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信長の野望・大志公式サイトへ
  • コーエーテクモゲームス
  • 発売日:2017/11/30
  • 価格:通常版:9800円(+税)
    TREASURE BOX:1万3800円(+税)
    GAMECITY & Amazon.co.jp限定セット:5万2800円(+税)
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【山本一郎】「信長の野望・大志」アフター・アクション・レポート。義清物語(前編) 立身興国! 本人以外無能軍団村上家の逆襲
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印刷2018/08/04 12:00

プレイレポート

【山本一郎】「信長の野望・大志」アフター・アクション・レポート。義清物語(前編) 立身興国! 本人以外無能軍団村上家の逆襲

山本一郎/アルファブロガーにしてゲーマー。その正体は,コンテンツ業界で今日も暗躍(?)する投資家

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山本一郎:茹で蛙たちの最後の晩餐

ブログ:http://lineblog.me/yamamotoichiro/



 夏は暑いですね。

 読者にとくに呼びかけるべきネタもない山本一郎です。元気ですか。暑い夏に相応しくTwitterが凍結しておりますが、こちらは日々楽しくやっております。

 今回は巷で「パワーアップキット待ち」の空気感が充満している「信長の野望・大志」PC / PS4 / Nintendo Switch / iOS / Android)のAAR(アフター・アクション・レポート)であります。いつもならここは姉小路家で……と言いたいところなのですが,戦国シミュの風物詩である「姉小路家,浪岡家,秋月家はクソ弱い」というお約束を覆し,今回の姉小路家は強いのでスルー。

 その代わりにチョイスしてみたのは北信濃(信州)の戦国大名・村上義清であります。序盤から滅ぶシナリオまで用意されていてゴミ大名扱いされておりますが,村上義清「本人」は強いんです。本人は。

 ああ,この村上義清の強さ,恐ろしさを天下に知らしめたい。っていうか長尾家(上杉家)と武田家に挟まれた村上家の劣勢さえどうにかしてあげれば,武家の棟梁として立派にやっていける人物だと,私は思いました。いや,マジで。ああ,そんな村上家でも別の世界線では強い長尾家を倒し,憎い武田家を屠り,木曽義仲よろしく日本の屋根から馬で駆け下りて京都(山城)に雪崩れ込んで幕府を開く――そんな「if」があるはずだ。間違いなく,あるのだ。

 なお,ゲームのシステム上,村上家(弱小勢力)に不利なフィーチャーが揃い過ぎています。大きい勢力はより強く,弱小勢力は飲み込まれやすく作られているのが本作です。テーマとして合戦の醍醐味を伝えたかったのかもしれませんが,奇襲もゲリラ戦も許されず,隣接プロヴィンスからの支援も包囲もない仕様ですので,常に総兵力同士の決戦を迫られる劣勢側は,防衛の段取りに苦労することになります。そのためこのAARでは合戦はすべてスキップしています。ご了承ください。

 それでは,はじまりはじまり〜

※おことわり 当AARでは,シナリオ演出の都合上,村上国清がゲーム開始時に生まれることにしています。実際には,シナリオ開始1年後の春に出生します。

「信長の野望・大志」公式サイト

「信長の野望・大志」ダウンロードページ

「信長の野望・大志」ダウンロードページ



村上家事始め。村上義清,大地に立つ!!


 時は戦国,乱世の時代。凍るような厚い雲の下では,熱く猛る男達の戦いが続いていました。

「くそっ,おのれ武田晴信! 卑怯な真似を!!」

 激しく炎上する居城・葛尾城。黒煙と火の粉を噴き上げ焼け落ちる我が城を見上げ,顔をこわばらせながら,村上義清は噛み締めた唇から血を流さんばかりに大軍攻め寄せる武田勢を見据えます。二度にわたり武田晴信(のちの武田信玄)の攻勢を打ち破った猛将・村上義清も,武田勢真田幸隆の調略を受けて部下が離反。守りに転じてからはあっけないものでした。

今回の主人公,村上義清ちゃんご近影。見るからに張飛のようなイカツいフェイス,それに似つかわず「硬軟外交」「騒乱忌避」という戦争回避に全力一杯の超後ろ向きな志である「家名存続」が我が願い
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「満親! 槍を持て,敵陣に一矢報いてくれる!」脇を固める若き武将・須田満親に,死を覚悟した義清は言い放ちます。「男の散り際,見せつけずに死ねようか! お前は玉ノ井や女子供を連れて逃げろ」

 手勢を率い搦め手から城外に討って出た義清も,一度は武田勢の包囲を突破したものの城の入り口を塞がれて帰城もままならず,抵抗空しく城への侵入を許す味方が打ち破られ,城内に火を放たれるのを見つめることしかできません。

「殿! 義清さま! お待ちくだされ。敵は多勢,いま突入しても無駄死ににございまする!」
「黙れ! こんなところでやすやすとくたばってたまるか」
「殿,お気持ちは分かります。しかし,はばかりながら申し上げます。ここは誼(よしみ)は薄くとも義を重んずる長尾殿におすがりし,いったん退き,好機を待つべきときかと」

「……」

 義清が見せた躊躇。それは,生きてのちに可能性を残すために,恥を忍んで好機を待つ「逃げ」の姿勢を取る己に対して,義清のため真っ向戦い,命を落とした者たちに申し訳が立たぬという気持ちが脳裏に浮かぶからなのでした。

「殿,もしもゆかれるのならば,この満親も共にひと暴れして死にとうございます。ただ,先に泉下の客となった者たちも殿の憤死は望まぬはず。ここはお納めください」

 武田勢の攻勢を受けて,火柱が城から上がります。
 葛尾城の落城は間近に迫ります。判断に一刻の猶予もありません。

「くっ,勝ち目は……ないか。お前の言うとおりだ」
「畏れながら,どうか,どうか冷静にご判断を」
「是非もなし。越後の長尾景虎を頼り,再起を図るとしよう。殿(しんがり)は俺が持つ,お前は裏手から女子供を集めて先に長尾家を頼れ。生きろ」
「かしこまりました。殿,ご無事で――」

 燃え崩れたのは,ただの城ではなく,北信濃に覇を唱えた戦国大名・信濃村上家そのもの――その野望も,矜持も,領地も,家名も……すべてを失った村上義清は,生き残ったわずかな手勢とともに,決して味方というわけでもない長尾家へと落ち延びていったのでした……。

 まさに,時は戦国。真の意味で,乱世の時代。勝ち誇り勢力を増す大名家もあれば,無念の敗退を遂げ,滅亡に追い込まれる家もある。無慈悲な時代を生き抜く男達は必死に運命に抗い,命運の尽きた者から順に,歴史の波間に飲まれて消えていくのであります。

「ちくしょう,ちくしょうめ――!! 我らが村上義清ちゃん滅亡イベントの画面。というか,放っておくとプレイヤーでも容赦なく滅亡に追い込まれる,イベントがなくてもいつでも死ねる,残念な戦国武将,村上義清ちゃんに明日はあるのか……!?
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「……殿,殿。義清さま」
「もがっ,なんだてめー,ばかやろーー」
「殿,起きてください,一大事にござりまする」
「フゴ,そりゃあ城が落ちたら一大事……ん?」

 はだけた寝間着から密林のような胸毛を晒し出している村上義清を揺すり起こす男の顔を見て,ようやく義清は夢の世界から現実に戻ることになりました。

「げ! なんだ,夢かよ……」

 ここは,居城・葛尾城。村上義清の寝室。昨晩眠れなくて寝酒を煽った結果,徳利からこぼれた清酒が畳を濡らし,うなされた義清が寝室のあらゆるものを蹴飛ばして,家具各種をなぎ倒して散乱,さながら台風一過もかくやという状況にありました。

「超リアルな落城シーンだったぜ。VRかよ。汗びっしょりになっちゃったぜ」
「殿,着衣をお整えくださいませ。大事にござります,さ,お急ぎください」
「は? 誰だお前」
「殿,私でございます。須田満親です。み・つ・ち・か」

 義清は,きょとんとした顔で若き側近,須田満親を見つめます。

「満親。一大事とはなんだ。城なら落ちなかったぞ」
「殿,城ではございません。奥方・玉ノ井さまが産気づかれ,ついにお世継ぎの誕生かもしれません」
「キタコレ!! それを先に言え!」突如激しく興奮した義清は,満親を正面から蹴飛ばしました。
「わーーーっ!」
「男か! 女か!」
 ゴロゴロと転がる満親。義清はそんな満親に目もくれず,感動の嬉し泣き目前でした。
「どうであれ良くやった玉ノ井! 愛してるよ!! 満親,いますぐ馬を出せ! 月姫も早く呼べ!」
「ははっ」

戦乱の世に生まれ,戦場で体を張って生きてきた村上義清に待望の嫡男・国清誕生。最前線で兵隊を率いる義清が,我が子・国清のため「家名存続」の志を抱き,さらに邁進していきます。
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 生まれたばかりの元気な男の赤ちゃんは,つんざくほどの大声で元気に泣き叫ぶままに義清の胸に抱かれ,満面の笑みを湛えた義清のひげ面で容赦なく撫でつけられます。

 「おお,おお。ヤバい,何この子。チョーかわいい。マジでガン泣きしててカオティックベィベーなんですけど〜ガチかわいいしクソかわいい」と繰り返し,繰り返し,義清に優しくなでなでされた赤ちゃんが泣き疲れて静かになると,産み終えて身を横たえる正室・玉ノ井の手をぎゅっと握ります。

「玉ノ井,よく頑張った。感動した」
「お館さま。ありがとう」気丈にほほ笑む玉ノ井は,最愛の夫に潤んだ目を向けます。義清も大きな両目から感涙の雫が零れ落ち白い頬を伝っていました。「ようやく,男の子が。ついに,この村上に,跡継ぎが」
「何を言っているんだ。感謝を言うのは俺だ。ありがとう玉ノ井。愛してるよ。また二人で川辺に出て,釣りに行こう。鮎の塩焼きをたらふく食べよう」
「はい…!」
「大仕事を終えたのだ,ゆっくり休め」

 居並ぶ臣下の目を憚(はばか)ることなく激情に打ち震え,丸い瞳をいまだうるうるさせながら,嫡男出産という難事を果たした玉ノ井を労う義清。村上家の長女・月姫もまた,甲斐甲斐しく介抱をし,母・玉ノ井に労いの言葉をかけます。まだ髪結いの終わらぬ幼顔ながら,白く美しい顔立ちは玉ノ井の若いころにそっくりで,月姫は家中はおろか近隣各国でも物言う花、大和撫子として評判となっていました。

 「お母様。グッジョブ。しかして,何より御身が大切。大事にされてくださいませ」
「月。ありがとう。ありがとうね」
「お家では大事なお世継ぎですけど,私には元気で可愛い弟。私や女達にできることあらば,何でもお申し付けくださいまし」

 季節を問わず,敵との戦いに明け暮れてきた義清にとって,待望の嫡男です。村上家の末にまたひとつ広がった,守るべき「家族」でした。

 この子こそ,成人した暁にはこの北信濃の,いや,天下に武名を轟かす村上家の当主として立派に戦っていく男になるのだ。俺を,超えていく男になる。そう思った義清は,乳母や側近達が垂れる首(こうべ)のうえから力強く語ります。

 「俺は感激しちゃった」義清は太く通る声を震わせながら,普段よりさらに大きな音量で語りかけます。「この村上家も,この国も,住まうみんなも,城も山も馬も槍も田畑も,俺がこの手で守らなきゃいかんと思って頑張ってきた。そしていま……,また一つ守るものが増えた」
 「ははっ」さらに一段深く頭を下げる家臣団。
 「この子が,成人した暁には『国清』と名乗らせる。国と民を守り抜く決意を持った子に育ってほしいと願うからだ。野郎ども,みんな,どうか力を合わせてほしい」

 そして――村上家の達するべき「志」は「家名存続」,すなわち「いかなる手を尽くしても,家名を後の世に残さん」となったのです。しかし,この「志」こそが,村上家の困難と危急に翻弄される,さらなる波乱万丈の戦国大名ライフの幕開けとなることを,義清は知る由もなかったのでした。

須田ちゃんご近影。忠誠度が黄色いけど気にしない。内政に外交に建設にと,序盤は獅子奮迅の活躍をしてくれます。中盤からは優秀な他家家臣が雪崩れ込んできて辺境城主に追いやられますが,その波乱と悲運の人生を知るためにも「須田満親」でレッツ検索
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 嫡男誕生の興奮も冷めやらぬ居城・葛尾城の一室。開け放たれた障子の向こうには昨日までの冬の曇天と打って変わって燦燦と降る春の陽光を受け,雪の頂をまばゆく輝かせる信州の山々。贅沢な光景を一望するパノラマ感を楽しみながら,いまなお義清は高揚に包まれていました。愛用の長槍の手入れに余念なく,穂先にハァハァと息をかけ磨き上げている義清のもとに,物腰柔らかな訪問客がやってきます。

「殿,殿」
「誰だっけ」
「殿! 須田満親でございます。あ・な・た・の・満親」
「すまん,冗談だ。まだ20歳なのにその残念な老け顔,忘れるはずもなかろう。深い同情に値する。恨むなら親を恨め。で,どうした」
 「いえ,先ほどのご出産,誠に感動的でした。村上家の将来は盤石,揺るぎないものと確信いたしました。さすがは義清さま。家臣一同,喜びに満ち溢れております」
「んふ,んふふふ。もっと」

「絶世の美女にして良妻賢母の鑑と信州中で評判の奥方もよく頑張られ,奥方のご実家・小笠原家との関係もさらに良くなり,揺るぎないものとなりました,義清様の高い声望もさらに強く天下に伝わること間違いございません。
 槍を持っては天下無双,馬で駆けては日に千里,数に頼り迫りくる敵をその怪力でちぎっては投げちぎっては投げ,それでいて日々のご生活は慎ましく倹約的,コンビニ弁当を主食とし,朝は牛乳,夜は納豆を欠かさず,平日は領内をくまなく歩いてポケモンGO。領民と未来を語らい合い,ベンチプレスとスクワットが中心のレジスタンストレーニングで週に二度きっちりと追い込んでザバスも忘れず最大筋力を理想的に増やし,豪華財宝証券先物仮想通貨には目もくれない高潔さ,そしてご趣味はカネのかからない川釣りと,まさに日ノ本が生んだ奇蹟の快男子。それすなわち我が殿,村上義清さまその人でございます。
 何しろご息女・月姫さまは三国先まで伝わる美女と名高く,またご嫡男も村上家特有の美男子を思わせる素晴らしい目鼻立ちで,玉ノ井さまの美しさとの絶妙なブレンド,さらには当世一と歌い上げられる義清さまの武勇の誉れを御身に引き継がれた国清さまは天下に冠たる立派な将軍となられること疑いなく……」
「うふふん,んふふふふ,良い,良いぞ満親。続けてくれたまえ。んふふふ」

 満親の口からよどみなく流れ出る美辞麗句の濁流にのみ込まれ,鼻腔を膨らませてすっかりいい気持になった義清は,自慢のひげを心地よく撫でつけながらリラックスする体勢になりました。

「うむ,で,満親。用事はなんだ」
「プレイ開始時点の村上家の状況を,ご報告に上がりました」
「そうかそうか。ようやくここか。ぜひ話してくれたまえ」
「はは。ではさっそくですが,このスクリーンショットをご覧ください。こちらの緑地に白で「上」の字をあしらった家紋が我が村上家です」
「ここが俺達だな」
「はい。北には越後長尾家,南には甲斐武田家,未開の地・群馬方面には関東管領・山内上杉家が控えておりますが,困ったことに長尾家と武田家はいずれも村上家を激しく敵視しており,外交使節を送り親善を図って友好度を上げても通商や同盟などのコマンドが実行できません」
「は? 何それ。敵だらけなのに関係構築できないとか,どういうことなの」

村上ちゃん一家のお家周辺マップ。いまだ勢力の衰えない山内上杉家,北には越後のヤバい上杉謙信擁する長尾晴景,甲州には武田晴信(信玄)が虎視眈々と北信濃を狙っててほんとマズい超マズい。誰か助けて
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 義清は,槍を磨く手を止めて満親のほうへ向き直ります。満親もまた,やや平伏した体勢をキープしながら,つとめて冷静に,状況を解説しようと心掛けているかのようでした。

 「どうも敵大名のAIには『絶対に欲しい土地リスト』というのがあり,その土地にある城を抑えている大名を自動的に敵視するようなのです。しかも,いくら使節を送って見た目の関係が親密になっても,同盟はおろか交易もできず,その敵視モードを解除できない仕組みです」
「んでなぜそんな外交が硬直化するような要素を入れてやがるんだよ」
「それは日吉方面に向けて文句を垂れてください。仕様なのです。それゆえ,本作ではそのシステム上,通商協定を結び他家の商圏に押し入って利益を得て,その余剰資金で内政開発したり足軽を雇ったりして大名家を強くするのが本筋なのですが,村上家は長尾家方面,武田家方面ともにまったく通商できないので経済面で伸び悩むことになります

 「ダメじゃん。村上家,完全に滅ぶ前提のレベルデザインじゃねえか。誰だそんな雑な仕事をしたタコ助は。下剤入り信州そばでも送りつけてやりたい気分だぜ」
「まったく同感です。しかも,奥方・玉ノ井さまがおられるのに村上家と小笠原家はゲーム中はなぜか婚姻関係が成立していません。それどころか,近隣に親しい大名が村上家にはいないのです。ちなみにゲーム開始当初で我が村上家と比べて武田家はほぼ2倍,山内上杉家と長尾家は3倍以上の軍事力を備えております」
「おい……。ガチで味方勢力ゼロじゃん」

 状況を聞く義清は,深く溜息をつきました。釣られて,満親も思わず小さく嘆息を吐き出します。普通に考えると,村上家は本当にどうしようもないのです。

「何それ超ヤバい。なんでこんなまずい状況に?」
「我らはまず,お城3つを抱えておりますが,山間部という場所柄,擁する人口が少なすぎてゴミです」
「ゴミ」
「自国の商圏も最大900とか750とかばっかで見どころがなくカス」
「カス」
「さらに,せっかく北信濃なのに馬産地である牧場が一個しかなく,見事なクズ地でございます」
「クズ」
「普通にやったら,あっさり滅んで当然っすよね」
「……せやな。どっからでも滅ぶ自信あるわ」

 義清は,息子誕生の前の晩に見た悪夢を思い出していました。歴史イベント「予兆」は,条件を満たしイベントが発生すると容赦なく自動的に村上家が滅ぶという残念な内容で,長尾家(上杉家)と武田家が激突した川中島の戦いという名勝負を盛り上げるための演出として,村上家の存在が不当にミジンコ未満へと蔑まれているのです。本作でも,史実で敢えなく滅亡した村上家は滅ぶだけの存在にすぎません。

 先ほどまでの上機嫌もどこへやら,真顔となって対峙する二人に,静かな時間が流れます。

「満親。もっと顔を上げよ。俺はお前の意見を聞きたい」
「お心遣い,ありがとうございます」
「俺はお前らを,領民を,玉ノ井を,月姫に国清を……,何としても守らねばならぬ。問題は遠慮なく申せ」
「はは。では憚りながら申し上げますが,こちらが村上家家臣団です」
「ちょっ。何この無能無能アンド無能」
「はい,義清さまとこの満親を除いて全員がもれなく,とっても残念な能力となっております。先日(2018年3月8日),本作品がメジャーアップデートされたのですが,なぜか導入されたのはコマンド『開発』でして,施設を建設できるようになりました」
「そんなのもあったな。管理が面倒くさすぎるぜ,あれ」
「まあ,せっかく増えた仕様ですし,それはそれで結構なのですが,なんせうちは家臣団がオール無能なので,生産的な施設を建設しようにも私以外はLV4以上にできません。強いて言えば義清さまが牧場をLV4にできるぐらいでしょうか。時間が経つほど,村上家はさらに不利になります。何か手を打たなければなりません」
「なんでこんな強い大名はより強く,弱小はより出遅れるような救いのないフィーチャーばかり入ってしまうのか……」

「信長の野望」各大名家でもなかなかの馬鹿が集まる残念な家臣団。一言で言えば大して強くないのに戦争しか向かない人々。それでも忠義をまあまあ尽くした須田満親ちゃんがいるだけまだマシ
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 満親は,深く溜息を吐き出します。どうにもならない現実を,吐き捨てるかのように。

「当家には能なし武将しかいないのが問題です。我が同僚ながら,悲しいことです。こんな低スペックそうはいません。同窓会にいったらクラスメート全員が無職みたいな状況でございます」
「しかし満親。よく見たら,お前も微妙武将レベルじゃないか」
「お畏れながら,わたくしぐらいの内政能力のビミョーな者は,戦国の世には確かにゴロゴロいるのですが,村上家では貴重な戦力なのです。贅沢を言ってはいられません,『本気』と書いて『マジ』で,殿の武勇のみが頼りです。殿だけが,メジャーに通用する武力の持ち主なのです」
「俺が先陣を切らなければ,どうにもならないのだな」
「史実として武田家を撃退したぐらいでたいした能力も発揮しないまま村上家は滅亡しておりますので,武将の能力がクソなのは残念でもないし当然,いわば残当と申せましょう」
「若ハゲのくせに物言いがいちいちムカつくが,まあいい。凄く良く分かった。腹を括って我が力を見せてやろう」
「はい。ないものを残念がっても仕方がありません。殿が軍事を,私が内政外交を仕切る以外,序盤を勝ち抜く方法はございません。しかし,策はございます。前を向きましょう」

 義清は口を真一文字に結び,大きくうなずき,遠くの山々を眺めます。一陣の風が,山頂の雪を噴き上げ,陽光をキラキラと反射させていました。

「まずは,長尾家,武田家からは,戦を吹っ掛けられる可能性が大変高うございます。また,一朝事あれば,山内上杉家も敵方として村上領へ押し寄せるでしょう。進軍路を読み,施設を建設して備えとしたいと存じます」
「分かった。満親,良きに計らえ。頼りにしておるぞ」
「安んじて,お任せください。諸事ございますゆえ,ぜひとも冷静にご判断を」
「……おう」

 決意を固めた表情で,義清はその威風堂々たる身体を起こし,磨き上げた獲物を手に葛尾城を見晴らす山々を見据えていました。有利な状況が一つもないからこそ,知恵と結束で進んでいってみせる。国清の誕生は,武者だけではなく父親としての責任感をも義清に与えたかのようでした。

 満親は,畳にこすりつけんばかりに頭を下げます。

「殿。義清さま。どうか,どうかその槍で未来をお切り拓きください。そして,我らをお導きくださいませ……」



 三寒四温とは程遠い,冷たい雪の降る夕暮れ。迫る山に分厚い雪雲が覆いかぶさり,空を低くしていましたが,それでも熱いこの男は粉雪も逃げるように頭から湯気を出して怒鳴り散らしていました。

「なんじゃこりゃあああああ!!!」

 義清の怒号が,居城・葛尾城に響き渡ります。使用人も詰め番の武士も,ぎょっとした表情で荒れ狂う義清を視線の端に捕らえると,さも見なかったようにみなうつむいてしまいました。壁に投げつけられ割られる花瓶,真っ二つに折れた襖(ふすま),ビリビリに破壊された障子が,義清の怒りの強さを証明しているかのようです。

「殿,殿。如何されました」
「えっと,誰だよお前」
「殿! 満親でございます。イッツ ミ・ツ・チ・カ!」
「知っとるわ馬鹿! おい満親,これを見ろ!」

 義清が指さしたものを見て,満親は声にならない「あっ」という言葉を飲み込みます。その先には,小笠原家から寄せられた書状が打ち捨てられていました。

「督促状……殿,これはまさか」
「満親。見ろ。嫡男誕生で玉ノ井の実家たる小笠原家から祝いの書状でもやってくるかと思ったら,先日の災害で用立ててもらった借金を耳そろえて返せと言ってきやがった。おまけに花見で慎ましやかに催した宴会ですら割り勘分請求されとる。順席が逆だろうが! 嫁の実家とはいえ,正直許せん!」
「まあ,まあ。殿,どうか冷静に。カネを借りたのはこちらですし,先方にも事情がございましょう……」

 平服しつつも,懸命になだめる満親に向け,憤懣やるかたない義清は怒号を浴びせます。

「馬鹿野郎! だいたい小笠原家は打ちたてのそばをつけるタレにミョウガも入れない野暮の集まりじゃねえか。ちょっとカネがあるからっていい気になりやがって弱小勢力のくせに。あんな奴らは馬に蹴られてGo To Hellだ!」
「殿,義清さま,あまりそう仰られますと玉ノ井さまが悲しまれますよ」
「ええい,やかましい。ああ,カネが欲しい。カネが欲しい。カネが欲しい。こんな生活は嫌だ。貧乏はつらい。なぜこんな痩せた土地でわさび育てながら慎ましく暮らしていかねばならんのだ」
「はい… 当家は貧乏でございます」満親は,上目遣いでちらりと義清を見やります。「畏れながら,殿。なぜ小笠原家が当家と同じ僻地なのに富んでいるか,ご存知ですか」
「分からん! 奴らは何か危ないものでも売ってるの? それとも偽の100ドル札か? 儲かるなら俺もやりてえ」
「殿,そういうネタじみたことを仰るのはおやめください。実は,小笠原家の居城がございます深志城,そこには『特殊商圏』という儲けの大きい謎の商圏がございます。戦国時代の経済の何を表現したくてそんな仕様をこのゲームに入れたのか判断はつきませんが,あるものはあるのです」
「は? なんだそれは。意味分からん」

 満親は懐からiPhoneを取り出し,付近マップの詳細を見せながら,義清に説明を始めます。

「こちらが『特殊商圏』。ほっといても毎月500万円ぐらいの収入を生み出しますが,9000万円投資して独占すると,何と毎月3000万円もの収入が!」
「何それ。超儲かるじゃん。嫁の実家にそんな秘密が。なんかいちいち上から目線だし,金持ち風だったから小笠原家ムカつくなあって思ってたんだよね」
「はい。つまり,義清さま。深志城を我が村上家のものにできれば,この金欠はかなり解決……」
「ゴラァァァァーー!! この大馬鹿野郎!」
「わーーー!」

 義清は激怒し,満親を蹴飛ばします。

「玉ノ井の実家だぞ,小笠原家は! カネ欲しさに嫁の実家に押し込み強盗みたいなことをして何になる。だいたい玉ノ井が悲しむだろ! 口を慎めこの薄毛地味メン茶坊主選手権第一シード野郎が」

 不意に蹴飛ばされた満親は,蹴られて痛む肩を押さえながらむくりと起き出します。

「と,殿のお怒りもごもっともでございます」
「そうだろう,そうだろう,この俺に二万回謝れ」
「憚りながら,殿。義清さま。どうか冷静になってお聞きくだされ。どうか」
「なんだ! まだ言い足りぬことがあるのか。申してみよ。つまらなかったらその上唇と下唇を縫い合わせるぞ」
「怖れ入ります。我が村上家はクソ地に位置します。人の和こそ大事ですが,限界がございます。カネが,ないのです」
「確かに俺達は貧乏だ。今日も,朝コンビニ弁当,昼コンビニ弁当,夜コンビニ弁当だ。だが,うまい!」
「殿。コンビニ弁当の味の優劣は差し措くとしまして,この村上が地を,武田家も長尾家も山内上杉家もガチで狙っております。さらに,相手のほうが戦力では数倍上です」
「……そうだな」

 宿敵・武田家の名前を聞き,義清の怒りは現実の悩みの前にすっと鎮まっていきます。小さなことで気を乱されていてはいけない。槍に生きる男特有の,勝負勘こそが義清の持ち味でありました。

「石高も少なく,農民もすぐには増やせない。なので,農家から狩り出して戦力とする『農兵』を増やすことすら,簡単ではございませぬ」満親は,決死の覚悟で義清を説得します。「カネがあれば,その辺をウロウロして流民となっているニートをあつめて,『農兵』より強い『足軽』を雇えます。ニートにカネを払って槍や鉄パイプを持たせれば,鍬や鋤持った『農兵』よりも良く戦いまする。なんせ正規雇用ですんで」
「メンツよりカネが大事だ,と」
「左様にございます……ご実家・小笠原家を蔑むつもりもございませんが,武田家の機嫌によっては我が村上家よりも先に小笠原家が武田家の侵攻先となります。光の速さで小笠原家は滅ぶでしょう。その村上家は,小笠原家に援軍を出せますか。出したとして,勝てると思いますか」

 義清は大きな身体で大きなため息をついて,眦(まなじり)を閉じます。弱小勢力はつらい。貧乏はつらい。「志」たる家名存続のためには,村上家を包み込むように存在する敵大名に対抗できる「何か」が必要なのです。


「冷静に,お考えください。我が村上家は,殿の優れた武勇のほかに,何も恃(たの)むものがございません。残念ながら,それが現実でございます。その殿の力量を活かすには兵力が,そして,その兵力を養えるだけのカネが要るのです。どうしても」
「……そうか。そうだな。まずは何より,貧乏からの脱却だ。俺が動かずとも,小笠原家は武田家の前に滅ぶかもしれないと」
「御意。信濃のその他地域におります木曾家,小笠原家はいずれも当家にも劣る弱小勢力,そう遠からぬ先に武田家の門前に馬を繋ぐことになりましょう」

 満親は,ずい,と顔を寄せます。義清もまた,真剣に献策する満親を,真正面から見据えます。

「殿。義清さま。奥方・玉ノ井さまや,ご息女,ご子息・国清さまに対する殿の深い深い愛情は家臣一同よくよく承知しております。しかしながら,史実はさておきゲーム上では当家と小笠原家の間柄は婚姻関係でも同盟関係でもございませぬ。されば,遠慮は無用。我ら村上家は,カネを稼ぎ,何としても生き残らなければなりません」

 時が止まったかのような,静寂。見守る兵士や家中の者も,固唾を飲んで義清の口元を見守ります。内に閉じこもり耐え忍ぶ村上家であるべきか,家の存続と発展のために打って出る村上家を目指すのか。義清にとって,未来を決める決断が,いま求められているのです。

「ぬふ,ふふふふ……はーっはっはっは!!」不意に,義清は哄笑(こうしょう)し始めます。不審に思う臣下達の視線も気にせず,吹っ切れたかのように。「だーっはっはっはっは,よし! 俺はやるぞ!」
「……殿!?」
「満親,さっきは蹴ってごめん。お前のほうがちょっぴり正しかった気がする。これから小笠原家に宣戦布告だ!! 檄文を打ち込んでこい,ぶん殴りに行くぞ」
「かしこまりました!」
「お前ら! 戦の準備だ!!」

嫁の実家・小笠原家に遊ぶカネ欲しさに戦争を吹っ掛ける村上一家。ゲーム中はなぜか小笠原家と村上家に婚姻関係がありませんが,戦争するにはカネが要るんすよ大将
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 義清のひときわ大きな声が山々にこだまして葛尾城に響き渡り,城にいる誰もが顔を上げます。様子を見ていた家臣団も,色めき立ちます。ついに村上ちゃん一家が攻勢に出るときが来た!

「家臣どもを呼べ,馬を出せ。さあ,俺について来やがれ!」
「ははっ」

 頭を深々と下げた満親の表情を,義清にはうかがい知ることができませんでした。
 「あらパパ! 何。どうしたの。今度はどこに行くつもり?」

「あっ,月。聞け,俺はこれから男になりに行くのだ!!」
「え? パパが男に? マジ意味分かんない」
「これから大金が手に入るんだよ!」唖然とした表情の月姫に,誇らしげな義清は言い放ちます。「俺は歴史を作るんだ」
「またパパったら商人に騙されて! 値上がり確実って言われた壺も掛け軸も押し入れでホコリ被ったままでしょ。マルチも未公開株も仮想通貨ももうこりごり。うちにはおカネがないのよ! ママがまた泣くじゃない。やめてよ」
「待て,月。これには深い訳があるのだ。話を聞……」

 義清の話を最後まで聞く間もなく,月姫は素早くトップロープへ駆け上がり,ヒラリと身をかわしたかと思うと高い角度から鋭いスピンのドロップキックを義清の厚い胸板に打ち込みます。

「わーーーっ!」

 ドガッ。床板に大きな音を響かせてもんどり打って倒れる義清に追撃の蹴りを打ち込もうとする月姫。しかし経験で勝る義清は素早く半身を起こしてグローブのような左の手のひらで月姫のつま先を受けます。一瞬,見つめ合う父娘。

「もうこれ以上ママを泣かせたら,あたしは許さない!」
「分かった分かった! 分かってるよ! それにしても,そのしっかりぶりも蹴りの鋭さも,玉ノ井にウリ二つだな」月姫の足をリリースした手で頭を掻く義清に,憤懣やるかたない月姫はプイと横を向いてしまいます。
「どうせまたあの満親とかいうイエスマンにたぶらかされてるんでしょ」
「大丈夫だよ。今度こそ,ちゃんと上手くやるからよ。そしたらまた旨いもの食わせてやる! 待ってろよ」
「いつもそう言って失敗しておカネをスッてばかりじゃない! パパのことなんかもう知らない。勝手にやれば?」
「あ,待って待って」月姫の後ろ姿に,慌てて義清は声を掛けます。「この話,玉ノ井(ママ)には内緒ね。頼む!」


 突然,小笠原家当主・小笠原長時宛てに驚愕の果たし状が撃ち込まれたのは,プレイ開始からゲーム内の時間でわずか1か月余りしか経過していない,そのときでした。

「我ら村上家の病的な宿敵・小笠原長時と付き従う匪賊の輩に告ぐ。我らの親愛なる指導者村上義清の,その天才的な軍事的手腕を天下に知らしめるべきときが来た。村上家同胞一同に対する小笠原の卑劣な迫害策動に終止符を打つため,千年来の敵である小笠原家に向けて我らが村上家の憎悪の念と無慈悲な報復の決意を固め,いままさに決戦の時を迎えた。ついては深志城体育館裏にて,かの地を悪辣な小笠原家の墓標とするべく合戦を所望する。

村上義清家臣団一同」

 電光石火。葛尾城から出陣した村上義清以下1600騎を主力とした総勢5000余りの軍勢が,猛然と山を越え小笠原領に迫り,容赦なく小笠原勢の籠る深志城を取り囲みます。その陣容を見て慌てた小笠原家の調停交渉は義清によって言下に破り捨てられ,選択の余地がなくなった小笠原家は深志城から総勢2000弱で打って出てきました。

 合戦の火ぶたが切られます。準備万端,決死の表情で迫り来る小笠原勢を迎え撃つ義清。この合戦は本作品のもっともアレなところであり,時間がかかる割りにだいたい勝敗は始まったときに見えているため,当AARでは合戦はAI任せにして全部省略しているのでご了承ください。きっと,村上義清を筆頭に小笠原勢をコテンパンにして戦勝したのでしょう。そう多くの損害も出さずに深志城を村上勢は取り囲みます。勢いに乗る,村上勢。

嫁の実家からガードマンが出てきたけど実力で排除。ちょっと併合しようってだけなのに大人げない。ちゃんと100年ぐらいかけて借りたカネは返すからさあ。なお,本作品は合戦が理不尽に感じるのですべてスキップしています。というかスキップを強く推奨
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「はっはっは。行けい行けい」
「殿! 殿! 急報にございます!」
「あれ,誰だっけな……,待て,言うな。確か,お前は満親」
「はい……。満親にございます」
「なんか用か。もうすぐ城は落ちるぞ」
「申し上げます,武田晴信が我ら村上領を狙って軍を起こすようです!」
「な,なんだと!!」

 鎧兜に身を包んだ義清は,怒りのあまり満親を蹴飛ばします。

「わーーーーっ!」
「おのれ晴信め,我が軍が出払っているところを狙おうという魂胆か。泥棒猫みたいな真似をしおって」
「また,越後の長尾晴景も動きが不穏です。葛尾城を狙い,動員がかかるとの由!」
「ぐぬぬ,あと一歩のところで……」
「殿,どうされますか。深志城の包囲を解いて対武田戦の準備をされますか」
「……賭けだな」

ファッ!? 武田晴信が攻め込んできそうだと?? 小笠原家攻略に時間をかけている余裕はない,いますぐ嫁の実家の金庫を開けろ!
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 小笠原家が誇る名城・深志城を見上げる義清を見ながら,満親は反応を待ちます。

「無理攻めせず,このまま囲んで落城を待て。二月もすれば城は落ちよう。武田晴信も収穫を前に農兵を繰り出すことはするまい」義清は,つとめて冷静に満親に応じました。「焦って下手に攻めて兵が死んでは本人も家族も報われない。秋前に戦を終わらせ,帰路に就くぞ。そのつもりでおれ」
「ははっ」

 鎧兜に身を包んだ満親が一礼をして去ると,義清は独り言にもならないほどの小さな呟きを吐き出しました。

「武田,長尾,上杉。強敵とはいえ負ける気はないが勝ち切れぬ。弱小を飲み込んで,少しでも太らねば我らは死ぬ…… 力が欲しい。力が」

 嫁の実家を攻め滅ぼすことを正当化するように,何度も何度も念仏のように義清は繰り返していました。見下ろすようにそびえる山々に吹く冷たい風が,悩み抜く義清のひげを揺らしていました。

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