インタビュー
三池崇史氏の,映画と監督とゲームと原作のお話。「侍魂オンライン」CM撮影後のインタビューより
三池崇史監督が斬り撮る,90秒のサムスピ。「侍魂オンライン-朧月伝-」CM撮影に密着
映画監督の三池崇史氏が,X.D. Globalのスマホゲーム「侍魂オンライン-朧月伝-」のCM映像を制作した。三池監督と言えば,新作映画「初恋」が今年のカンヌ国際映画祭 監督週間部門に選出され話題を呼んだが,なんでも映画以外の撮影は久々になるとか。今回はその2日間の撮影模様をご覧いただこう。
今回はさらに,撮影終了後のインタビューの模様をお届けする。
映画撮影の哲学から,映画監督のなり方や,三池監督とゲームの関係性に,原作ものの実写映画化に際しての心構えまで。ゲーム以外の会話ほど花が咲いてしまっているが,目をとおしていただければ幸いだ。
ちなみに,下記は「CM撮影のメイキング映像」となる。あらかじめ目をとおしておくと,あとの話の温度感も伝わりやすいかもしれない。
映画監督のなり方? 分かんない
4Gamer:
2日間の撮影でお疲れのところ,恐縮です。
三池崇史氏(以下,三池氏):
いやあ,大丈夫ですよ。
4Gamer:
今回は私がゲームメディアということで,普段とはちょっと毛色が違うかもしれませんが,お付き合いいただけると幸いです。
三池氏:
ええ,よろしくお願いします。
4Gamer:
まずは儀礼的ですが,先日のカンヌ選出おめでとうございます。
三池氏:
ありがとうございます。
※編注:三池崇史監督の新作オリジナル映画「初恋」が,2019年5月開催の「第72回 カンヌ国際映画祭」にて,監督週間部門に選出された。なお,同作品は日本では東映配給で,2020年の劇場公開が予定されている
希有の才能を持つ,プロボクサー「葛城レオ」(窪田正孝)は,負けるはずがないと思われた相手との試合でKO負けを喫する。そこから彼の人生の歯車は一気に狂い出した。アンダーグラウンドの世界で巻き起こる,人生で最高に濃密な一晩――。
映画「初恋」公式サイト
https://hatsukoi-movie.jp/
4Gamer:
東映の公式サイトでは「初めて撮ったラブストーリーがカンヌに選ばれた。幸せです。バイオレンスよ、さらば!!」とコメントされていましたが,今後はピュア路線でしょうか。
三池氏:
まぁ,もちろんというか,いわゆる普通のラブストーリーじゃないですけどね。ことさら強調はしていませんが,人の社会において「暴力」ってとても日常的なものですし,劇中の登場人物たちもそういうのに慣れた奴らばかりですから。例えば,戦国武将ってピュアですよね?
4Gamer:
時代や文化,思想的な意味,といった?
三池氏:
ええ。生きるだけでも「強くなりたい」「国が欲しい」といった考え方を持っていた人たち。当然,彼らだってもっと穏やかに事を収めたいと思っていたはずですが,そうでないことのほうが多かったから,当時の生き方が,今こうやって戦国戦乱の歴史として語り継がれている。
4Gamer:
ですね。
三池氏:
本当に欲しいからそうするしかなかった。そりゃそうだよね。でも,それだけだと世の中はバイオレンス一辺倒になるから,法や秩序で縛る。人々の生き方のプロセスはそうやって時代ごとに変化していく。けれど,それが生きているあいだに変化した人と,生まれたころに変化していた人じゃ,感じる不自然さが違う。合わない人にはストレスになる。
4Gamer:
つまるところ。
三池氏:
そういう異なる人たちが交わり,最終的になにを選び取るのか。それを「できればピュアな方向で」と考えた結果,ひとつのピュアな物語が完成しました。とはいえ,物事を楽観視して描くことはできませんでしたから,劇中のバイオレンスな奴らは次々と命を落としていきます。
4Gamer:
あっ,そうなんですね。
三池氏:
ほぼ死にますよ(笑)。
4Gamer:
それはまた(笑)。私がすべての三池作品を存じていないのが恐縮なんですが,これまで物語の終着点として「恋愛」を描いた,あるいは描きたいと思ったことはなかったんですか。
三池氏:
どうでしょうねえ。ただ,避けてとおれないですよね。
4Gamer:
暴力も恋愛も。
三池氏:
うん。誰かを好きになったことが結果的に誰かを傷つける,みたいなのは。人間ってのは愛情や欲望がないとなにもはじまらないし,観てくれた人の心にグサッと刺さるものにしたいならね。だって,ナヨナヨした奴らの心優しいラブストーリーなんて犬も食わないじゃないですか?
4Gamer:
コメントは控えますが,言わんとしてることは(笑)。
三池氏:
別にそういう作品は悪くないし,間違ってもないですよ。ただ「俺は見たくねえ!」ってだけで(笑)。作りたい人が作ってるんなら,成果を出すにも手っ取り早いですしね。勝手に小中高生が盛り上がってくれて,勝手にSNSでブームになったらそれでいいや,といったやり方でも。日本映画は「泣けるもの」のほうが当たる節があるし。
4Gamer:
「当たりの確率」は上がりそうです。
三池氏:
その答えが,今のシネコンのエスカレーターの風景ですよ。
4Gamer:
というと。
三池氏:
少なくない人たちが「泣けたよねー! なに食べいくー?」とか言ってるんで。全然響いてねえじゃんっていう(笑)。
4Gamer:
色眼鏡ですが,想像できてしまう……(笑)。
三池氏:
多くの映画作品は今,そういう単なる暇つぶしのためのものになっている。エンターテインメントな映画のあり方のひとつとしては,方向性によってはそうやらざるを得ないときもあるし,これはこれで正解だと思っていますよ。ただ,僕がやるなら,どうせならね。
4Gamer:
どうせやるなら。
三池氏:
うん。「ああ,こんなのもあるんだ」って感じてもらいたい。こういう映画があるんだって思ってもらいたい。だから僕は,ハリウッドに迎合していく業界に対するリバウンドとしての映画を撮ってきて,それが海外の人たちの目から見たら「不思議なもの」に映ったんでしょう。画面に漂っているローバジェット(小規模予算の作品)な気配みたいなものも,他国の映画作りと比べると独特な印象につながってたりしてて。
4Gamer:
つまり,初恋はラブストーリーですが,キラキラでエンタメな青春恋物語ではなく,今までの三池節が効いたピュアさで勝負すると。
三池氏:
そうなりますよね。
4Gamer:
気になります。ちなみに,カンヌからの通知ってのはいつごろ届くものなんでしょう。令和間近だったらWおめでたいって感じですが。
三池氏:
毎年バラバラなんですよ。少なくとも出品する側は,カンヌで試写会がはじまる2週間前には「フランス語字幕の試写版」を送ってなければいけない。そして賞に選ばれる時期も違うし,作品が追加選出されるなんてこともありますから。結局は人それぞれってことに。
4Gamer:
それも存じておらず。そもそも映画祭は言語対応をするんですね。
三池氏:
もちろん。
4Gamer:
三池監督はこれまでも数々の映画賞を受賞されていますが,それらはどのような気持ちで受け取ったのでしょうか。
三池氏:
「やったなあ」って気持ちは当然あります。それは仕事の成果だけでなく,スタッフやキャストと一緒に頑張ってこぎつけた喜び,ついてきてくれた彼らへの感謝の気持ちも大きいです。ビジネスとしても海外の販路が広がるきっかけになるので,作る側としては楽しいもんですよね。
※編注:国際映画祭などは,審査や受賞といった栄誉をやり取りするだけの場ではなく,世界中の配給会社などが出品作品を目利きし,その上映権の購買を検討するといった市場的な側面も担っている
4Gamer:
このご時世,就職活動やら仕事評価など,自身の頑張りが他人に評価される機会は普遍的にあるものですが,三池監督を含む映画監督にとってはどうなのでしょう。アカデミー賞やゴールデングローブ賞など,映画賞や映画祭の時期に「いやあさすがに。いやいやもしかしたら」みたいな気持ちになるのか。あるいは賞狙いで作品を作ったりとか。
三池氏:
どーでしょうねえ。欲しい人はたくさんいるでしょうが,賞を狙おうとしたところで「どんな作品なら取れるか」なんて分かんないんですから。なんとなくの傾向はあっても,時代が変わればそれも変わるでしょう? 僕らが出品した部門も,3000作品中の20本といった間口でしたし。
4Gamer:
げっ,3000ですか。
三池氏:
審査員もひとりじゃないしね。こうなるともう運でしょ? 考えたとしても「選ばれる作品なら選ばれるんだろう」くらいのもんで。
4Gamer:
一般論でよく挙げられる,制作資金は関係あるんですかね。
三池氏:
アメリカは映画1本に100億円やら200億円やら突っ込みますが,日本だと1000万円や2000万円もザラですからね。極論で言えば,資金はそれくらいでも良いものは作れます。でも,今は1000万円なりの工夫がやりづらい。技術を比較されるならまだしも,物語や演出を「映画っぽく」しようとするだけで躓く。なかなかどうしてねえ。限界が見えちゃう。
4Gamer:
となると,できる範囲で,できる限りを尽くすと。
三池氏:
ただ,今の日本映画は難しいことはしないんです。若い子たちに騒いでもらうほうが楽ですし。人数比で言えば,中高年だって十分いるけど,彼らを呼び込むのは難しそうだから考えない。考えることを最初に放棄する。それが現状なんで,そりゃ世界から見たらツマンナイでしょ?
4Gamer:
ですが,マイノリティでそれを頑張っている人もいますよね。
三池氏:
いますよ。けれど,そういう考えを持って,これから大作を生み出す気概になっても,その領域にはすでに世界中のすごい奴らが普通に,自然に,ずっと研ぎ澄ました作品を送り込んでいるんで。いろいろ大変。
4Gamer:
ゲームの場合,地域ごとにウケる世界観はあれど,遊び方やシステムの共通概念は多いです。一方,作品まるごとで世界観を表現する映画となると,技術や資本を棚に上げたとき,世界で戦うには「日本らしく」といった思想は必要なんでしょうか。この言葉自体,曖昧なもんですが。
三池氏:
いやあ,まさに「日本らしさってなんだ?」ってなるんじゃないんですか。究極的にデフォルメしたら,フジヤマにゲイシャでしょ?
4Gamer:
サムライにニンジャと続いて。
三池氏:
それ言ってんのも最近じゃ日本人だけだからねえ。真面目に考えたところで,社会に即した中庸的な生き方をしているのがらしさになるんで。それを思いきってやるのも手だけど,そこに「日本人とはこうあるべきだ!」みたいな願望を持ち込んじゃうと,映画としては箸にも棒にもかからなくなる。よくて「あそこ泣けたよね!」と言われるくらい。
4Gamer:
そしてまもなく忘れ去られている。誰しもひとつは憶えていない作品に覚えがありそうです。グローバルな話でつなげると,ゲーム業界は昨今,今回のサムスピOLのように中国をはじめとするアジア圏の台頭が目覚ましいですが,映画業界はいかがでしょう? そちらもハリウッド作品などに,ド級の資金が飛び交っているとかねがね耳にしますが。
三池氏:
アジア圏っていうと広すぎますけど,圧倒的に中国ですよ。そのすごさってのは,感覚的につかみきれないすごさ。お金の問題にだけ絞っても,日本とは比べものにならない大きな国内市場があるから,そりゃお金かけていいよねってなります。人材の可能性もすさまじいですし。
4Gamer:
1000人中の10人と,10000人中の100人の違いみたいな?
三池氏:
そう。日本で役者を探したら「山田孝之がひとりいる」ですけど,中国なら「まだ見ぬ山田孝之が50人いる」かもしれない。可能性が広すぎるぶん,選ぶことも難しくなりますけど,人格が良くて,演技ができて,キャラクター性に優れていて,さらに「その先のなにか」も作品のコンセプトに合わせて選ぶ,なんてこともできたりするでしょうから。
4Gamer:
数は偉大ですねえ。
三池氏:
日本にはタレント名鑑っていう,ペラッペラな資料がありますけど,僕らがそこから選んでできることは所詮「あるもので作る」止まり。すでにある役者を使い,あるセットを活用し,あるスタッフと一緒に,ありそうなものを作る。もちろん「ないもので作る」も可能ですが,優れたものが生まれる可能性は,今では向こうにてんで及ばないでしょうよ。
4Gamer:
中国の映画業界も,若手が多いんですか。
三池氏:
多い。でもハリウッドだって若いし,ネット系の人たちだって若いですよ。僕から見れば,今年のカンヌでパルム・ドール(最高賞)を獲った韓国のポン・ジュノだって若いです(映画「パラサイト」)。
4Gamer:
タイのナタウット・プーンピリヤとか(映画「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」)。
三池氏:
あと世界の動向で言えば,ようやく海外で評価されはじめてきたフィリピン映画とかね。面白いよ。
4Gamer:
フィリピン映画?
三池氏:
映画通の分かっている人たちは,10年くらい前から「フィリピン映画が面白い!」と口にしていたんです。けれど,当の彼らは世界進出に興味がなかった。「映画祭に出品してもお金になんないじゃん」って。
4Gamer:
うーん,でも,海外のマーケットは拓けたのでは?
三池氏:
「フィリピン人が主演の映画をアメリカ人は見ないでしょ」って。
4Gamer:
ああ,たしかに。よくてハリウッド版に変換されるとか。
三池氏:
だから彼らは最近まで,「それなら国内の需要に集中したほうがいい」と考えていたんです。ある意味,非常にリアルでシビアですよ。国際化という言葉を,ただただ鵜呑みにしなかった人たちだしね。それと最近じゃ,インド映画もすごかったじゃない。
4Gamer:
バーフバリ旋風は記憶に新しく。
三池氏:
でも,インド映画がカンヌのようなコンペティションに向いているかというと,またそうでもなかったり。種類的にね。
4Gamer:
受賞する姿はイメージできませんね。
三池氏:
映画祭はそれぞれ色があるからね。アクションのほうがいい。ホラーでもいける。それらを加味しないといけない。唯一,そういう傾向の違いにも対応できるほど作風を網羅できているのが,今の中国映画ってこと。不安定さはまだあれど,そのエネルギーは圧倒的。圧倒的ですよ。
4Gamer:
肌身の意見は参考になります。これは小話ですが,三池監督はカンヌの選出騒ぎと映画の撮影中だと,どっちのほうが忙しいんでしょう。
三池氏:
カンヌには選出されたから行っただけで,ものすごく忙しいということはなかったですよ。それに僕は映画を撮っているとき,時間的には忙しいけど,撮影中にすべきことは「映画を撮ること」だけだから。ひとつのことに没頭できるぶん,自分には楽ですよね。
4Gamer:
仕事にかみ合っていますね。エンタメ業界ではプロデューサーや脚本家など,なり方が分からない職業も多いですが,映画監督もそのひとつだと思います。自主制作映画の売り込み,コンテスト入賞からのキャリア,令和時代では動画投稿サイトから監督になるとかもありそうですが,感覚的にはいかがでしょう。三池監督のように助監督からの抜擢も含めて。
三池氏:
まずですねえ,前例はあるはずだけど,自主制作からプロの映画監督になれる人は少ないでしょう。大体はTV業界の制作会社からの転身や,PVやCMの実績を持つ腕利きがやるんで。そもそも,日本ではTV局が絡んでいない映画って少ないんですよ。出資の問題だけじゃなく,宣伝力も大きな強みになるんで。だから自主制作はまた特殊なんです。
4Gamer:
プロへの道にはつながってないんですか。
三池氏:
うん。現場の者からすると,ほとんど無に等しいというか。
4Gamer:
っていうのは,質や数の問題で?
三池氏:
質は分からない。数もたくさんいるんでしょう。ただ,そもそもの問題はそういう人も,そういう作品も,まず目にしてないってところ。その界隈は「好きな人だけが注目する場所」だから,世間に届いてないのと同じくらい,僕ら現場の者にも届いてないんですよ。それこそ「カメラを止めるな!」くらいのムーブメントにならないと。
4Gamer:
近年で最も分かりやすい,ミニシアター系の王者ですね。
三池氏:
あの作品は,世間や業界に注目されたことで最前線までのし上がってきたよね。だけど,ああいうのはもう20年出てこないでしょ?
4Gamer:
……おっしゃるとおりかもと。映画通ならこの20年でも「あれもあったじゃん!」と作品名を挙げられるのでしょうが,パッと思い浮かべられない人のほうが,世間という名の多数派でしょうし。
三池氏:
それを狙うってなると,気が遠くなりますよ。動画投稿サイトに関しては,役者では増えてきましたけどね。街を歩いている子をスカウトしていた昔のやり方じゃなくて,プロのマネージャーが「この子なら!」とネット上で声かけたりして。監督もいずれ出てくるのかもしれないけど,「映画の撮影現場のことを知らなくても,その才能が欲しい!」と思わせてくれるような,よほどの逸材じゃないと,やっぱ難しいかなあ。
4Gamer:
この2日間の見聞だけでも,納得してしまいます。監督というのは現場の進行,設備,機微を熟知していないとまったく動けなさそうでした。現場経験を覆せるほどの人じゃないと,抜擢しづらいんでしょうね。
三池氏:
その人が頭の中のイメージをどれだけ具体化できても,それをたくさんの人たちと一緒に作り上げていかなきゃならない以上はね。「こういうことをするには,どれだけ負荷がかかるのか」「どこまでやったら,これはロスになるのか」。技術論以外のことにも気を配れないと。
4Gamer:
では,そういう監督が持っておきたい素養についてはどうでしょう。三池監督は撮影現場で「もう監督がやればいいんじゃない」と思うほどの出来で,役者に演技をディレクションされていましたよね? ああいう演技の心得は,監督になるうえで必要なスキルなのでしょうか。
三池氏:
伝えることは必要ですけど,伝え方は人それぞれ。いろんなタイプがいます。言葉だけで伝えられる人もいれば,役者を追い詰めて真価を発揮させる人もいて,僕みたいに手本を見せる人もいる。それも全部をそうしているわけじゃないから,シーンに合わせた手段にしたりして。
4Gamer:
へぇー。
三池氏:
僕は助監督上がりなんで,昔からいろんな役者の芝居を目にしてきた経験があるからかな。あと,自分でスタンドインやったりとかね。
4Gamer:
スタンドイン?
三池氏:
「本番撮影前に,出演者の代わりに立ち位置や演技をチェックする準備(や担当者)」のこと。あいつだったらどう動くのか,相手がいたらどうするのか,もしかしたらあの窓辺まで歩いていったりするのかも,とか。そういうシミュレーションは監督なら誰でもやると思うけど,僕はそこで体張ってやってたから,今こうやってるのかも。なので,カメラの前にいっさい立たずとも良いものを撮れる人だっています。
4Gamer:
そういうことで。
三池氏:
要は「カメラの内側から変える」か「カメラの外側から変える」かの違いなんで。演技の心得はスキルに違いないけど,これまた必須ではないんですよ。僕は欲しい絵はあらかじめイメージしているから,演技の表面は教えられるけど,登場人物の中身は役者自身に埋めてほしいしね。
4Gamer:
なら,現場経験を積みながら,そういうことも学んでいける,助監督からの道のりはいかがでしょう。私は今回「助監督ってめちゃくちゃ大変なんだな」と感心したと同時に,なれるつもりはありませんが,映画監督になるなら「現場を知れる助監督上がりだ」と思いましたが。
三池氏:
いやあ,今は少ないですよ。それ。
4Gamer:
少ないんですか。
三池氏:
優秀な助監督は,助監督としては優秀でも,監督として優秀かは分からない。しかも,そこにチャレンジできる機会もない。仕事を続けて,映画作りのことを理解して,力のあるプロデューサーに見定められたら道が開けるかもしれないけど,制作委員会システムを採用していたらね。
4Gamer:
映画制作の出資元がいかに?
三池氏:
「よく分からない新人より実績のあるこの人で」と潰してくる。
4Gamer:
ありゃ。
三池氏:
自主制作の人も同じように「こいつに撮らせたい!」が見つかったとしてもですよ? それを推せるプロデューサーがいませんよ。それをしたら,制作委員会の判断で当人ごとすげ替えられかねませんし。彼らや仕組みが悪いって話じゃなくて,それがプロの現場だから。なんでプロデューサーも見てないと思います。優れた原石の持ち主も,次世代の斬新な人材も。リサーチはしてても,結果につなげるのが難しいんで。
4Gamer:
制作委員会のおかげで,映画を撮れるんですもんね。それに私もそっち側だったら,同じことを言いそうですし……。
三池氏:
僕なんかは自主制作ではなく,昔ながらのVシネマ。当時もいろいろと監督作品をやらせてもらってましたが,初めてのカンヌは,カンヌでは初選出になったVシネマ作品で(映画「極道恐怖大劇場 牛頭」),それもVシネマの中でもよりローバジェットな作りだったのが珍しがられて,映画監督として注目されはじめたという経緯でした。
※編注:ここでいうVシネマは,劇場公開を前提としないレンタルビデオ販売が主目的であったころの作品カテゴリ。現在は単に「任侠もの(などが多かったことから)」「低予算の映画」を指す言葉としても使われる。語源は東映の映画レーベル「東映Vシネマ」から
4Gamer:
まとめると,映画監督になる道がまったく見えてきません。
三池氏:
もうサバイバル。決まった道なんかないの。だから「監督になりたい!」の思いで映画業界に飛び込んで,それだけをモチベーションにすると辛いですよ。きっと。いつまでたっても,どのパートにいても「俺の監督のなり方は間違ってるかもしれない」って考えがつきまとうから。
4Gamer:
いつ開くか分からない扉の前に突っ立つと。しかも行列待ちで。
三池氏:
簡単な方法もあるっちゃありますけどね。自分でお金を用意して映画を撮っちゃえば,それだけで映画監督(笑)。
4Gamer:
撮って名乗りさえすれば(笑)。じゃあ,三池監督はいつ「俺は映画監督になったんだ」と自覚できたんですか。
三池氏:
どこだったかなあ。代打でやったりしてた時期もあったしで,覚えてないなあ。それに映画監督ってさ,例えば「500万円の映画」を作ったとしますよ? もしそれが大ヒットしても,次があるか分かんないんです。監督になれても,監督として食べていけるかは全然別の話。興味持ったことないだろうけど「あの監督,最近見ねえな」とか考えないでしょ?
4Gamer:
映画監督でいうと……考えないかも。
三池氏:
大昔,映画会社が自前で制作スタッフを抱えていた時代には,会社の演出部に所属して,幹部にのし上がって,「監督」のポジションに就く,という仕組みがあったけど。それらが崩壊してからというもの,僕らみたいなのは「映画を撮ってないと映画監督じゃない」んだから。
4Gamer:
カメラや照明といった現場の技術職はまだしも,監督ですもんね。役者と立場が似ているようで,パイの数はもっと厳しそうな。
三池氏:
監督って人がさ,映画を撮ってないときにどういう暮らしをしてるのか。そこに興味がないし,それが伝わりもしない。数年に1回くらい名前が挙がればまだマシ。つまり,映画監督だけで食べてる人なんてほとんどいないんでしょうよ。いっとき騒がれる人気監督になれたって,数年経てば映画関係どころか,まったく違う職に就いてるかもしれないし。
4Gamer:
なるほど。やっぱり映画監督のなり方って分かんないです(笑)。
三池氏:
分かんないね(笑)。
ゲームの覇王丸に負けない方法
4Gamer:
ごほん。前置きが非常に長くなりました。ここからが本題です。サムスピOLのCM撮影の初日は東映京都撮影所でしたが,京都にはよく行かれますか? 出身も大阪ということでなじみがありそうですが。
三池氏:
時代劇になると京都撮影所に行かざるを得ないので,勝手知ったる場所です。「無限の住人」もあそこと近辺で撮りましたし。
4Gamer:
今回もここだろうと。
三池氏:
オープンセット(屋外の街並みなどの野外装置)があり,時代劇に手慣れた人材が豊富にいる。ベストですよね。カツラや衣裳なんかは東京で用意したものですけど,向こうは「職人」が多いですから。仕上げの調整は京都のスタッフに任せるのが一番です。
4Gamer:
東京と京都で,仕上がりが違うんですか。
三池氏:
刀や帯を実際に合わせるとね。東京の者だけで衣裳を用意すると,作りが凝ってても「よくできたコスプレ」になりがちなんですが,京都に持っていくと現場に即したアイデアがどんどん出てくるんで。「この帯だと刀が差せない」とか「帯はこっちのほうがいい」とか,合わせてみると衣裳としてはごってりするんだけど,格好にリアリティが出てくる。
4Gamer:
「なりきるコスプレ」と「やりきる衣裳」の違いなんでしょうね。
三池氏:
ゲームや漫画のキャラクターについても,実写になるとなんかイメージが違うときは,モチーフを踏襲しながらも実写ならではのアレンジを加えます。この細部の調整がうまくいきやすいのも京都撮影所なんですよ。それをするための材料も経験も,よそとはまるで違うので。
4Gamer:
京都ならではの職人芸。
三池氏:
まぁ,当の職人たちは年々老いてきてるんですけどね。若いお弟子さんもちゃんといるけど,もっと技術を継承できるようになればなあ。
4Gamer:
どこも社会問題の悩みが。そもそも今回の話の経緯というのは?
三池氏:
身内から電話がかかってきたんですよ。「三池さんにCM撮ってほしいって強く望んでる人たち(X.D. Global)がいるんですが」って。
4Gamer:
三池監督の第一声は。
三池氏:
「ああ,そうなの」と。
4Gamer:
シンプル。
三池氏:
そんなに望んでくれてるならね。じゃあやりましょうと続けてね。そのときは詳しい内容とか全然聞いてませんでしたが,幸いスケジュールが合ったようなので,こうやって任せてもらえました。
4Gamer:
三池監督はCM映像が初めて,ないし久々とのことですが。
三池氏:
そうなりますね。厳密に数えたら……2本やったかな? やったことはあるんだけど,だいぶ前のことです。経験なんてほぼないです。
4Gamer:
でも「90秒尺の映像」と考えたら,手慣れたもんですか。
三池氏:
そうですねえ。90秒の映像素材って結構要求されがちなので。映画で言えばそれこそ,「映画上映前のスクリーンに流れてる予告編の長さ」に近いから,カット割りや見せ方のリズムには悩まなかったかな。
4Gamer:
「90分の映画作品」と「90秒の紹介映像」。違いは当然あるとしても,手のつけ方も異なるんでしょうか。
三池氏:
まず,クライアントがどのようなプロモーションをしたいのかが大切ですよね。明確なキャッチコピーがあるなら,それを連想できる映像にする。当たり外れは置いといても,狙いはズレない。ここを意図的にズラす手法もありますが,今回はかつてのファンを裏切るべきではないのと,作品のターゲティング層が幅広いこともあって見送りました。
4Gamer:
ふむふむ。
三池氏:
押すべきは実際のゲーム映像,サムライスピリッツの世界観,魅力的なキャラクター,それと「MMORPGに生まれ変わった新作」です。ゲームについてはすでに中国などで配信されていたので,現地で膨らんでいるイメージを参考にしました。キャラクターについてはフラッシュバックみたいにバババッと見せるようにして,ファンなら「あっ」と思える,知らない人には響かなくても,飽きない映像にしていきます。
4Gamer:
実写映像を入れた意図というのは。
三池氏:
スマホゲームのいつでもどこでも遊べる,しかも熱中してしまう,ってところを表現するためにです。これにはゲーム映像を映しているだけじゃ限界があるので,大勢の人たちが実際にゲームに没入していて,プレイしたことで見える世界が変わった,みたいな実写部分を取り入れました。あと,90秒映像として単純に楽しめる物語性のためにです。
4Gamer:
どおりで。撮影風景もコミカルな感じでした。
三池氏:
ええ,コントラストがあったほうがいいなと思って。ゲーム映像では作品の雰囲気を押し出して,実写映像では時代劇のオープンセットで,いろんな人がスマホを持って「わー!」っと盛り上がっている。そこに「覇王丸」や「ナコルル」が登場する。なんかよく分からないけど楽しそうに見える。そんな混ぜ方で,両方の絵を立たせていこうと。
4Gamer:
覇王丸やナコルルの扱いはいかがでしょう。
三池氏:
覇王丸ってね? 実写でどんなに堂々とやろうと,ゲーム内の豪快さには勝ち目ないんですよ。そもそもゲームと実写を並べると「顔違うじゃん!」ってなるので,絵とのマッチングは最初から考えなかった。だから実写は,瞬間的にババーッと使う。あくまでゲームキャラクターの魅力を補うような扱いにします。ゲームのような剣劇を再現するには,それこそハリウッド的なアクション撮影が求められますし。
4Gamer:
それはいろいろと難しそうですもんね。
三池氏:
下手に本格的にやろうものなら撮るだけでも大変。しかもゲームをやりたいと思わせる映像じゃなくて,映画村のコマーシャルみたいになるっていうか,「アクションすげー!」ってなってもね? それとゲームの雰囲気を実写が追っかけて再現しようとしてもね,そのカットバックって全然面白くなくて,出来損ないの実写感になってしまうんですよ。
4Gamer:
チープな感じの。
三池氏:
そういうの。ゲーム画面が360度グリグリ動くから,小さなドローンをグルグル動かすのも手でしたけどね。撮影日数やら機器やらを加味して,今の形に。でも,編集のタッチはクールにカッコよくしますよ。
4Gamer:
おっ,クールなんですか。
三池氏:
編集次第ですけどね。こればかりはやってみないと分からないので。撮った絵をどうやって並べて切ってとか,カメラがパンして顔がアップになる瞬間にノイズを走らせるとか,やり方はいろいろあります。今は4K撮影が主流なので,画角はあとからでも多少弄れますし,色味もあとで調整するようにしているので,現場ではフラットに撮ってますし。
4Gamer:
私は撮影時の「ナコルルさん,斜めからカメラに入ってみようか」という指示が印象的でした。見たことある構図のはずだけど,それを手法として頭に入れておくというか,引き出しから持ってきて試してみるみたいな,映像創作の発想がなかったので。他業種ながら刺激になりました。ああいう細かな積み重ねが,最終的な印象につながるんでしょうね。
三池氏:
しかしですね。映像というのはいろいろ弄り回した結果,最終的にスタート地点に戻ってくることが往々にしてあるんです。なので僕は基本的に,ストレートな絵作りからはじめていきます。そこから現場でどこまで変化をつけられるか,その塩梅を調整するのが楽しいんですよ。
4Gamer:
そういうのが,監督業の醍醐味なんですね。
三池氏:
とはいえ,変化を織り込んだプランはやめたほうがいいんです。変化の試行錯誤ができないし,テクニカルな計画に押し潰されることもあるし,なにより「変化後のそれ」を撮るのが目的になっちゃう。僕は結局戻るとしても,その間の撮影の流れを滞らせないよう,かつどれだけ変化を試せるかといった,現場のコントロールこそ大事にしています。
4Gamer:
士気を大切にされているのは,予定どおりの撮影終了の事実だけでもなんとなく。でも,思ってもみなかった絵を撮れたら大成功ですよね?
三池氏:
まぁ,最終的にコンテとまったく違うものになっていると,それはそれで「もうちょっと寄っとこうか……」と最初に戻るんですが(笑)。
4Gamer:
往々にして(笑)。そういった構想には時間をかけるのですか。
三池氏:
僕はインプットしたからといって,すぐにアウトプットできる人じゃないので,なにかをしながら並行して考えていると,そのうちポッとアイデアが生まれてくるというか,脳裏の無意識に頼るというか,いや,ぶっちゃけ,締め切り直前まで思いつかないことがほとんどです(笑)。
4Gamer:
「そういう人」と「そうじゃない人」はよく分類してます(笑)。
三池氏:
人間なんて結局,締め切りがこないと意識も働きませんよ! 僕は原稿仕事もやってますけど,これまでもずっと締め切り直前か,ちょっと過ぎちゃうか,とにかく「これは怒られるな……」のギリギリで生きてますから。そこまでいくと,なんかこう,力が出てくるというか。
4Gamer:
火事場の馬鹿力的な。
三池氏:
怠け者の言い訳ですけどね。それに比べて,ゲームって怠け者じゃ作れないじゃないですか? いろんな仕様を用意して,パートごとに細分化して,それぞれのプランを並行しつつ,ひとつにまとめる。僕らと似ているようで,僕らとは異なる集中力が求められる繊細な作業でしょうよ。技術的にも「これどうやって動かしてんの?」と驚くばかりです。スマートフォンそのものの限界もきちんと把握しているんでしょうね。
4Gamer:
うーん,案外似ているもんかと思っていましたが,監督目線のカメラで撮ったものが制作物の中心にあるのが映画とすると,たしかに構造は全然違うのかも。ゲームでは,プロデューサーやディレクターが「作品の骨を自分で形にする」といったケースは多くないでしょうから。
三池氏:
ですからね? きちんとしたゲームの仕事場に,きちんとした映画監督が入っても,たぶん息が詰まります(笑)。
4Gamer:
なんですかね(笑)。一応,ゲームメディアの建前もあるのでお聞きしますが,三池監督はゲームは遊ばれますか。
三池氏:
ゲームをよく遊んでいたとは言えません。子供のころは「ウルトラマン」が小学1年生だったかな? 大人が僕らのこづかいを巻き上げるために一生懸命になって考えた,いわゆるヒーローもの。それを浴びて漫画やアニメに走っていった。いわば僕のエンタメのスタート地点。でも,ゲームはもっとあとの時代になるんです。人生ゲームみたいなのしかやっていなかったところに,突如デジタルな「ブロック崩し」が現れて。
4Gamer:
どう受け止めたんでしょう。
三池氏:
当時は高校生でしたが,ゲーム画面を見ながら思いましたね。「ゲームしなければもう一杯コーヒー飲めるじゃん」って。
4Gamer:
間違ってない。そういう金銭感覚のゲーマーも少なくないです。
三池氏:
なにかを体験するって意味では,同じような料金形態のコンテンツはたくさんあるのにね。なんでか,ゲーム筐体にお金を入れることには抵抗があった。あと,才能がなかったんですよ。
4Gamer:
うまい,へたの話で?
三池氏:
いえ,ゲームオーバーになっても「悔しい」と思えなくて。相手がいるときは楽しく遊べましたが,そこで負けても悔しいとまでは思えず。
4Gamer:
仕方ないですよね。趣味の向き不向きなら。
三池氏:
それでもこれまで,仕事の関係でゲームをやることはチラホラありましたよ。やらなければならないゲームとプレステを買って,1週間以内にクリアしないといけないとか。もう寝ずにやるほかなかった(笑)。
4Gamer:
よく分かります。言わぬが華ですが,「ゲームの深みを数日のプレイ経験で教える記事」は切っても切れない関係にあるので……(笑)。
三池氏:
それにさあ。ゲームがずっと好きだったり,ゲーム業界にいる人だったりでもしないと,世間一般で僕の年代の人たちがやるのって,せいぜい「ポケGO」(ポケモンGO)くらいでしょ?
4Gamer:
ポケGOはやるんですか。
三池氏:
ポケGOは好きですよ。初めて「あっ,俺でもできるゲームだ!」って思ったんで(笑)。なので楽しみの範疇ですけど,ゲームにお金を使う理由もようやく理解できました。これは気持ちの面もあるんだろうけど,大きいのは「高校生の100円と今の俺の100円」の違いなのかもね。
4Gamer:
ああ,年代ごとのお財布事情はありそうです。
三池氏:
あと気づいたのは,ゲームも映画も楽しさの価値は変わらないんだけど,スマホのゲームって誰が遊んでも料金が均一で,使う額も自分で制御できるんですよね。それに比べて,映画は大人や子供で料金が違うじゃないですか? 大人料金とか1800円から1900円に値上げされますし。
4Gamer:
えっ,そうなんですか。つらい。
※編注:TOHOシネマズは2019年3月,人件費などを含む運営コストの増加を理由に,映画鑑賞料金の値上げを発表。6月1日にTOHOシネマズ名の全国66拠点で,一般鑑賞料が1800円から1900円に,ファーストデイやレディースデイは1100円から1200円に改定された
三池氏:
そういうふうに料金体系の違いがあるなかで,ゲームの場合は大人でも子供でも同じものを買うのに使う額が変わらないってのは,なんか面白いですよね(ガチャなどの商品は含まないものとしての意)。
4Gamer:
娯楽の料金体系として見ると,そうですね。盲点でした。
三池氏:
まぁ,ともかく,年齢とか料金とか価値観とかをひっくるめて,今はゲームに抵抗がなくなりました。今になったからなんでしょう。
4Gamer:
いい話ですね。ゲーム業界の人間としては。それでは巻いて巻いてのジェスチャーが送られていますが,最後にもうひとつだけ。三池監督はこれまで,「クローズZERO」「忍たま乱太郎」「逆転裁判」「無限の住人」「ジョジョの奇妙な冒険」など,さまざまな原作ものの実写映画化を撮られてきましたが,制作段階で気を配ってきた点はありますか。
三池氏:
それなら,まずはサムスピの話からはじめましょうか。本当はこの2日間で映像を撮る前に,ゲームをやり込めていればいいんでしょうけどね。さすがに難しいです。テスト版はちゃんと遊びましたが,どうやったら敵に遭えるのかが分からなくて,ずっとぐるぐる回ってたり(笑)。
4Gamer:
想像つきます(笑)。
三池氏:
そしてサムライスピリッツは,シリーズ作品がたくさんあり,作品ごとに時代も違う。このゲームだけをやっても,ファンからすれば足りない映像になりかねない。それでも,長くシリーズを続けてきた開発者たち,そこに付き添ってきたファンたち,その想いは蔑ろにしたくない。
4Gamer:
はい。
三池氏:
しかし,どんなコンテンツでも最初は誰も知らない。そのため,入り口には制作側が浸透させたいコンセプトを置いているもんです。だから僕は中途半端に聞きかじるよりも,コンセプトを明確に,ビビッドに伝えきることに専念します。サムスピを知らない人や「あのサムスピがMMORPGに?」と驚いている人ほど,今回の映像をぜひとも見てほしいです。
4Gamer:
伝えておきます。
三池氏:
次に原作ものの実写映画化だけど,そこはあれだね。原作者。
4Gamer:
原作者。
三池氏:
漫画家にせよ小説家にせよ,原作者は生身の人間で,大元の作品を生み出した張本人。僕はそういう,作品を心から大切にしている人と対峙せざるを得ないので,実写化のときはなるべく彼らとしっかり話し合う。その場に赴く前に,作品の全容の一通りを把握しておいて,それプラスで「僕が最初に抱いた感想は果たして,ただしいのか」を確認しにいく。
4Gamer:
こう感じましたがどうでしょう,と?
三池氏:
質問はしませんよ。原作者に「この作品はなにをテーマに書いたんですか?」とかって聞くのは,僕はアウトだと思ってんです。「それは本に書いてあるけど……」なんて不信感を与えたら,もうアウト。言葉で聞いて,言葉で確かめようとする人に,映画監督はできないんですよ。
4Gamer:
シビれますね。どうぞ,続きを。
三池氏:
だからその場では,普通に会話しながら,「このキャラのこの台詞は実写にするならこうですよね?」と提案できるようにしておきます。尺が決まっている映像に収めるうえで,原作とは多少なりとも時間軸を変えつつ,破綻しない脚本を目指していく。それと時期の懸念も伝えて。
4Gamer:
撮影する時期,公開する時期など?
三池氏:
ええ,今の映画はどんなに早くても1年は制作期間が必要です。でも,1年で街並みやトレンドがガラッと変わることってあるじゃないですか? 時代劇くらい昔の世界観ならね,それこそ京都のセットを使えばいいんだけど,現代風はね。数年の流行のズレが絵の違和感につながる。
4Gamer:
1年前に流行った服で,1年前のスマホを持ってる,とか。
三池氏:
そういうの。そういうのも,原作者と会話しながら擦り合わせていく。それに話していると「この人はこういう映画にしたかったんだ」ってのが伝わってきたり,「このシーンだけできれば満足です!」って白状してきたりする。結局さ,原作者は僕にとってひとりめの観客なんだよ。
4Gamer:
……これは私個人の偏見ですが,コンテンツの規模が大きくなる映画化というのは,多少なりとも「上から」なポジショントークがあるかと邪推していましたが,すみません。とても真摯にやられているようで。
三池氏:
そうなんですよ(笑)。まぁ,そこは監督や原作者の性格にもよりますから,これまたケースバイケースだと思いますけどね。
4Gamer:
そうした映画化の先,監督にとっての成功はなんなんでしょう。
三池氏:
映画がヒットするのはいいことですよね。今を豊かにして,次を生み出す。ビジネス的にいいことです。でも,大ヒットしても原作者に「ああ,映画化しなきゃよかった……」なんて思われたら,もう切ないですよ。それじゃあ,映画化した意味がなくなってしまう。興行的な成功はただしい。ただしいですが,僕は「この場面! この原作なら! やっぱこうだよね!」って思ってもらいたい。そういうスタンスに傾きがちで。
4Gamer:
いいですね。
三池氏:
まぁ,ゲームの場合は考えてる人や作ってる人が細かく分かれちゃってるんで,誰に話を聞くべきかがちょっと難しいんだけど(笑)。あと原作者がすでに亡くなってしまった文豪だったりすると,本人に会って見解を聞くこともできないので,僕がどう感じたかのところが強くなるかな。誰かの感想文や研究書なんかを読むと,フィルタをとおして「分かったような気になるだけ」なんで,間違ってるというか,すでにやり方として面白くないのでやりません。「ここはこうじゃないと!」といった原作ファンの意見も間違いじゃないんですが,それが正解かどうかは分かんない。原作どおりにしようとしても「これ生身の人間じゃ絶対無理じゃん!」ってなったら,「じゃあどうしよっか?」って考えるんだから。
4Gamer:
映画監督の腕の見せどころですね。
三池氏:
うん。それが楽しいんだよ。
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