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[GDC 2019]傑作VRアクション「ASTRO BOT:RESCUE MISSION」は,“VRならではの3人称アクションゲーム”をどのように実現したのか
そんなASTRO BOTをどのようにして開発したのかを開発者が語るセッション「Making
本作のプロデューサーであるNicolas Doucet氏が語るASTRO BOTの内幕は,VRにおけるアクションゲーム開発で参考になる話が多数含まれていた。ただ,その全貌を伝えるのは時間的に困難なので,本稿ではDoucet氏が重点を置いて説明したポイントに絞って概要をレポートしたいと思う。
VRならではの3人称アクションゲームを作る5つのポイント
ASTRO BOTは,氏のチームが「真のVRゲーマーに向けた」(Doucet氏)アクションゲームとして開発したものだそうで,講演では,同作におけるいくつかの重要ポイントについての説明が行われた。
多くのVRゲームは,没入感に重点を置いて1人称視点を採用している。仮想世界の中に入り込むことを表現するには,一番分かりやすい手法であるからだ。しかしASTRO BOTは,3人称視点※を採用しつつも,VRならではの魅力や面白さを表現するために工夫を凝らしているのだ。Doucet氏はそうした工夫を,以下の5つにまとめて説明を行った。
- PERSPECTIVE PLAY
- VERTICAL PLAY
- NEAR PLAY
- FAR PLAY
- 360 PLAY
※プレイヤー自身は1人称視点,プレイヤーが操るASTROに対しては3人称視点というのが正しいように思われる
●PERSPECTIVE PLAY
まずPERSPECTIVE PLAYの取り上げられたのは,プレイヤーの視線をある方向へと誘導する手法である。ASTRO BOTは,上下左右に広がった空間の中を動き回れるゲームなので,なんの手がかりもないと,プレイヤーはどこへ向かって何をすればいいのか迷ってしまうだろう。そこで,地形や敵キャラクターを利用して,どこを見てほしいかを誘導するのだ。
Doucet氏が例に挙げたのは,壁が視線を遮っている方向から敵キャラクターが現れるというシーンだ。壁で見えなくなっている方向から敵がくれば,プレイヤーは自然とその方向に顔を向けるので,そちらに誘導できるというわけだ。視線誘導の手法としてはよくある話である。
VERTICAL PLAYは,上下方向に大きな動きを取り入れることで,立体的な空間の広がりを感じさせるというものだ。プレイヤーが操作するロボットの「ASTRO」が大きく飛び上がるのもそれだが,縦方向に大きな敵やオブジェクトがあるとプレイヤーも釣られて上を見上げるので,空間の広がりを感じられるというわけだ。
ただ,単純にASTROを上に飛ばせばいいわけではない。障害物の影に隠れて見えなくならないように,ASTROの影が下から見えるように,姿の一部が見えるように工夫することで,上下の動きでキャラクターを見失わないように配慮しているとDoucet氏は説明していた。
●NEAR PLAY
次のNEAR PLAYとは,ASTROがプレイヤーに近づいて大写しになるような動きを多用することだ。プレイヤーに操作させたい何かにASTROが近づくと,自然とそれに触れるようにするという理屈である。また,後述するアイコンタクトと組み合わせることで,ASTROとプレイヤーが心理的につながっているような印象を強めることもできるだろう。
一方,FAR PLAYは,プラットフォームアクション(=ジャンプアクション)らしさを表現する手法と言える。ASTROがプレイヤーから遠くに離れた状態で,障害物や断崖を飛び越えたり,坂道を駆け上ったりさせるわけだ。ただ,遠くに離れた状態では操作も難しくなるので,たとえば幅が狭くて左右に落ちそうなところでは,見えない壁を設けてASTROが落ちないようにする工夫も凝らしているとのことだった。
●360 PLAY
360 PLAYは分かりやすい。ASTROがプレイヤーの周囲を動き回るようにマップを構成して,自然に左右を見渡すようにさせることだ。ただ,PSVRはケーブルでPlayStation 4(以下,PS4)とつながっているので,左右を見る動きでケーブルがからまったり外れたりしないように注意する必要もあるとのことだった。
プレイヤーとASTROにつながりを感じさせる
ゲーム内において,プレイヤーは不可視の存在ではなく,ASTROよりも大きいロボットのような存在として登場する。プレイ中は,プレイヤーの影を地面に落としたり,鏡のようなオブジェクトに映り込ませたりすることで,プレイヤーもASTROと一緒にゲーム内の世界に存在することを示している。
プレイヤーの分身をASTROより大きな存在にして,ASTROがそれを見上げるような仕草をさせることで,ASTROは小さくか弱い存在で,プレイヤーが守ってあげなくてはならないと自然に感じさせているわけだ。
プレイヤーがASTROとは別の存在であることを生かした要素もある。
たとえば,Doucet氏が「HEADBUTTING」(頭突き)と称する要素では,頭突きするような動きをプレイヤーにとらせて障害物を突破したり,ボールのヘディング合戦で相手を倒したりするといった具合だ。
巨大なボスキャラの小さな弱点を狙え
プレイヤーの分身の身長を1とした場合,ASTROは0.2,それに対してボスキャラの1つ「ジャイアントゴリラ」は20もあるという。ASTROの100倍も大きいわけだ。
こうした巨大ボスがダイナミックに動いて攻撃してくるので,それだけでも迫力があるのだが,ASTROはボスキャラの小さな弱点――ジャイアントゴリラの場合は歯――を攻撃するので,大小のスケール感が大きく変化するダイナミックなボス戦を楽しめるのである。
さて,発売後に好評を博したASTRO BOTだが,Doucet氏によれば,製品版で実現できなかった要素もあるそうだ。とくにマルチプレイヤーモードは,開発当初から盛り込むつもりでありながら,結局は実現できなかったとのことで,開発チームにも未練があるようだった。
オンラインでのマルチプレイであれば,実現できなくもなさそうなので,ぜひ見てみたい要素ではある。
ASTRO BOTで実現したノウハウがGDCというイベントを通じて広がることで,1人称視点以外でも面白いタイトルが今後も増えていけば,VRゲームの世界も一層魅力的なものになるのではないだろうか。
ASTRO BOT:RESCUE MISSION公式Webページ
- 関連タイトル:
ASTRO BOT:RESCUE MISSION
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