというのは,私も新川も考えていました。
例えばラ・ピュセルでは,戦闘を画面切り替えに(※戦闘時に,SRPGのフィールドからRPG風の横画面になる)したことで,グラフィックスのパターンを少なく抑えていたんですが,あのシステムだとSRPGの位置関係を利用した戦略が成立しづらいんです。
4Gamer:
ああ,確かに。RPGっぽいパーティ戦闘画面にはなってましたけど,SRPGっぽくはなかったですね。
池田氏:
なので,我々もグラフィックスを描いてほしいという要望に応えて,ディスガイアではSRPGらしさを強めました。
4Gamer:
ディスガイアといえば,数字のインフレが特徴になりましたけど,あの壊れた感じも,面白ければいいという感覚だったんでしょうか。
インフレ数字自体はマール王国の「天使のプレゼント」から入っていまして,面白いから持ってきたという感じですね。あれもゲームデザイナーがいつの間にか入れたものなんですけど,なんか突然数字が何万にもなっていて,「どや,面白いだろ!」と聞かれたので,「はい,面白いです」と返して(笑)。あの頃は,面白そうなものは躊躇せずどんどん入れていた覚えがあります。
4Gamer:
ディスガイアの発売当時,レベリングやアイテム集めを目的に繰り返しプレイする家庭用のSRPGは珍しかったですし,インフレ数字はプレイしていて楽しかったです。
ディスガイアはストーリーがオマケというお話だったのですが,実際に遊んでみるとそんなことはないですよね? むちゃくちゃなシーンはありつつも,意外と王道展開で,やり込みなしでストーリーだけ進めても面白いですし。
新川氏:
実はディスガイアのストーリーって,最初は池田君から「真面目なやつで」ってオーダーがあったんです。でも,真面目に書いてみたら全然ダメだったらしくて,オマケだし気楽にやろうと好きに書いたら,あんな感じになりました。
池田氏:
リテイク後のほうが,思ってたのとは違うけど面白かったんですよね(笑)。一番不安だったのは地球勇者のところですね。あそこは発売するまで,本当にユーザーに受け止めてもらえるのか怖かったんですよ。覚えてます?
新川氏:
覚えてないなあ。
池田氏:
だって魔界が世界観のゲーム作ってるんですよ? そこで後半のシナリオに突然SFが出てくるんですから。発売前までは「これが受け入れられるなら,本当に何でもありだよな……」と思っていました。
新川氏:
ほかの会社は絶対やらないだろうと思って,書いてみた結果かなと。そういえば,次回予告なんかも私が趣味で書いたもので,本当は収録するつもりはなかったんですよ。
4Gamer:
そうなんですか? 今ではシリーズ恒例になっていますけども。
新川氏:
息抜きで書いたつもりだったのに,いつの間にか台本に入っていて,それを声優さんが読んでくれたんです。せっかく収録できたので,入れようということになって。
池田氏:
あの頃は,「使わないけど,もしかしたら使うかも」と,念のために収録したネタがけっこうありました。例えば超魔王バールに出会ったラハールが「レベル4000だと!?」と驚くセリフがありますけど,あれも使う予定がないのに収録したセリフです。後々,「こういうセリフがあるんで,バールはレベル4000にしましょう」という感じで。
4Gamer:
セリフが先なんですね。とりあえず収録しておいたにしては,レベル4000ってピンポイントすぎませんか(笑)。
池田氏:
こんなこともあるかなと思って(笑)。
新川氏:
面白いと思って適当に考えたものが,採用されることが多かったですね。仕様書とか,まったくなかったもんね。
池田氏:
そんなことないですよ,ちょっとはありました。キャラクター周りとか。
山本義紀(山本氏):
あったかもしれないですけど,存在を知らずに作業を進めていた覚えがありますよ。キャラを作ってから,実は仕様書と違っているって言うんで作り直しとか。
新川氏:
それもひどいな(笑)。
4Gamer:
主人公のラハールって,最初からあんな感じのムチャクチャなキャラクターだったんですか?
新川氏:
はい,最初からあんな感じです。あのままの設定で原田さんにお願いしたら,1発OKのイラストが上がってきました。
正統派でコメディ禁止だった「魔界戦記ディスガイア2」(2006年)
ディスガイア2に話題を移しますが,1に対して2はかなり正統派なストーリーですよね。
新川氏:
初代ディスガイアはおかげさまで弊社タイトルとして初めて10万本の壁を越えて,国内で13万本ぐらい売れたんです。そこで次に何を作ろうと考えたときに,ディスガイア2はいつでも作れるから,新しいものにチャレンジしようという勢いで,「ファントム・ブレイブ」「ファントム・キングダム」を作りました。
この2本や初代ディスガイアは,内容的にかなり弾けていて,コア向けなタイトルだったので,もっとたくさんの人に遊んでもらうべく,ある意味“ええかっこしい”な内容で作ったのがディスガイア2になります。
4Gamer:
ファントム・キングダムはかなりぶっ飛んでいましたからね。
池田氏:
完全にネタに走ったコメディでした。ディスガイア2は,ちゃんと真面目なものを作れば,もっといろんな人に届いて売れるんじゃないかということで,「コメディ禁止」をコンセプトとして,シナリオを書く新川にも釘を刺しました。
新川氏:
ほかの会社に作ってもらう案もあったぐらいです。当時は,プロモーションも兼ねてアニメ化も考えていたので,分かりやすいストーリーにしたかったというのもあります。結果的には,柄にもなく真面目にやったことで15万本ぐらい売れて,あっさり前作を超えました。
4Gamer:
もくろみとしては成功だったと。
新川氏:
成功ではありましたが,タイトルの勢いにブレーキがかかった側面もあります。縮こまってやるのは,俺達のスタイルじゃないという反省もあって。もちろん,ディスガイア2のファンもいらっしゃるので,そこは本当にありがたいのですが。
4Gamer:
シリーズを通して見ると,2の主人公のアデルは正統派すぎて,逆に異色の存在になっていますよね。
外川 良氏(以下,外川氏):
PSP版の「魔界戦記ディスガイア2 PORTABLE」で,実はプレネールさんのファンとか,お姫様好きとか,コメディ路線の設定を意図的に追加したぐらいです。
松田岳久氏(以下,松田氏):
今やすっかりいじられるポジションになってしまった気が。
新川氏:
主人公を卒業したキャラはいじられます。
PS3への移行で,従来のドット絵と高解像度化の選択を迫られた「魔界戦記ディスガイア3」(2008年)
反省したというお話ですが,そのぶんディスガイア3の反動はすごかったですね。シリーズで一番ネタに走っている気が。
新川氏:
そうですね。前作がちょっとおとなしすぎたので。不良がええかっこしたところで,似合わないですから(笑)。
4Gamer:
ディスガイア3から,ハードがシリーズ初のPlayStation 3に変わりましたが,開発時は苦労したのでは?
新川氏:
ええ。最初は,ハード発売の1年以内に出すことを目標としたのですが,技術的に開発が難しい部分があり,とくに(山本氏を指して)彼から,どうするかを問われました。
ディスガイア3の時点で,グラフィックスを高解像度化するか,既存のドット絵で行くかの話が出たんです。高解像度化する場合は,新規ユニット数は半分ぐらいになる。でも前作のキャラクターに追加する形なら,その倍は作れるといった条件を提示して,その結果,ディスガイア3ではドット絵を継続することになりました。
新川氏:
確かシナリオも減らしてって言われた気がするなぁ。それなら10話以下にしないといけないと思って8話に納めたんですけど……。
山本氏:
1話1話が長いので,ボリュームが変わってないんです。それによってシナリオの完成が後ろにずれ込んで,制作にも影響が出てしまって。
新川氏:
ごめんなさい。
4Gamer:
シナリオが遅れた場合,実作業はどうなるんですか?
山本氏:
仕方ないので,汎用キャラクターを作るとか,汎用性のある素材を作るなどします。そろそろ専用のキャラクターやステージがないと困るという時期に,ようやく上がってくるという感じです。シナリオができないと,当然ながら原田さんのキャラクターも完成しないので,主人公も仮キャラのまま動くことになります。
池田氏:
最初は必ずアサギが動いているんです。彼女はシリーズで必ず出てくるので,最初に作るんですよね。
新川氏:
やっぱりシナリオは,プロジェクトの立ち上がりの段階からないとダメですね!
4Gamer:
新川さんがそれをおっしゃるんですか(笑)。日本一ソフトウェアさんは,今は新ハードが出ると比較的ローンチに近い時期にタイトルを出してくる印象がありますが,ディスガイア3に関しては発売からけっこう経っていましたよね。
新川氏:
1年ぐらいですかね。移植はともかく,完全新規で作るには当時の技術力の限界でした。
松田氏:
PS3の開発環境の整備からやっていましたからね。
高解像グラフィックスに進化した「魔界戦記ディスガイア4」(2011年)
4Gamer:
ディスガイア4は初めて高解像度化されて,グラフィックス面で大きな進化をしたタイトルでした。高解像度化は,ディスガイア3の時点で大変だったようですが……。
いや,苦労しました。別のタイトルを作っている最中にデザイナーが抜けて,ディスガイア4の開発の準備にかかるという,非常に特殊な動きで進めていましたね。
4Gamer:
ディスガイア3までは,ドット絵のSRPGという点がシリーズの特徴みたいなところがありましたが,それをあえて高解像度化したのは,どういった理由によるものだったのでしょうか。
新川氏:
最初にPS2というプラットフォームを選んだことによって,将来的に次世代機が出てきたときに,必ず解像度が高くなる方向に向かうことは,風潮としてありました。ディスガイア3の時点で「PS3でドット絵!?」という声があったのも事実で,そこに限界は感じていたんです。
松田氏:
PS3のときは一般家庭のテレビがブラウン管から液晶に変わっていく時期で,そこにドット絵が映るのが厳しいことは,開発側でも感じていました。
新川氏:
そのことは3の開発段階である程度覚悟はしていて,先ほど山本が話したように,高解像度にする構想自体は当時からあったんです。高解像度化実現のあかつきには,原田たけひとさんの絵柄をそのまま動かすところまで実現できれば,きっと売れるだろうという思惑もありました。でも実際に実現するまでには,相当苦労しました。
外川氏:
まずはキャラクターのグラフィックスを,元となる原田さんのイラストに似せなければならないという,デザイン的な部分での技術力を開発陣が身に付ける必要があったんです。根本となる筋肉や骨の構造を理解して,そこにどういう陰影付けをすれば原田さんの絵に近づけるのかという積み重ねが必要で,とくにデザイナーが大変な思いをしていました。
新川氏:
デザインがとにかく大変ということで,原田さんを急遽岐阜に呼んだんです。彼はもともとうちの社員で,東京でフリーランスで活躍していたので,岐阜にスタジオを作って来てもらって,デザイナーの負担をできるだけ減らす体制で臨みました。
松田氏:
デザイナーに限らず,プログラマーも苦労したんですよね。高解像度になったことで,1体あたりのキャラクターのデータ量がディスガイア3の9倍になってしまって。
4Gamer:
9倍って……。
松田氏:
3の時点で既にメモリが限界で,もうこれ以上は無理とか言っていたのに,いきなり9倍ですから。正直,意味がわからない(笑)。
それとディスガイアシリーズって,最初に全キャラクターをメモリ上に展開するので,戦闘中にロードがなく快適に遊べるんですけど,もちろんそれも保たないといけません。プログラマーが本当にがんばってくれて,何とか実現できました。
4Gamer:
しかもディスガイア4って,高解像度のグラフィックスとドット絵の切り替え機能とかありましたよね。
松田氏:
よりによって,一番大変な選択肢を選んでしまったという……。でも,それまでずっとドット絵で作ってきたシリーズなので,作っている側としても高解像度化に半信半疑な部分があったんです。両方入れたおかげで,分かりやすく高解像度キャラが受け入れられ自信も持てたので,やってよかったと今なら思います。
4は見栄えだけでなく,全体的にバランスもよかった印象があります。システム面の完成度は高いですし,ストーリーも前作ほどアクは強くないけど,適度にバカをやりつつ,ウルっとくるシーンもあるという感じで。
新川氏:
シナリオ担当としては,初代のクオリティを超えることを目標に挑んでいました。それまでのシリーズで,自分としても初代を超えた手応えはなかったですし,実際にお客さんの評価も初代が一番高かったんです。ディスガイア4でも超えたという実感はあまりないのですが,お客さんの反応を見ると「4が一番好き」と言ってくださる方が多いので,うまくいったのではないかと思っています。
4Gamer:
主人公のヴァルバトーゼは愛嬌があって,好感が持てます。
新川氏:
彼は未だに人気が高いですからね。格好良さとイワシネタの濃さみたいなところとのギャップが受けたのかな。人気投票でも上位に来るキャラで,とくに女性人気が高いです。「魔界ウォーズ」で実装されたときも人気でした。
“初代の続編”という異色の「ディスガイア D2」(2013年)を経て,「魔界戦記ディスガイア5」がPS4(2015年)とSwitch(2017年)で発売。海外でも好評に
続いて「ディスガイア D2」という,ちょっとイレギュラーなタイトルが発売されます。シリーズとしては正規のナンバリングとは異なるタイトルですよね。
新川氏:
D2のときはディスガイアの10周年でした。シリーズを10年続けてきて,いまだ初代が一番人気だったので,それなら続編を作ってはどうかということで企画がスタートしています。
その段階では,初代を高解像度化したものに加えて,D2ぶんの追加シナリオを1つのパッケージにするという内容で考えていましたが,ボリュームが多すぎて手に負えなくなるのが見えていたので,それならばと新作にしたんです。当初はディスガイア4も人気があったので,これがうまくいけば,「ディスガイア4 D2」とか「ディスガイア1-3」みたいなこともできるのではないかという考えもありました。
発売後にちょっと後悔したのは,タイトルに「魔界戦記」を付けなかったことでしたね。これがないと,ちょっと外伝感が強くて,その結果ユーザーさんが絞られてしまいました。
4Gamer:
そしてナンバリングの最新作である「魔界戦記ディスガイア5」は,PS4での発売となりました。当時,マシンパワー的にかなり余裕がある開発だったと聞いた覚えがあります。
松田氏:
はい,開発する側としては本当に助かりました。高解像度化など,前作までに苦労した部分はほぼ解消して,そこにリソースを割かれてできなかったことも全部入れられましたからね。
デザイナーとしても,前作でスプライトのパズルをどう組み立てるかで,本当に苦労していて,PS4ではそれをやらなくてよくなりましたからね。使えるメモリ数も増えたので,素材もたくさん使えるようになって,UIもリッチにできました。UI面に関しては,おかげさまで過去最高の評価をいただきました。
松田氏:
豪華にすると同時に,分かりやすさという部分を意識していたので,そこが評価されたことは本当に嬉しかったです。
4Gamer:
シナリオはどうでしたか?
新川氏:
シナリオはこのときも皆さんにご迷惑をおかけしました。
4Gamer:
ここでもですか(笑)。
冒頭でお話ししたように,ディスガイアはシステムで遊ばせるシリーズのはずでしたが,近年はシナリオのボリュームを増やす方向に向かってしまっていて……。ディスガイア5は,主要キャラクターの掘り下げという点では,一番うまくいったと思うのですが,ボリュームは反省点ですね。
松田氏:
最初は,話数を増やす変わりに,1話ごとのボリュームは控え目にしてバランスを取ろうと言っていたはずなのに,上がってきたシナリオを見たら,全然そんなことはないんですよ。「どういうこと!?」って(笑)。
4Gamer:
ディスガイア5って,シナリオだけでなく,システム面でもメインキャラクターが優遇されていましたよね。
松田氏:
あれは僕の提案で,D2のときに汎用キャラクターを持ち上げるイメージにしたので,ディスガイア5では逆にしようとしたんです。でもその結果,おっしゃるとおり「もっと汎用キャラを使いたかった」という声も出てきてしまって,バランス取りの難しさを実感しました。
外川氏:
ゲーム中の強さでも,メインキャラクターは汎用キャラクターより2割増しぐらいでしたからね。
新川氏:
ディスガイア5は,メインキャラクターが全員魔王という設定だったので,あまり弱くするわけにもいかなかったんですよね。
4Gamer:
それは確かに。
ディスガイア5は,シリーズでは久しぶりのPC版が出るんですよね。
新川氏:
はい,ちょっと技術的な障壁などもあって,大変お待たせしてしまってますが,現在も鋭意開発中です。
4Gamer:
PC版は,1,2ときて5が予定されていますが,これはなぜでしょう?
新川氏:
PCの配信に関しては,アメリカの子会社の主導で動いていて,最新のものを早く遊んでもらいたいというのが彼らのリクエストだったので,ディスガイア5を優先したんです。
4Gamer:
ディスガイア5がNintendo Switchのローンチタイミングで発売されたのも印象的でした。
新川氏:
Switch版の売れ行きは,実は非常に良かったんです。国内ではPS4版の半分程度でしが,北米欧州では20万本を超えました。
これまで,日本では携帯機版が売れるけど,海外では据え置き機版が売れるという“ねじれ”みたいなものがあったんですが,Switchはそのねじれを解消できるハードだったというのが,売れ行きにつながったと思います。あとはハードのローンチに合わせられたのもよかったかな。
4Gamer:
腰を据えてじっくりやり込むタイトルは,ローンチ時だとあまりありませんでしたし。
新川氏:
任天堂さんにもかなり早いタイミングで情報を開示してもらえたので,前述のねじれ解消ができることは確信していましたし,弊社のような中小企業が任天堂さんの新ハードでローンチ時に出せたらすごいんじゃないかと思って,彼らに間に合わせてもらいました。
松田氏:
無茶振りでしたけどね。マスターアップまで,正味半年ぐらいしかなかったので,とにかく精鋭をかき集めて作りました。
4Gamer:
ディスガイアのあのノリは,欧米でも受け入れられているんでしょうか?
新川氏:
我々も最初は疑っていたんです。初代ディスガイアのときはまだアメリカに子会社がなくて,アトラスUSAさんに販売していただいたんですが,お声がけいただいたときに「こんなの売れませんよ?」って念を押した記憶があります。ゴリゴリの日本向けの内容でしたからね。ところが蓋を開けてみると,国内と同じぐらい売れたんです。
4Gamer:
笑いのツボは意外に同じだったりするということでしょうか。
新川氏:
実はそうなんですよ。海外のファンに向けてPVを流すと,笑いどころが日本とほとんど変わりません。オタクのノリは世界共通です。
4Gamer:
海外の反応としては,ハメを外してはっちゃけたディスガイアと,真面目な方向性のディスガイアだと,どちらがウケるんですか?
新川氏:
はっちゃけているほうがウケますね。「ヒャッハー!」みたいな感じで(笑)。
システム面では,日本のユーザーさんのほうがやり込む傾向があるかもしれません。「何百時間やり込みました!」みたいな声が聞こえてくるのは,日本のほうが多いです。
外川氏:
日本では,やり込むためにストーリーを見ないで進めているという人もいらっしゃるぐらいです。ひたすら強くすることを目的に,ストーリーは全部スキップしているみたいで,レベルデザインをしている身としては,ちょっと残念な気持ちはありますけども。
新川氏:
遊び方は皆さんの自由ですからね。
15年の歴史の中で,一番大変だったのはDSへの移植
4Gamer:
ディスガイアの15年の歴史の中で,一番開発が大変だったタイトルってどれですか?
一番大変だったのはニンテンドーDSで発売した「魔界戦記ディスガイア 魔界の王子と赤い月」ですね。これはもう,開発全員一致の感想だと思います。子会社のシステムプリズマが移植を担当したんですが,元のディスガイアがDSで動かすような仕様ではないので,素材などを極限まで切り詰めて作り直しているんです。それと解像度が低いので,パラメータを表示しきれない。それを何とか調整したんですが,よく完成できたと思います。
新川氏:
未だに担当のプログラマーは語りぐさにしていますからね。本当にしんどかったって。
松田氏:
ディスガイア3でPS3に移行したときも苦労しましたね。それまでの機種は,ドット絵を描く上で,色のパレットをハードウェア側が持っていたんですが,PS3はパレットがなくなったんです。そもそも,ハード的にドット絵を動かすような設計ではなかったので,ドット絵を処理しようとすると,当初はPS2よりも表示できるキャラクターが減ってしまうなんて事態も発生して。
その点,PS4やSwitchは,作るほうのストレスはほとんど感じることなく,快適でした。
4Gamer:
Switch版のディスガイア5が半年で完成したのも,作りやすかったからですか?
松田氏:
それはあります。任天堂さんの発売前の技術サポートも大変細やかで,レスポンスも早くて,技術的なレクチャーをしに,わざわざ岐阜まで来てくださいましたからね。
新川氏:
任天堂さんはDSの頃から本当にサポートが手厚くて,こちらからお願いすると,操作性などに関するアドバイスなどもいただけたんです。そういったアドバイスは,誰がいらしても同じことを仰るので,そこに任天堂さんのすごさを実感しました。
と言うと,任天堂さんからだけサポートしていただいているように誤解されてしまうのでお伝えしておくと,もちろんSIEさんからも,さまざまな点でご協力いただいています。
「魔界戦記ディスガイア6」は作る。スマホ版も鋭意制作中
4Gamer:
シリーズのお話を一通りうかがいましたが,今後の話も聞かせてください。今はスマホアプリ版のディスガイアを開発中とのことで,大阪の開発室に新川さん自ら単身赴任で行かれているそうですが。
新川氏:
アプリ版は,大阪のチームがメインで開発していて,この中では私と松田が関わっています。アプリのディスガイアとしてしっかり作り込んでいて,かなり面白くなってきていると思います。
ただ,発表したのが2年以上前で,お客さんをかなり待たせてしまっており,急ピッチで開発を進めています。
4Gamer:
新川さんは立場上,誰かを行かせることもできるかと思うのですが,社長自ら単身赴任で開発しにいくというのも気合が入っていますね。
この話をSIEさんやフォワードワークスさんに一緒にやろうと持ち込んだのは私ですし,開発体制が整うまで時間がかかってしまったのも私の責任ですから,そこは自分でやるべきだと思ったんです。
あとはアプリゲームの作り方を近くで見ておきたかったというのもあって,個人的にもいい勉強をさせていただいてます。ちなみにシナリオはもう終わっています。(松田さんのほうを向いて)今回早かったろ?
松田氏:
驚くべき早さでした(笑)。
4Gamer:
アプリ版のシナリオも新川さんが担当なんですか?
新川氏:
はい,今回も全部書きました。
アプリ版ということで1回のプレイは短くしたいので,刻んだ形にはなっていますが,内容的にはコンシューマへ移植しても遜色ないものになっているかと思います。今回もヤンチャしているところは多々ありますし(笑)。
ゲーム内容に関しては,まだ明かせないのですが,PVなどから想像してみてください。私や松田も含め,ディスガイアのオリジナルメンバーが作り込んでいるので,新しいディスガイアの1つとして,普段通りに遊び込めるものになるはずです。
4Gamer:
楽しみにしています。
今後という点では,本編である5の次はいかがでしょうか
新川氏:
もちろん,ディスガイア6は作ります。どんなプラットフォームで,いつ出るかは言えませんが,準備中というところです。
松田氏:
どこまで準備しているのかは,ご想像にお任せしますが(笑)。
4Gamer:
それでは最後に,15周年を迎えたディスガイアの今後に向けた抱負をお願いします。
新川氏:
おかげさまでディスガイアシリーズ15周年ですが,始めたときにはここまで続くと思っていなかったですし,そもそも初代が売れなかったら会社がなかったかもしれません。ここまで続けられたのは,支持してくださったお客様や,開発に協力いただいた取引先の皆様のおかげと感謝しています。
今作っているアプリ版などを含めまして,いろんな形でディスガイアというタイトルを,国内に限らず海外へも展開していきたいと思っているので,今後20年,30年続けられるシリーズとして育てていきたいです。
個人的には,SRPGにこだわらなくてもいいと思っています。アクションやアドベンチャーを出したこともありますし,いろんな可能性はあるんじゃないかなと。引き続き,日本一ソフトウェアの主力タイトルとして大事にしていきますので,これからも応援していただければ幸いです。
4Gamer:
ディスガイアの今後に期待しています。ありがとうございました。
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