プレイレポート
[SPIEL’19]ルーマニア生まれの結婚交渉カードゲーム「ZESTREA」を紹介。ルーマニアの過酷な歴史を乗り越えろ
Kickstarterでの資金集めも行われ(2019年10月26日現在,目標金額にはほぼ到達しており,あとはストレッチゴールを目指すのみ),本格的な出版体制に入った「ZESTREA」は,その好例と言える作品だろう。メインデザイナーはPCゲームのクリエイターで,プロトタイプはゲームジャムで生まれた。最近ポツポツと見られるようになってきたパターンである。
だが「ZESTREA」の場合は,ほかのタイトルと大きく異なるポイントがある。本作のデザイナーであるHorațiu Roman氏とAlex Pațiu氏にとって,これが「初めてリリースするゲーム」であるという点だ(ちなみに2人はゲームジャムで出会っている)。そんな本作の特徴を簡単に紹介したい。
結婚によって家を富ませよ
「ZESTREA」はルーマニアにおける貴族の結婚とその交渉をテーマとしたゲームだ。プレイヤーは貴族となって一族を繁栄させつつ,可能な限りたくさんのお金を稼がねばならない。
……結婚でお金? と思うかもしれないが,結婚によって自分のもとに「家族」が成立すれば,その家族は毎ターンお金を発生させてくれる。また結婚にあたっては持参金の受け渡しが発生するので,それによっても資産が増大する(または減少する)可能性がある。
一方で本作の舞台はルーマニアであり,同国ならではのさまざまな困難がプレイヤーを襲う。これらに対処しながら家を繁栄させていくのは,けして簡単なことではない。
なお「ZESTREA」は3〜6人でプレイできる。交渉がゲームにおいてとても重要な役割を占めるため,できればプレイヤーは4人以上いたほうがいいだろう。3人だと「勝っているプレイヤーを2位と3位が袋叩きにする」以外の展開が生まれにくい。
さて,「ZESTREA」は合計8ターンでプレイされ,それぞれのターンは5つのフェイズに分かれている。
最初のフェイズは「Hard Time(苦難の時代)」フェイズで,ここではカードに従いランダムイベントが発生する。なお苦難の時代とはいえ最初のイベント3枚は「良いこと」が起こるようにある程度フィックスされており(「良いイベント」カードが3枚別に存在する),ゲームの序盤から想定外な困難にぶつかることはない。
次のフェイズは「Production(生産)」フェイズで,家族が形成されていればここで資金が増大したり,赤ん坊が生まれたりする。
3番めのフェイズは「Auction(オークション)」フェイズで,フェイトカードと呼ばれる特殊能力カードを1枚公開して,競りを行う。
4番目のフェイズは「Wedding and Negotiation(婚姻と交渉)」フェイズで,この段階で結婚の交渉およびその成否が判定される。
5番目のフェイズは「Food(食事)」フェイズで,家族が増えすぎていた場合はここで支払いが求められる。
以下,もう少し詳しく見てみよう。
結婚の成否は運次第
「Hard Time」フェイズは簡単で,イベントカードを山から1枚公開し,カードに示されたイベントが発生するだけだ。ただし,4〜8ターンに起こる「悪いこと」が半端なく「悪い」ので覚悟しておきたい。
続く「Production」フェイズでは各プレイヤーが有するカップルごとにダイスを使って判定を行う。
ゲーム開始時,すべてのプレイヤーは3軒の家と1組の異性によるカップルを有している。このようにして手元にあるカップル1組ごとに6面ダイスを振り,平均して2Zestrea(Zestrea=持参金を入れる箱)を獲得する。また50%の確率で赤ん坊が生まれる(キャラクターカードを山から引く)。
生まれたばかりの子供は,まだ子供であることを示すためにタップ状態で場に配置する。子供を結婚交渉の対象にはできず,また子供は後述する「Food」フェイズにおいては人数としてカウントされない。
3番目の「Auction」フェイズではフェイトカードが1枚公開され,プレイヤーは手持ちのZestreaを使ってこれを競り落とす。フェイトカードは総じて強く,状況がハマると更にその力を発揮するタイプのものが多いため,熾烈な競りにもなり得る(逆に全員にとって「今はいらない」カードとなり,競りが発生しないまま流れることもある)。
4番目の「Wedding and Negotiation」は,本作のコアとなるフェイズである。
婚姻の交渉は,自分とほかのプレイヤーが保持する,独身男性と独身女性の間で行うことができる(自分の手元にいる独身男性と独身女性は結婚させられない)。この交渉は完全に自由に行われる。
交渉がまとまったら,持参金を誰が払うのかを話し合う。持参金は2Zestreaが必要で,独身男性を出す側が2払ってもいいし,女性を出す側が2払ってもいいし,1:1で分担しても構わない。
問題となるのはこの次だ。ここまでやっても,結婚は成立しない可能性がある。プレイヤーは6面ダイスを1つ振り,2以下が出れば結婚が成立して独身男性を出した側のプレイヤーの手元に独身女性が渡って,新たなカップルが誕生する。一方で独身女性を嫁入りさせた側は,フェイトカードを1枚獲得する。
またこのフェイズの間には,フェイトカードを自由にプレイしても構わない。
フェイトカードには,対象のプレイヤーからZestreaを奪ったり,キャラクターの性別が突如変化したり(実は男性だった/実は女性だった),バーでの喧嘩でキャラクターが死んだり,海外で同性婚して帰ってきたりと,実に多彩かつ強烈な効果が多数含まれている。
またフェイトカードには「役割カード」と書かれているものもあり,これはキャラクターに対する強化カード(ないし弱体化カード)となる。なかでも「Musician(音楽家)」は結婚の成否を決めるダイスロールに+1する能力を持っており,プレイヤーは「音楽を演奏してあげるから1Zestreaよこせ」といった交渉も可能となる。
5番目の「Food」フェイズで,各プレイヤーは手元にある家の数とカップルの数のバランスを確認する。
ゲーム開始時,家は3軒,カップルは1組だ。その後,生まれた子供が成人すると,たとえ独身であっても家1軒を占有する(もしこの子供が男性で,嫁を取ってカップルが成立しても,占有する家は1軒のまま)。
そのため,ゲームを進めるうちに「家のないカップルや独身の男女」が発生する可能性がある。この場合,プレイヤーはそのようなカップルないし男女1つごとに1Zestreaを払わねばならない。
資金が足りずに払えない場合は,死者となってディスカードされるが,Zestreaがそのまま勝利得点となる本作において「最後の1Zestreaを払ってなお支払い義務がある」状況はかなり“終わっている”状況だと言っていい。
このように5つのフェイズが終わると,子供が成人(アンタップする)して,次のターンが始まる。これを8ターン繰り返して,最終的に最もZestreaをたくさん保有しているプレイヤーが勝利する。
数学的最適化を阻む過酷なイベント
さて,以上を読むとゲーム勘のある人なら「独身男性を確保して嫁を迎えるのが圧倒的に有利じゃないか」と思うだろう。
これは間違いない事実で,仮に第1ターンに男性の子供が生まれ,第2ターンに結婚できた場合,このカップルは第3ターン〜第8ターンまでの6ターンに渡って平均2Zestreaを発生させるので,収支は+12となる。仮に持参金をすべて男性側が持ったとしても+10Zestreaで,非常に美味しい……ように思える。
が,実のところこれはそこまで単純に計算できない。というのも50%の確率でカップルは子供を作るのだ。
これは原則的に良いことなのだが,「プレイヤーは家を3軒しか持っていない」ことに注意したい。「はみ出した」独身男女は毎ターン1Zestreaの赤字を吐き出すことになるのだ。
これを踏まえて上記の「ベストムーブ」を分析すると,プレイヤーが最初に得ているカップルは8ターンで平均4人の子供を産み,次に得たカップルは平均3人の子供を産むという事実の重さが見えてくる。確率論で言えば,第3ターンにはすべての空き家が埋まり,以下一切新たなカップルを作らなくても1ターンに1人ずつ子供が増えるので,8ターン終了時までに15Zestreaを支払うことになる。赤字だ。
対策としては「4Zestreaを払って家を増やす」という手がある。家はゲーム終了時に1Zestreaの資産として計算されるので,都合3Zestreaの出費である。これによって最終的にはちゃんと黒字にできるが,最初に提示した+10Zestraというのは机上の空論であるのは理解していただけるだろう。
結果として本作においては,家に生まれた女性はなるべくなら嫁に出したい存在だ。当然ながらこれはこれでほかのプレイヤーを利する行為ではあるのだが,そうしないとFoodフェイズでの出費がかさみ過ぎる可能性がある。
また,「フェイトカードが強い」という点も重要だ。フェイトカードはWedding and Negotiationフェイズで2Zestrea払って購入できるが,これは逆に言うと「デザイナーはフェイトカードを2Zestreaと見積もっている」ということだ。つまり嫁を出した側は,2Zestreaを獲得したと考えることができる。
つまり嫁を取った側が,家を増築したりなんだりで「財政を激しく出入りさせつつ最終的に黒字になる」傾向がある一方で,嫁を出した側は「フェイトカードというワイルドカードを手にしつつ,自分の財政の出入りは抑制できる」のである。
このような諸条件が絡み合うため,交渉はターン毎に異なる様相を見せる(当然ながらゲーム後半になればなるほど男性が嫁を取る交渉は「安く」なりがちだ)。
「ゲーム終了時に最もたくさんカップルを保持していたプレイヤーは+5Zestrea」というルールもあるが,プレイヤーの過半数にゲーム勘があれば,「タイの場合は誰もボーナスを得られない」という一文に注目し,「トップが常にタイになるように場をコントロールする」だろう(実際に筆者が試遊したときはそうなった)。
そしてこれだけ複雑な要素を抱えた交渉だが,フェイトカードやイベントカードはそれらの計算を一撃で吹き飛ばすポテンシャルを有している。
例えばフェイトカードの「海外での同性婚」は,「ProductionフェイズでZestreaは生産するが,子供は生まれない」という,このゲームにおいて限りなく理想的なカップルを作り上げる。子供が生まれたほうが戦術の範囲は広がるが,とはいえ安定した資金供給源もまた大いに戦術の幅を広げてくれるのだ。
一方でイベントカードには「高速道路が通るので家をぶっ壊します」だの,「戦争になって男性が兵士になって出征します(全員帰ってこない)」だの,それまでの計算を大きく狂わせるものも多い。そしてそれだけに「イベントカードを見て順番を並べ替える」フェイトカードや,「次のターンのイベントカードが見れる能力をキャラクターに付与する」フェイトカードのような,情報系フェイトカードがときに強烈な威力を発揮することになる。
ルーマニアの空気を感じながらカジュアルに楽しむ作品
「ZESTREA」は,「これだけやっていれば勝てる」戦術がすぐに見つかり,「そのためにはダイスロールとカードドローがすべて」の運ゲーに見える。つまり「Productionフェイズで男子がたくさん生まれたプレイヤーが勝てる」ゲームのように思えてしまう。
だが実際にプレイすると,この「最適戦術」は完全に最適ではないことが分かってくる。しかもマルチプレイヤーの常として,「露骨に勝っている(ように見える)プレイヤー」は袋叩きに会いやすいため,多数のカップルを保持して毎ターン大量のZestreaを得ているプレイヤーはフェイトカードで叩かれやすい。
さらに,実際のところそういう「カップル大量保持作戦」に打って出ているプレイヤーはFoodフェイズで出血したり家の増築で出血したりしているので,意外と手元は寂しいということも珍しくはないのだ。
そのうえで本作を決定的に面白くしているのは,イベントカードとフェイトカードの内容だ。戦争や大火,あるいは「共産主義」という「悪いイベント」は,とてもシニカルな形でゲームに適用される。ここにおいて「どんなイベントが起こるのか」「それによってゲーム的に何が起こるのか」のチョイスが実に「ルーマニアらしい」プレイフィールを作っている(一部のイベントカードはちょっと「やりすぎ」感もあるが)。
一方で,もちろん本作にも問題はある。最も大きな課題となるのは「タイミング」問題で,本作は特にタイミングルールが緩い。
特にフェイトカードは「Wedding and Negotiation」ならいつでも使えるということになっているが,では複数のプレイヤーが複数のフェイトカードを使おうとしたらどうなるのかであるとか,交渉はいつ成立したとみなすのかとか,そういった「競技的な」疑問は尽きないと思われる。
このあたり,「そういうところが曖昧なゲームは駄目」な人に対しては,「本作は向いていないですね」と言わざるを得ない。
だが「ZESTREA」のプロツアーがあるわけでもなく,カジュアルに本作を楽しむぶんにはタイミングのバッティングが現実的な問題となることは滅多にないだろう。そして本作は明らかに「顔見知りで気楽に楽しむ」タイプの作品だ。
むしろ個人的には,序盤のProductionフェイズで子供が生まれないと手がまるで広がらずにゲームへの参加が遅れることがあるのが気になった。最初3ターンに限っては子供が生まれやすくする,といった独自ルールを適用することを考えてもよさそうだ。
イベントカードとフェイトカードがゲームの彩りを豊かにする性質上,言語依存度は高いが,英語が苦にならないメンバー(かつカジュアルなゲームが好きなメンバー)が集められるなら,本作は確実におすすめできる。
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