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[SPIEL’17]今年のSPIELの大本命か。“シンプルで奥深い”を体現した傑作「AZUL」プレイレポート
そんな中,SPIEL’17において「ルールは簡単だが奥が深い」と太鼓判を押せる傑作が登場した。「AZUL」である。
「AZUL」製品ページ(英語)
タイルを拾って配置するだけ,ではあるのだが……
AZULは15世紀頃,幸運王マヌエル1世によって支配されている時代のポルトガルを舞台としたゲームだ。アルハンブラ宮殿を訪れたマヌエル1世はその美しさに感動し,後に「マヌエル様式」と呼ばれる建築様式を作り上げる。プレイヤーはそのマヌエル1世に仕える芸術家として,王宮の壁を美しいタイルで埋め尽くすのが目的となる。とはいえこの物語自体は,AZULのゲームメカニクスとはあまり関係がない。とりあえずゲーマーとしては「壁をタイルで埋めるゲーム」と理解しておけばいいだろう。
AZULにおいてプレイヤーがなすべきことは,いたって簡単だ。各プレイヤーが持つゲームボードには,大きく分けて2つのエリアがある。1つが「パターンライン」,もう1つが「ウォール」だ。
プレイヤーが実際に行うことは,以下の3ステップに分かれる。
- 場からタイルを拾ってパターンラインに置く
- それを一定の規則に従ってウォールに動かす
- ウォールにタイルを置いた段階で,勝利得点が入る
これがAZULの基本であり,ゲームは最初から最後までこの基本どおりに動き続ける。しかるに一定の条件が満たされると,そこで「4. ゲーム終了」となる。では,実際にそれぞれのステップを見ていこう。
1. 場からタイルを拾ってパターンラインに置く
最初,5種×各20枚=100枚のタイルは,すべて袋に収納されている。このタイルを,最大9枚(プレイヤーの数で変化)の「ファクトリー」の上に,4つずつ置く。
手番が来たプレイヤーは,ファクトリーを1つ選ぶ。そしてファクトリーに4つ置かれたタイルから1種類を選んで,そのファクトリーにある同じ種類のタイルをすべて獲得する(従って最大で一気に4枚獲得できる)。
選ばれなかった種類のタイルは,テーブル中央にまとめて捨てられる(すでにほかのプレイヤーがファクトリーからタイルを取っている場合,テーブル中央には「捨てられた」タイルがあるので,それに混ぜる形になる)。
このとき,プレイヤーはファクトリーではなく,テーブル中央の「タイルの捨て山」からタイルを選んで獲得することも可能だ。この場合も,獲得するタイルの種類を1つ指定し,その段階で「捨て山」にある同じ種類のタイルをすべて獲得する。
このようにしてタイルを得たプレイヤーは,今度はそのタイルを「パターンライン」に配置する。パターンラインは,上から順番に1・2・3・4・5マスの,階段状のマス目で構成されている。プレイヤーは獲得したタイルを,この階段の何段目に置くかを決める(一度に複数の段に分けて置くことはできない)。
もし既にある段にタイルが置かれているならば,同じ種類のタイルしか置くことができない。各段にあるマスの数を超えてタイルを置くことになった場合(例えば2マスの段に3枚のタイルを置くと決めた場合),余ったタイルは「フロアライン」に置かれる。ここに置かれたタイルは,勝利得点を減点する要因となる。
各プレイヤーはこのようにして,手番が来るたびに1種類のタイルを獲得し,それをパターンラインに置いていくことになる。場に出ているタイル(タイルの捨て山も含む)がなくなったら,このステップは終了となる。
2. パターンライン上のタイルをウォールに動かす
パターンラインを1番上(1マスのライン)から順番に確認する。もしそのパターンラインがタイルで埋まっていたら,そのパターンラインからタイルを1枚取り,ウォールに移動させる。ウォールには5種類のタイルがそれぞれ1マスずつ描かれているので,該当するマスにパターンラインにあるタイルを配置する。
このとき2マス以上ある段においては,必然的に「あまり」が発生することになる(例:3マスで構成されたパターンラインから1つ,ウォールにタイルを動かした場合,タイルが2つ余る)。
この「あまり」は,箱の蓋などを使って隔離しておく。袋からタイルを取りだしてファクトリーに置くときに袋が空っぽだったなら,「あまり」としてはじかれたタイルをすべて袋に戻し,ファクトリーへの補充を続行する。
また,パターンラインによっては「4マスのパターンラインなのに,タイルが3つしか置かれていない」といったことも起こる。この場合,ウォールへのタイル移動は行えず,またこれらのタイルが「あまり」としてこのターン中に捨てられることもない(以後のターンでこのラインが一杯になったら,ウォールにタイルを1つ動かし,「あまり」をはじくという作業を行うことになる)。
3. ポイントを得る
ウォールへのタイル配置と並行して,ポイントを得ていく。ウォールにタイルが置かれた場合,そのタイルがほかのタイルと縦横いずれも隣接していないなら,1点を得る。もし,ほかのタイルと縦か横かで隣接した場合,獲得できるポイントが増える。
例えばあるウォールにおいて,水平に2つのタイルが連続して配置されていたとする。これに連結するように新たにタイルを置いた場合,「水平に3連続するタイルが置かれた」とカウントされ,3点を得る。
同様に垂直方向も確認する。垂直に2つのタイルが連続して配置されていたその先にタイルが配置された場合,「垂直に3連続するタイルが置かれた」とカウントされ,3点を得る。
そして,縱横への連結は同時に起こり得る。例えば,斜めに隣接するタイルが2個あるところに,その両方に接するようにタイルを置いたとする。するとこれは「水平方向に2連続」「垂直方向に2連続」を作ったことになるので,合計で4点が入る。
このようにしてプレイヤー全員が自分のパターンラインからウォールにタイルを移し,得点計算が終わったところで,最後にフロアラインを見る。フロアラインにはペナルティが表示されているので,得点からそのペナルティを差し引く。
ここまで計算が終わったら1.に戻り,まずはファクトリーにタイルを補充してから,再び各プレイヤーはそれぞれタイルを取っていくことになる。
4. ゲーム終了
このようにしてタイルの争奪戦は続いていくわけだが,当然ながらこの戦いにも終わりはある。AZULでは,誰か1人が「いずれかの段のウォールの横一列をすべて埋めた」段階で,ゲームは終了するのだ。
ゲームが終了したら,ボーナスポイントを計算する。ボーナスは以下のとおり。
- ウォールに同じ種類のタイルが5つ置かれている=10点
- ウォールにおいて,垂直方向に5枚のタイルが並んでいる=7点
- ウォールにおいて,水平方向に5枚のタイルが並んでいる=2点
見てのとおり,コンプボーナスは非常に強烈だ。また垂直ボーナスもかなり大きいので,ウォールを埋めるときは,この最終ボーナスを想定しながらプレイしたい。
「視野」を広げるためには,相当なやりこみが必須
これ以外にも,ファーストプレイヤーに対する小さなペナルティや,パターンラインへのタイル配置における禁止事項など,細かなルールは存在する。だが原則的に言えば,これがAZULというゲームメカニクスのすべてと言っても構わない。そしてこの構造が,素晴らしく熱い頭脳戦をもたらしてくれる。
最初に意識すべきは,「どうやったらより多くの点数を取れるのか」を考えることだ。原則論として言えば「縦と横でそれぞれ別々に連続するタイルを作ってから,その2つを連結させる」というやり方は,より高い点数をもたらしてくれる可能性が高い。
このため「ただウォールでタイルをつなげる」だけでなく,「どのようにつなげ得るのか」「どうつなげたらもっと点数が得られるのか」を考えるのは,とても重要かつ,なかなかに込み入った「読み」を要求される。
だが「どうしたらより多くの点数が取れるのか」を考えられるようになったとしても,それは新たなスタートラインに立ったに過ぎない。
自分のゲームボードと格闘するのに精一杯という段階を越えたら,次はほかのプレイヤーのゲームボードも見て,「どのタイルを押さえたら効率よく妨害できるのか」「取らせてはいけないタイルはどれか」「どのような取り方をすれば,ほかのプレイヤーが6枚だの7枚だのといった枚数のタイルを捨て場から取ることになって,フロアラインが埋まることによるペナルティを被ることになるのか」といった,いわゆるヘイトドラフトの技術を磨く段階が待っているのである。
筆者がプレイした感触で言えば,最初のプレイは自分のゲームボードを見るのが精一杯で,「視野が狭くなっている」ことを自覚しながらのプレイとなった。これでヘイトドラフトまで視野に入れてプレイできるようになるには,相当のやりこみが必要なのではないかと思われる。
一方,これは本作の弱点ともなり得る。まず,プレイヤーの熟練度が成績に対して強烈に影響を与える。このため,プレイヤーの技量が揃っていない卓でAZULをプレイすると,一方的なゲームになる可能性が高い。
また,技量が高いレベルで揃っていた場合,驚異の長考ゲームとなる可能性も高い。ガチ勢が勝負するときは,チェスクロックの導入を推奨したいところだ。
もっとも,では本作が「ゲーマーのためのゲーム」に終始しているかと言えば,そうでもない。
なにせAZULは,コンポーネントが美しい。色とりどりのタイルを集めて,自分のウォールを構築していくだけでも……いや,ただ単にタイルを触っているだけでも(タイルは手触りが良く,カチカチと小気味よい音を立てる),本作は十分に楽しいのだ。
とりあえず本稿執筆時の段階では,日本語版が出るか出ないかすら分かっていない本作。とはいえパブリッシャであるPlan B Gamesの前作「センチュリー:スパイスロード」が日本でも展開されていることから,AZULも日本語版が出る可能性は十分考えられる。
とりあえず筆者から言えることは「見たら買え」である。大事なことなので二度繰り返すが,見たらその場で買って,遊んでみていただきたい。ライトゲーマーからコアゲーマーまで,後悔することは絶対にないはずだ。
「AZUL」製品ページ(英語)
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