インタビュー
「メギド72」宮前公彦氏×「Caligula -カリギュラ-」山中拓也氏が語る“ファンに愛されるオリジナルIPの創出”に必要なこと
2019年3月8日には「Game Developer's Meeting プランナー向け座談会Vol.14」と題し,多くの人から愛されるオリジナルIPタイトル「メギド72」の宮前公彦氏と,「Caligula -カリギュラ-」の原作者としても知られる元フリューの山中拓也氏による座談会が行われている。レギュレーションの関係で座談会の詳しい内容は記事にできないが,大型IPでもヒットが難しいと言われているゲーム市場で,さらに困難なオリジナルIPを手がけた立場だからこそ話せる熱いトークが繰り広げられていた。
しかし,この座談会が始まる少し前に,宮前氏と山中氏のお二人に話を聞く機会が得られた。お二人がゲーム業界へ足を踏み入れたきっかけや,コンテンツに対する想い,そしてオリジナルIP創出の難しさからアドバイスまで,アツいトークを聞かせてもらえたので,その内容をお届けしよう。どちらかのタイトルしか知らないファンも,ぜひご一読を。
ハリウッド映画への憧れ&
カウンセラーからゲーム業界へ
4Gamer:
今回はまもなく座談会が始まるという,直前のタイミングにお時間をいただきありがとうございます。このイベントが決まるまではお互いに面識もなく,決まってから直接顔を合わせたそうですね。
宮前公彦氏(以下,宮前氏):
そうですね。初めてお会いしたとき,山中さんはイケメンだなと思いました(笑)。まだお若いのにシュっとして優秀そうな方で,とても礼儀正しくて。若くて優秀な方はそう少なくもないんですけど,礼儀正しいとなるとまた違うんですよ。
山中拓也氏(以下,山中氏):
イケメン云々に関しては,読んだ方から「そうでもない」って言われるのが分かり切っているので,どうかと思うんですけど,ありがとうございます……! 宮前さんはやっぱりお会いする前の印象どおりにどっしりとされていて,周囲にどう思われても突き進める芯の強さを感じました。僕は周囲がどう思うかを考えて行動するタイプなので,羨ましいですね。
宮前氏:
でも,プロデューサーとして重要なことだと思いますよ。周りからどう見えているのか,いつも俯瞰(ふかん)して見ていないとね。僕もプロデューサーになってから,そういう意識を持つようにしています。
4Gamer:
では,親交を深められるのは,これからなんですね。まずは,お二人がゲーム業界に入られたきっかけからお聞かせください。
宮前氏:
僕はスクウェア(現:スクウェア・エニックス)に背景デザイナーとして入社しました。そもそもでいうと,僕ら世代はファミコンとかも遊んでいましたけど,ハリウッド映画も全盛期だったんです。「スター・ウォーズ」とか「エイリアン」なんかが好きでしたし,ジョージ・ルーカスやスティーヴン・スピルバーグといった若手の監督が台頭し始めたころでもあったので,戦闘機や戦車,ロボットみたいなデザインに関わりたいと思っていました。
なので映画のセットや美術をやりたいと思っていたんですが,僕が卒業するころにはプレイステーションやセガサターンが非常に盛り上がっていたタイミングでした。ゲーム業界もいいかなと思って,デザイナーを目指したんです。
スクウェアでは「フロントミッション」のロボットデザインをやりたかったんですが,「ファイナルファンタジー」(以下,FF)の背景チームへと配属されました。同期は「フロントミッション」のチームに入ったんですけど,もう彼の作ったものは,ぐうの音も出ないくらいうまかった。でも僕も背景であれば「これはよくできた」と思う瞬間もあって。このエピソードは「自分が思う好きなものより,自分に向いているものがある」ということなので,若手によく話しています。もしロボットデザイナーに進んでいたら,それほど伸びなかったんじゃないかな。
山中氏:
そうですね。自分の「好きなもの」と,「向いているもの」と,「世の需要が一致している人」が,「天才」って呼ばれるのかなと思います。
その後は「FFIX」「FFX」「FFXI」に関わったんですけど,「FFX」のときに「メギド72」の号泣のメインビジュアルを描いてくれた直良さん(IZM designworks代表 直良有祐氏)と出会って,そこから仲良くさせてもらっています。彼が「FFX」のあとは「サガ」チームに入って,僕も声をかけられて行きました。そこから「アンリミテッド:サガ」「ロマンシング サガ -ミンストレルソング-」に関わって,その後は「ラスト レムナント」です。
背景からの立場でしたけど,「サガ」チームから「ゲーム作りって面白いな」と思うようになりました。FFを作っているときはまだ映画業界……というか,CG業界へ行きたいという想いもまだ少しあったんですけど。
そのあとはエイチームへと入社しました。当時はガラケー,2〜3人のチームで企画をしてモノづくりをする時代だったので,ここでプランナーを務めました。チームリーディングを担当して,売り上げ責任者のようになっていて,徐々にディレクター,プロデューサーのような役割をやるようになったという感じです。
山中氏:
絵を描きたいとはならないんですか?
宮前氏:
あんまりならないんですよ。いや,正直言うとたまに落書きはすることはあるんですけど……。仕事で描くと当然ダメ出しされる場合も多いですし,あまり好きじゃなくなってしまうんですよね。
自分がアートディレクションというか,ディレクターとして「ここの絵はもう少しこうしたほうがいいよ」とディレクションをするようになると,どんどん目が肥えてくるんですよ。判断能力が自分の描く能力を上回るから,自分の描いたものに納得がいかなくて,描きたくなくなってしまうんです。
描き始めたときに評価されることを前提として描いてしまって,あまりその評価を超えることができないので,面白くないんですよ。
キャリアとしては,絵を描くというよりは3Dが本職です。昔は本当に落書きをしてても,うまくなれて,それが面白くて,落書きの延長線上で仕事になってもスキルアップしていく自分が楽しく感じられていました。でもスキルアップが鈍化していく中で目だけは肥えていって,普段自分がダメ出ししている作品よりも自分のほうが下手という……。
4Gamer:
山中さんが「分かる分かる」という顔ですごく頷いていらっしゃいますね。山中さんも,もともとゲーム業界を目指されていたわけではなかったそうですが。
山中氏:
僕はギリギリまでカウンセラーになろうとしていました。でも,いざカウンセラーになる段階になって,向いてないことが判明して。
(一同笑)
山中氏:
カウンセラーってある程度ドライな部分が必要で,感情移入してしまってはダメなんですよ。その点,僕はウェットで,人が好きすぎるんです。
宮前氏:
ああ,なるほど。
自分が疲れてしまうので,向いてないと言われて。自分でもそう思いました。なので大学3年生ぐらいで進路が一度真っ白になってしまったんです。
合同説明会とか受けなきゃいけないなというとき,ゲーム会社の募集を見かけて「そういえば僕ゲーム好きじゃん」ということに気づいたんです。そこまでは,ゲームはプレイするもので,職業にするなんて考えてもいませんでした。でも心理の経験をエンタメに転用するのはアリだなと思いましたね。このウェットな感覚もエンタメになら役立てられるかなと。そこから何社か受けて,結果的にはユークスへと入社しました。
デベロッパへの入社の際に企画書を出すみたいなことが多いと思うんですけど,企画書の書き方なんて当時まったく知りませんでした。ゲームの専門学校ならともかく,心理学部では教わる機会ありませんから……。
必死で情報を集めて,見よう見まねで作りました。すごく拙いものだったと思うんですけど,なんとか滑り込みましたね。そこでハイエンドのゲーム開発に触れて,必死で開発知識を吸収していきました。
次の目標は“アイドル作品”?
運営とプレイヤーをつなぐ,ほどよい距離感
4Gamer:
4Gamerでも書いてもらったとおり,山中さんが相当「メギド72」のファンであることは周知の事実となっていますが,この機会に宮前さんへ聞いてみたいことはありますか?
山中氏:
それを聞いてしまったら,もうファンではなくなってしまうので,微妙なところなんですよね。作り手側の目線になってしまうと,まっさらな目で関われなくなってしまうので。だから「自分だったらこうしたい」とか,あえて考えないようにしているんですよ。
宮前氏:
では,山中さん自身がこれから何か作ってみたいというものはないんですか? ずいぶん先の話になってしまうんでしょうけど。
山中氏:
本当にただ願望だけで言うと,僕はアイドルものを作りたいんです。
宮前氏:
アイドルものですか……!?
山中氏:
世のアイドルものって舞台上の性格と,舞台裏の性格が同じものが結構多くて。でも本当は舞台に上がっているときと,楽屋にいるときは違うはずじゃないですか。僕はそこのオンオフの切り替えに,芸能職をテーマにして描く良さがあると思うんですよね。そこに焦点を当てていくことで, 自分らしいアイドルものが作れるんじゃないかなと思っています。
宮前氏:
職業としてのアイドルというより,人としてどうかということですね。
山中氏:
そうです。アイドルコンテンツって,ナチュラルボーンアイドルというか,アイドルとしての人格を備えた人のドラマである場合が多いので。そうじゃない人たちが死に物狂いでアイドルをするものにしたいなと……。
人間が苦しみながら頑張る姿が好きなので。売り物として適さないのは分かるんですけど,いつかやりたいですね。
宮前氏:
確かにマネタイズが難しそうですけど,どうにかうまくできそうじゃないですか?
山中氏:
派手なゲームというか,遊んでいて気持ちいいタイトルは僕よりも得意な方がいっぱいいらっしゃいますからね。地味で生々しいものばかり考えついてしまうんですが,そういうものがうまくハマるシーンがあったらいいなと思います。
宮前氏:
僕は今,新しいこととか全然思いつかなくて(笑)。どちらかというと,今したいことは少し時間を取ってリフレッシュとかになりますね。
山中氏:
いわゆるソーシャルゲームには区切りらしいものがないので大変ですよね。
宮前氏:
でもお客様が遊んでくださっている以上,弱音は吐いていられません。
4Gamer:
長期運営をしていくうえで,どのように開発側がリフレッシュするかは結構重要ですよね。
山中氏:
これって,単純な肉体の休みとは違いますよね。もう「メギド72」がプロダクトとして存在している以上,頭の片隅でタイトルのこともお客様のことも考えてしまう。本当に休める瞬間ってないですよね。
宮前氏:
確かにそうですね。次はどういう展開にしようとか,やっぱり考えてしまいますし。
山中氏:
さっきから会話の内容に前向きな話が全然出てこないんですけど,これで大丈夫ですか……?
4Gamer:
きっと大丈夫です(笑)。「メギド72」では,プロデューサーレターで現状や直近の展開をプレイヤーに伝えていらっしゃいますよね。「ディレクターだより」や「弾いてみた動画」など,当たり前なんですけど,つい忘れやすい「開発も人なんだ」というか,スタッフの熱意を感じられる施策が多い印象です。
宮前氏:
僕はもともと,プロデューサーレターをやるつもりはなかったんですよ。作り手としてはモノだけで勝負したかったので。でも不具合が続いたときに出し始めたのをきっかけに続いていますね。
他社さんではアップデート情報のようにきちんとした内容ですけど,僕は普通にメールを書いているみたいなものですね。ごく一部の読む人しか読まないだろうなと思ったんですけど,思ったより皆さんに読んでいただいています。こうやって悩みながら作っている状況をドキュメンタリーのように出してみようかという話もあるんですが,どうでしょうかね。
山中氏:
ああいう読み物好きなんですよ。すごい読みます!
宮前氏:
じゃあもっとちゃんとしなきゃ(笑)。
山中氏:
文章を書くのはお好きなんですか?
宮前氏:
僕はそんなに得意ではないですし,本を読むのもそれほど好きなほうではありませんでした。とはいえ毛嫌いするタイプでもなく,例えばコミックスの最後にある漫画家さんのエッセイのようなものとか,映画のパンフレットとかプロダクションノートとか,監督や評論家の話は好きでしたね。小説も読まなくはないけど,年に数冊ぐらい。それこそ学生時代の読書感想文は前書き写して枚数稼ぐ,そんなこともしてました。
4Gamer:
そうなんですね。プロデューサーレターはすごく読みやすいですし,面白くていつも楽しみにしています。山中さんもファンへのメッセージやコラムをはじめ,脚本までいろいろ書かれていますが,この文章力は仕事をしていくうちに磨かれたんですか?
本も漫画も読むほうでしたけど,意外と書けるんだと思ったのは,最初に入ったユークスでの経験ですね。先ほど話したとおり,普通の大学から本格的な開発会社に入ったこともあって,コミュニケーションは取れるけど,技術の話はまったくついていけなくて,劣等感を感じていたんですよ。自分には向いてないのかなと思うこともありました。
そこで,新人が書く日報みたいなものを,「絶対に読んだ人間を笑わせる」という目標で書いていたら,上司の目に入って。入社1年目で,僕のテキスト発信で社外向けのコラムの企画が立ち上がったんですよ。
ユークスが当時開発していた総合格闘技に関してのコラムだったんですが,とても好評で,そこから声をかけてくれる人がずいぶん増えました。文章が書けるという意識を持ってから,どう見せたら面白そうな文章になるかと考えるのが日常化しましたね。
宮前氏:
なるほど。僕はスクウェア時代はデザイナーでしたから,文章を書くことはほぼなかったんです。今もメールすら面倒くさくて,相手のところまで行って返事をするタイプです(笑)。一気に書き上げるタイプでもあるんですけどね。幸い「楽しみにしている」と言われることも増えました。
4Gamer:
社内と社外で楽しみにされている方は多いんですね。
宮前氏:
嬉しいですね。文章といえば先日,山中さんに書いていただいた記事が社内ですごく評判がよかったんですよ。チェックの連絡が来たときに2〜3回読み込んで,公開される前にスタッフへと回しましたから。「これを読んだらすごいテンション上がって,頑張ろうって思うから!」って。こんなことは今までになかったんですけど,ほかのチームからも評判が聞こえてくるくらいでした。
山中氏:
ここ太字でお願いします(笑)。
宮前氏:
気持ちも嬉しかったですし,文章もめちゃくちゃ読みやすかったですよね。
山中氏:
昨年フリーランスになって,そこから文章を書く仕事が回ってくるようになりましたね。「Caligula -カリギュラ-」ではプロデューサーとして,自分の作品をどう伝えたら面白いか,どう言語化するかというのは,ずっと突き詰めてきたんですよ。だから普通にプレイしている人が「なんとなく面白い」と思っていることを,明確に言葉に変換することができるようになりました。これはほかの人の作品を褒めることにも使えるんだなと分かって,その技術で書いたのが「メギド72」の記事だったのかなと思います。
4Gamer:
ファンも「こういうことが言いたかったんだ!」と共感されていましたよね。
宮前氏:
僕も「メギド72」をこんなふうに伝えることができていたら……と思いましたよ。
山中氏:
でも,あれを自分の作品でやると,ちょっとしつこくなっちゃうんですよ(笑)。ポエミーすぎるので,ほかの方の作品を褒めるのがちょうどいいんです。
僕の作品をずっと追いかけてくれている方は,ああいう言い回しがもうお腹いっぱいなんじゃないかな。もっと簡潔に言ってくれよって。
でも,ああいうのを“山中感”と認識されるようになるのを目指していきたいですね。“らしさ” になりますから。
宮前氏:
絵にタッチがあるように,文章にもあるんですね。
山中氏:
そこがシンボリックというか,それがあればあるほどお仕事の機会に恵まれる気がしています。ああいう雰囲気のものが書ける/描ける人という感じで。
キャラクター&世界観へのこだわり
“平等性”にも注力
「メギド72」も「Caligula -カリギュラ-」も「別にここまで描かなくてもいいのでは」と目を背けたくなるくらい,キャラクターの本質やそれに付随するストーリーをしっかりと描写していますよね。それこそ,今「メギド72」ではイベント「嵐の暴魔と囚われの騒魔」が行われていますが(※編注:本インタビューは3月8日に実施),すごくつらい展開だけど,プレイヤーからの人気がとても高いじゃないですか。
どちらの作品もつらく,重苦しい部分へと真摯に向き合いつつ,個々のキャラクターなりの思想や矜持を大切にする姿勢がすごく素敵で,こうしたところにプレイヤーも魅力を感じているのかなと思います。
ジズのイベントはすごく面白いですよね。今日もシナリオライターと,シリアスなシナリオをもっと増やしたいねと話していました。1回目が2018年8月だったんですけど, 夏を意識した楽しいタイプのイベントで盛り上がっているタイトルが多い中でリリースしたので,だいぶ異彩を放ったとは思います。
「メギド72」でも水着衣装を実装しましたが,そのイベントでも水着に関するストーリーがちゃんとあるんです。特殊な布を運ぶキャラバンを助け,その報酬で水着を作ってもらって,ソロモン一行がバカンスを楽しむ……みたいな。
4Gamer:
いきなり水着が入るのではなく,導入からしっかりと語るというのも少し珍しいですよね。ファンタジーでも,「水着が存在する世界」ということを前提として展開することが多いですから。
山中氏:
「メギド72」くらいしっかり作ったタイトルだと,そういう文脈を用意しないと飲み込めないお客様も出てきてしまいますよね。唐突に“運営感”みたいなものが現れると急に冷めてしまいますから。こうしたお客様が納得するための文脈みたいなものを,きちんと用意されているところが拒否反応の出ない秘訣なのかなと客観的に思ってます。
宮前氏:
僕はあえて「こうあってほしい」という話をするくらいで,あまり細かいところは口出しせず,ライターさんに任せているんですけど,すごくこだわって作り上げてくれるんですよね。もちろんこちらもこだわっているんですが,それ以上のものを返してくれる。つい「時間すごくかかるからそこまでやらなくてもいいよ」と思ってしまうくらい。「メギド72」のチームは,スタッフそれぞれに強いこだわりがあるので,嬉しいですね。
4Gamer:
では,それぞれのタイトルのどんなところがプレイヤーに評価されたと思われますか?
宮前氏:
僕が「メギド72」で大事にしているのは,カッコイイ男性キャラが好きな女性ファンも,可愛い女性キャラが好きな男性ファンも,そして僕のようにブネみたいなタイプが好きな人も楽しめるという“平等性”です。「メギド72」に限らず,ほかのRPGもそうだと思うんですけど,さまざまな要素が複合的に魅力を作り出しているので,いろいろなフックをきっかけに入ってくれる方がいるんですよね。
ストーリーキャラがいるので,厳密には平等と言い切れませんが,次はこういうメギドが活躍してほしい,このメギドにこういう形で活躍させたいといったアイデアが,運営全体から出てきます。
それに「メギド72」は1つの個ではなく,集合体を大事にする姿勢が評価されたのかなと思いますし,大事にしたいですね。もともと意識はしていたんですけど,見た目が可愛らしいキャラだけを前面に押し出さないようにするなど,そうした部分は僕達が思う以上に大事にしなきゃと思います。
山中氏:
平等性みたいなものは僕も同じですね。例えばバトルメンバーの男女の偏りをなくすというのもそうですけど,人気キャラだろうとなんだろうと無差別に障害を与えていきますし,悲しい想いをさせていくと思います。恣意的というか,出来る限り神の手をお客様に感じさせてはいけないなと。プレイヤーが求めるものに応えたり,見たいものを見せてあげたりするタイプのコンテンツではないので,エンタメとしてのサービス精神はかなり足りないとは思うんですが……。
コントロールしない分,この世界が誰かによって作られたものではなく,登場人物達が生きている場所なんだという空気感が出てくるので,こうした部分を気に入っていただいているのかなと思います。
宮前氏:
自分が関わったことがあるわけではないですけど,例えば海外ドラマなら,人気キャラクターだから活躍させようとか,そうでもないキャラクターは退場させようとか,そういうケースもあると思うんですよ。そうはしたくありませんね。
「メギド72」では,常に「このキャラクターを好きな人がいる」と思っています。今のフェーズでは,とくに一部の人だけが喜ばないようにしようと意識していたくて。
山中氏:
「Caligula -カリギュラ-」も,全キャラ平等に扱ってほしいというと,グッズを作るメーカーさんからはちょっと難色を示されることはありましたね。全員となると20種類以上のグッズを作らないといけませんから。そういう意味では「メギド72」のほうがもっと大変ですよね……!
4Gamer:
前にインタビューでもお聞きしましたが,本作にはキャラクターにレアリティがなく,プレイヤーのやり方次第で,どんなメギドにも活躍の場を与えられますからね。もちろん欲しいメギドはいますが,今自分の側にいてくれるメギドで,どう戦うかを考え抜くのがゲームの醍醐味かと思います。
山中氏:
「メギド72」の仕組みは,強いキャラクターを引いたら終わりにならないというお手本のような答えですよね。謳い文句ではなく,最善の手が本当に敵によって違っています。作り手目線だと怖くなるくらいピーキーだと思うんですよ。それが今のお客さんに受け入れられるんだったら,すごく健全な形ですよね。
宮前氏:
自分達で言うのもなんですけど,イベントでもボスを出したときに,人によって最適パーティの答えが違うんですよね。そういうのも見ていて面白いんですよ。そんな中,誰も考えつかなかったパーティで倒すと「こんなパーティで倒せたよ!」と,皆さんにすごく言いたくなるんですよね(笑)。
4Gamer:
それはぜひ聞いてみたいです! 開発スタッフも含め,どんなメギドでどのような戦術を取り入れているのか,詳しく聞けるような機会はぜひ設けてほしいです。
オリジナルIP創出までの苦労や意義とは?
クリエイターに向けたアドバイスも
4Gamer:
「メギド72」も「Caligula -カリギュラ-」も根強いファンのいるタイトルですけど,オリジナルIPというと,まずファンがゼロのところからスタートですよね。アプリでいえば,本数が多すぎて,ストアでもなかなか目につかないじゃないですか。配信直前の時点では,どのような状況だったんでしょうか。
宮前氏:
当初は直良さんに描いていただいたあの泣き顔のビジュアルのインパクトや,斬新なバトルの新作RPGという点で,ある程度は認識されると思っていたところはありました。でも,全然そんなことはなかったんですよ。DeNAもタイトルの初期はあまりマーケティング費用をかけないというスタンスだったので,そこから何を戦略にしていくかはかなり手探りでした。
僕はバトルゲームだと思って作っているので,バトルの面白さを訴求してきたんですけど,そのうちキャラクター人気のほうが高まってきました。それからキャラクターをどう押していくかと考えるようになっています。
山中氏:
僕のほうは,当時まだフリューといえば,まだまだほかのメーカーさんと比べて歴史の浅い会社で,コンシューマのブランドとして,それほど馴染みもなかったんですよね。ある意味ハンデのある状態でのスタートなので,お客様からどう信頼を得ていこうかというドラマを描いていたんです。
そこで,まずクリエイター個人を理解してもらえるような形を作れないかと思ったんです。僕自身がどういうゲーム遍歴をたどって育った人間なのか,設計思想,クリエイターの選定意図,作品の大事にしている点などを地道に自分の口から発信するように心がけました。
「Caligula -カリギュラ-」という作品を作っている山中という人間はこういう思想でゲームを作っているんだということを,お客様が段階的に理解を示してくれるような道筋を考えました。それができると少なくとも僕と同じ趣味嗜好の人間は絶対に刺せるはずなので,そこを愚直に突き詰めていきました。あとはもう実際に誰がどう思おうと,自分が好きだな,面白いなと思えるものを作れば,その方たちは喜んでもらえると思ったので。
宮前氏:
思い返せば,僕もよく「面白いものを作れば,きっとファンはついてくれるから,とにかく面白いものを作ろう」と言っていましたね。
4Gamer:
両作品に共通する部分かと思うんですけど,やはり新規タイトルなので知らない人が多かった分,積極的に作品を広めたり,応援したりするようなファンが多かったのも印象的ですね。
山中氏:
いわゆるAAAタイトルと比べたら規模的にも小さいですけど,この作品でやりたいこと,お客様に伝えたいことがはっきりしていると,そうした部分に共感し,ファンになってくれる人がいるんだなと感じました。そのお客様に支えられたタイトルだという実感がありましたし,恩返しとして自分の努力だけでできうるファンサービスに関しては,徹底してやるよう動きましたね。
4Gamer:
なるほど。それだけ苦労の多いオリジナルIPの創出ですが,意義や魅力というか,挑んでよかったなと思える点はどこにあるとお考えなんでしょうか。
山中氏:
意義はあります。僕が作るものとまったく同じものって,僕が作らないと世にないんですよ。だから作るしかないんですよね。僕がこれを世に出さなかったら存在しないので,同じものが世に出ない以上は作るしかない。だからあまり王道を作れない,不器用なタイトルばかりなんですけど……。そういうものを欲しがっている僕みたいな人はほかのタイトルで満足できない救われない人だと思うので,そういう人が数人でもいるなら,これはもう作るしかないという感じです。
宮前氏:
いいと思いますよ,なかなかそんなにはっきりと言い切れませんから。僕はハリウッド映画みたいなものを作りたいという憧れからこの業界に入っていますし。「スター・ウォーズ」や「アベンジャーズ」のようなものを生み出す行為とか,世に生まれたものが称賛されている状態には憧れていますけど,自分がやらなきゃ生まれないんだという感覚はありません。
山中氏:
でも結果,「メギド72」にしかないようなものが,いっぱいありますからね。
宮前氏:
それはメディア・ビジョンさんを含めて,皆で意見を出し合って作った結果ですよ。
山中氏:
そういう話を聞くと,初めて一緒に飲んだときに宮前さんに言われた「信頼できる右腕を作ったほうがいい。もっと可能性が広がるから」と言われたのが,のしかかりますね。僕はワンオペなので。
宮前氏:
えっ,そんなこと言いましたっけ!? ……失礼しました(笑)。
山中氏:
いえいえ,そのとおりだと思いますよ。なので,右腕を募集しているので,我こそはと思う方は連絡ください(笑)。
4Gamer:
連絡がくるといいですね。それでは最後に,オリジナルIPを創出する,創出を目指す方へのアドバイスをいただきたいです。
一言で表すなら「思ったよりも時間がかかるぞ」ですね。これはスクウェアのとき,初めて「ラスト レムナント」で既存のIPではないものを経験しましたけど,例えば「ヒール」みたいな,ちょっとした技の名前も1つずつ考えなきゃいけないんです。新規ナンバーズのオリジナルだったとしても「サガ」シリーズならこう,FFならこうといった文法がありますけど,新規IPはどこまでこだわるかも含めて,細かいところまで決めなくてはいけません。ただのゲームだけではなくIPとして世界観を作り出すなら,精神力も込みですごく時間がかかります。
それから,仲間になるクリエイターが入り込める隙を作っておくことです。僕だったら,ストーリーはこうする,絵はこうするみたいなものは自分なりに思っていても,結局音楽やシナリオも含め,美術,プログラムなど,ディティールは各担当に作り上げてもらうことになりますから。
お任せした人達の考えをもとに,キャラクターも「本当はこうがいいんだけど」と思っていても,「こういうのがいいです!」と出てきたものを受け入れて,「いいんじゃないかな」とか「だったらこうしよう」とか話し合って,自分の中にあった初期のアイデアをブラッシュアップしていくんです。
山中氏:
すごく分かります。「Caligula -カリギュラ-」で言うなら,おぐちくん(イラストレーターのおぐち氏)に「こういうキャラがいいんですよね」と発注して,でき上がったものが全然違っても,「こっちのほうがいいね」となることもありますからね。信頼して発注したクリエイターが,自分の頭の中で考えたものよりずっといいものを出してくれたときが,作っていて楽しいときですね。
4Gamer:
DeNAさんが公開されている「ゲームプランナーの教科書」にも,近いお話が出ていますね。山中さんとしてはいかがですか?
今おっしゃられたこととよく似ているんですけど,オリジナルIPを作るのは本当に大変です。たぶん想像されているより,ずっと大変なので,せめて自分の好きなものを作ってないと気持ちが続かないと思いますよ。例えば市場のトレンドを追ったものとか,会社と忖度して作っただけのものを死ぬような思いをしてまで守るのは無理じゃないですか。だから,自分が自分の作品の世界一のファンになれるように作らないといけない。
あとはゲームに限らず何でもそうなんですけど,人って成功する想像をしてしまうんですよね。自分が考えたものって自分にとっては一番面白いものですから,失敗する未来を思い浮かべるのがむしろ大変です。
でも,そこをいかに客観視できるか。世の中にこれが出て需要があるのか。どこに魅力を感じ取ってもらえるのか。ほかのライバルタイトルに比べて,どこが優れているのか客観視しないと,世に出たときに心が折れてしまうかもしれません。自分のコンテンツが世界一大好きという気持ちと,それを別人格がちゃんと外から客観視できているというバランスが重要だなぁと思います。まだ僕は偉そうにいろいろ語れる身分ではないんですが,「カリギュラ」をやってみて身に沁みたことですね。
宮前氏:
僕らはまだIPというほど成長はしていないので,気持ち的にはオリジナルタイトルくらいに留めていますけど,いわゆるIPをビジネス的に発展させるのは会社の望んでいることですし,やらなきゃいけないことですし,僕自身もやりたいと思っています。
大きくなると,全員の顔が見えるチームでなくなりますが,組織としてはスピード感を持って動くことも求められます。仕事のこだわりや能力,考え方などを踏まえたうえで,誰に何を託すかはいつも考えています。
DeNAは信頼できるメンバーが多いので,ありがたいですね。
山中氏:
そうなんですね。フリューの場合は社内に開発チームを持っておらず,どちらかというと外部の方と信頼関係を構築するパターンが多かったんです。依頼してお願いしている人は,やると決めて引き受けていただいた方ですから,安心感はありますね。
宮前氏:
ゲームのプロデューサーだけじゃなくて,いろいろな会社さんの新規プロジェクトに当てはまると思いますよ。テレビCMもやらせてもらいましたけど,ディレクターさんとかすごく一生懸命にやってくれましたから。
声優さんも,そう長くはない収録時間のためにすごく台本を読み込んでくれていて。そんなときは忙しいなんて言っていられないなって思いますね。
山中氏:
僕はアニメのときにそれがありましたね。アニメの監督さんや,アニメのプロデューサーさんが自分と同じ熱量で作ってくれるので,救われた感じはありました。僕一人で作らなくていいんだなって。自分にとって大きな経験でした。
宮前氏:
IPに限りませんが,いろいろな立場の方が責任感を持って,モノをよくするために仕事をしているのを感じられると,すごく嬉しく思います。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
対談の内容は以上となる。DeNAが主催する「Game Developer’s Meeting」では,コンテンツ開発の最前線に立つ人間が紹介する具体例や,踏み込んだ解説など,ここでしかまず聴けないだろうという話を聴ける。次回以降の参加を考えているクリエイターは,ぜひ参考にしてもらいたい。
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