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【月イチ連載】友野 詳の「異世界Role-Players」第4回:オークにゴブリン,悪の下っ端種族〜あいつらをチョロいと思っちゃいけない
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印刷2019/07/30 11:00

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【月イチ連載】友野 詳の「異世界Role-Players」第4回:オークにゴブリン,悪の下っ端種族〜あいつらをチョロいと思っちゃいけない

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とある日の立場が逆転した冒険にて


語り手:ということで,君達が勝手に住みついた洞窟に恐るべき冒険者がやってきたわけだが
(今回,中の人が初参加の)コボルド:……逃げる?
(ふだん戦士の彼が演じる)オーク:男には負けると分かっていても戦わねばならぬときがあるブヒ。我が家を奪われるわけにはいかんブヒ。いさぎよく散るも雑魚悪党の美学ブヒ
(ふだん魔術師の彼が演じる)ゴブリン:落ち着けゴブ。策はあるゴブ。まずは煙が必要でゴブ
オーク:いつもおまえが,ゴブリンを燻し出してるアレか? ブヒ
ゴブリン:取って付けたような語尾はいいゴブ。コボルド,おまえの持ち物,料理用具一式に発火道具が含まれているのは確認済みゴブ
コボルド:マジで? じゃあ,寝床に使ってる藁とか積んで火をつけてみるけど
語り手:煙は出るけど,きみらが洞窟の奥にいるんだから,そっちに流れてくるよ?
オーク:だめじゃねーか!
ゴブリン:いいから,走るゴブ。煙にまぎれて追いつかれないように,ふりきらないようにゴブ
コボルド:火で逆上させて,わざと追いかけさせるってこと?
オーク:おい,大丈夫かよ。この奥にいるのって……
ゴブリン:イチかバチか。正面から冒険者に挑むよりは助かる確率が高いゴブ
語り手:なるほど。煙が流れ込んできて,洞窟の最奥部で眠ってたドラゴンが目覚めるね。じゃ,冒険者ときみらのどっちに怒りをぶつけるかは,サイコロの出目しだい。五分五分にするか
コボルド:ああ,そこはゴブリンだけに
語り手:ドラゴンブレ〜〜〜ス!


 今回は,悪い種族のお話です。ファンタジーに登場する邪悪な種族といえば,そりゃあもう数限りなくいるわけです。第1回でとりあげたエルフの闇の同族,ダークエルフなんかは代表格ですよね。あれは邪悪でない場合も多いですけど。
 多くのファンタジー世界に共通して登場する敵役のうちで,雑魚でありかつ人間型の種族となると「ゴブリン」「コボルド」そして「オーク」の3種族がまず挙がると思います。この3種族,きちんと考えれば明白な差異がそれぞれにあるのですが,それでも共通する要素というのはあるもので……

  • 平均的な人間より,体格・知力ともに劣っている。
  • でも小狡さは持ち合わせており,意外に器用。
  • 他者の苦痛に喜びを感じる。じわじわ苦しめるようなものではなく,直接的な肉体の苦痛を好む。
  • 卑怯で卑劣で,恥の概念がない。
  • 優しさとか高潔さ,いさぎよさとは無縁。
  • 短絡的な欲望のままに動き,長期的な計画は立てない。

 
まあ,つまりは小粒な悪党,ってことなんですけどね。ゲームでは,いわゆる戦闘員的な立ち位置で登場することが多いようです。


小鬼どもは殲滅だ――というのも世界によります


 というわけでまずゴブリン。ゲームのみならず,西洋風ファンタジー世界では,そのほとんどで「初心者の相手」という立ち位置で登場します。小鬼,という訳語が使われることが多いゴブリンですが,元を辿れば「小妖精」と称したほうがいいのかもしれません。小鬼という言葉でも可愛いイメージはあるはずですけどね。
 ゴブリンは,そもそもは西欧の伝承に登場するいたずら者の妖精です。悪いのもいますが,善良なのだっているんです。家の中に出没するお手伝い妖精や,荒野で人を助けてくれる妖精もゴブリンです。肌が緑色という設定をよく見かけますが,これは妖精らしさの名残りなのかもしれません。エルフの回でお話したように,「妖精は緑を身に着けている」という伝承があるからです。「妖精」としてのエルフとゴブリンは,ある意味表裏一体を成していたのでしょう。

アニメ版「ゴブリンスレイヤー」より (C)蝸牛くも・SBクリエイティブ/ゴブリンスレイヤー製作委員会
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 小柄で意地悪なゴブリンということでは,童話や昔話にもたくさん登場しています。お姫様をさらったり,宝物を盗んだり,命にかかわるようないたずらを仕掛けたり。こうした妖精であるゴブリンが,冒険者達の定番の敵役となっていった経緯には,やはりテーブルトークRPGの元祖「ダンジョンズ&ドラゴンズ」(以下,D&D)が大きく関わっています。
 ただ,初期のD&Dにおけるゴブリンは,昨今イメージされるような“やられ役”とまでは言い切れない部分があるんですよね。当時のゲームバランスでは,低レベルのPCなら,ゴブリンの一撃であっさり死んでしまう可能性も少なくなかったのです。小剣なんかで刺されたら,戦士でも死んじゃうかもしれない。リアルに考えたら,当たり前っちゃ当たり前なんですけどね。
 でもヒーローになることを楽しむゲームで,いきなり雑魚に殺されるのは悲しいという意見は当時からあったようで,次第にゲームバランスは調整されていきました。かくて,駆け出し冒険者が初めて戦っても,まず負けることのない初心者向け入門キャラに就任したわけです。

余談ですが個人的にゴブリンと聞いてまず思い浮かべるのは,ロックバンドのゴブリンだったり。ジョージ・A・ロメロ監督の不世出の名作「ゾンビ(原題:Dawn of the Daed)」(1979年)をはじめ,数々のホラー映画のサントラを担当しました。「ソードワールド短編集 マンドレイクの館」(1991年)に収録の拙作「子供たちは眠れない」が「ゴブリンvs.ゾンビ」のお話なのは,ちょっとそこに引っ掛けています(リンクはAmazonアソシエイト)
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 とはいえ,ゴブリンだって蹂躙されてるばかりではありません。バリエーションとして「強化型」のゴブリンが登場するようになったのです。ゲームの手法としては定番ですね。
 強いゴブリンといえば,まずはホブゴブリンですね。“ホブ”というのは“ロビン”の愛称から来ています。そこから田舎者のゴブリン=肉体労働向きゴブリン,といったイメージで,普通のゴブリン達の用心棒的ポジションに収まることが多いようです。作品世界によっては,ゴブリンを束ねる上位種という扱いの場合もあります。「ホブ」には「かまど」の意味もあるそうで,その捉え方だと,ゲームに登場する大柄な戦士タイプのホブゴブリンとは,また違ったイメージになりそうです。

 そのほかにも,魔法を使うゴブリンシャーマンや,上位種のゴブリンキング,そのほかチーフにチャンピオン,クイーン,ハイメイデン,ハイゴブリンにスーパーゴブリンなどと,挙げるとキリがないほどバリエーションが生まれていきます。
 こういった上位種のゴブリンが存在する世界だと,ゴブリンはだいたい人型の独立した種族になっていて,いわゆる「妖精」という扱いではなくなっています。ときには善良な種族(人間とかホビットとか)が堕落して生まれたのがゴブリンなのだ,なんて設定もあります。

 変わり種として,「トンネルズ&トロールズ」におけるゴブリンは,緑色のぬめぬめした肌を持つ「両生類」として登場します。「ルーンクエスト」の舞台であるグローランサでは,ゴブリンは(諸説ありますが)シダ系の植物です。レッドエルフとも呼ばれていまして,そもそもエルフ自体が植物種なんですね。それから未訳ではありますが,「GURPS Goblins」に登場するゴブリンも忘れがたいところ。19世紀のロンドンが舞台のテーブルトークRPGですが,住民が全員ゴブリンで,プレイヤーは性格がねじくれた,こすっからくて自分の欲望に忠実なゴブリンをプレイします。ゲームの趣旨としては,「ゴブリン達を主役にディケンズ風の物語をやろう」という感じで,ヴィクトリア朝期の文学ならほかにも色々あろうものを,よりにもよってなチョイスと言えましょう。

 エルフのようにかっこいいゴブリンということでは,E・R・エディスンの小説「ウロボロス」(1922年)が代表的です。水星を舞台に修羅国(デモンランド)の英雄と魔女国(ウィッチランド)の悪漢の戦いを,古風な文体で描いた英雄戦記ものの小説です。この作品においてのゴブリンは,主役側である修羅国に味方する,勇敢で正義感あふれる妖精種族でした。
 かっこいいでなく可愛い方面なら,テーブルトークRPG「ブルーフォレスト物語」(1990年)に登場するゴブリナを外すことはできません。この世界のゴブリンは,一般的なイメージに近い醜悪な外見なんですが,突然変異によってゴブリンから生じたゴブリナ達は,美しい人間の幼女の姿をしています。獣耳で,モフモフです。モンスター美少女化の先駆けの一つですね。

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コボルドはどうしてワンワンいうのか


 さて,ゴブリンに負けず劣らずの悪の雑魚種族「コボルド」のお話。コボルトと濁らない表記と,コボルドと濁る表記がありますが,原語はKoboldで,英語読みか独語読みかの違いです。「ソード・ワールド」ほかのグループSNE作品では「コボルド」と表記することが多いので,ここでは濁るほうで統一しています。

 昨今では,コボルドというと直立した犬っぽい種族というイメージがありますが,これもまた原典は西欧の妖精伝承で,やっぱり本来はそんなに悪いやつらじゃありません。
 鉱山に出没する妖精だったという話もあります。こっちは銀などを腐らせてしまう悪い妖精。コバルトという金属がありますが,あれは毒を含んだ煙を出すために,出くわした人が「コボルドが腐らせた銀だ」ということで,コボルドにちなんで名付けられたんだとか。この「鉱石を腐らせる」という伝承から,金属加工を得意とし,鉱山に住むドワーフと対立しているとする設定も見かけます。

「Dungeons & Dragons Online」より
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 でまあ,そういう存在なので,元々の姿は小柄な人型でした。じゃあなんで直立した犬になったかというと,例によってD&Dの影響ですね。とはいえD&Dのコボルドは,モフモフした可愛らしいヤツらじゃありません。鱗があり,どっちかといえばトカゲっぽい。これは第5版になった現在も変わっていません。
 しかし初期のD&Dに「犬っぽい頭部(を持つ爬虫類)」という記述があったため,日本ではそれが強調されていき,ファミコン版「ウィザードリィ」や「ソード・ワールド」の頃にはすっかり直立した犬の姿になっちゃいました。今やすっかり犬化してしまったコボルドは,昨今はずいぶん可愛げを身につけてしまったようですね。

こちらはPC版「Wizardly II」のコボルド。この時点ではまだ犬顔ではありませんでした。爬虫類というか,カエルっぽい?
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 コボルドがメインを張る作品となると,やはり手前味噌になってしまいますが「ガープス・コクーン」を推したいところです。いろいろなパロディ要素を詰め込んだテーブルトークRPGですが,この世界のコボルドは僧侶がブルドック,貴族がチワワ,戦士がドーベルマンという具合に,階級と品種が一致しています。崇める神は破壊神テ・ヨーコ。荒ぶる破壊の獣神として信仰されていますが,実は暗黒神に飼われている室内犬という設定です。きっと暴れん坊すぎて,調度品の壺とか壊しまくっちゃったんですねえ。で,破壊の獣神というわけです。


オークはどうしてブヒブヒいいはじめたのか


 ゴブリンやコボルドとは違い,オークは伝承が元ではなく,創作によって生まれた種族です。出典は,これまた定番の「指輪物語」からですね。ですが,J・R・Rトールキンが創造した中つ国のオークは,雑魚なんかではありません。悪の尖兵ではありますが,下っ端ではなく幹部クラスです。
 オークは,エルフを憎んだ悪の冥王モルゴスが,彼らを捕まえて魔法で堕落させて生み出した存在です。骨の髄まで悪に作り替えられ,堕ちた存在であるからこそ源であるエルフを強く憎むのです。前にも紹介したように,中つ国におけるエルフはあらゆる面でハイスペックな種族ですから,堕落したとはいえその鏡像であるオークもまた,なかなかの強敵なわけですね。しかし「量産型ではあるが強い怪人」という立ち位置は,現在にはあまり引き継がれていません。再生怪人みたいなもんですかね(たぶん違う)。

「ラグナロクオンライン」より
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 トールキンの著作にはゴブリン=オークとの記述もあるのですが,発祥はともあれ,ゴブリンとオークの分化は,その後どんどんと進んでいきます。さまざまなゲームで設定が加わり,変更されて,今やすっかり別種族。最近のオークは「豚のような顔の種族」と認識されています。元は「豚のように鼻孔が縦に裂けている」程度だったんですけど。「豚のような鼻」が,「豚のような顔」になっていったわけですね。
 D&Dの時点でも,ある程度の豚顔化は進んでいたようで,研究家の森瀬 繚氏は,その著作において「Orc(オーク)とPorc(ポーク,豚肉)という語呂合わせもあったのでは」と指摘しています。Orcという命名の由来はOrcus(オルクス,ラテン語で冥府の意味)ではないか,と言われていますが,「地獄の豚」と書くとこれはこれで怖そうですね。

 西欧では,黒山羊などと並び豚も悪魔的なイメージで捉えられることがあるので,豚頭になっても悪役としての印象はあまり揺らいでいないかなと思います。豚のマスクをかぶった悪魔崇拝者とか殺人鬼とか,たまにホラー映画とかにも出てきますし。
 それはともかく,昨今では豚鼻どころから完全に豚の頭になってしまい,体形もどんと腹の出た,まさに豚人間型が多いです。種族の性格的な特性も,それにあわせて大食いや怪力,そして女好きな設定が盛られていきます。

 なんとなーくコミカルな雰囲気もありますが,この変化の原因じゃないかなと個人的に思ってるのは,「体は人間で頭部は豚。それなりには強いけど,食べ物と女性に弱くて,言動が三下っぽい」という,超有名キャラクターがすでに存在していたことです。つまり「西遊記」の猪八戒ですね。
 女好きだけあって,オークは人間との間に子をなすことがあります。D&Dではプレイヤーが選択できる種族の一つにハーフオークがあるくらい。戦士としては,並の人間より優秀なスペックを持っています。オーク社会で悪に徹することもできず,人間社会からは排斥され,それでもおのれの生き方を貫くハーフオーク達は,個人的にかなりかっこいいと思うのですが……本邦でいまひとつ人気がないみたい。なお「ソード・ワールド」では,トールキン由来の種族ということもあって,モンスターとしてのオーク(orc)は存在しません。代わりに樫の木のゴーレムがオーク(oak)と呼ばれています。


もう雑魚とは呼ばせない,悪の上位種族達


悪の幹部とのある日の冒険


語り手:冒険者を撃退したのもつかの間,今度は人食い鬼オーガが,君達の洞窟にやってきた
コボルド:(揉み手)えー,旦那様のようにお強い方が,このように狭い洞窟にお住まいにならずとも
(語り部が演じる)オーガ:俺だけで住むなら十分な広さだなあ。ドラゴン殿にお仕えするのは,俺くらい強く賢い怪物がふさわしいと思わんか?
オーク:これって,遠回しに,俺達に出て行けっつってる?
コボルド:あからさまに言ってるわよ。どうする? ドラゴンのとこに追いこむ作戦も使えないよ?
ゴブリン:……案じるな,我に策があるゴブ
オーク:そうか! どうやって倒す?!
コボルド:できんの? そりゃ,この洞窟は出たくないけど,無茶して死ぬのはもっといやだよ?
ゴブリン:(がばっと土下座して)へへーっ,親分達,どうぞあっしらを下働きに使ってくださいゴブ。おまえらも頭をさげるんだゴブ
コボルド&オーク:(しぶしぶ)ははぁ〜
ゴブリン:これは先日やってきた冒険者の死体から盗んだ宝でゴブ。さしあげるでゴブ〜
コボルド:あんた,いつの間に
ゴブリン:ふふ。これを持たせておけば,いずれあらわれる別の冒険者が「仲間の仇」と逆上して,我らを無視してこいつを狙ってくれるゴブ
オーク:……やりくちがセコいわー
コボルド:うまくいくのかしらん……
 

 駆け出しを卒業した冒険者が挑むことになる悪の種族としては,「小鬼」であるゴブリンを束ねていることが多い「人食い鬼」のオーガや,「岩鬼」のトロールがその代表格です。
 オーガ(オーガーやオルグとも)は,日本人が考える「鬼」のイメージに一番近い,西欧ファンタジーの怪物じゃないかなと思います。
 似ているのは粗暴で力が強く,体の色が赤かったり青かったり,角と牙があるところなどですね。あと,人間を餌として襲うところにも「鬼」っぽさがあります。都を襲って姫君をさらう鬼を,5人の冒険者パーティが攻略する「酒呑童子絵巻」なんか,そのままファンタジーゲームのシナリオになりそうです。毒を仕込んだ酒を勧めて,体が痺れたところを一人ずつ始末していくとか,GM泣かせなプレイヤーみたいですね。

源頼光とその一行による酒呑童子退治を描いた「酒呑童子絵巻」。近年は「Fate/Grand Order」に登場したことでも有名なエピソードと言えましょう
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 それから変身などの特殊能力や,魔法を心得ているような奴が混じっているのもオーガの特徴です。特定の人間や,望んださまざまな姿になれる変身能力は陰謀向きで,物語にも使いやすい。
 一方で,自信過剰で傲慢な性格は大きな弱点となりえます。その典型が,童話「長靴をはいた猫」に出てくる,自在の変身能力を持ったオーガでしょう。おだてられ,猫のいうがまま「自分よりずっと小さなネズミにも化けられる」ことを示したオーガは,隙をつかれて猫にぺろりと食べられてしまいます。東映動画(当時)の長編アニメ「長靴をはいた猫」では,変身能力を駆使した活劇を繰り広げていたので,ちょっと展開が違いましたけど(あの作品ではオーガではなく魔王ルシファですが)。

「魔法の国ザンス」(リンクはAmazonアソシエイト)
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 オーガが活躍するファンタジー作品としては,「魔法の国ザンス」シリーズ(1979年〜)が印象的です。このシリーズのオーガ種族は,頭が悪ければ悪いほど魅力的とされる設定なんですね。おかげでハーフオーガなんぞに生まれついた日には,モテるために必死で頭の悪いふりをせねばなりません。一人称はオラで,しゃべるときは助詞を省略し,敵と戦う策略を思いついても,たまたまそうなったフリをして実行しなくちゃならないわけです。
 オーガが出てくる作品なら,最近だと「転生したらスライムだった件」がありましたが,あのオーガにはポンコツな面こそあれ,間抜けな要素はほとんどありませんでした。ゴブリンも登場しますが,一部をのぞいてイケメンやイケオジ,美女や美少女でしたね。



トロールは醜いか美しいか


 オーガに並ぶ難敵といえるトロール(トロル,トロウルとも)は,元は北欧ノルウェーの説話に登場する妖精です。というより,日本人的には「妖怪」に近いかもしれません。花の下に隠れられるほど小さなものから,山のように大きなものまで,伝承にはさまざまなトロールが存在します。我々日本人になじみ深いトロールと言えば,トーベ・ヤンソンの児童文学に登場するムーミントロールでしょうか。
 ムーミンもそうですが,ファンタジーに登場するトロールのデザインは,頭が大きくて,耳や鼻がこれまたでかく,乱ぐい歯が口からはみだしていて,おなかがでっぱった体形が多いようです。要するにカバ系ですね。なので,どことなくコミカルに捉えられがちなときもありますが,ゲームにおいては強敵です。

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 多くのゲームでは,トロールは再生能力と怪力,岩のように固い肌を持った巨人として登場します。高い物理防御力と物理攻撃力の合わせ技です。弱点は太陽の光。「指輪物語」では,ガンダルフの計略にひっかかり,陽光を浴びて石になってしまうトロールが印象的でした。というわけで,ゲームに登場するトロールのイメージは,やはり神話から「指輪物語」を経由してD&Dで定着,というお馴染みのコースを辿っているわけです。

 始末が悪いことに,魔法を使いこなす知能の高いトロールも,まれにですが居たりします。テーブルトークRPGで,トロール(ここはトロウルと書くべきかな)を大きく扱っているのが「ルーンクエスト」です。このゲームの舞台であるグローランサでは,トロウルは知的種族のなかでも,一,二を争うを争う強大な勢力として登場します。人気もあって,トロウルを演じるためのデータブックが複数出版されているほどです。見た目はやっぱりカバなんですけども。
 カバ系じゃないものとしては,アメリカの作家ポール・アンダースンの「折れた魔剣」に登場する人型のトロールがあります。エルフとトロールが対立する北欧神話風世界が舞台ですが,どちらの種族も美しく,高貴で魔法の力に富む,人間を超えた種族として描写されています。拙作「ルナル・サーガ」のトロールも美形ですが,あれはこの作品の影響だったり。

 美しいトロールよりも,やっぱり不細工で巨大なトロールが好きという方におススメの映画が,ノルウェー製のモキュメンタリー映画「トロール・ハンター」(2010年)です。舞台は現代。森で動画撮影をしていた学生達は,奇妙な男――トロールハンターに出会います。トロールの実在を隠蔽しようとする政府に雇われ,秘密裏にトロールを狩っていたのです。自分の仕事に疑問を持つハンターを説得し,学生達は動画でトロールの存在をネットに暴露しようとするのですが……というお話です。大小さまざまなトロールが登場する,イカした(イカれた)映画となっています。ぜひご覧あれ。



悪にどこまで踏み込むべきか


 悪の種族を演じるとのは,大抵の場合,物語の進行役である語り手側です。プレイヤーが善の側を演じることが大半ですから,当たり前ですね。ゲームデザイナーやシナリオライター,そしてテーブルトークRPGだとゲームマスターの仕事です。

 私からそうした皆さんへのアドバイスとしては,まず「それぞれの作品世界における種族設定を読みこみ,しかし囚われすぎることなく,自分らしい描写をしよう」といったあたりになるでしょうか。
 世界のことであれ,個々のキャラクターについてであれ,設定というのは「使うため」「場面ごとに改めて考えずに済ませるため」「物語をもっと面白くするため」にあるわけです。「こういう時,このキャラクターはどうするだろう」――そんな風に迷ったとき,あらかじめ指針が決まっていれば一から考える手間が省けますよね。
 あるいは,ある程度の縛りを入れることでゲームバランスを調整するのも,設定の役目と言えます。例えば「あくまで雑魚だから,主人公の手の内を読んだりしない」とか,「先のことは考えずに衝動的に行動する」とか。ゲームマスターの皆さんは,こういうのをぜひうまく活用してほしいところ。
 いずれにせよ,「設定は面白さを増すためのもの」というのを忘れなければ大丈夫です。なあに,設定が邪魔になったら捨ててしまえばいいんです。もちろん,いきなり無視しては受け手が戸惑いますから,なぜここは例外なのかを説明する必要はありますけどね。

 もう一つ,「グロテスクとエロティシズムの許容範囲は人ぞれぞれ」というのも,肝に銘じておきたいポイントです。これはとくに,創作者を目指す人全般に言えることなんじゃないでしょうか。当たり前に思えて,意外に見落としがちなんですよね。
 こうした受け手が目を背けたくなるようなシーンというのは,「こいつらは悪い奴だ」「やっつけていい相手なんだ」というのを示すのに使うのが基本です。基本なんですが,ついつい,表現そのものが目的にすり替わってしまうのです。もちろん場の全員が合意しているなら,あるいは“そういう作品”だと受け手が納得しているなら,表現そのものを突き詰めるのも悪くはありませんが,どっちが目的だったのかはくれぐれも見失わないでほしいところ。悪を描いて悪を見つめていると,人の心はそっち引きずられて心が麻痺し,限界を見失ってしまいがちになります。ゲームマスターとしても,「ゴブリンスレイヤーTRPG」などでは陥りがちなミスなので,お気を付けあれ。

「Kobolds Ate My Baby」(リンクはAmazonアソシエイト)は,コボルドになったプレイヤー達が,邪悪な神にささげるいけにえの赤ん坊をさらってくるという筋書きを楽しむテーブルトークRPG。コボルド達は「鍋のフタ」とか「死んだネズミ」とかしか装備できないので,とにかくすぐ死ぬのが特徴。ファンブル(大失敗)でもした日には,突如空から牛が降ってきて死ぬ(マジで)
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 さて,ここまで悪を演じるのは語り手側という前提で話してきましたが,世の中にはプレイヤーが演じるパターンのゲームもないわけではありません。例えば「トンネルズ&トロールズ」のサプリメント「モンスター! モンスター!」とか。未訳ですが「Kobolds Ate My Baby」なんてのもあります。これらはプレイヤーが悪の種族になり,悪さをするゲームです。

 こういうゲームで遊ぶときのコツは,とにかくゲラゲラ笑いながら遊ぶことですね。なにせゴブリンやオークといった三下を演じるわけですから,意識してバカに徹したほうが楽だと思います。悪に堕ちて,悪に溺れる内面を描く――みたいなシリアス路線は私もやってみたいですが,即興でやるにはかなり難度が高いでしょう。

 一方,「ソード・ワールド2.0」の蛮族キャラクターや,「ルーンクエスト」のトロウルのような善の側についた悪の種族で遊ぶなら,いわゆるダークヒーローを目指すのが基本ですね。せっかくの悪の種族を選んだのですから,「悪の本能と,新たに生じた倫理感の葛藤」をうまく出せると盛り上がるんじゃないでしょうか。
 ただこの場合,気をつけたいのは「正義とは何か」という課題に,どの程度踏み込むかなんですよねえ。この議論は人によってけっこう意見が分かれるところなので,卓を囲む相手次第でもありますが,あまり深追いしないほうが無難かもしれません。ただ「正義」は定義できなくても,「まぎれもない悪」なら一致しやすいところなので,こちらを追いかけるのが良いでしょう。境界的ではない明白な悪も,創作の中には存在しえますから。そこから1歩踏み込むなら,それに向いた作品がいくつかありまして……これはいずれアンデッドの回にでも,改めて紹介したいと思います。

 今回は妖精が起源の邪悪な5種族(オークはちょっと微妙)を紹介しました。8月27日掲載の次回は,同じく妖精でも善良な役回りのことが多い種族――フェアリーやレプラカーンあたりの話をお届けする予定です。また,よろしくお付き合いください。

■■友野 詳(グループSNE)■■
1990年代の初めからクリエイター集団・グループSNEに所属し,テーブルトークRPGやライトノベルの執筆を手がける。とくに設定に凝ったホラーやファンタジーを得意とし,代表作に「コクーン・ワールド」「ルナル・サーガ」など。近年はグループSNE刊行のアナログゲーム専門誌「ゲームマスタリーマガジン」でもちょくちょく記事を書いています!(リンクはAmazonアソシエイト)
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