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ゲームジャム発の作品が,100万DLを超える運営型ゲームになるまで。IDC2023「小型ゲームを4年間続く運営型に移行できた秘訣」聴講レポート
スマートフォン用ゲーム「ことだま日記」のデザイン監修やキャラクター制作を担当するAchabox氏,テキスト制作やデータ管理を担当する小川浩史氏の2人が,波瀾万丈な同作の歴史を振り返りながら,小規模開発の運営型タイトルを継続するうえで必要な考えを語った。
「ことだま日記」公式サイト
「ことだま日記」ダウンロードページ
「言葉でほのぼの育成!ことだま日記」ダウンロードページ
たった3人で開発した小規模ゲームが長期運営タイトルに。成功の影にはさまざまな苦難があった
ことだまっちの可愛らしさや,育成を進めることで充実していく図鑑,自分の部屋を飾り付ける楽しさなどが好評を呼んだ。現在は英語版や韓国語版など他言語版の展開も行っており,2023年には100万ダウンロードを突破している。
2019年5月のリリースから4年以上の長期サービスを継続している本作だが,その道のりは平坦なものではなかった。たった3人という少人数で始まったゲーム開発と運営には,スタッフの疲弊,売上げ低下,中核スタッフの卒業,新体制の構築といったさまざまな試練が襲ってきたという。
そもそも「ことだま日記」は,運営型のゲームとして開発が始まったわけではない。その原型に「ことだまっち」というゲームがあり,それは限られた日数でゲームを作るイベント「ゲームジャム」にて5日ほどで開発されたものだった。
シナリオライターとエンジニア,そしてデザイナーのAchabox氏の3人で制作された「ことだまっち」は,好評を博したことから正式リリースの話が持ち上がる。Ske6のメンバーもそれに向けてさらなるブラッシュアップを進めたが,およそ3か月を想定していた開発期間は,最終的におよそ1年にわたる長期作業となった。
メンバーの1人であるAchabox氏にも,インディーゲームメーカーのroom6に務めるデザイナーとしての顔があり,通常の“お仕事”と課外活動的なプロジェクトである「ことだま日記」を並行させての開発は非常に大変だったという。
2019年にリリースされた「ことだま日記」はメディアからも注目され,小規模開発チームとしては上出来な売上げを記録した。しかし体制としては,わずか3人のスタッフが別の仕事をしながら開発と運営を行うというものだったため,スタッフの疲弊から新規コンテンツの量が減っていき,売上げも低下してしまった。
Achabox氏は「売上げをことさら意識していたわけではないが,リリースしてからは運営型タイトルとして不具合対応などやるべきことが多く,3人全員が体力の限界だった」と当時を振り返る。
運営型タイトルは,プレイヤーを飽きさせないため,常時コンテンツを追加する必要があるうえ,ユーザーサポートも継続して行わなければならない。これを専業ではなく,ほかの仕事をしながら行っていたのだから,その負担たるや想像を絶するものがある。個人的な技術や努力でどうなるものでもなく,物理的にも限界がくることは容易に想像できる。
こうしたなか,「中年騎士ヤスヒロ」のパブリッシングでも知られるポラリスエックスの代表者である住田康洋氏が「ことだま日記」のパブリッシングに名乗りを上げる。
Achabox氏と住田氏はまず,お互いにアイデアを出し合いながら体制改善を進めた。それは,これまでAchabox氏らが兼任していたカスタマーサポート及びSNS対応に専用の担当者を付けるというもの。これによって,サポートを手厚くできたと同時に,レビューのコメントへの返信,公式SNSでの4コママンガの公開やファンアートの紹介などもアクティブに行えるようになり,結果ユーザーからの評価もアップする効果が見られたそうだ。
また,動画広告にも挑戦した。当初は「言葉をことだまっちに与えると進化していく」というものだったが,反応は芳しいものではなかった。そこで,育成や部屋の飾り付けでワイワイ楽しむといった,ターゲット層である女性が好みそうなものへと変更したところ,売上げが大きく伸びたという。
これは個人的な感想だが,前者はゲームの機能をフィーチャーしたもの,後者はターゲットを絞り込んで共感を呼ぶものであり,プラットフォームとターゲット層に合わせた広告作りがいかに大切であるかが分かる。
ゲームの機能面では「おみくじ」「愛情度アイテム」「おでかけ」を追加したメジャーアップデートが効果的だった。
おみくじは,ことだまっちや家具を入手できるガチャだ。これまでの利益となる部分は,育成を早めるために広告を視聴するといったものだったが,ターゲット層にあった課金要素を追加したわけだ。
さらに,より長くプレイしてもらうための施策として,育てたことだまっちにプレゼントできる愛情度アイテムを用意。触れあうことでことだまっちへの愛着がさらにわき,ゲームを継続したいというモチベーションにつながるものとなった。
ほかのプレイヤーの部屋を訪問でき,訪問の頻度に応じてことだまっちの挨拶が変化していくおでかけは,コミュニティを重視した要素と言えるだろう。これは,ゲームイベントの出展時にユーザーを見ていると,家族や友人とプレイしている人が多かったため,「こういったユーザー層であれば楽しんでもらえる」と感じて追加したものとのこと。
実装後にはTwitter(現X)で部屋を紹介するハッシュタグ企画も行われており,開発とSNS担当が連携を密にしていることが分かる。アップデートで追加されたそれらの新要素は,キャラクターの魅力,遊びの要素,コミュニティでの楽しみ方というさまざまな面でのゲームの強化となっており,開発リソースの効果的な運用ともいえるだろう。
2020年12月には英語版,2021年6月には韓国語版の配信もスタートし,「ことだま日記」はグローバルに展開していく。英語版の配信直後は数字もそう伸びなかったが,前述した広告の英語版をより多く出稿することで売上げがアップした。
なかでも韓国語版+韓国語広告を展開した時期は相乗効果も大きなものとなり,大きな売上げを記録したという。英語版配信当時の売上げと出稿費を100%とすると,英語版の広告を220%で出稿した際は400%の売上げを記録。韓国語の配信後,韓国語版広告を367%で出稿した時は550%の売上げとなっている(広告を吹き替える際は1人の声優に2役をお願いするなど,ここでも工夫が凝らされている)。グラフを見ると,広告を増やした後に売上げも伸びており,適切な広告展開も重要であることが分かる。
また「ことだま日記」は,サービス前から積極的にゲームイベントに参加している。プロトタイプの出展を年に7〜8回行ったことに始まり,リリース後も年に2〜3回というペースで参加を続け,アートブックやアクセサリといったグッズも積極的に展開している。
説明抜きにゲームをプレイしてもらえて,リアルな反応をフィードバックとして得られる。メディアに取り上げてもらえるし,グッズを販売すればプレイヤーがさらにゲームを好きになってくれる。出展費用や出張費,体験版やグッズ製作のためゲームの開発が遅れるといったデメリットはあるが,ゲームを知ってもらう場であり,注目してもらえる場,そしてファンの集うコミュニケーションの場となるイベント出展は,開発者としてもモチベーションを得られる場所でありとても重要だとAchabox氏は語った。
こうした努力の甲斐あり,2022年春には過去最高の売上げを記録したものの,新たな試練が襲いかかる。広報やプログラマー,シナリオ担当といった中核スタッフが,就職や兼業ができなくなったという理由で“卒業”していき,新たな体制作りが急務となったのだ。
そんな2022年末,新たなプログラマーと広報とともに「ことだま日記」にジョインしたのが小川氏だ。このとき,新スタッフならではの目線でこれまでのサービスを見直したのだが,「手作業が多いことによる開発の効率の悪さ」「ゲームの遊びづらさ」「プレイヤーの初期離脱」という,小川氏いわく「慢性的な弱点」が浮き彫りになったという。そこからしばらく,「目指したいゲーム像と収益を確保すること,理想と現実の開発の日々」が続く。
では,それらにどう対処していったのか。開発の効率の悪さは,アプリをアップデートすることなく誰でもイベントを復刻開催できる仕組みにした。複雑化していたブランチを整理し,新たな家具をデザイナーだけで作れるように変更。アップデート自体,マンパワーに任せて詰め込みまくっていた状態から,費用対効果を鑑みた適切なボリュームに代えた。
ゲームの遊びづらさとプレイヤーの初期離脱については,プレイ体験と分かりやすさ,回転率のアップをテーマとした改良を行う形で対処した。具体的には,ことだまっちの育成スピードをアップし,演出の短縮やスキップ機能の実装,贈り物アイテムの所持数表示やログインボーナスの視認性アップ,各種「引き直し券」の追加などを実施。それらはイベントがない時期の稼働率の底上げにもつながった。
こうした努力の甲斐あり,2023年春には100万ダウンロードを達成。今後は5周年に向け,アンケート機能の実装や台湾版の制作が進行しているという。また,Webブラウザ版や,ことだまっちの新しい活躍の場となる「ラップバトル機能(仮)」の追加も検討されているそうだ。
Achabox氏と小川氏は,これまでを振り返り「特別なことはしていない」と語る。パブリッシャの存在に加え,チーム全員が「ことだま日記」を深く愛したことにより,小規模チームによる運営を続けられた,と4年間を総括した。
この講演からは,作品を完成させることと,運営を続けていくこと,その両方にそれぞれ異なる種類のスタミナや問題解決能力が求められることが分かる。キャパシティを越えた個人の頑張りでは長く続けられない。人を増やしたからこそ,ユーザーに対してサポートの向上や密なコミュニケーションを行えるわけであり,長期運営が可能になった理由としてパブリッシャの存在は大きなものがあるだろう。
そういった知見が得られた本セッションは,運営型のゲームに挑みたい小規模のスタジオや開発者向けにはもちろん,今後インディーゲームが歴史を重ねていくうえで意義深いものであると感じられた。
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