インタビュー
[SPIEL'19]「MEGA CIVILIZATION」が進化,分裂して帰ってきた! 新作「Western Empires」のデザイナーにそのデザイン意図を聞く
多くのゲーマーを絶句させ,そして果敢なプレイヤー達がプレイに挑んだ「MEGA CIVILIZATION」から4年。「Western Empires」(そしてすでに告知されている「Eastern Empires」)は何を目指して作られたのだろうか。SPIEL'19の会場でHaan氏に話を聞いた
「Western Empires」公式サイト
[SPIEL’15]総重量10kg越えの超大作「MEGA CIVILIZATION」はいかにして生み出されたのか。ゲームデザイナーに聞く,その狙いと手応え
世界41か国から出展者が集まる「SPIEL’15」には,個性的なゲームが数多く出展されているが,その中にあって一際目を惹くタイトルがプレイ人数18人,プレイ時間12時間という「MEGA CIVILIZATION」だ。果たしてデザイナーは,何を思ってこの大作を作ったのだろうか。
4Gamer
最初に,「MEGA CIVILIZATION」を作ったあとで,なぜまた「Western Empires」という巨大なゲームを作ろうと思ったのか教えてください。
Flo de Haan氏(以下,Haan氏)
根源的な欲求として,「世界最大のゲームを作りたい」ということがあります(笑)。とにかく大きくて,面白いゲームです。
4Gamer
おお,ある意味で分かりやすいです。
Haan氏:
もちろんほかにも理由はあります。「MEGA CIVILIZATION」を完成させるには10年かかったのですが,あの作品をリリースした結果,世界中からたくさんのフィードバックをもらいました。
中でも多かったのが,「こんなにたくさんのプレイヤーは,集められない」というものでした。そこで,ゲームを半分ずつ,2つのゲームにしたらいいんじゃないかと考えたんです。
4Gamer:
なるほど。だから「Western Empires」と「Eastern Empires」なわけですね。
Haan氏:
そのとおりです。なおサイズ感については,「私の家の部屋で遊べる範囲」を1つの指標としています。
4Gamer:
そうじゃないとテストプレイできませんしね。
ところで「MEGA CIVILIZATION」には多くのフィードバックがあったというお話ですが,ほかにはどんな意見がありましたか。
Haan氏:
そうですね,最初に申し上げたいのは,とにかくたくさんのポジティブなフィードバックをもらえて嬉しかったということです。地域を問わず,多くのプレイヤーから好評を得られました。
そのうえで意見として多かったのが,「MEGA CIVILIZATION」では選択ルールだった「同時進行システム」を標準化してほしいという声です。ですので,「Western Empires」では同時進行をデフォルトのシステムとしています。
それ以外にもマップや各種インタフェースについても,コミュニティからの意見をもとに改善,改修しています。また,アートワークも改善しました。
4Gamer:
多くのゲームデザイナーが「コミュニティの重要さ」を訴えていますが,「MEGA CIVILIZATION」でも同じだったわけですね。
Haan氏:
はい。私もコミュニティと,そこから出てくる意見の重要さを痛感しています。「MEGA CIVILIZATION」をリリースするにあたり,もちろんテストプレイは積み重ねましたが,それでも十分ではありませんでした。
4Gamer:
規模的に仕方ないところもありますね。
Haan氏:
それにも関わらず多くの人が遊んでくれたというのは,本当に嬉しいことです。また,自分自身,フランスやアメリカ,イタリアといった国々に行って,「MEGA CIVILIZATION」を遊ぶ機会に恵まれました。これもまた非常に素晴らしい体験でした。
4Gamer:
なるほど。少し話は変わるのですが,「Western Empires」でFlo de Haan氏は「共著者」という立場でプロジェクトに参加されています。他の共著者であるJohn Rodriguez氏やGerart de Haan氏とはどこで出会ったのでしょうか。
Haan氏:
Johnとは同じようなゲームを作りたい同志としてネット上で知り合いました。私も彼も,似たようなアイデアを温めていたんです。
ここに甥のGerartが入って,3人でゲームを作ることになりました。それぞれ得意分野が違う,良いチームになったと思っています。
4Gamer:
「Western Empires」をデザインするにあたって一番大変だったのは何ですか。やはりテストプレイでしょうか。
Haan氏:
そうです(笑)。プレイテストを何度も同じメンバーで繰り返すわけにもいきません。たとえ問題があっても,「慣れて」しまったりしますからね。そのため,このタイプのゲームを遊んでくれる12人のプレイヤーを探し続けなくてはなりませんでした。これはとても大変でしたね。
4Gamer:
最近ではインターネットを利用してオンラインでボードゲームをプレイするシステムがいろいろありますが,これらを利用するという選択は考えましたか。
Haan氏:
いいえ。とはいえ,コンピュータの支援をまったく受けていないわけではありません。Gerartはコンピュータに強く,また数学にも明るいものですから,彼がPCを駆使してゲームバランスや数値の調整などを行っています。実を言うと,Gerartの本業はリスクマネージャーなので,まさにうってつけの人材と言えます。
4Gamer:
滅多にないレベルの適材適所ですね。オンラインでのテストはしていないということですが,例えば「Western Empires」がPCのオンラインゲームとしてプレイできるといった可能性はありますか。
Haan氏:
現状では難しいですね。オンラインでボードゲームを楽しむ人がいるのは知っていますが,私はオフラインでのプレイが好きなんです。人間そのものが好きというか,人と直接会って遊ぶのが好きというか。
もちろん私も,プレイヤーが集められないときはPC版で遊んだりもしています。とくに「ル・アーブル」のように,ソリティアの要素が強いゲームはPCに向いていると感じます。とはいえ,多人数プレイで相互のインタラクションが重要なゲームになると,AIの挙動にちょっと不満が出ますね。
4Gamer:
「Western Empires」とつながるゲームとして「Eastern Empires」を制作中であるという発表が行われていますが,こちらは今,どんな状況なのでしょうか。
Haan氏:
SPIELが終わり次第,「Eastern Empires」のデザインに着手します。これには理由もあって,「Western Empires」を遊んだプレイヤーの意見を聞きたいんです。それを踏まえて,「Eastern Empires」を作りたいと思っています。
4Gamer:
「Western Empires」単体でも巨大なゲームですが,この倍の大きさとなると「非常に巨大」と言わざるを得ません。連結した場合,どれくらいのプレイ時間がかかりますか。
Haan氏:
12時間です。これはデザインのコアコンセプトの1つで,「MEGA CIVILIZATION」に比べてプレイ時間を伸ばしたり,必要なテーブルの面積を増やしたりしないと決めています。
「Eastern Empires」以降も拡張セットとしてマップを拡大していくことは考えていますが,その場合でも,あくまでスタンドアロンで遊べ,かつ連結できるというデザインを目指します。いわゆる「モジュール」としての販売ですね。
また現状,最低で5人のプレイヤーが必要ですが,より小さなバージョンとして2人でプレイできるものも作りたいと思っています。ただ,それを作るとなると,交易システムなどに変更が必要になりますね。
4Gamer:
最近,「重いゲーム」が流行している傾向が感じられます。「Western Empires」も間違いなく重いゲームに属しますが,この傾向についてはどう思われますか。
Haan氏:
やはり,インターネットの発達が大きく関係していると思います。例えば「MEGA CIVILIZATION」を遊ぶために人を集めるにしても,インターネットを使えばそれなりに簡単に人を集められます。少なくともに,街に出て道行く人に「やあ,一緒に『MEGA CIVILIZATION』を遊ばないか?」と声をかけるよりはずっと簡単ですよね(笑)。
4Gamer:
それは,なかなかヒット率の悪そうな勧誘です。
Haan氏:
重くて大きなゲームに限りませんが,ゲームは人と人が直接会う理由としても優れていると思っています。現代はなんでもオンラインでできてしまう時代ですが,それだけに「人と会う」動機づけとして,アナログゲームは優れていると。
4Gamer:
最後になりますが,日本のビッグゲームファンに向けてメッセージをお願いします。
Haan氏:
日本にもぜひ一度行ってみたいと思っています。一緒に「Western Empires」をプレイして,皆さんの知見を私にシェアしてください。よろしくお願いします。
4Gamer:
お忙しい中,ありがとうございました。
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