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作曲家・田中公平氏&ユーグレナ代表取締役社長・出雲 充氏が語る,「自分を奮い立たせるテーマソングの作り方」。「檄!帝国華撃団」の場合
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印刷2019/12/13 12:00

インタビュー

作曲家・田中公平氏&ユーグレナ代表取締役社長・出雲 充氏が語る,「自分を奮い立たせるテーマソングの作り方」。「檄!帝国華撃団」の場合

画像集 No.012のサムネイル画像 / 作曲家・田中公平氏&ユーグレナ代表取締役社長・出雲 充氏が語る,「自分を奮い立たせるテーマソングの作り方」。「檄!帝国華撃団」の場合
 セガゲームスは2019年12月12日,PlayStation 4用ソフト「新サクラ大戦」を発売した。「サクラ大戦」シリーズの本編作品としては14年ぶりのリリースとなった本作においても,音楽を手がけるのはもちろん,これまで同様に田中公平氏だ。
 ゲーマーであれば,たとえ実際に「サクラ大戦」シリーズプレイしたことはなくても,一度は耳にしたことがあるであろう主題歌「檄!帝国華撃団」(以下,ゲキテイ)も,「檄!帝国華撃団<新章>」(以下,新ゲキテイ)として新たな形に生まれ変わっている。


 さて,そんなゲキテイを「私のテーマソングだ」と語る人物がいる。バイオベンチャー企業,ユーグレナの代表取締役社長 出雲 充氏だ。
 東京大学在学中の1998年にインターンとしてバングラデシュを訪れた出雲氏は,現地の人々が栄養失調に苦しむ姿に直面。これを解決する方法を探るなか,動物と植物の特徴を併せ持つ微細藻類ミドリムシ(学名:ユーグレナ)が,ビタミンやミネラルなど豊富な栄養素を含むことに着目する。これを大量に培養することができれば,バングラデシュに限らず世界中の食料問題を解消できるはずだと考え,ミドリムシの研究を開始。2005年にミドリムシの食用屋外大量培養を世界で初めて成功させた。
 しかし,そこで研究が終わったわけではなく,また事業として成立させるにあたっては逆風が続いていたという。そんな時期に自身を奮い立たせる曲が,ゲキテイだったというのだ。

田中公平氏(左):1954年生まれ。作曲家,編曲家,歌手。東京藝術大学音楽学部作曲科卒業。アニメやゲームの音楽を多数手がける。「サクラ大戦」シリーズでは第1作から音楽を担当しており,主題歌「檄!帝国華撃団」の作曲を手がけている

出雲 充氏(右):1980年生まれ。株式会社ユーグレナ代表取締役社長。東京大学に入学した1998年,バングラデシュを訪れ深刻な貧困に衝撃を受ける。2002年,東京三菱銀行に入行。2005年,ユーグレナを創業し,東大発バイオベンチャーとして注目を集める
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 田中氏より「ゲキテイが好きな面白い人がいるから紹介するよ」という連絡を受けて,今回,両氏の対談という形で取材させていただいた。その模様をお届けしよう。

「新サクラ大戦」公式サイト



「ゲキテイ」を自分のテーマソングにしていく過程


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。
 まず,お二人の接点から教えてください。

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田中公平氏(以下,田中氏):
 これは説明しないと何が何やらですよね(笑)。
 実はある日,私の後輩から「田中さんに『絶対に会わせてほしい!』と言う人がいる」と電話がかかってきたんです。後輩の頼みでもあるし,会ってみることにしたんですが,出雲さんはその場に姿を現すやいなや「なぜ自分がゲキテイを好きなのか」を,とつとつと語ってくるんですよ。
 「500社以上にミドリムシを売り込んで断られ,心が折れそうになりながら,毎朝ゲキテイを聴いて助けられていたんだ」と。

出雲 充氏(以下,出雲氏):
 あまりにも好きすぎて,TVや新聞,ラジオで好きな音楽を聞かれると,必ず「ゲキテイです」と答えています(笑)。

4Gamer:
 そこまで好きになる歌を聴くきっかけは,そもそもどこにあったんでしょう?

出雲氏:
 実は私,ゲームの「サクラ大戦」はプレイしたことがなかったんです。
 研究もうまくいかないし,売り込みもうまくいかないしで,かなり気持ちが沈んでいた時期だったんですが,TVから流れてくるゲキテイを聴いた瞬間,「何だろうこの曲は!」って思わず立ち上がって元気になったほどなんです。

4Gamer:
 イントロからいきなりテンションが上がりますよね。

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出雲氏:
 そうなんです。そしてサビの「はーしーれー!」を聞くと,「走らなきゃダメだ」って気持ちになるんです。それから曲のことを調べて買って,以来,ずっと自分のエンジンにしています。今はiPod touchに入れて聴いていますよ。

4Gamer:
 今でも,なんですね。

出雲氏:
 ええ。研究も会社を回すのもそうですけど,何度も何度もトライ&エラーを繰り返さないと先に進めないんですよね。うまくいかないときは本当にうまくいかない。そんなときに「もう1回自分を頑張らせてくれる何か」が必要なんですよ。

4Gamer:
 ゲキテイが出雲さんにとっての,その何かだったんですね。

出雲氏:
 ええ。きつい気持ちを乗り越える力をくれる歌を聴いて,少しずつ先に進んでいく。それが積み重なって自信になる。ゲキテイを聴くだけでそういう頑張りをもらえるようになってきた。そのくらい支えてくれた曲ですから。
 別に最初から「これは私のテーマソングなんだ!」と思って聴いていたわけではありません。自分の歩んできた道の要所要所にゲキテイは刻み込まれています。苦しんで助けられてを繰り返していくうちに,私の中で「真のテーマソング」になっていったんです。

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4Gamer:
 同じ音楽と共にさまざまな体験を重ねるにつれて,どんどん自分のものになっていくという感覚は非常によく分かります。

出雲氏:
 テーマソングっていうくらいなので,出会いとストーリーはあるんです。その曲が自分にとってどういう曲なのか,それは繰り返しその曲と苦楽を共にしたからこそ形作られているんですよ。

田中氏:
 自分の魂と腹の中にすべてを入れるということですよね。つまり,人生の核にするということです。


「魂に直接響かせる」曲作りを心掛ける


田中氏:
 もともと出雲さんは,東京大学在学中にインターンでバングラデシュに行ったときに現地の子供達が栄養失調になっているのを見て,「この子達を助けたい」と思ったんですよね。それでユーグレナを立ち上げられた。

出雲氏:
 ええ。ミドリムシは子供の成長に必要なタンパク質やビタミン,ミネラルなどの栄養素を豊富に持っていることが分かったので,これを量産することさえできれば,栄養不足に悩む世界中の子供達を助けられると考えたんです。

4Gamer:
 なのになかなか受け入れられない……。ゲキテイに奮い立たされたにせよ,それだけで逆境を乗り越えられたわけではありませんよね?

出雲氏:
 それは,ミドリムシが本当に良いと研究して分かっていたからです。ミドリムシって名前はダサいかもしれませんが,さまざまな研究でその可能性は証明されていますし,その科学的な真理は間違ってなんかいないんです。
 それなのに2年で500社を回っても,とにかく散々だったんですよ……。「そんなもの売れるのか」とか,けんもほろろで。

田中氏:
 私も約30年前によく言われましたよ。「東京藝術大学の作曲科を出て,何でアニメの音楽なんかやってんの?」って。

4Gamer:
 当時は今よりもだいぶアニメの地位が低かった時代ですよね。

田中氏:
 低かったですね。ビクターで勤めた後にアメリカに留学して帰ってきたときも,「今はアニメの作曲をやってる」と言うと,「はぁ?」って蔑みの目で見られてました。
 ただ,アニメの将来を楽観視していたというわけじゃないけど,「ずっとここで生きていくんだ!」と決めて仕事を続けていたんです。そうしたらいつの間にか船がどんどん大きくなっていって,蔑みの目で見ていた人達はいなくなりました。
 そこは出雲さんと同じなのかもしれないですね。業界に関係なく,自分が成し遂げようとしていることを,どれだけ信じられるかが大事で。

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出雲氏:
 そうなんです。でもずっと散々な目にばかり遭っていると,自分を信じ切れなくなってくるんですよね……。もういいのかな,諦めようかな? って。
 僕はそんなときにゲキテイに出会って,力をもらいました。どうしようもなくきついときには,“栄養”が必要なんです。きっと僕以外にも,ゲキテイを“栄養ソング”にしている人はたくさんいると思います。

4Gamer:
 体にも心にも“栄養”は必要である,と。

出雲氏:
 ええ。本当に大事ですよ。何かを諦めかけていたり,うまくいかなくてつらいという人は,自分にとっての“栄養”を探すべきだと思います。

田中氏:
 音楽に限らず,言葉だったりね。

4Gamer:
 きっと自分を奮い立たせたり,踏みとどまらせたりできるものであれば,音楽でも言葉でも,何か別のものでも構わないんですよね。
 苦しい時期を乗り越えた結果,ミドリムシが今ではさまざまな形で受け入れられていますが,その原動力はどんなものだったのでしょう?

出雲氏:
 先ほども言いましたが,ミドリムシは人間に必要な59種類の栄養素を持っているなど,科学的に良いものと証明されているんです。
 ただ,それで世間が感動するかといえば,決してそうではありません。感動するのは研究者だけです。

4Gamer:
 専門知識がないとデータを並べられてもよく分からないですしね……。

出雲氏:
 ただ,過去のさまざまな事例を見ても,世の中に受け入れられているものって,科学的に良いとされることが大前提で,それに加えて例えば「私はこれを食べて健康になりました」というようなストーリーがセットになっているんです。
 音楽もそうだと思うんです。同じようにいい曲であっても,誰かのテーマソングになるものがあれば,ならないものもありますよね?

4Gamer:
 その違いがどこから生まれるのか,不思議ですよね。

田中氏:
 まあ,化学反応だと思いますよ。いい作品があってそこにいい曲が付くと化学反応が起きる。どちらかだけが良くても,やっぱりうまくいきません。

4Gamer:
 その化学反応が起きた曲は,ゲームをやらない人をも惹きつける何かを持つ,と。

田中氏:
 そうですね。3か月で終わるアニメに超名曲を書いたけど,露出が少なくて結局埋もれてしまった……という話もよくあります。僕はそういうのはないけど,それは運命のようなもので,しょうがないんですよね。運命がやってきたらそれをちゃんと掴んでそれ以上のものを返す。「このチャンスを逃さず,世界的な名曲を絶対に書いてやるんだ!」と思って書くことが僕らの仕事です。

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出雲氏:
 そこで田中先生に聞いてみたかったんですよ。人の心に引っかかる音楽って,どうやって作るんですか?

田中氏:
 私の場合は,「魂に直接響かせる」ということをいつも考えています。起きていても寝てても,もしかしたら危篤状態の人であっても,とにかく「ドスン!」と響かせたいと思っているんです。
 例えばゲキテイは,「はーしーれー」の3秒ですべてを掴めちゃうんですよね。新ゲキテイは,「はーしーれー(はしーれー)」の5秒。「ONE PIECE」の「ウィーアー!」なら「ありったけの」で,「ジョジョの奇妙な冒険」の「ジョジョ〜その血の運命〜」なら「その血の」で掴む。大体3秒から5秒です。

出雲氏:
 それぐらいの長さで掴むと決めてらっしゃるんですか?

田中氏:
 クライマックスをどこに置くか,ですよね。ちゃんと構想を練って「ここで人を掴む!」というところに瞬発力があるものを持っていく。そして,そのためにどうすればいいかを逆算することが多いんです。

出雲氏:
 でもきっとほかの作曲家の方も,「掴みたい」と思ってらっしゃるわけですよね。田中先生は何が違うんでしょう?

田中氏:
 違うとすれば,1曲への熱量の入れ方が大きいのかもしれません。「これしかないところにこんなものを入れちゃうの?」って感覚ですよね。

4Gamer:
 それでいて,ものすごい数の曲を量産なさってますよね。常人離れをしたタフさには,いつも驚かされています。

田中氏:
 いやいや,毎回毎回「あしたのジョー」みたいに真っ白になってますよ(笑)。
 作曲しているときに風邪を引いて体調が優れないとか,そんなの自分の事情なわけですよ。ただ,何年か経って聴き直したときに恥ずかしい思いをしたくない。だから死ぬほど熱量を詰め込むんです。
 尾田栄一郎先生も「1コマ1コマが勝負だ」とおっしゃってました。だから最近の「ONE PIECE」は物凄く密度が濃いんですよね。1コマだけでも1週間くらいかかりそうなものを毎週十数ページも書いていらっしゃいます。凄いと思いますし,ああいうのを見ると,私だって楽はできないと思いますよね。


新ゲキテイには重圧を感じていた


田中氏:
 ところで出雲さん,ゲキテイ好きとして新ゲキテイを聴いてみて,いかがでしたか?

出雲氏:
 最初は「そうそうこれこれ!」って感じで,途中から「あーなるほどなるほど」みたいに思っていたら,後半で「うおおお!」ってなりました!
 同じなのはイントロだけで,後は全然違うゲキテイなのかな? と思ったら,また戻ってきて,「なんだそういうことだったのか!」って興奮しました。「はーしーれー」も豪華になってますし。

田中氏:
 みんな同じ反応をしてくれますね(笑)。

出雲氏:
 狙ったとおりの反応ですか?

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田中氏:
 新と旧の違いが歌ってる人達の違いだけじゃつまらないでしょ。やっぱり新しい人達の特性も生かさなきゃって思うんです。今のアニメってテンポも速くなっていますから,それに合わせてAメロは密度を濃くしたんです。
 でも,サビを変えるとそれはネガティブに受け止められるかもしれない。そこで,佐倉綾音さんが地声で上のEを出せるというのを生かして,「はしーれー」の部分にリフレインを追加しました。

4Gamer:
 佐倉さんの存在あってこその新要素だったんですね。

田中氏:
 そして最後は「夢は甦る 帝国華撃団」「我ら 新章(あらた)なる 帝国華撃団」ですよ。これはもう,広井王子のファインプレーですね。
 曲を先に作って,この歌詞はあとから作ったものなんですよ。「さて,広井さんどんな歌詞書いてきたかなー」なんて思っていたんですが,見て泣きそうになりましたよ。「さすが広井さんよく分かってる!」って。発表会のときもみんなウワーって泣いてましたね。

4Gamer:
 そういうときは,やっぱり「しめしめ」という感じだったんでしょうか?

田中氏:
 それもあるんでしょうけど,「良かった……」という安堵のほうが大きかったですね。
 やっぱり重圧がすごかったんですよ。だって,ゲキテイのようであってゲキテイでなく,ゲキテイのエッセンスを残しながら新しくしろって話ですから。自分では必ず喜んでもらえると信じて作っていますけど,実際に受け入れてもらえると,喜びよりもまずは「はあ……良かった」となります。

出雲氏:
 僕にもそういう経験はありますね。2005年12月16日,夕方の6時頃に,石垣島で世界で初めてミドリムシの屋外大量培養に成功しました。そのとき,僕も「やったー!」って喜ぶつもりだったんですが,それよりも40年,50年とミドリムシの研究をしてきて,私達にもいろいろとご協力いただいてきた先生方が元気なうちに実現できて良かった……ってホッとしたんですよ。


言語の壁を越えられるものが世界に広がっていく


4Gamer:
 そして現在,ミドリムシは栄養問題だけではなく,環境問題をも解決できるということで,さらに注目が集まっているそうですね。

田中氏:
 工場も増やすんですって?

出雲氏:
 ええ,今はまだ日本だけなんですが,インドネシアとコロンビアでユーグレナの培養実験を開始しました。ゆくゆくは,商業化を目指しています。

4Gamer:
 ミドリムシが環境問題にどのように役立つのか,教えていただけますか?

出雲氏:
 例えば,地球温暖化により台風が大型化して,信じられない大雨や洪水が起きています。現在の気候変動が放っておけないところまで来ているのは確かです。
 そんななか,日本は2030年度までに2013年度比で温室効果ガス排出量を26%削減するという目標を掲げていますが,既存の技術をすべて集めても達成が難しい状況です。だからこそ新しい技術が求められているんですが,実はミドリムシには二酸化炭素を取り込んで光合成を行う性質があるので,これを活用しようということなんです。

4Gamer:
 つまりミドリムシの培養によって,二酸化炭素を減らせる……?

出雲氏:
 はい,そういうことなんです。

4Gamer:
 となると,世界中で需要がありますね。

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出雲氏:
 ええ。その点でいうと,ミドリムシはノンバーバル(非言語)であるという強さもあります。例えばIT企業の場合,英語圏のGAFA(Google,Amazon,Facebook,Apple)や中国語圏のBAT(Baidu,Alibaba,Tencent)に匹敵する規模の企業は,日本からは出てきません。これは日本語圏のユーザーは母数が少ないからなんですね。日本人がいくら気合いと根性で頑張っても,言語の壁がある以上,勝ち目がないという認識をきちんと持たなければなりません。
 逆に言うと,言語の壁を越えられるものであれば,世界中に広がっていくものだと思います。ミドリムシはもちろんそうですし,最近世界中でeスポーツが盛り上がっているのも,言語の壁を越えて楽しめるからだと思うんです。

4Gamer:
 確かにそういう側面はありますね。言葉で語り合うことができなくても,ゲームプレイを通じてコミュニケーションができるという側面はありますし。
 音楽に関しても同じですよね。日本語の歌詞であっても,世界中で受け入れられる曲というのもありますから。

出雲氏:
 そういえば,2017年に台湾の国家音楽庁で行われた田中先生のオーケストラコンサートにお邪魔したんですが,私の隣に座っていた現地の方が涙をポロポロと流して感動していたんです。その光景が,バングラデシュの方に「ミドリムシのおかげで子供が元気になった」と涙を流して喜んでいただいた姿と重なりました。
 自分が作ったもので,言葉も通じない人がここまで喜んでくれるなら,そこに至るまでにどんな苦労があろうが,そんなものはどうでも良くなってしまうんですよ。

田中氏:
 私もこれまでに多くの人が感動してくれましたから,もう人生としては十分です。

出雲氏:
 でも田中先生はまだまだバリバリやっていらっしゃるじゃないですか(笑)。

田中氏:
 今が人生で一番忙しいぐらいだからね,頑張らないと(笑)。

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採算度外視で信じる道を突き進むことが,続ける秘訣


4Gamer:
 田中先生は来年,作曲家生活40周年を迎えられますが,長期にわたって創作を続けていくにあたって,どんな心構えをお持ちでしょうか。

田中氏:
 ここは出雲さんも同じだと思うんですが,「どこが儲かりそうだ」とか「どこが有利だ」とか,そういう考えで動かないことですよ。
 “ここ”が自分に向いている,“ここ”を変えてやろうという思いが重要です。昔から自分を“アニメ屯田兵”と呼んでいるんですけど,もともと荒れ地だった場所を自分の力でどうにかしたいと思ってもがいているうちに,今のようになったんです。

4Gamer:
 儲かるかどうかは後回し,ということですね。

田中氏:
 ええ。お金儲けを考えるなら,音楽なんて死屍累累だから。
 自分にはこれなんだと確信を持てたことを,ただただ続けてきた結果です。それができるのはきっと,少年の心を失っていないからなんでしょうね。きっと死ぬまでこのままなんでしょうけど。

4Gamer:
 田中先生がサクラ大戦の復活に向けて,陰に日向に動き続けてきたというのも,そういう思いが根っこにあったからでしょうか。

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田中氏:
 それこそ採算度外視ですよ。「私が動くしかない」と信じていましたから。ファンイベントをはじめ,世界中で「サクラ大戦」に関係することをいっぱい続けてきました。
 そしてついに,セガさんが戻ってきてくれました。戻ってきたとなったらなったで,今度はゲームもアニメも舞台も全部やるというのだから,本当に嬉しい。続けてきて良かったです。

出雲氏:
 14年間ずっと,サクラ大戦の復活に向けて動かれていたんですよね。

田中氏:
 知人から「まだやってるの? しつこいねえ」と言われていたくらい,ずっとやってました。「虚仮(苔)の一念岩をも通す」ですよ。ミドリムシと似てるでしょ(笑)。

出雲氏:
 ミドリムシの一念,うまいですね!

田中氏:
 どこかで使ってもいいですけど,出典は必ず明記してくださいね(笑)。

4Gamer:
 お話は尽きないのですが,そろそろお時間となります……。

田中氏:
 もうそんな時間ですか。
 新サクラ大戦も出ることですし,出雲さんにもしお時間があればプレイしてみてください。そして,ゲキテイとサクラ大戦のことをもっと広めていただければと期待しています。

出雲氏:
 ありがとうございます。私はゲキテイがなければどうなっていたか分からないので,そう言っていただけると嬉しいです。
 僕はゲキテイに「はーしーれー!」と言われたから走れました。そして今があります。だから本当に僕の中でゲキテイは大きくて,それを生み出した田中先生と今回のようなお話ができて,本当に嬉しかったです。

田中氏:
 出雲さんは今,ミドリムシと廃食油でジェット燃料を作って飛行機を飛ばそうとしているんです。実際に飛行機を飛ばすときは,ぜひBGMとしてゲキテイを流して下さいね。

出雲氏:
 もちろんです!

田中氏:
 事情を知らない人はぽかーんとするかもしれませんけどね(笑)。

4Gamer:
 お二人が世の中をぽかーんとさせる日を楽しみにしています。
 本日はありがとうございました。

<収録日:2019年11月19日>

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