連載
「あんスタ!!」ストーリー紹介連載第4回。「スカウト!風来坊」「春雷*謳歌のテンペスト」「スカウト!お菓子の家」「軋轢◆内なるコンクエスト」を語る
Happy Elementsのアイドル育成ゲーム「あんさんぶるスターズ!!Basic/Music」のストーリーを紹介する記事の第4回は,「スカウト!風来坊」「春雷*謳歌のテンペスト」「スカウト!お菓子の家」「軋轢◆内なるコンクエスト」の4本を取りあげる。本稿では,“知っているとストーリーをより楽しめるポイント”の解説と,筆者の感想や考察をお届けする。記事内では詳細なネタバレは控えているが,できるだけ各ストーリーの読了後に読むのがおすすめだ。
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ストーリーピックアップ
「スカウト!風来坊」
開催期間:2020年5月14日〜5月30日――あらすじ――
近頃,周囲に妙な気配を感じる鬼龍紅郎。神崎颯馬と蓮巳敬人に促されて気配について話をしてみると,ES内には「誰もいないはずの部屋で声や物音が聞こえる」「幽霊を見た」といった噂が流行っていることを知る。3人が聞き込みをしていたところ,噂の正体らしき人物に行き当たり……。<全8話/シナリオ:西岡麻衣子(Happy Elements株式会社)>
◆ストーリーのここをチェック!
・鬼龍紅郎と二度の「馬鹿野郎」
鬼龍紅郎が思い出す「友達が馬鹿な真似をしようとしていたら……」という守沢千秋のセリフは,「!」の【スカウト!ギャング】で確認できる。【ギャング】では,本ストーリーでも話題にあがった“昨年の夢ノ咲学院へのテロ予告”を知った紅郎の行動が描かれているのだが,そこではさらに前年にも同じことを千秋に言われていたことが明かされている。「自分には拳しかない」と信じていた頃の,不器用ながらも仲間を想う紅郎が見られる一作だ。
・朔間 零が青葉つむぎに冷たい理由
鬼龍紅郎がES内の噂話を聞きにいった先で,朔間 零は青葉つむぎを“敵”とみなした発言をする。この経緯は,2人がかつての夢ノ咲学院において“五奇人”と“元fine”というセンシティブな関係だったから……ではなく,「!」の【スカウト!悪魔の館】で,零の弟の朔間凛月がつむぎに懐いていることが判明してしまったのがきっかけなのかもしれない。ちなみに【悪魔の館】では,零とつむぎ,凛月に葵 ひなたを加えたメンバーで“兄弟ごっこゲーム”をすることになり,弟を演じる零や兄を演じる凛月を見られる。
・葵 ゆうたと幽霊&寺生まれの蓮巳敬人
幽霊話に過敏なまでに反応するゆうただが,もしかするとこれは「!」の【スカウト!夜の怪談】での恐怖体験がトラウマになっているのかもしれない。【夜の怪談】では,兄の葵 ひなたから“夢ノ咲学院の七不思議”の噂を聞いたゆうたが,Knightsの瀬名 泉や朔間凛月によって,ちょっとかわいそうなくらいに脅かされてしまったのである。そんな彼が,寺の息子である蓮巳敬人を頼るのは必然かもしれない。ちなみに敬人の実家の寺は,「!」の【追憶*それぞれのクロスロード】や【躍進!夜明けを告げる維新ライブ】などで見ることができる。
・神崎颯馬と鳴上 嵐
神崎颯馬と鳴上 嵐のやりとりを見て筆者が思い出したのは,「!」の【満喫♪秋の修学旅行】でのエピソードだ。彼らは夢ノ咲学院の2年生時(昨年)に,修学旅行で秋の京都へ一緒に行っている(大神晃牙と乙狩アドニスは仕事の都合で,影片みかと逆先夏目はアプリ未登場のためいずれもイベントには出てこない)。アイドルとして活躍する傍ら,高校生らしく名所の観光や大浴場での騒動(!),枕投げを楽しむなど,彼らの日常が垣間見えるストーリーとなっている。
◆筆者が選ぶ“心に残った言葉”とストーリー所感
どのユニットに対しても受け取る人それぞれに抱いているイメージがあると思うが,筆者が紅月を見て頭に浮かぶのは,「不器用」「頑固」「義理人情」といったキーワードだ。誤解を恐れず言うならば,彼らは3人とも“要領の良い生き方”からは最も遠いタイプというか,たとえば自分の義に反する手段を使って勝利を収めるくらいなら,正々堂々と戦って負けを選ぶ人たちのように思える。
前述したように,以前の鬼龍紅郎は「自分には拳の強さしか誇れるものがない」と思い込み,人の役に立つことに対しては本人が言うような自己満足のかけらは感じられず,その行為はむしろ“贖罪”のようにも思えた。神崎颯馬は実直過ぎるほど実直で,そのまっすぐさは逆先夏目の「よくそんなに純粋なままで高校生まで育った」というセリフや,羽風 薫の「颯馬くんみたいないい子が幸せにならなかったら嘘だ」というセリフにも表れているように思う。蓮巳敬人もまた,厳しそうに見えて,会話の端々や行動に情の厚さや人の良さがにじみ出てしまっていると感じる。説教の長さも,愛ゆえのものなのだろう。
自分のなかの正義を曲げないという意味で,3人はとても頑固だと思う。たとえば本ストーリーで,紅郎の様子がおかしいと感じた颯馬や敬人は,心配ごとを打ち明けるように促す。「話したくなければ別に話さなくてもいい」という意味ではなく,決して言葉数が多いわけではないが,そこには「悩みや困りごとを話すまでは梃子でも動かない」という静かな強い意志が見える。なんとも紅月らしいというか,優しい頑固さが感じられて微笑ましい。彼らは分かりやすく仲良く手を取り合うというより“共に歩むと決めた誓いは破らない”,ぶっきらぼうで熱い魂を持つイメージがある。そういう真面目さが彼らの強さにもなり,ときにはユーモアにもつながるところが,紅月の愛すべき魅力の1つかもしれない。
ところで「!」の【スカウト!花の色札】を読んだときにも思ったのだが,不思議な余韻を残す紅月の物語は,ちょっと落語的な雰囲気を感じたりもする。このストーリーのオチには,いつか続きがあるのだろうか……。
ストーリーピックアップ
イベント「春雷*謳歌のテンペスト」
開催期間:2020年5月15日〜5月24日(Basic)2020年5月15日〜5月23日(Music)
――あらすじ――
ここのところ様子がおかしい伏見弓弦を心配した姫宮桃李は,天祥院英智と日々樹 渉に相談をする。それを受けて1人物思いにふける英智だが,そこに現れた渉は「自分に任せてほしい」と話す。すると後日,英智が目にしたのは3人が用意した「英智デー」なる企画だった。<全9話/シナリオ:日日日>
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・姫宮桃李と伏見弓弦の主従関係
姫宮家の次期当主である桃李と,それに仕える執事の伏見弓弦。2人は主従関係にあり,以前の桃李は弓弦を「奴隷」と呼ぶこともあったが,弓弦のほうが何枚もうわてだったようだ(筆者的にインパクトがあったのはやはり「!」の【幕開け!夢ノ咲サーカス】のチェーンソー事件である)。なお,桃李は天祥院英智に憧れて夢ノ咲学院への入学を決め,1つ歳上の弓弦も一緒に学院に入ったため,昨年の弓弦はプロデューサーと同じく“転校生”という立場であった。
・【テンペスト】とシェイクスピア作品について
【テンペスト】には,シェイクスピア作品のネタがいくつか散りばめられている。まずストーリータイトルにもある「テンペスト」は,“ロマンス劇”にカテゴライズされた,単独作としてはシェイクスピア最後の作品である。英智が言及した,シェイクスピア自身の想いとも言われる主人公・プロスペローのエピローグのセリフは,観客に向けての感謝と自身の解放を願うものだ。なお「テンペスト」には「あらし」という邦題もあり,物語の中には「エアリアル」という空気の精が登場する(本イベントストーリーのサブタイトルは「春の嵐」と「風の精」)。
また,英智と渉の会話に「イギリスを最初に侵略したカエサル」が出てくるが,カエサル(シーザー)を描いたシェイクスピア作品には「ジュリアス・シーザー」がある。さらに渉のセリフ「綺麗は汚い,汚いは綺麗」は「マクベス」に登場する3人の魔女の言葉で,同じく渉による「この世に生まれ落ちた瞬間に,我らの人生という舞台は始まっている」というセリフは,「お気に召すまま」に登場する「この世は舞台,人はみな役者だ」という言葉を連想させる。
・fineのはじまり【フラワーフェス】
前年度の春のTrickstarによる革命が行われる直前,英智は入院中であった。その頃に行われたのが夢ノ咲学院の近所の繁華街で開催された【フラワーフェス】という校外のドリフェスで,そのときの様子は「!」の【誉の旗*栄冠のフラワーフェス】で読むことができる。紅月とともにfineが出演したこのライブは,英智が欠けている状態だが,現在のメンバー構成で初めて行われたものである。すっかりおなじみ(?)となった,渉による桃李のスパルタ特訓はこのときが初。
・fineというユニット
fineは前年度,夢ノ咲学院No.1と言われる強豪ユニットだった。その実力と人気は今年度になっても健在で,現在はESの「ビッグ3」に数えられるユニットの1つとなっている。以下でメンバーについて補足しよう。
【天祥院 英智】
アイドルと生徒会会長,アイドルとESの代表という立場はどのくらい多忙なのか想像もつかないが,もともと体があまり強くないというハンデを持つ英智は,文字どおり身命を賭してアイドル業界の発展に力を尽くしている。英智が言う「アイドルを文化という高みにまで引き上げる」とは,「!」の序盤から口にしている壮大な夢であり願いだ。筆者は彼の存在を,本作に登場するアイドルたちすべてが進む道の舵を取るという意味では,最も重要なポジションであると考えている。
【日々樹 渉】
英智を訪ねる際に窓から現れた渉だが,彼は「気球に乗って上空から現れる」「天井から降ってくる」「声帯模写を駆使して他人に化ける」などの突飛な登場をすることが多い。彼が本心で何を考えているかは仮面の下に隠れて見えないようでいて,ときには意外とストレートに表現しているようにも思える。また,英智との会話で出てきた氷鷹北斗のことを「うちの子」と呼んでいるが,これは前年度の夢ノ咲学院で演劇部の先輩,後輩という関係だったことに由来する(さらに渉は北斗の祖母とも懇意である)。
【姫宮桃李】
前年度のエピソードではユニットで唯一の1年生ということもあり,桃李の成長には何度かスポットが当てられていた。その数々の試練のおかげか,入学直後と現在では彼の意識や強さが大きく変化したように見える。「ずいぶん立派になって……」と保護者のような気持ちになってしまうのは,弓弦だけでなく多くのファンもそうなのではないだろうか。なお,プロローグでの桃李のセリフに登場した“やきもち妬きの妹”については,「!」の【スカウト!高貴なる遊戯】を参照されたい(※妹本人の登場はない)。
【伏見弓弦】
ストーリー中でも語られているように,弓弦は姫宮家の執事となる前は軍事関連の施設で過ごしていた。メインストーリーなどで匂わされていた七種 茨との関係はこのときからのもので,当時は弓弦が教える側,茨が教わる側で訓練を受けていた。弓弦の“戦闘員”としての顔は【スカウト!風来坊】でも解説した「!」の【スカウト!ギャング】で,“参謀”としての手腕は【灼熱!南国景色とサマーバカンス】などで見ることができる。
◆筆者が選ぶ“心に残った言葉”とストーリー所感
筆者が今回のストーリーを読んで気づいたのは,いくつかのセリフが,過去のストーリーに出てくる言葉と対になっているように感じられたことだ。というわけで今回は“心に残った言葉”が複数あるので順に紹介したい。まずはこちら。
このセリフは,「!」の【誉れの旗*栄冠のフラワーフェス】に出てくる「仮面の奥は,のっぺらぼうです」という弓弦の言葉を彷彿とさせる。本ストーリーで英智が「君たち(渉と弓弦)にとっては,その仮面こそが自分自身であり誇りであり,魂そのものなんだろう」と言うように,2人は“道化”あるいは“従者”としての自分を,人生という舞台で演じているように思える。だがその“役”は自我そのものでもあり,決して自分を偽っているわけではないようにも感じるのだ。
英智のセリフでは,「その夢を潰すのは,僕だ。僕が,僕の夢が,誰かの描いた夢を潰すんだ」という言葉が強く印象に残った。これを聞いて筆者が思い出したのは,「!」のメインストーリー第一部での,「君がせっかく得た夢も希望も何もかも,踏みつぶしてあげよう」というセリフだ。前述のとおり,英智には「アイドルを文化という高みにまで引き上げる」という壮大な夢がある。それはこの世に存在するアイドルたちすべてに向けた深い愛と願いであり,革命やさまざまな経験を経た今は,夢を叶えるために伴う犠牲はすべて自分が背負うと覚悟を決めているように見える。だが,そんな悲痛な決意を秘めた英智だからこそ,彼が人生に美しさや歓びを感じている姿を見ると,胸がいっぱいになってしまうのだ。
このセリフは,「!」での3年生卒業間際の物語である【バトンタッチ!涙と絆の返礼祭】でのスバルとの会話で英智が言った「生まれてきて良かった」という言葉,“めでたしめでたし”のその先を紡ぐもののように感じる。彼自身,夢ノ咲学院での3年間で本当にいろいろなことがあった。けれど本人も言うとおり,「テンペスト」のプロスペローあるいはシェイクスピア自身のように,舞台を降りることはまだ許されない。それはきっと,この先の運命を共にする桃李と弓弦と渉,多くの友や仲間たちが,まだまだ彼と一緒に戦い,生きていくことを望んでいるからでもあるように思う。
最後に取り上げるのは,渉が【テンペスト】のステージで言う「今日も素晴らしい,何でもない日!」という言葉で,筆者が思い出したのは,ある日のfineを描いた「!」の【スカウト!ダンスフロア】だ。マザーグースの「Come, my children」の歌詞にある「For It's a pleasant day」にちなんだそのときの渉の言葉は,“正解も不正解もない,けれど素晴らしい日”という,生きる歓びに満ちたものだった。誰かが1人いなくなっても世界は回り続ける,けれどやっぱり,そばには愛する人がいてほしいと願う――【テンペスト】は,そんな当たり前の想いを大切にしたいと感じる物語だった。
ストーリーピックアップ
「スカウト!お菓子の家」
開催期間:2020年5月30日〜6月14日――あらすじ――
ある日,2人だけのお茶会を楽しんでいた紫之 創と朔間凛月。凛月はファンから贈られたプレゼントのお菓子を使った「魔女集会」を思いつき,鳴上 嵐と明星スバルを誘う。そんな中,プレゼントの中に創宛てのファンレターが見つかるのだが……。<全8話/シナリオ:木野誠太郎(Happy Elements株式会社)>
◆ストーリーのここをチェック!
・“おにいちゃん”な紫之 創
何ごとにも一生懸命な創は3人きょうだいの長男で,下には弟と妹がいる。(本人曰く)質素な生活でも家族仲はとても良いとのことだが,彼がかわいらしい見た目ながらとても芯が強いのは,そうした家庭環境の影響もあるのかもしれない。明星スバルとは「!」の序盤からその仲の良さが描かれており,メインストーリー第一部で起きたRa*bits出演ライブでのつらいできごとが,スバルの心に火をつけ,革命が進むきっかけにもなった。
・朔間凛月とお菓子のエピソード
凛月はお菓子作りが得意である。味は大変素晴らしいが,毎度見た目が(悪い意味で)ものすごいことになるらしい。凛月と手作りお菓子のエピソードは多く,Knightsが【DDD】で起こした事件後に,汚名返上のためボランティアに勤しんだ「!」の【スカウト!スイーツパティシエ】や【開演 ダークナイトハロウィン】,そのほかにも夢ノ咲学院の紅茶部が登場するストーリーなどでも描写されている。
・キラキラの明星スバル
アイドルとして,ファンの前では徹底して「キラキラした姿を見せる」ことを褒められたスバルだが,当然ながら彼にも“陰”がないわけではない。亡き父をめぐりアイドル業界を震撼させた事件は,【SS】の騒動(「!」の【奇跡☆決勝戦のウインターライブ】参照)で多くの人が知るところとなったのは記憶に新しいし,Trickstarが革命を起こす前にも,出自や才能からどうしようもない孤独を抱えていた彼の姿が描かれている(「!」の【追憶*春待ち桜と出会いの夜】参照)。それでも,本ストーリーで嵐が言うように「それもひっくるめて前に進む力がある」ことも事実であり,だからこそ彼は輝きを求めてやまないようにも思える。
・鳴上 嵐とグラビアの思い出
この物語で嵐は,モデルとして駆け出しの頃に受けたグラビアの仕事について語る。彼はその後にも“男性らしさを全面に打ち出した写真集”を出したことがあり,そのときの話については「!」の【スカウト!ケダモノ】で読むことができる。彼は自らを“風にしなって決して折れない柳の木”に例えたことがあるが(「!」鳴上 嵐キャラクターストーリー「嵐に揺れて」参照),しなやかで強い彼の姿は,まさにそんな美しいイメージがある。
◆筆者が選ぶ“心に残った言葉”とストーリー所感
本ストーリーの中心である創と嵐の物語を読むうえで,ぜひ参考にしたいストーリーがある。それは「!」の【お化けがいっぱい☆スイートハロウィン】と,前述の「!」の【スカウト!ケダモノ】だ(【スイートハロウィン】では,本ストーリーの話題にも出てくる「美少女のようなかわいらしさを売りにする先輩アイドル」についても語られる)。【スイートハロウィン】も【ケダモノ】も,“アイドルたちの自己認識とファンに求められる(受け取られる)姿”がテーマの1つだと筆者は捉えている。【スイートハロウィン】では,創と真白友也が“かわいい”を売りにした戦略について気持ちのすれ違いを起こしてしまうさまが描かれているし,【ケダモノ】では,嵐が“男らしさ”と自分のありたい姿について葛藤していたことが明らかとなっている。
アイドルとして活動している彼らは,ファンにとっては近いようで遠い存在だ。直接触れ合えるイベントなどは別として,テレビや雑誌などでファンが見ているのはほんの一部の姿であって,決して彼らのすべてではない。こうした問題は,とくにアイドルという職業においては避けてとおれないものなのではないかと思う。本ストーリーを読むと,創はまだ答えを探している途中で,嵐やスバルはある程度自分のなかで信念が固まっているように見える。その考え方は皆少しずつ違うけれど,共通しているのはこの部分ではないだろうか。
「男らしく」「女らしく」という考え方は,いまや前時代的とも言われるが,それはおそらく「自分らしく生きる」ことを尊重した結果ではないだろうか。そして,自分という存在や自分を形づくる要素を否定せず生きるということは,自分を愛してくれる人への誠実さでもあるかもしれない。けれど生き方に迷ったなら,1人で悩まず誰かの手を借りてもいいはずだ。創の悩みは多くの先輩たちがとおってきた道であって,嵐はその悩みに強く共感したからこそ,自ら進んで手を差し伸べたように感じられた。だが,答えに直接導くのではなく,「自分(嵐)の意見は自分だけのもので,問題の当事者ではない。どうするかは創自身が考えること」という条件を出す。さすが,人生相談のコーナーを持っている嵐だなと感じた。
多くのおとぎ話には教訓が含まれており,「ヘンゼルとグレーテル」でもそれは同様だが,捉え方は人によってさまざまだろう。本ストーリーを読んで思うのは,やはり創の言うとおり「みんなの知恵と勇気で問題を解決できた」ことだろうか。それと,「誰かと一緒に食べるお菓子は美味しい」という嬉しさも。
ストーリーピックアップ
イベント「軋轢◆内なるコンクエスト」
開催期間:2020年5月31日〜6月9日(Basic)2020年5月31日〜6月8日(Music)
――あらすじ――
Edenを構成するユニット,AdamとEveの両ユニットを対決させるというコズプロの企画【コンクエスト】を知った巴 日和は,反発して仕事をボイコットしてしまう。Edenのリーダーである乱 凪砂が日和に追放宣言をすると,日和はそれに逆らうようにEveの仕事ばかり受けるようになる。そして,ついに【コンクエスト】ライブの本番の日になり……。<全12話/シナリオ:日日日>
◆ストーリーのここをチェック!
・コズミック・プロダクション(コズプロ)について
メインストーリー解説記事や本連載で何度か出てきているが,コズプロについてもう一度流れをおさらいしておこう。新章に入って明らかとなったのが,もともとソロで活動していた天城燐音(現Crazy:B)やHiMERU(同じく現Crazy:B),現在はスターメイカープロダクションに所属している風早 巽(現ALKALOID)がかつてのコズプロに所属していたことだ。その後【オータムライブ】では,茨がTrickstarを事務所に勧誘するが叶わず,年末の【SS】で明星スバルと亡き父の告発映像の騒動で上層部が失脚。一部の人員を入れ替え,現在の副所長は茨が務めている。
・漣 ジュンと子供向け知育番組の思い出
「あれは夢だった……?」とジュンが語る“子供向け番組の記憶”は,2020年のエイプリルフールに公開された「わくわく♪おじさんといっしょ」というストーリーでのできごとだ(現在もストーリーを読むことは可能)。その物語では,佐賀美 陣そっくりな“魔神”と,椚 章臣そっくりな“妖精さん”が登場し,ジュンは最高のアイドルになるための手ほどきを受けるのである……。
・Lilithと氷鷹誠矢
ジュンが「人格的には問題あるけど社会的には立派な大人」「ロボットみたいにどんな命令にも従う」と評する氷鷹誠矢は,氷鷹北斗の父にして現役のアイドルである。誠矢はこれまで,「!」のキャラクターストーリー第一話や【Saga*ぶつかり合うリバースライブ】で,所構わず妻とののろけ話をする,かと思えば冷徹とも思える言い回しをするなどして周囲を大いに翻弄した。誠矢はアイドル業の傍ら,各校で特別講師を務めており,サガ計画では日和とジュンとの3人で結成した臨時ユニット「Lilith(リリス)」として陣たちの前に現れた。
・Edenというユニット
「!」でTrickstarのライバルとして登場したEden(Adam/Eve)は,現在は同じESのアイドルとして夢ノ咲学院(出身)の仲間たちと切磋琢磨している。以下でメンバーについて説明を補足する。
【乱 凪砂】
凪砂はAdamおよびEdenでリーダーを務めているが,彼は自発的に人をまとめたり引っ張ったりするタイプではない。いまは亡き“父”はアイドル業界の「ゴッドファーザー」と呼ばれていた人物で,父がこの世を去ったあとは日和の家に身を寄せていた(詳細は「!」の【軌跡★電撃戦のオータムライブ】や【奇跡☆決勝戦のウインターライブ】を参照)。イメージ戦略における喋り方やキャラ作りなどは茨に任せているが,少しずつ社会性が芽生えてきているように見える。
【巴 日和】
EveおよびEdenにおける“太陽”が日和という存在だ。かなりのマイペースであるものの,アイドルとしては圧倒的な才能を持ち,周囲に影響を与えることも少なくない。実家は財団で天祥院英智や姫宮桃李たちとも以前から面識があるが,跡取りは兄であるため,家庭内ではやや複雑な立場であるらしいことが語られている。
【七種 茨】
茨は前年の秋,「!」の【軌跡★電撃戦のオータムライブ】で初めて夢ノ咲学院のアイドルたちの前に登場したのだが,その後に公開されたストーリーで,実はそれ以前から夢ノ咲の内情を調査していたことが明らかとなっている。油断ならない人物ではあるが,筆者は本ストーリーにおけるこのセリフで,Edenというユニットに対する彼の責任感や強い思い入れと愛情を感じ,生身の人間らしい感情が見えたような気がした。
【漣 ジュン】
これまでに何度か解説したとおり,ジュンの父もまた元アイドルである。活躍していた時代のせいで父は“使い捨て”られ,現在は芸能界を引退している。そのため,ジュンは当時のスーパーアイドルだった佐賀美 陣に思うところがあったのだが,【SS】やサガ計画の【Saga*ぶつかり合うリバースライブ】などを経て復讐心は変化していったようだ。日和とはある意味“主従関係”のようにも見えるが,本ストーリーで弱っている日和にかけたぶっきらぼうな激励は,日和にとってこのうえなく心強いものだったのではないだろうか。
◆筆者が選ぶ“心に残った言葉”とストーリー所感
【軋轢◆内なるコンクエスト】は,前年度に“他校生”として登場した,Edenの記念すべき初の“単独箱イベ”である(胸熱)。これまではライバルとしての描かれ方が多かったが,新章では同じES所属となったことで,彼らの物語を読める機会はこれからも増えるだろう。今回のストーリーでは,日和と凪砂の仲違い(?)を中心に,さまざまな組み合わせで4人の関係性が描かれている。印象的なセリフはたくさんあったのだが,最初に筆者の心を強く掴んだのはこの言葉だった。
このシーンでは,日和がジュンに実家での自分について語る。その事実は,いつも明るくて少しだけ傍若無人で,けれど愛すべきキャラクター性を持つ日和の“陰”と言っていい部分だろう。玲明学園の特待生だった日和は,一般生だったジュンを“拾い”,Eveとして活動を開始した。前年度の2人は寮で同じ部屋に住んでいて,日和が拾ってこっそりと飼っていたブラッディ・メアリという犬を可愛がっていたエピソードもある。日和はショッピングも好きなようだが,筆者は日和のこれらの行動は,「何かのきっかけでできた縁は大切にし,自分のもとに留まるものには深い愛情を注ぐ」ことに喜びを感じるからではないかと思っていた。それは見返りを求めない,いわゆる“無償の愛”のようにも見える。
上に挙げたセリフは,ジュンが言った「日和のせいで自分の人生はめちゃくちゃだ」という憎まれ口に対するものだ。日和自身はジュンを拾ったのはほんの気まぐれだったと言う。けれどジュンが自分に向けた態度や言葉は(日和は“ジュンに噛まれた”と言っている),愛らしいだけのお姫さまでしかなかったはずの自分,家族のなかでは“居て居ない”に等しかった自分にとって,感じたことのない“他人の熱”だったのかもしれない。
本作はEdenの箱イベらしく,日和だけでなく4人全員がこれまでとは異なる姿を見せてくれたように思う。無垢すぎる子供のようだった凪砂の自我,慇懃無礼な建前を取っ払って言いたいことを言いまくる茨,いつの間にか大切な居場所になっていた4人の絆の危機に,密かに心を痛めていたジュン。彼らは好きなものも目指す方向性も微妙に異なるかもしれないけれど,凪砂が言うとおり,「それでも愛しあって一緒に暮らしていけるのが家族」であり,Edenもまた,そういうユニットになれたということなのだろう。
最後に,本ストーリーラストの日和の一連のセリフについて。筆者は,「!」も含めた「あんさんぶるスターズ」という物語には,何度か繰り返し出てくる重要なテーマがあると考えている。そのうちの1つが「自分を傷つけることは,自分を愛する人の想いをないがしろにすること」で,だからこそ「愛する人のために自分自身を愛する」というものだ。【コンクエスト】のステージで日和が放った,聴く人の心に刺さるような鋭い一連のセリフ――神が作りし存在(アダムとイブ)になぞらえた日和の想いを,筆者は「自分たちを愛してくれる人たちがいるかぎり,楽園(エデン)はずっとここにある」という,ある種の決意表明だと受け取ることにした。私たちがEdenやアイドルたちを愛する気持ちが,彼らをもっと輝かせる。彼らの物語を愛し信じることこそが,それを紡いでいく力になるのだと。
第5回記事もお楽しみに!
■たまお(ライター)■
エンタメ系フリーライター。音楽・ゲーム業界などでの社会人生活を経て,作品やキャラの素晴らしさを文章で伝えるためにライターへ転向。現在4Gamerにて「あんさんぶるスターズ!!」のストーリー解説記事を連載中。このほか追いかけ中のタイトルは「アルゴナビス」「スタマイ」「ツイステ」「ヒプマイ」「パラライ」「刀剣乱舞」「A3!」「まほやく」など。
◆Twitter(@tamao_writer)
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