プレイレポート
「九龍妖魔學園紀 ORIGIN OF ADVENTURE」プレイレポート。時代を超えても色褪せない王道の物語と想像力を刺激するシステムが魅力の1本
本作は,学園ドラマと冒険活劇を融合した“學園ジュヴナイル伝奇”を謳うアドベンチャー+RPG。プレイヤーは,強大な力を持った《秘宝》を保護する《宝探し屋(トレジャーハンター)》となり,遺跡のある「天香学園」へ転入し,個性的なキャラクターたちと交流を深めつつ,遺跡の謎に迫っていく。
公称するジャンル名が“學園ジュヴナイル伝奇”であることからも分かるように,舞台設定などにジュヴナイル(少年少女に向けた)伝奇小説のテイストが漂っている。オリジナル版は2004年発売だが,“異能力を持った同級生たちが,人間らしい悩みや苦しみで闇に墜ちるものの,主人公がこれを救って信頼関係を結ぶ”という物語の基本構造や,登場人物のキャラクター性はまったく色褪せておらず,2020年に初めて遊ぶ人でも充分に楽しめるはずだ。
「九龍妖魔學園紀 ORIGIN OF ADVENTURE」公式サイト
「感情入力システム」で,ゲームに自分の思いを乗せる
本作は13話からなっており,各話の開始と終了時にはオープニングとエンディングが流れるため,TVドラマかアニメを見るかのような感覚で遊べる。それぞれの話は,学園生活を送るアドベンチャーパートと,遺跡を探検するRPG風の探索パートからなっている。アドベンチャーパートで事件が起こり,探索パートで事件を解決するべく探検する……という構成で,このあたりもTVドラマやアニメの作りに近しいものを感じられる。
アドベンチャーパートでは,学園内を巡りつつ,仲間たちと会話を楽しめる。会話がうまくいけば「バディ」となり,探索パートを手伝ってくれるようになるのだ。ここで活躍するのが「感情入力システム」。本作の主人公は台詞を発することがない(何を話しているかがゲーム上で描写されない)が,どんな感情を込めて返答するかをプレイヤーが選べる。
感情は,「愛(愛の感情)」,「悲(悲しい感情)」「喜(喜び,嬉しい感情)」,「憂(気乗りしない感情)」,「燃(熱い感情)」,「寒(寒々としたり,冷えた感情)」,「友(同意や友好的な感情)」「怒(怒りの感情)」に,何も入力しなかった場合の「無視(黙り込んだり,答えられない感情)」を加えた9種類で,仲間に対しどのような態度で接するかプレイヤー自身が選択できるようになっているのだ。
加えて,主人公の身長・体重・視力・血液型・出身地などかなり細かいところまで自由に設定できるため,感情移入が深まるのである。今回筆者は久々に本作をプレイしたわけだが,主人公の台詞がないことによって想像力が刺激されるのが,あらためて楽しく感じられた。ゲームの主人公が饒舌な今だからこそ,主人公=自分自身である本作で体験した一体感と没入感は,新鮮なものに感じられた。
仲間とともに遺跡に挑む。罠とバトルに大忙しの探索パート
探索パートでは,学園の敷地内にある《墓地》と呼ばれる遺跡を探検する。遺跡の中は3Dダンジョンになっており,盗掘者を撃退するためのトラップや,「化人(ケヒト)」と呼ばれるモンスターたちが行く手を阻む。“岩の固まりがゴロゴロ転がってきて,うまく避けないと押し潰されてしまう”といったお約束のトラップも登場する。もう,気分は「レイダース/失われたアーク」などの冒険活劇ものだ。
面白いのが,アドベンチャーパートで手に入れた何気ない日用品が謎解きに役立つところである。黄金の鎖が扉を封じているなら,理科室で手に入れた「塩酸」「硝酸」を調合して作った「王水」を使って溶かす。可動部が動かなくなっている仕掛けがあれば,食堂からちょろまかした「植物油」を潤滑油代わりに塗る……といった具合で,日常生活と地続きの品が役立つところが実にジュヴナイルしている。
また,3Dダンジョンといっても身構える必要はない。画面上には周囲の様子がマップで表示されているし,危なくなったらすぐに脱出できる。遺跡に入ることでゲーム内の日数が過ぎたりもしないため,敵が強くてもレベル上げをすることで解決できる。遺跡内は平坦ではないので,ここは《宝探し屋》としての身体能力の見せ所。飛び石のように配された足場を「ジャンプ」で渡り,「ワイヤーポール」に「ワイヤーガン」を撃ち込んで上に登るなど,映画のような動きで活路を開こう。
化人とのバトルはターン制で,行動力を示す「AP」を使って移動や攻撃を行う。化人は複数で攻めてくるため,遺跡の地形をうまく使って囲まれないように立ち回るのがセオリーだ。また,側面や後方に回り込めば大ダメージを与えられるため,時には危険を承知で突っ込むことも必要となっている。
バトルを有利に進めるには,武器の使い分けが重要だ。「コンバットナイフ」や「大剣」といった近接武器はAPを多く消費するものの,使用回数に制限がないうえ,範囲内にいる複数の敵を同時に攻撃できる。位置取りによっては雑魚を一気に殲滅できるが,敵との間合いを詰めなければならないため,攻撃をもらいやすい。
一方,銃器は1発あたりのAP消費は少ないうえ,右スティックで照準を動かして弱点を撃てば大ダメージを与えられる。とくにボス戦では弱点狙いが重要なので,いろんな場所を撃って試してみよう。しかし,銃を撃つにはその種類に応じた弾薬が必要となる。補充を怠ると遺跡内で弾切れの銃を手に途方に暮れることになるので注意したい。
アドベンチャーパートで手に入れた日用品も武器になる。講堂や体育用具室にあった「パイプ椅子」や「金属バット」でブッ叩き,教室から持ってきた「黒板消し」や「輪ゴム」をぶつけるといった戦いも可能だ。中にはステータス異常を与えるものもあるので,いろいろと試してみるといいだろう。
また,日用品は「調合」することで別のアイテムに作り替えられる。「ハンガー」+「ワイヤー」で「弓」,「石」+「木の棒」で「投げ斧」,「マグネシウム」+「硝酸塩」で「混合爆薬」というように即席武器も調達でき,このあたりのたくましさは,いかにもジュヴナイルものの主人公という感じでカッコイイ。
武器や弾薬を買うためのお金は「クエスト」をこなして稼いでいこう。クエストはなんとランダム生成。遺跡に入って特定の座標や敵に対して定められた行動をすると,依頼人が求めるアイテムが手に入り,納品するとお金になる。これらの指示は,冒険ものによくある謎の伝承や碑文っぽい,ぼかした形で伝えられるため,プレイヤーが自分で謎を解かなければならない。
例えば「赤き至聖の地 坂の下より 剣を収めん」だと,「西の礼拝所(赤き至聖の地)」で階段の入り口(坂の下)に立ち,武器を構えた後にまたしまう(剣を収めん)……といった具合だ。指示の中には,敵を特殊な方法で倒したり,特定座標で指定された食料を食べたりといったユニークなものも存在する。現在でいうところの「トロフィー」や「実績」のお題がランダム生成されるようなもので,繰り返し楽しめるようになっているのだ。
また,クエスト依頼人の事情もランダムで生成されるため,単語の組み合わせによってはとんでもないものが生まれる。「寝たきりの祖母を幸せにするため,どうしてもナトリウム爆薬を手に入れたい」といった恐ろしいものや,「博物館の企画交流展で,一番の目玉としてゼラチンを展示したい」という依頼者の頭が心配になるものなど,読んでいるだけで笑えてしまう。
バトルにおいては,バディの手助けも重要だ。バディは2人まで同行させることができ,それぞれが部活や職業にちなんだスキルを持ち,さらに主人公の能力を底上げしてくれる。異能力を持つ者たちだけでなく,一般人もバディにできるのが面白い。テニス部員の「八千穂 明日香」なら,テニスボールで相手を攻撃するスキルを持つのに加え,「体育」の能力値がプラスされるので遺跡内でより遠くにジャンプできるようになる。
ファミレス店員の「舞草 奈々子」の場合,「あつあつピザ」で火傷効果を持った直接攻撃(!)が可能だが,「知性」にはマイナス補正が入るため経験値へのボーナスが少なくなる……といったように,一般人たちをバディにすると遺跡のバトルが途端にコミカルな色彩を帯びる。能力やスキルを重視するも良し,推しで固めるも良しと,組み合わせを考えるのが楽しい。
バディ候補は,生徒から用務員,教師まで多岐にわたる。「えっ,こんな脇役が!?」というようなキャラクターまでバディにできるうえ,それぞれが独自のスキルを持っていたりもするため,初めての人はぜひ予備知識なしで遊んでほしい。
異能の持ち主が青春の悩みに苦しむ。時代を越える,伝奇ものの王道ストーリー
そして,なにより本作を面白くしているのが,青春とオカルトが融合した世界観と主人公を取り巻くキャラクターたちだ。学園に起こる謎めいた事件,秘密を持ったスーパー転校生,個性溢れる友人たちとの学園生活,そして刺激的な放課後の遺跡探索……と,魅力的な要素がこれでもかと詰め込まれている。
舞台となる天香学園は,全寮制かつ敷地内にさまざまな施設を持つ恵まれた学校だ。しかし,生徒会が教師以上の権力を持っていたり,敷地内にある「墓場」では生徒の行方不明が相次いでいたりと,暗い側面も併せ持つ。また,生徒会が支配する体制に不満を持つ者は「執行委員」によって処罰されてしまう。彼らは一般生徒に紛れているものの,さまざまな異能力を振るい,秩序を守るのだ。
一般生徒からすれば神か悪魔のような存在である執行委員たちだが,彼らの心は人間らしい苦悩に満たされている。肉親の死を受け入れられない者,現実から逃げ続ける者,決して届かぬ憧れを追い続ける者,自らを愛せなくなった者など,その苦しみは人間臭く,一般人である我々の共感を呼ぶ。
こうした中に転校生として放り込まれたのが我らが主人公である。主人公は彼らと語り,そして戦うことによって信頼を獲得し,その心を救う。そして彼らは苦しみとの向き合い方を見いだして当たり前の高校生となり,かつて人を苦しめた異能力を今度は友情のために振るってくれる。その様には感動とカタルシスがあるのだ。本作は16年前のゲームではあるが,こうした物語はジュヴナイルの王道であり,古びているようには感じられない。
仲間たちもいい感じにキャラクターが濃く,活き活きとしており,好感度が高い。明るくお節介焼きの「八千穂 明日香」,クールなようでいて実は人情に篤い「皆守 甲太郎」。石に対する愛を語る「黒塚至人」,中国から来た美人保険医「劉 瑞麗」など,本当に学校にいたら面白いと思わせてくれる,理想的なスクールライフのパートナーたちが集まっている。
彼らとうまく交流できれば,秘密を共有し,一緒に戦えるバディになれるのだから,ワクワクしないわけがない。彼らとのやり取りは今回フルボイス化されたのだが,当時のキャストが起用されていることもあり,まるで最初からそうであったかのようにハマっていると感じられた。もちろん,オリジナル同様のパートボイスにもできるので,当時の体験を尊重する人はこちらを選ぶといいだろう。
主人公の台詞を敢えて描写しない「感情入力システム」,そして,高校生たちの心に焦点を当て,時にシリアスに,時にコミカルに展開する物語。本作はさまざまな意味で想像力を刺激するゲームだ。リアルタイムで遊んだ人,そして伝奇ものやジュヴナイル,ライトノベルが好きな人は,ぜひ遊んでほしい。
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