インタビュー
「アリス・ギア・アイギス」サントラCD発売記念インタビュー。ゲームサウンド作りのこだわりを,ZUNTATAメンバーとピラミッド柏木氏に聞く
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スマホで“本気のアクション”を提案したかった
本日はよろしくお願いします。まずは自己紹介からお願いします。
柏木准一氏(以下,柏木氏):
ピラミッドの柏木です。アリス・ギア・アイギスのプロデューサーと開発ディレクターをしています。
石川勝久(ばびー)氏(以下,石川氏):
タイトーサウンドチーム「ZUNTATA」の石川です。サウンドディレクターと効果音を担当しています。
MASAKI氏:
MASAKIです。第4章からのバトル曲などを担当しています。
下田 祐氏(以下,下田氏):
下田といいます。主にイベントの追加曲を担当させてもらっています。
土屋昇平氏(以下,土屋氏):
土屋です。初期のイベントパートの楽曲を担当していました。
COSIO氏:
元ZUNTATAで,今はフリーのサウンドデザイナーをしているCOSIOといいます。アリスギアでは,ホーム画面やバトル曲のデザインをしていました。
4Gamer:
本作は,サウンド面だけでもかなりの人数が関わっているんですね。サービス開始から約7か月(※)が経っていますが,現在の心境はいかがでしょうか。
※本インタビューは8月20日に収録をしている。
柏木氏:
最近のスマホゲームは,リリースしても注目されないタイトルなどもありますが,アリスギアに関しては,この7か月でなんとか立ち位置を確立できた手応えがあります。キャラクターの可愛らしさや,音楽へのこだわりは認知され始めたところではないかと感じており,今後も丁寧な展開をしていければと思いますね。ただ,スマートフォンでアクション性を真面目に追求しているゲームとしては,まだまだ認知されていないとも感じています。スマホゲームとしては振り切ったアクション性を持ったタイトルではあるんですが,それがまだまだ伝わっていない印象です。
4Gamer:
確かに,アリスギアといえば美少女ゲームと認識されている部分もあると思います。では,どのあたりが“振り切った”部分なのでしょうか。
家庭用ゲームを遊んでいた人であれば,当然と感じられるアクション性とゲーム性。コントローラーが無い事で捨てられてしまったものを,スマートフォンの操作に合わせて実装しているところです。3D空間内において敵の攻撃を回避し,懐に入っての近接攻撃ではモーションキャンセルを駆使しての連続攻撃や固有の派生技を繰り出し,距離が離れての射撃は,立ち,前ダッシュ,横ダッシュなどの状態で弾数弾速グラフィックが武器種事に異なるったり,家庭用のアクションゲームであれば普通だったアクションを指一本で操作できます。家庭用ゲームで開発してきた開発メンバーが,スマートフォンに最適なアクションゲームを実現させているということですね。こうしたゲーム性へのこだわりは,スマホゲームにおいて“余計なモノ”なのかも知れませんが,1つくらいはこういう作品があってもいいんじゃないかと思っています。
4Gamer:
操作系はかなり洗練されていますよね。違和感なく片手でバリバリと戦えます。
柏木氏:
初心者の方でも遊びやすくするために,「エネルギースナイパー」という便利な武器を入れたんですが,皆さん,なかなかそこから先に進んでくれません(笑)。
4Gamer:
なるほど。手軽に遊ぶスマホゲームであるがゆえに,お手軽な武器の先にある奥深さに気づいてもらえないんですね。
スマホゲームの常識を越えた
カロリーを費やして大量の曲ができた
4Gamer:
サウンドをZUNTATAに依頼された経緯について教えてください。
アリスギアは今まで一緒にお仕事をさせていただいた中で,噛み合わせの良い方ともう一度組みたいと思いまして,依頼を出しました。
4Gamer:
白羽の矢が立ったのが,サウンドのZUNTATA,そしてメカデザインの島田フミカネ氏だったんですね。
柏木氏:
アリスギアのジャンル分類はアクションシューティングですが,“シューティング”という言葉がついたゲームに一番合う音楽と効果音を作ってくれるのは,ZUNTATAさんだと思ったんです。僕はやはり,タイトーさんのゲームやZUNTATAさんのファンなので。
4Gamer:
サウンドにZUNTATAが参加しているということで,やはりユーザーから反応はありましたか?
柏木氏:
非常に大きな反応がありましたね。まさに“ゲーマーほいほい”と言う感じでした。
4Gamer:
ZUNTATAとしては,スマホゲームのサウンドを手がけて層が広がったという実感はありますか?
ありますね。CDの発売を記念して,我々が過去に作ったゲームの曲がBGMとして流れる「ZUNTATA任務」というゲーム内イベントが行われましたが,このイベントを通じてZUNTATAの存在を知ったというお声も少なからずありました。イベントでも,若い層にアピールできているという手応えを感じますね。
4Gamer:
では,ZUNTATAに楽曲をオファーする際にはどんな注文を出されましたか?
柏木氏:
シューティングゲーム(STG)に勢いがあり,良い作品が生まれた1980年代後半から1990年代のテイストを少し混ぜてほしい,とお願いしました。
石川氏:
ここ数年のZUNTATAは外部の仕事を積極的に受けていますので,柏木さんからお話をいただいたときもすぐにOKしましたね。ただ,こんなにたくさんの音楽や効果音のあるビッグタイトルになるとは思っていませんでした(笑)。
一般的なスマホゲームの曲数よりもずっと多くて,ちょっとした家庭用ゲーム並みのカロリーを費やして曲を作っています。最初は土屋と僕だけで曲を作っていたんですけど,途中からは人手が足りなくなり,元ZUNTATAのCOSIOに声をかけて,MASAKIや下田にも入ってもらい……と,最終的には新旧ZUNTATAメンバーが集まった形になりました。
4Gamer:
曲数の多さは遊んでいても感じられるところですね。例えばガチャ一つとっても,印象に残りやすい曲が使われていますし。
その画面はユーザーさんに明るく楽しくキャラクターをプレゼンする場だと考えているので,背景も毎回違ったものを用意しています。音楽の話からは離れてしまうんですが,アリスギアでは例えばプッシュ通知一つ取ってもかなりの労力をかけています。「大関(小結)」さんという,ちょっとふくよかな女性キャラが初めてスカウトに登場する時のプッシュ通知は「どすこい!」で,ギャルゲーではありえない文言が使われていますし,キャバクラがテーマになったイベントのときは,キャバクラのキャストさんがお客に書くような「お店に来てくださいね」といった内容になっています。「酒を飲みながら原稿を書いているんじゃないか」と言われたりもしましたが,実際には1つのプッシュ通知を作るために20ものメッセージを書き,そこから厳選しているんです。
4Gamer:
プッシュ通知は切る人が多いのに,それもゲーム世界を構成する要素であると考えているわけですね。では,多くの曲数を投入しようと思った理由は何でしょうか。
柏木氏:
アクションシューティングというものをちゃんと作り,シーンに合った最適な曲を提供するのであれば,それくらいの分量が必要ではないかと思ったからです。スマートフォンでゲームをする方は,そもそも音楽を聞かれないことが多いんですが,それを理解したうえで音楽を聴かせてやろう,というくらいの意気込みがありました。
4Gamer:
音楽という観点から見たゲーム性重視の姿勢が現れています。
柏木氏:
スマホゲームではありえないくらいのカロリーを費やしていますね(笑)。
石川氏:
ピラミッドさんはサウンドについてのこだわりも凄いですね。僕もタイトーに入って長いんですが,効果音の一つ一つにここまでこだわりを持って指定してきた方は初めてです。「冒頭のゼロコンマ数秒のところにある金属音が少し違うんじゃないか」「この効果音は,ゼロコンマ何秒の音の伸びが良くないんじゃないか」といった具合ですよ。数百個ある各効果音に数回のリテイクが出ていますから,実際に世に出たものの3〜4倍は作ったことになります。やりがいはありましたが,大変でした(笑)。
個人的には「調査任務」でヘックスをクリックした際の「カキーン!」という,抜けるような効果音が印象に残っているのですが,ああした音はかなりのこだわりと苦労があって生まれたわけですね。スマホゲームでは,ユーザーがダウンロードする容量を減らすため,音質を犠牲にするという例も聞かれますが,アリスギアでは,このあたりはどうなりましたか?
COSIO氏:
曲作りに影響はなかったですね。ただ,スマートフォンだとイヤフォンで聴く場合とスピーカーを使って聴く場合があるので,どちらの環境で聞いてもイメージが変わらないように注意しました。僕の曲は低音が強いので,スピーカーだとイメージどおりに鳴らないというパターンが何度かあり,アリスギアのBGMではとくにそのあたりに気を使って調整しています。
石川氏:
オーディオミドルウェアで段階的に容量を落とすようなことはしていますね。ボイスもサウンドも豊富にあるうえ,バージョンアップごとに増えていっていますから,こうした措置をしないとキツイところがあります。
柏木氏:
ええ,容量はそろそろやばい感じです(笑)。
苦悩の末に生まれたサウンドの仕上がり具合
4Gamer:
アリスギアのサウンドにおけるキーワードはどういったものでしょうか。
僕の世代が大好きなシューティングを思わせる曲調でありつつ,レトロ調を狙っているわけではない……といったところでしょうか。最初のうちは,僕やコンポーザー達,そして柏木さんらの考えていることがうまくマッチングしなくて苦労しました。
4Gamer:
懐かしいテイストがありつつ,レトロではない。相反するような要素を同時に満たすのは確かに大変だと思います。
石川氏:
試行錯誤を繰り返す中で,大切なのは“シンプルだけれど,何か訴えてくるメロディー”だということが分かってきました。ただ,ここに新しさをちゃんと含めていかないと,単に懐かしいだけになってしまう。“おじさんの懐かしい音楽”には,したくなかったんです。最終的に,COSIOのバトル曲は宇宙らしくシンセサイザー中心でテンポの速いものに,そして土屋のイベント曲は生音が中心で地に足が着いたものになりました。
4Gamer:
懐古で終わらせず,新しいモノを取り入れていくというのは大事ですよね。
シューティングということで,タイトーにいた頃のようにシリアスで暗めなテイストの曲を作ったら,柏木さんから「そうじゃないんだ。暗いところは全部カットして明るめにしてほしい」といった指示をいただきました。結果,シューティングとしては明るめな曲になっていますね。曲の大部分はメジャーコードですし,マイナーコードもそのまま使うのではなく,テンションを入れてマイナー感を薄めていたりもしています。
石川氏:
開発中は明るさと暗さのさじ加減にすごく迷いました。以前,柏木さんと一緒にお仕事をした「ダライアスバースト」のように,暗めでシリアスなものを求めておられるわけでもないし,可愛らしいキャラクターに寄せたポップなものでもないらしい。コンポーザーも悩んだと思いますし,僕もどうディレクションしたものかと悩みました。
「ダライアスバースト」(タイトー)
2009年に発売されたPSP用シューティングゲーム。1986年の名作「ダライアス」の正統続編で,開発はピラミッド,サウンドはZUNTATA,キャラデザインは島田フミカネ氏。つまり「アリス・ギア・アイギス」はダライアスバーストトリオによる新作ともいえる。
柏木氏:
逆に,石川さんから曲の幅についてアドバイスをいただくこともありました。上がってきたボスの曲がちょっと重い感じだったので,明るめにしてもらおうと思ったら「いや,ゲームの幅としてこうした曲も絶対に必要です。まずはゲームに組み込んでみてください」と言われたんです。
4Gamer:
実際にゲームの中で流してみていかがでしたか?
柏木氏:
なるほど,そのとおりだと腑に落ちましたね。女の子が戦うゲームだけれど,敵は「ヴァイス」というゲーム的にシッカリとした存在ですから,暗めの曲もマッチしました。この出来事があってからは,曲のイメージに幅を持たせることを意識するようになりました。
COSIO氏:
今回結果としてBGMの役割的には,ダライアスバーストの時とは逆転したんですが,うまくいきましたね。
石川氏:
この組み合わせになるまでは,現場でも混乱したところがありました。役割を逆転したところに来たのが「Silver Sky」です。
COSIO氏:
石川さんからは「これだよ!」という熱いメールが来たので,これで良かったんだなと(笑)。
4Gamer:
転機になった曲というわけですね。
しかし,確かにアリスギアの世界設定はかなりシリアスですよね。人類が滅びかけて宇宙船で脱出し,その中には昔の日本を再現した環境がある……というのはハードSF的というか,一連のタイトー滅亡ものシューティングの香りがします。
タイトー滅亡ものシューティング
タイトーのシューティングには地球や文明が滅亡するものが多い。滅亡した文明から最後の希望である男女が脱出する「ダライアス」,1面で壊滅した都市を飛び,エンディングでは地球が真っ二つになる「メタルブラック」,やはりエンディングで地球が滅ぶ「レイクライシス」,敵を撃ち漏らすと惑星が滅ぶ「ハレーズコメット」など,枚挙に暇がない。
石川氏:
それでいてキャラクターデザインがポップですから,最初のうちはどこに着地するのかが分からなかったんです。開発中に参考にできたものは,キャラクターの設定と断片的に遊べるバトルぐらいしかありませんでしたから。
4Gamer:
では,音作りにおいてキャラクターを意識したところはありますか?
バトル曲について,キャラクターをイメージしたところはとくにないです。ただ,イベント曲はキャラクターに寄せたものがあります。例えば,ゾウのお面を被った謎の歌い手「ぞーさん」の曲なんかがそれですね。
MASAKI氏:
ぞーさんは普段おちゃらけた感じですけど,心には繊細なものを抱えています。また,恥ずかしくて内面をオープンにすることもできないから,お面で顔を隠して歌い手をしている。そうした状況で心に染みるメロディとはどんなものなのだろう……と,デスクトップに置いたぞーさんの画像を見ながら曲を作っていました。
あと,下田には“大迷惑ハリケーンラッパー”こと,藤野やよいの曲を作ってもらいました。
下田氏:
企画資料に「狂った文学少女」と書いてあったので,この際立ったキャラクターをどうやって音楽で盛り上げようか……と気合いが入りました。シナリオの中でラップの解説をするところも本格的で「シナリオライターさんはラップのことを分かっているな」という声も届き,感動しました。作品を通した無言の通じ合いがありましたね。
ヒップホップは自分の内面の悩みなどをMCで語っていく文化なので,2段階に曲を分けることにしたんです。そのうえで本場のギャングスタ的な雰囲気や音色を取り入れてみたんですけど,ゲーム内で見ると,思ったよりもコミカルなキャラクターになっていましたね。
柏木氏:
どの曲も本格的に作っていただいていますね。キャバクライベントの曲などは「これって本当にウチのゲームの曲だったっけ?」と思うことがありますし,ラップも本物ですし。
キャラクターのエピソードやシナリオの曲は,ほとんど土屋さんなので,ユーザーさんがアリスギアから受けるイメージを想像するにあたっての役割は,すごく大きいんじゃないかと思います。キャラクターの感情の機微まで表現できる曲数ですし,そうした細やかなところも表現できている曲ですね。
下田氏:
私は途中参加でイベントの追加曲を書かせていただいたんですが,キャラクター設定を見ると明るいところだけでなく暗い部分もあったので,音色をCOSIOさんに合わせつつ,既存曲よりもコミカルだったり,暗い感じだったりする曲を作りました。こうした幅がないと,かかる曲が同じようなものばかりになってしまいますから。
COSIO氏:
僕はバトル曲ばかりをずっと作ってきたので,最後のほうはどうしようかと苦労しましたね。そこでギターの音を入れようということになり,高田馬場のゲームセンター「ミカド」の店長,イケダミノロックさんにご協力いただきました。シューティングにギターという方程式では,イケダミノロックさんという解が導かれるのは自明ですから(笑)。そうした中で,芯のあるテーマ曲的なものを作ろうということになり,「Over the Future」が生まれました。こちらはアレンジされてメインテーマになりました。メインテーマにアレンジされる前の楽曲はチュートリアルで流れてますね。
“ZUNTATAらしさ”とは何だろう?
4Gamer:
スマホゲームでは,リアルタイムにユーザーからの反響が届きやすいですが,曲作りで影響を受けたところはありますか?
MASAKI氏:
Twitterなどを見ると,中高生の方も多いようなので,そうした層に刺さる曲を意識しつつ,あとは柏木先生のリクエストに応えるべく全力を尽くす感じです(笑)。例えば,今の若い人たちはボカロの曲を聴いていることが多くて,コンプ(レッサー)が効いてバチバチしていたりとか,シンセサイザーの音も,昔の音色はなるべく使わないようにしています。
下田氏:
イベントのたびに,ユーザーさんの反応は必ずチェックしていますよ。「リンちゃん探検隊」というイベントでは,お笑い系の内容と曲が噛み合っていて,作っていて良かったなと思いました。サウンドクリエイター冥利に尽きます。
4Gamer:
確かにあのイベントは強烈でしたね。美少女たちが密林を探検して妖しげな怪物と戦い,その様子をビデオテープに録画する。2018年のスマホゲームに「川口浩探検隊」モチーフのイベントがあるとは思いませんでした。曲の発注時にはどんな指定がありましたか?
川口浩探検隊
1977年から放映された「水曜スペシャル」のシリーズ。川口浩氏が率いる探検隊が秘境へ赴き,猛獣や怪物に遭遇する。過剰な演出や,数々の新発見をしたにも関わらず学会に発表しないといった姿勢から,内容の信憑性に疑問が持たれていたが,1985年にやらせが発覚。「怪しげなやらせ企画」のアイコンと化し,パロディの題材とされる一方,こうした背景を理解したうえで独特のテイストを愛する人も多い。
下田氏:
映画「S.W.A.T.」のBGMという感じでしたね。ここに川口浩探検隊や「ロッキー」のテーマ,嘉門タツオさんの曲のイントロに入るブラスといったテイストを加え,70年代ディスコ風にしました。イベントの評判も良かったので,アルバム用にはギターを新たに加えるなどお金のかかったアレンジにしました。ゲーム中のものと聴き比べていただけると嬉しいですね。今後もどんな面白いイベントが来るのかを楽しみにしています(笑)。
嘉門タツオ
コミックソングの大家。ヤンキーあるあるを歌う「ヤンキーの兄ちゃんのうた」や,川口浩探検隊の怪しげな演出をコミカルに指摘する「ゆけ!ゆけ!川口浩!!」が有名。
柏木氏:
イベントの開発チームも,またあの曲を使いたいと言ってましたね。ここまでいろいろなシーンにフィットされた曲を作っていただくと,もっともっとこうした曲が欲しくなります。人間は贅沢を覚えると元に戻れない(笑)。
石川氏:
それなら,もう少し早く発注してください(笑)。
4Gamer:
曲数が多いがゆえの苦労ですね。もう一つ,スマホゲームならではの特性について聞かせてください。
家庭用ゲームでは1面の次に2面,その次に3面……というように曲がかかる順番も決まっていて,これに合わせてユーザーのテンションを計算できると思います。ダライアスバーストではこの性質をうまく使い,プレイの最初から最後までが一連の組曲になっている「組曲 光導」のような取り組みもされていますよね。
しかし,スマホゲームではアップデートで新ステージやイベントが入るので,曲がかかる順番も不定ですから,家庭用ゲームのようにユーザーの気持ちを計算しきれないところがあると思います。
COSIO氏:
確かに,ダライアスバーストではステージごとに気持ちを操作したりもしていました。しかし,アリスギアは面のすべてが並列に存在していますから,あえて曲自体にストーリー性をつけていないところがあります。曲ごとにイメージの振り幅はあるけれど,どこから聞いてもいい作りになっていますね。
4Gamer:
プラットフォームの特性が曲作りに影響を与えているわけですね。
ところで,ZUNTATA任務は非常に面白い試みですが,やろうと思われたきっかけは?
柏木氏:
皆さんのお手元に,大切な宝物としてZUNTATAの名曲を届けたかった……という想いがあります。アリスギアのCDが発売される前にZUNTATAの歴史というものを知っていただきたかったんです。
4Gamer:
選曲の基準はどういったものですか?
柏木氏:
配信などで手に入る曲の中で,メジャーなものと,マニアの人でも忘れてしまったものを取り上げています。
4Gamer:
確かに,名曲連発という感じでしたね。中には非常に出回りが少ない「ヴァーテクサー」の曲もあってビックリしました。
「ヴァーテクサー」(タイトー)
1993年のアーケード用SFレースゲーム。可動筐体に乗り込んで遊ぶ作品で,宇宙から惑星,海中とダイナミックにステージが展開する。出回りが非常に少なかったが,現在はiTunesで楽曲が配信されている。
柏木氏:
最初の「ギャラクティックストーム」は最高の曲が入ったゲームだと思っているんですけれど,あまり知られていないみたいで(笑)。また,「サイバリオン」はシステムがあまりに独特すぎるせいか,ほとんど移植されていないので,現世代に復活する助けになれば……ということでZUNTATA任務に選びました。
「サイバリオン」(タイトー)
1988年のアーケード用アクションゲーム。東洋風のメカドラゴンをトラックボールで操作する。遊ぶたびにステージ構成とボスの攻撃,そして物語が変化するローグライクゲーム的な特徴がある。現行環境に移植作がない。
「ギャラクティックストーム」(タイトー)
1992年のアーケード用3Dシューティング。コクピット風筐体でプレイする。ブラックホールに吸い込まれ,見捨てられた実験機のパイロットが最終ボスというハードな展開。
石川氏:
昔のタイトーゲームに対する柏木さんの愛が,もうものすごくて(笑)。最初はバックに昔の曲が流れるだけかと思ったら,敵の出現パターンなんかも原作をできるだけ再現していて驚きましたね。
ダライアスバーストの回で「Good-bye my earth」がかかったときは悲壮感がすごくて,まさに音楽の魔力だと思いました。ボスも海洋生物が出てくる原作を踏襲して,ウミヘビっぽい「サーペント」でしたしね。
柏木氏:
原作再現については,バトル班の若いプランナーが調べながら作ってくれていますね。「柏木さん,調べてみて分かったんですけど,MTJさんって凄かったんですね!」って驚いていて。いい刺激になったんじゃないでしょうか。
MTJさん
元タイトーのゲームデザイナー,三辻富貴郎氏がゲーム内で使っていたペンネーム。「バブルボブル」「レインボーアイランド」「サイバリオン」といった斬新な作品を手がけた。
4Gamer:
昔の作品へのリスペクトを深めることで,これから作るものの質が上がるようなことがあったりするんでしょうか。
柏木氏:
それは絶対にあると思います。とくに「レイフォース」「レイストーム」「レイクライシス」はスマートフォン版があるので,ぜひアリスギアと一緒に遊んでいただければと思います。やはり,シューティングの原点はああしたゲームにあると思いますし,ポリゴンシューティングの基礎はレイストームが確立したようなものです。ゲームを作る人にとって,とても大切なタイトルですし,知らないのはもったいないです。
「レイフォース」「レイストーム」「レイクライシス」(タイトー)
それぞれ1994年,1996年,1998年に発表された縦スクロールシューティングゲーム。敵を自動追尾する光線「ロックオンレーザー」と映画的な展開が強い印象を残した。
4Gamer:
ちなみに,反響が大きかった回はどれですか?
柏木氏:
バトル班が頑張って原作再現してくれた「レイストーム」ですね。あと「メタルブラック」では,背景の猫や特殊演出が作れないのに「time」を使っていいのかどうかすごく悩みました。最初は「Dual Moon」だけだったんですけれど,曲がループしないので苦渋の決断でtimeを使わせていただくことになったんです。
「メタルブラック」(タイトー)
1991年のアーケード横スクロールシューティングゲーム。滅亡寸前まで追い詰められた人類が,謎の侵略者とかりそめの停戦協定を結ぶ中,反逆者である主人公は新兵器「ブラックフライ」を強奪して孤独な戦いに挑む。月が割れてボスが登場する,背景にオッドアイの猫が出現するなど,幻想的な演出が話題になった。
4Gamer:
リスペクトがあるがゆえの苦悩ですね。
石川氏:
ZUNTATA任務(※)の最後では,過去の名曲だけでなく,新曲を前倒しで発表します。
※本イベントはすでに終了している。
「VALKYRIE」ですね。アクトレスたちが遠い未来に神話として語り継がれるようなイメージで作った,ちょっと壮大な曲です。エスニックな楽器を使ったり,これまでとはアプローチの異なるバトル曲になっています。CDにも収録されていますので,楽しみにしていてください。
4Gamer:
テーマが神話と言うのはZUNTATAらしい感じがしますね。……これはちょっと聞きづらいんですが,アリスギアのサウンドについて「ZUNTATAらしくないんじゃないか」と言う声が聞かれたりもします。これはあえてZUNTATAらしさを抑えたようなところがあるからなのでしょうか。
石川氏:
そもそも“ZUNTATAらしさ”とは何でしょうか? と思います。それぞれの作曲者の持ち味は確かに存在していますが,以前から言い続けているように“ZUNTATAらしさ”というものは,とくに作曲者たちも意識していないと思うんですよ。ゲームに合っていて,それでいて自分の個性を出しつつ,ゲームがより輝くような曲を作っている。こうした曲を皆さんが受け取られて,そこから生まれた物差しに照らし合わせてZUNTATAらしい/ZUNTATAらしくないという感想を抱いているのだと思います。
4Gamer:
ゲームを彩るBGMであることが最優先であるというわけですね。
石川氏:
ZUNTATAが活動し続けて今年で31年になりますが,皆さんがZUNTATAを知った作品はそれぞれ違います。シューティングの「ダライアス」,3D格闘アクションの「サイキックフォース」シリーズ,電車の運転をシミュレートした「電車でGO!」シリーズ,音楽ゲームの「グルーヴコースター」……ジャンルも内容もさまざまで,つまり“ZUNTATAらしさ”の物差しは世代によって異なっていて,人によって千差万別だと思うんです。
「グルーヴコースター」(タイトー)
2011年に初代作が発表された音楽ゲーム。スマートフォンやアーケード,PCといったさまざまな機種で遊べる。
「サイキックフォース」シリーズ(タイトー)
1996年から展開した,アーケード3D格闘ゲームのシリーズ。超能力者が結界の中を飛び回りつつ戦う。発射方向を制御できる飛び道具や,自己強化,設置技などユニークな必殺技が特徴で,対戦ツールとして高い評価を受ける。
4Gamer:
スマホゲームだから,美少女がいるからと,意図的に“ZUNTATAらしさ”を薄めているわけではないということですね。
石川氏:
アリスギアサウンドがZUNTATAブランドであることは間違いないですけどね。
COSIO氏:
僕も曲を作っているときに“ZUNTATAらしさ”を意識したことは一度もないですね。僕がタイトーにいた頃のシューティングはシリアスなものが多かったですが,今の僕がバトル曲を作ると明るいものになる。昔のタイトーシューティングと比べてテイストが違うと言われれば,そのとおりですし,明るい音楽のシューティングがあってもいいんじゃないかと思います。
石川氏:
アリスギアがシリアス一辺倒なゲームであれば,多くの方が思われるところのZUNTATAらしさが出たのかもしれませんが,今回の物語はそうしたところに重きを置いていないものですし。ZUNTATAらしさとは常に移ろいやすいものなのだということですね。小倉久佳さんが曲を書けば,多くの方が考えるZUNTATAらしい曲になるのかも知れませんが,それはZUNTATAらしさというよりも小倉さんらしさだと思いますね。
小倉久佳氏
かつてZUNTATAに所属,「OGR」のペンネームで多数の楽曲を生み出したことに加え,ZUNTATAというサウンドグループのブランディングに尽力した。現在は「小倉久佳音画制作所」としてフリーで活躍。
4Gamer:
確かに,ZUNTATAの活動を振り返ってみると,多様性のあるグループであると思います。電車でGO!ではコミカルな歌も歌っていますし,昔に出たCD「TAITO DJ STATION」ではブラックなテイストのラジオドラマが入っていたりもする。
「電車でGO!」(タイトー)
1996年から現在も続く,アーケード用電車運転シミュレータ。電車の運転台を模した筐体でダイヤ通りに電車を運行する。プレイステーション版テレビCMソング「電車で電車でGO!GO!GO!」では石川氏がボーカルを務める。
「TAITO DJ STATION -G.S.M.TAITO 5-」
1990年に発売されたタイトーゲームミュージックのサウンドトラック。初回生産分のおまけCDには「困ったファンがタイトーに電話を掛けてくる」という,コント風のラジオドラマが収録されていた。
柏木氏:
このテーマについては,ダライアスバーストを作った際にもずっと話をしていましたね。そのときは「僕らくらいの年代の人は,当時の音源ドライバーの音色を聞いているので,それがZUNTATAらしさにつながっているのではないか」という結論になりました。
ただ,僕らはこうした思い出補正を乗り越えて,新しいものを作り続けていかなければいけないんです。ZUNTATAの曲を80年代後半から並べて聞いてみると,そのときのゲームの良さを引き出すものになっています。一番大切なのはゲームに合っているか否かということですし,アリスギアの曲も,すごく良いお仕事をしていただいています。
石川氏:
僕らはアーティストではなく,あくまでもゲームの音楽を作っているサウンドクリエイターです。まずはゲームありきで,そのうえでZUNTATAというブランドに恥じない曲を作らなければいけない。“ZUNTATAのようなもの”ではなく“ZUNTATAだからゲームの曲を聞いてみようか“という形でゲームに合った曲を提供するんです。
4Gamer:
なるほど。初めてZUNTATAというグループを意識した際の原体験がZUNTATAらしさという物差しにつながっている。そして31年の歴史があるので,原体験は世代ごとに異なっており,それぞれのリスナーにZUNTATAらしさがあるというわけですね。
では,お時間を迎えてしまいましたので,最後にメッセージをお願いできますか。
アリスギアはZUNTATAにとっても大規模なプロジェクトですし,僕自身もゲームの行く末が気になっています。今後も新しい曲を楽しんでいただければと思います。CDもよろしくお願いしますね。
柏木氏:
ゲーム的にはエンドコンテンツである「調査任務」の拡充も予定しています。また,ライトユーザーの方に向けた施策も考えています。
COSIO氏:
先日のライブイベント(関連記事)も盛り上がりましたし,またアリスギアでライブイベントやりましょうよ!
4Gamer:
アリスギアのCD,新展開,ライブイベントを楽しみにしています。本日はありがとうございました。
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