インタビュー
VR空間でリアルなテニスの駆け引きを再現。PS VR版「VR Tennis Online」のインプレッションと,開発者へのインタビューを掲載
本作は,2016年3月にリリースされたOculus Rift向けの同名タイトルをPS VR向けに移植したもので,シングルスまたはダブルスで対戦できる三人称視点のVRオンラインテニスゲームである。
今回4Gamerでは,PS VR版「VR Tennis Online」の配信開始に先駆けてプレイする機会を得たので,さっそくインプレッションをお届けしよう。
また記事の後半では,本作の開発を手がけたコロプラ VR開発チームの責任者である小林 傑氏と,エンジニアのよっしー氏へのショートインタビューを掲載しているので,興味のある人はぜひご一読を。
「VR Tennis Online」公式サイト
4種類のショットと必殺技で相手を翻弄し,チャンスでスマッシュを決めよう
「VR Tennis Online」は,異なる個性を持つ8人の選手の中からいずれか一人を選択し,4種類のショットと必殺技を打ち分けて対戦相手を翻弄するという,リアルのテニスにおける駆け引きを再現したゲームである。
用意された8人の選手は,パワーは強いが足が遅い,逆にパワーはそれほどでもないが足が速いといったようにそれぞれ特徴が異なっており,プレイヤーの好みや対戦相手の傾向に応じて選べるようになっている。
また操作は,PS4のコントローラであるDUALSHOCK 4を用いて行う。選手の移動は左スティック,ショットはドライブ,ロブ,ドロップ,スライスが[○][×][△][□]のボタンに割り振られている。
基本的なプレイはリアルのテニスに沿っており,相手が打ってきたボールの方向に移動し,タイミングを合わせて打ち返すだけとシンプル。ボールを打ち返すタイミングは,ボールの周囲に表示されるマーカーの色で示されており,分かりやすい。さらに相手の打ったボールが浮いたときなどのチャンスには,コート上に示されるチャンスエリアでボールを打ち返せばスマッシュとなる。
ただ筆者は,VR空間内の距離感や自分の操作する選手がラケットを振るタイミングを把握するまでに少々時間を取られてしまい,最初のうちは空振りばかりしていた。ちなみにコロプラのスタッフによると,最初は誰もがそんな感じらしい。
ある程度ラリーが続くと,選手が炎のようなオーラをまとい,必殺技を繰り出せるようになる。必殺技はボールが蛇行しながら飛んでいくものや,竜巻を起こすものなど最大12種類を習得可能で,[L1]ボタンおよび[R1]ボタンにそれぞれ一つずつセットできる。
なお必殺技は,打ち返されることもある。逆にいえば,相手が放った必殺技もボールをきちんと捉えていれば打ち返せるわけだ。
本作に用意されているモードは,オフラインモードとオンライン対戦モードの2種類。
オフラインモードは一人で遊ぶモードで,プレイヤー以外の選手はすべてCPUとなる。さらにこのモードには,シングルスとダブルス,対戦記録の残らないエキシビション,そしてトーナメントモードがある。トーナメントモードを勝ち抜いていくと,必殺技を習得でき,より戦術に幅を持たせることが可能だ。
一方,オンライン対戦モードは,ほかのプレイヤーと1vs.1で競うシングルスと,2vs.2のダブルスが用意されている。また各対戦は,ゲーム内のレーティングによって同程度の戦績を持つ相手とマッチングする仕様となっており,勝てば勝つほど強い選手と対戦できる仕組みだ。なお,シングルスとダブルスは別個のレーティングになっているとのことだ。
本作の醍醐味は,やはり対戦相手とリアルな駆け引きを楽しめる点にある。ラリーの中でボールを左右に打ち分けて相手を揺さぶり,相手の外側に逃げるよう打ったスライスショットがうまく決まったときの高揚感は,リアルのスポーツとまったく変わらない。
また,放った必殺技が打ち返されることがあるところも大きなポイントだ。つまり本作の必殺技は,ショットの打ち分けや左右の揺さぶりと組み合わせて,相手を翻弄する手段の一つとして使うこととなるのである。いわゆる一撃必殺的なものではなく,必殺技を放ったあとどう攻めるか,プレイヤーがさらに戦術を組み立てていく余地が残されており,対戦の駆け引きにより深みを与えているのである。
コロプラ公式サイトにある紹介ページに記してあるとおり,「実際のテニスの駆け引き以上に楽しめるテニスゲーム」を実現した「VR Tennis Online」。ぜひ多くのPS VRユーザーに楽しんでほしい。
特殊な三人称視点の採用により,テニスゲームとしてより面白くなった
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。さっそくですが,「VR Tennis Online」を企画した経緯などを教えてください。
2016年3月のOculus Riftのローンチに向け,その1年ほど前に何かVRコンテンツを作ろうという話が社内で持ち上がりました。当時の社内では「白猫テニス」(iOS / Android)の開発が進んでいましたので,「VRもスポーツがいいだろう」「やはりテニスがいいんじゃないか」ということになったんです。
4Gamer:
VRでテニスゲームというと,まず一人称視点のものを考える人が多いんじゃないかと思いますが,「VR Tennis Online」では三人称視点を採用していますよね。
よっしー氏:
実は本作も,最初は一人称視点だったんです。ただ当時はOculus TouchのようなVR用コントローラがなく,また一人称視点だとVR酔いをしやすくなってしまうという事情がありました。その中で,ずっと遊んでいただけるゲームをきちんと作るために,三人称視点のほうがいいだろうと,今の形に落ち着いたんです。
またそこに至る過程では,一人称モードや俯瞰モード,審判モード,巨人モード,こびとモードなど,さまざまな視点を試しました。その結果,テニスゲームとして一番面白かったのが,今の三人称視点だったということもあります。ゲームとしては一人称視点も決して悪くなかったのですが,三人称視点のほうがより面白かったんですよ。
4Gamer:
VR酔いしにくいこと,ゲームとしてより面白いこと以外に,三人称視点のメリットはありますか。
よっしー氏:
三人称視点といっても,「VR Tennis Online」は少し特殊なんですよ。一般的な三人称視点のゲームだとカメラがキャラクターを追いかけるので,必ず自分のキャラクターが画面の中心にいるのですが,本作ではゲームの特性上そうなっていないんです。たとえば,ずっと左スティックを後ろに倒していると,キャラクターがプレイヤーを超えて後方に行ってしまい,探すのが大変なのですが,それもまた面白いと思っています。
4Gamer:
VRのゲームを作るにあたり,配慮したことを教えてください。
よっしー氏:
長時間遊び続けられることです。たとえば今の三人称視点でも,普通に作ってしまうとVR酔いになるんですよ。そこでキャラクターが向いている方向に移動する場合はカメラが速めに動くのですが,それ以外の方向に移動する場合はカメラをゆっくり動かして,酔いを軽減するということをやっています。だから右や左に移動させると,だんだんキャラクターからカメラが離れていくんですよ。
「VR Tennis Online」は「初めてVRに触れたという人でも絶対に酔わない」という目標を立てて開発に臨みましたので,かなり酔いにくくなっています。
4Gamer:
VR酔いを軽減する研究は,すべて社内で行ったのでしょうか。
研究自体は社内でやりました。もちろんOculusさんやSIEさんから情報提供を受けたり,さまざまな文献を参考にしたりはしましたけれど。社内では本当に数え切れないくらいテストを繰り返しましたね。
4Gamer:
PS4版に先行して配信されているOculus Rift版の反響はいかがですか。
小林氏:
Oculus Rift版は世界各国で配信していまして,主に海外の皆さんから「オンライン対戦が楽しい」という感想が非常に多く寄せられています。とくにダブルスで,後ろを向くとペアを組んでいるパートナーの姿が見えたり,ポジション確認を実際に見ながらできたりといったところを,VRならではの特徴として評価していただけているようです。
その一方では「Oculus Touchを使って遊びたい」「一人称視点モードがほしい」といったリクエストも寄せられています。
よっしー氏:
全般には好評です。オンライン対戦を実装する前にイベントに出展したときでも,かなり遊んでいただけて嬉しかったです。叫び声を上げながらプレイする方もいて。
4Gamer:
三人称視点だと,空振りしたときプレイヤーのほうにボールが飛んでくることがあるんですよね。それで思わず声が出そうになりました。
よっしー氏:
一人称視点だと,そうなりませんからね。また,そもそも三人称視点であることに驚かれるケースが多かったんですが,「一人称じゃないのは,きちんとゲーム性を追求しているから」と分析してくださる方もいらっしゃいました。
4Gamer:
逆に意外だった反響はありましたか。
よっしー氏:
「必殺技は確実に決まるほうがよかった」という意見がありました。「VR Tennis Online」では,基本的にテニスのよさを大事にしていますので,必殺技といってもテクニックショットで相手を崩す遊びとして入れているんです。ただ海外の皆さんは,もっとゲーム的なものを望んでいたようです。そこが少し意外でした。
4Gamer:
もし実現できていたら,VRとしてもっとよくなったと思う機能などはありますか。
小林氏:
ボイスチャットですね。VRは一緒に遊んでいる人とコミュニケーションが取れると,グッと没入感が増すんですよ。たとえばダブルスで,後ろにいるパートナーから「右じゃない,左だ!」と声をかけられるといった感じで,リアルのテニスと同じようなやり取りができるようにしたかったですよね。残念ながら開発上の都合で,実現できませんでした。
よっしー氏:
VRとしてというより,純粋にゲームとしてもっとキャラクターを増やしたかったと思います。
あとは小林がいうようにボイスチャットがあるとよかったですね。ただ身体を振るなどして何かを伝えたり,パートナーが見ている方向を把握したりできますので,そこをうまく使っていただければコミュニケーションを図れるんじゃないかと。
4Gamer:
ちなみにオンライン対戦のマッチングは,全世界のプレイヤーが対象なのでしょうか。
よっしー氏:
Oculus Rift版はそうですが,PS VR版は今のところ日本国内でしか配信予定がないので,マッチングも日本国内のみです。もっとも,PS VR版も全世界でマッチング可能な仕様となっていますので,ほかの国で配信されればマッチングできます。
4Gamer:
コロプラでは,各VRプラットフォーム向けにコンテンツを続々とリリースしていますけれども,今後もPS VR版の予定はあるのでしょうか。
小林氏:
直近では「VR Tennis Online」と同じように,別のプラットフォームで展開しているタイトルをPS VRでも配信する予定です。そのあと,PS VR向けの新規コンテンツの開発ができるといいな,とは考えています。
コロプラのVRコンテンツプロジェクトは今もいくつか動いており,開発の過程でどのプラットフォームでリリースするのが一番ふさわしいかを社内で決めていく感じですね。
4Gamer:
なるほど。それでは「VR Tennis Online」のPS VRを出そうと決めた理由を教えてください。
小林氏:
リリース当初のOculus Riftには,Xbox Oneコントローラが付属していたので,それに合わせて「VR Tennis Online」の仕様を決めたんですよね。そのため,DUALSHOCK 4を使えるPS VRとも相性がいいと考えました。
よっしー氏:
もう一つ,PS VRがリリースされてまだ日が浅いこのタイミングに,VR酔いしにくいコンテンツを提供したかったという理由もあります。
4Gamer:
Oculus Rift版,PS VR版に続き,HTC Vive版の「VR Tennis Online」を配信する予定はあるのでしょうか。
小林氏:
今のところ,予定はありません。というのもHTC VIVEには,デフォルトでハンドモーションコントローラが付属するからです。そのため,Xbox OneコントローラやDUALSHOCK 4を使う「VR Tennis Online」は,あまり適していないんじゃないかと。
よっしー氏:
もしHTC Vive向けに出すとすれば,Oculus Rift版やPS VR版とは違う新しい「VR Tennis Online」になるでしょうね。もちろんそのまま出すことはできますが,僕達自身が納得できないというか。
4Gamer:
なるほど。それでは,今後コロプラでリリースするPS VR向けのコンテンツには,PS Moveで遊ぶものも出てくるのでしょうか。
小林氏:
コンテンツの内容に応じて,DUALSHOCK 4を使うか,PS Moveを使うか決めることになります。「THE PLAYROOM」のように,DUALSHOCK 4を使っていることを感じさせないような手法もありますし,その一方ではハンドモーションコントローラに挑戦したい気持ちもありますから。
よっしー氏:
PS VR版は,現状だとDUALSHOCK 4対応のほうがより多くの方に遊んでいただけるかもしれませんね。もちろん,PS Moveに対応させたい気持ちもありますけれども,やはりコンテンツの内容次第だと思います。
4Gamer:
まあ日本の住宅事情を考えると,テニスゲームのようなものをハンドモーションコントローラでプレイするのは現実的じゃないかもしれませんね。部屋が狭かったり,天井が低かったりしますから。
小林氏:
「VR Tennis Online」をハンドモーションコントローラ対応にしなかったのも,それが理由なんですよ。日本の室内で,テニスのラケットを振る速度で腕を振るのは危険だと。
よっしー氏:
下手したら腕を骨折しますよね。コロプラとしては,そんな危険なゲームは世に出せないという話になったんです。
今後は安全対策を十分鑑みて,激しいものからそうでないものまで,さまざまなバリエーションのVRコンテンツを作っていきたいですね。
4Gamer:
最後にPS VR版「VR Tennis Online」に注目する人に向けてメッセージをお願いします。
よっしー氏:
対戦が楽しい,かつVR酔いしにくいVRコンテンツを作りました。キャラクターも個性豊かですので,ぜひ皆さんに一度体験していただきたいです。
また一人称視点ではないということ敬遠される方もいらっしゃると思うのですが,実際にプレイすると,スクリーンショットからは伝わらない三人称視点だからこその面白さもあります。
小林氏:
PS VRが発売されてからまだ4か月程度ですが,このタイミングでプレイするには本当にちょうどいいコンテンツです。それなりに遊んでも長くプレイできますし,オンラインで上を目指そうとするならもっと長く遊べます。ぜひよろしくお願いします。
4Gamer:
ありがとうございました。
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