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フロム・ソフトウェアは“面白いゲームを真剣に作っていればそれでいい”。宮崎英高社長に聞く,「ELDEN RING」で目指したものや独特の開発体制
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印刷2022/06/24 21:00

インタビュー

フロム・ソフトウェアは“面白いゲームを真剣に作っていればそれでいい”。宮崎英高社長に聞く,「ELDEN RING」で目指したものや独特の開発体制

 「DARK SOULS」シリーズや「Bloodborne」,「SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE」PC/PS4/Xbox One)などを代表作に持ち,アクションRPGで世界的にも評価の高いフロム・ソフトウェア。2022年2月にリリースされた「ELDEN RING」PC/PS5/Xbox Series X/PS4/Xbox One)は,発売から1か月も経たずに世界累計出荷本数1200万本,国内累計出荷本数100万本を突破した大ヒット作となり,同社のタイトルに触れた人はさらに広がっていくだろう。

画像集#009のサムネイル/フロム・ソフトウェアは“面白いゲームを真剣に作っていればそれでいい”。宮崎英高社長に聞く,「ELDEN RING」で目指したものや独特の開発体制

 高難度のアクションRPGという,ニッチなはずのジャンルでありながら,これだけの人に遊ばれ評価を得ている本作は,何を目指して作られたのだろうか。今回は,本作のディレクターであり,フロム・ソフトウェア 代表取締役社長である宮崎英高氏に,「ELDEN RING」を振り返ってもらうとともに,現在の開発体制や,自身の独特な手法について語ってもらった。


アクションRPGを積み重ねてきた先にしかない体験


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。「ELDEN RING」もリリースから3か月以上経過し,すでに一通り遊び終えたプレイヤーも出ているタイミングですが,反響はいかがですか。

画像集#007のサムネイル/フロム・ソフトウェアは“面白いゲームを真剣に作っていればそれでいい”。宮崎英高社長に聞く,「ELDEN RING」で目指したものや独特の開発体制
宮崎英高氏(以下,宮崎氏):
 我々の今までのタイトル以上に,大きいというか,幅広い層からさまざまな反響をいただいていると感じています。それは賛否両論あるものですが,しっかりと受け止め,今後の糧としていきたいです。

4Gamer:
 「ELDEN RING」は,既存のフロム・ソフトウェアファンや「DARK SOULS」シリーズファン以外のプレイヤーにも,広く遊ばれている印象を受けました。セールス的にも,SNSでのバズり方にもそれが表れています。

宮崎氏:
 はい。制作チームの一員として,とてもありがたい話です。
 ただ,なぜ今回そうなったのか? ということについては,正直よく分かっていません。
 ジョージ・R・R・マーティンさんとの協働,オープンフィールド採用によるスケール感の向上など,いくつかの論点はあると思いますが,まだはっきりと分析できてはいませんね。

4Gamer:
 「ELDEN RING」の規模感は,いちプレイヤーとして驚きました。過去のフロム・ソフトウェアタイトルより,とにかくいろいろな要素が詰まっていますが,もともとはどこを目指して企画開発を始めたのでしょうか。

宮崎氏:
 いくつかあるのですが,1つは「DARK SOULS」シリーズで培ってきた技術やノウハウを前提として,それらの積み重ねの先にしかないタイトルを作ろう,ということでした。
 私は,ゲームを作りはじめる時「何がこのゲームの特別な体験なのか」を考えます。例えば「SEKIRO」では,それは「弾きを採用した,新しい剣戟の興奮」といったものでしたが,「ELDEN RING」では,それが「積み重ねの先にあるスケール感」だったわけです。

4Gamer:
 「DARK SOULS」シリーズを続けてきたからこそのタイトルだったんですね。

宮崎氏:
 少なくとも我々の規模感では,ゼロから一発で「ELDEN RING」を作るのは不可能だったでしょう。
 もう1つは,そうしたスケール感を前提とした「自由度」と「冒険感」ですね。オープンフィールドを採用したのも,この点が大きかったと思います。

4Gamer:
 ロールプレイの自由度はすごく楽しかったです。寝る間を惜しんで毎日遊んだので,エンディングを迎えたあとのロスがすごかったです。
 私も含めて周囲の遊んだ人が皆言うんですけど,冒険できる場所が多すぎて,「ELDEN RING」を起動していないときでも「今日どうやって遊ぼうかな」と考えてしまうぐらい,中毒性の高いゲームでした。

宮崎氏:
 そういった話を聞くと,とても嬉しいですね。

4Gamer:
 積み重ねというお話ですが,実際「ELDEN RING」は,「DARK SOULS」の系譜として集大成感を強く感じました。しかし,これだけのものを作ってしまうと,次回作のハードルは非常に高くなるのでは?

宮崎氏:
 うーん,そういったことは,あまりありませんね。
 売上であれ評価であれ,そうしたハードルを設定することはありません。

4Gamer:
 え,そうなんですか?

宮崎氏: 
 そうしたことは,我々のゲーム制作においては不純物になり易いんですよね。ハードルを確実に超えようとすると,保守的にならざるを得ないというか。
 なので,プロジェクトとして最低限のラインは当然あるとして,そこから先は,我々が作りたいと思うことを優先するようにしています。
 「SEKIRO」にしても「ELDEN RING」にしても,開始時点では,むしろリスクの大きいプロジェクトでしたね。

4Gamer:
 挑戦的なタイトルだったと思います。もし“2”が出るなら,売れ筋ということになるかもしれませんが……今のフロム・ソフトウェアさんは,ネームバリューを生かして続編を,みたいなことをあまりしませんよね。「DARK SOULS」は続きましたが,一区切りとなりましたし。

宮崎氏:
 その点はケースバイケースですね。
 ナンバリングを引き継いでいくこと,タイトルを一新した新作を作ること,どちらにもそれぞれのメリットがありますので,適宜選択していきたいです。

4Gamer:
 そこで「セールス的に続編にしたほうが」とならないのが,本当にフロム・ソフトウェアさんらしいと思います(笑)。

宮崎氏:
 そうですね。先ほどの選択の決め手になるのは,やはり「我々が作りたいかどうか」です。
 それが我々らしさなのか? というと,あまり自覚はありませんが。

画像集#004のサムネイル/フロム・ソフトウェアは“面白いゲームを真剣に作っていればそれでいい”。宮崎英高社長に聞く,「ELDEN RING」で目指したものや独特の開発体制


ゲームを作ることに真剣であればそれでいい会社


4Gamer:
 2018年の「SEKIRO」のインタビュー当時,その時点で3.5ラインが社内で稼働していて,そのうち2本が未発表というお話でした(関連記事)。未発表だったうちの1本が「ELDEN RING」でしたが,もう1本は現在も開発中なのでしょうか。

宮崎氏:
 はい。開発も終盤といった状況です。

4Gamer:
 時間もずいぶん経ちましたので,改めて今のフロム・ソフトウェアさんの開発体制についてお聞きしたいです。

宮崎氏:
 いくつかのインタビューで答えている通り,今「ELDEN RING」の規模感のタイトルを作ることができたのは,社内に人材が育ってきたことが大きかったのですが,これからは,彼らにプロジェクトを任せることも多くなると思います。
 実際,私でない人間がディレクションするタイトルも複数動いており,開発人員を増やしたいタイミングになっています(※)。
 フロム・ソフトウェアの別の色というか,方向性をお見せすることができるかと思いますので,ぜひご期待ください。

※本日(2022年6月24日),フロム・ソフトウェアは採用特設サイトを公開している。

4Gamer:
 別の方のディレクションタイトルは,宮崎さんはどの程度見ているんですか?

宮崎氏:
 相談されれば別ですが,社長として最低限の確認をするくらいで,あまり見ないようにしています。
 私は本質的にはディレクターなので,開発中のタイトルに触れると,やっぱりいろいろと考えてしまうし,言いたくなってしまうんですよね。でもその場合,私はディレクターではありませんし,ビジョンの主体でもなく,最後まで責任を取れるわけでもありませんから,余計な口出しはゲームとプロジェクトにとってマイナスが多いだろうと感じています。

4Gamer:
 となると,宮崎さんはご自身のディレクションタイトルに注力する形ですか?

宮崎氏:
 そうですね。これからもディレクションは続けていくつもりです。

4Gamer:
 プレイヤーとしては嬉しいですけど,社長に就任してからもディレクションを続けているというのは,あまり聞かないような……。

宮崎氏:
 もともとディレクター志望ですし,やっぱりゲーム制作の現場が一番楽しいですからね。
 それでも社長をやっているのは,それがフロム・ソフトウェアという会社にとって都合がよいからですが……まあ,周囲の厚意に甘えて,できるだけサボりたいところですね(笑)。

4Gamer:
 いやいや,今回は社長トークもお願いします(笑)。
 人を増やしたいというお話ですが,フロム・ソフトウェアさんって,そもそもどんな会社なんでしょうか。あまりクリエイターが表に出てこないですし,タイトルのネームバリューを利用したプロモーションもしませんし,外から見ていると謎の職人集団みたいな印象があるんですよね。

宮崎氏:
 職人という言葉が適当かどうかは分かりませんが,面白いゲームを真剣に作っていればそれでいい,という会社でありたいと思っていますね。
 例えば社内政治的なものとか,些末なことに煩わされることなく,面白いゲームを,ただ真剣に作っている人が,見出され,評価され,チャンスが得られる環境が理想です。

4Gamer:
 宮崎さん自身が,ゲーム業界未経験で中途で入社して,ヒット作を次々にディレクションして社長になった方ですから,そうしたチャンスのある風土というのは分かります。
 ただ,申し訳ないんですが,そうした勢いのある方が引っ張っているメーカーとなると,開発環境が厳しそうなイメージが……。

宮崎氏:
 それは明確に否定しておきます。
 私自身は,まあゲーム制作が大好きで,どっぷりと浸かっていたい人間ですが,であるからこそ,そうした感覚を前提としないよう意識して注意していますね。
 時間的あるいは体力的に無理のある働き方を,望んでもいないし,評価の基準にするつもりもない。そのことは,社内に明確なメッセージとして伝えているつもりですし,実際,近年で労働環境は大きく改善されてきているはずです。

4Gamer:
 そうなんですね。失礼しました。

宮崎氏:
 もう1点あるとすれば,近年は社員の給与待遇面での改善も図っていますね。
 特に今期は,賞与の基準をこれまでよりも1月分増やしたうえで,若年〜中堅層の給与を全体的に増やす計画で,結果として新卒の給与も26万という数字になります。
 また,それらに加えて決算賞与という仕組みもあります。これは,会社の決算がよかった時に,追加の賞与を支給できる仕組みで,必ずしも毎年あるものではないのですが,少なくとも私が社長になってからは毎年支給されています。
 例えば,先期は「ELDEN RING」がありましたので,基本として4か月分,プロジェクトのコアメンバーにはもっと,という実績になっていますね。

画像集#005のサムネイル/フロム・ソフトウェアは“面白いゲームを真剣に作っていればそれでいい”。宮崎英高社長に聞く,「ELDEN RING」で目指したものや独特の開発体制


“協働の刺激”を重視する開発体制


4Gamer:
 お話を聞いていて,職人集団ではないかというイメージはより強まったのですが,開発体制で独特な部分はあったりしますか?

宮崎氏:
 そうですね……これはフロム・ソフトウェアというよりは,私自身のディレクターとしての方針なのですが,「協働の刺激」を重視しています。

4Gamer:
 と言いますと?

画像集#013のサムネイル/フロム・ソフトウェアは“面白いゲームを真剣に作っていればそれでいい”。宮崎英高社長に聞く,「ELDEN RING」で目指したものや独特の開発体制
宮崎氏:
 ゲーム制作では,さまざまな立場と専門性,センスを持ったスタッフと協働することになりますが,その過程で彼らから受ける刺激を活かし,ゲームをより豊かな,面白いものにしていこうということですね。それは,チームでゲームを作る醍醐味であると思っています。
 別の言い方をすれば,私は自身の想像力をあまり高く評価していないのです。だから,最初に想像して考えたものをそのまま作るだけでは,恐らく足りず,協働による刺激があってはじめて,ゲームが生き生きとしたものになってくると感じています。
 またディレクターとしては,そうした刺激を活かしながら,一方でコンセプトとビジョンをぶらさないよう注意しています。

4Gamer:
 フロム・ソフトウェアさんのタイトルは,「このキャラクターのデザイナーは私です」みたいな話が少ない気がするのですが,それも同じような話でしょうか?

宮崎氏:
 うーん,それは少し違う話ですかね。チームの個々人が,自らの仕事に誇りと向上心を持つことは,クオリティを高めるために必要なことですし,フロム・ソフトウェアの面々は,むしろそうした気持ちが強いと思います。
 ただ我々が意識しているのは,それよりもゲーム全体が良くなることの方が優先である,ということです。個々の拘りは重要だけれども、全体が良くなるために必要であれば,それを調整することができるのです。
 このことは,特に私自身において重要であると思っています。私はディレクターであり,ついでに社長ですが,だからといって私のアイデアや意見が聖域になるべきではないのです。
 まあお蔭様で,ミーティングなどで「それは違うんじゃないか」と言われることもしょっちゅうですね(笑)。

4Gamer:
 本当に,先の「面白いゲームを真剣に作っていればそれでいい」を地で行く開発なんですね。


これまでのアクションRPGでできなかったアイデアを消化したい


4Gamer:
 ディレクターとしての宮崎さんが目指すところについても教えてください。「ELDEN RING」という1つの集大成が仕上がりましたが,今後やってみたいことや気になっていることはありますか?

宮崎氏:
 ディレクターとして次のタイトルはもう動いているので,そちらのネタバレは避けるとして……。
 中長期的な話をすると,過去作よりも,より抽象度の高いファンタジーを手掛けてみたいですね。

4Gamer:
 抽象度ですか。ちょっとイメージが沸かないのですけども。

宮崎氏:
 「ELDEN RING」を含め,アクションRPGのファンタジータイトルを作り続けてきた過程で,そのフォーマットには適さないファンタジーのアイデア,イメージが蓄積し続けていて,どこかでそれを,まとめて吐き出したいなと。

4Gamer:
 なるほど。確かに,ずっとアクションRPGのフォーマットでしたから,やりたくてもできなかったことはたくさんありそうですね。作り続けてきたからこその悩みというか。

宮崎氏:
 まあ,私の趣味性の高いものにはなりそうですね(笑)。

4Gamer:
 宮崎さんが趣味に走って出てきた「Déraciné」には,けっこうな衝撃を受けましたから,これまでと違うタイトルはとても見てみたいです。

画像集#012のサムネイル/フロム・ソフトウェアは“面白いゲームを真剣に作っていればそれでいい”。宮崎英高社長に聞く,「ELDEN RING」で目指したものや独特の開発体制
宮崎氏:
 「Déraciné」は思い入れの深いタイトルなので,そう言ってもらえると嬉しいです。ありがとうございます。
 ただまあ,私が趣味に走ると,商売としてはかなり微妙になると思うんですよね。なので,会社を支えるタイトルは,むしろ新しい若いディレクターたちに担ってもらって,私はその傍らで,ひっそりと趣味性の高いタイトルを作ってよい,という状態を目指していまして。
 今回,人員を増やし,新しい体制を作っていこうというのも,そうした目標を見据えたものなんです(笑)。

4Gamer:
 いいんですか,そんなことを言って(笑)。
 最後に聞いておきたいのですが,「ELDEN RING」もひと段落して,今後のタイトル展開はどうなるのでしょうか。

宮崎氏:
 まず「ELDEN RING」のアップデートは,今後も継続しています。
 また,今までお話ししてきた通り,私自身がディレクションするタイトルに加えて,私でないディレクターによるタイトルも,複数開発しているのですが,まだ,それらについて具体的にお話しできる段階ではありませんね。
 すみませんが,もう少しお時間を頂ければと思います。

4Gamer:
 分かりました。新情報の発表を心待ちにしています。本日はありがとうございました。

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