インタビュー
Blizzardを辞めたのは人生最大の過ちだった。創業者アレン・アドハム氏が語る,その歴史
設立から30周年を迎えたBlizzard Entertainmentの生い立ちについては,「奥谷海人のAccess Accepted第676回:Blizzard Entertainment設立30周年記念に寄せて(前編)〜ゲーム業界に出現した革新的な開発者集団」でも紹介したばかりだ。本稿はこの番外編として,とくにBlizzardの始まりの歴史を補足するものとして,読んでいただければと思う。
アドハム氏は,初代CEOとして,そして会長として,Blizzard Entertainmentの起業とその発展に大きく関わりながらも,「World of Warcraft」のローンチを目前にして,突然退社してしまった人物だ。同社の最初の13年間を支えた経営者であり,ゲーム業界でも最古参のプログラマーの1人であるが,2016年末に復帰するまでに12年というブランクを経たために,多くのゲーマーにとってなじみのない人物かも知れない。
アドハム氏は学生時代,UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)でコンピュータサイエンスを専攻しており,その時の学友だったのが,2018年に引退するまで第2代社長として会社を率いたマイケル・モーハイム(Michael Morhaime)氏,そして同じく2019年に退社しているフランク・ピアース(Frank Pearce)氏だ。Blizzard Entertainmentは,この3人が1991年2月8日に設立したSilicon & Synapseを前身とする
アドハム氏とモーハイム氏の出会いはユニークだ。同じ大学に通いながらも当時2人はまったく知らない間柄で,コンピュータの教室でたまたま隣の席だったというだけだ。ある日,コンピュータ教室で作業中だったアドハム氏がコーヒーを買いに行くために席を立ったあと,モーハイム氏が隣の席が空いたと思ってアドハム氏が使っていたコンピュータで作業を開始。モーハイム氏は作業を終えて,何気なく自分のパスワードを使ってロックしたまま席を立ったが,戻ってみるとコーヒーを飲んで帰って来たアドハム氏が,平然とパスワードを解除して作業を始めていたという。
2人が取り交わした最初の会話は,「どうやったんだ?」「何?」「俺のパスワードをどうやって解除した?」というようなものだったらしいが,実は2人がまったく同じパスワードを使っていたことが判明し,それ以降打ち解けることになったらしい。「もし,あの時に隣同士じゃなかったら,Blizzardは誕生しなかったかもしれない」と,アドハム氏は当時を振り返っていた。
前述した連載記事においては,「アドハム氏が大学卒業祝いの名目で両親から借りたヨーロッパ旅行代,1万ドルが起業の資金として使われたようだ」と記述したが,その真相は少し違っていたようだ。今回は,このあたりをより深く教えてもらった。
4Gamer:
さっそくですが,まずは1万ドルに絡む起業の経緯を教えていただけますか。
アレン・アドハム(以下,アドハム)氏:
1万ドル,正確には1万1000ドルほどだったと思いますが,それは親が積み立てていた学費の返金分ですね。帰って来たお金で車を買うなりヨーロッパ旅行をするなり好きに使って良いと言われたので,それを使って起業しちゃったんです。
マイク(モーヘイム氏)とフランク(ピアース氏)は私より半年ほど早く卒業しており,それぞれがWestern DigitalとRockwellに就職していたのですが,呼び掛けたら簡単に応じてくれてね。マイクは,おばあちゃんから1万ドルほどを借りて,オフィスを契約しました。それでもお金は全然足りなかったので,ホームセンターで木材を買い,みんなでデスクや棚を自作したんです。
4Gamer:
最初のオフィスもアーバインだったのですか。
アドハム氏:
ええ,そうです。私が40年以上暮らしている町ですが,もともとは何もないところで,まだロサンゼルスの衛星都市として発展していない,郊外の静かな町という雰囲気でしたね。この数十年の間で随分と発展しましたが,数千人規模の雇用者を抱えるまでに成長したBlizzard Entertainmentにとっても,都市機能が整備されてIT企業も増え,“シリコンビーチ”などと言われるようになったのはラッキーだったと思います。
4Gamer:
大学を卒業してゲーム会社を作ってしまうというのは突拍子もなく感じますが,収入のあてはあったのですか。
アドハム氏:
ええ,もちろんです。私は高校生の頃からゲーム開発をしていて,同じアーバインを拠点にしていたInterplay Productionsにはお世話になっており,移植作業の仕事を回してもらっていたんです。大学生になってもゲームプログラミングは続けていて,自分でImagination Development Systemsという会社を興して,「Gunslinger」というゲームも出していたりしています。ですから,オリジナルのゲームを開発したいというのは,Silicon & Synapseの起業当時から考えていたことですね。
マイクとフランク,それからほかにも立ち上げ当時に参加してくれた学友や知り合いのアーティストはいたのですが,ゲーム開発のいろはを知ってもらうためにも,まずはInterplayから移植作業を請け負い,Commodore 64からApple IIなりAmigaなりに移植をするところから始めました。移植というのは,いわばほかのプログラマーが書いたソースコードを見るチャンスでもあるので,それでみんなで勉強したのです。
4Gamer:
アドハムさんが先導して起業し,初代CEO兼会長だったということから,実質的なリーダーだったと言えますが,創業者である3人の役割分担というのはどのようなものだったのでしょう。
アドハム氏:
それぞれ均等にゲーム開発にも関わっていたという印象ですね。マイクもフランクもエンジニアですから,2000年から2001年くらいまではゲーム開発もしていました。「Warcraft」が私の担当という感じでしたね。(※モーハイム氏は,1998年からCEO職を継承して経営を中心に活動しており,ピアース氏はBattle.netの開発やStartCraft IIに深く関与している)
2000年初期は,すでにMMORPG市場が膨らみ切ったような状況にありましたが,「World of Warcraft」を開発するに至ったきっかけはなんでしょう。
アドハム氏:
あの頃,私たちは全社をあげて「EverQuest」をプレイしていたんです(笑)。みんなでBlizzard Entertainmentの社員だってことを隠したまま,北米最大級のギルドだったLegacy Of Steelに参加して,自宅にも帰らずにずっと朝までオフィスでプレイしたこともありました。もちろん,新興ジャンルを勉強するためという建前はありましたが,単にみんなハマっていたんです。それが,自分たちでもMMORPGを作ってみようという刺激になりました。
ちなみに,僕らの担当をしていたギルドオフィサーが,今は「オーバーウォッチ」チームを率いているジェフ・キャプラン(Jeff Kaplan)なんですよ。我々が誰かを明かさずにアーバインに呼んで昼食をしたりして,Blizzard Entertainmentが企画しているMMORPG向けのインタビューだって明かしたのも半年後だったんですが(笑)。同じく,今では退社してしまっていますが,「World of Warcraft」ではクエストデザイナーやディレクターを務めていたアレックス・アフラシアビ(Alex Afrasiabi)は,ライバルギルドから引き抜いてきた人材だったりして,プレイヤー仲間が集まってゲームを作ったのです。
4Gamer:
ところが,アドハムさんは突然のように,「World of Warcraft」の2004年のローンチを目前に,離職されてしまうわけですが。
アドハム氏:
ええ,私の人生最大の間違いだったと言っても良いでしょう。ちょうど結婚したばかりで,もっと家族と一緒に過ごせる時間が欲しかったのですが,とにかくそれまでは仕事ばかりしてきましたから,バーンアウト(燃え尽き症候群)だったんです。
10人程度の仲間たちで立ち上げた会社が数百人に増え,親会社が買収されたり,見たことのない社員が出てきたりして,私の中で戸惑ってしまった部分が多かったのかも知れません。今から考えると,数年間の休養をもらえばそれで済む話だったので,3年が経過した2007年あたりからはゲームを作りたくてムズムズして,本当に後悔していましたね。
4Gamer:
2016年に帰ってくるまでの12年間は,何をされていたのですか。
アドハム氏:
株式市場の予想をAIで行うプログラムを開発して利益を得るヘッジファンドを立ち上げたのです。それで生活は非常に安定していました。もちろん,私の新しい会社に投資してくれた人もいましたので,私には彼らにコミットすることも重要でしたし,しっかりと利益を出していたので満足はしていましたね。
でも,2016年になって株式市場が下降期に入るのではと考え始め,もちろんその後5年間の状況を見るとあまりにも早い決断だったと言えますが,会社を売却するときの説明会でマイクと再会し,その時に誘われてBlizzard Entertainmentに戻ることができました。
4Gamer:
戻って来た時の印象はどうでしたか。
アドハム氏:
本当に同じ会社とは思えないくらい発展していてビックリしましたね。
4Gamer:
逆に,変わってないと感じたことは?
アドハム氏:
ゲーム開発やゲームの質を高めるためのアイデアは,常に下から上にあがってくることでしょうか。「ハースストーン」や「オーバーウォッチ」などもそうですが,開発者たちが集まってゲームの可能性について話し,自分たちが何をできるかを話し合って企画を煮詰めていく。ここで働くゲーム開発者たちは,本当にみんなゲームが好きなんだと感じますね。
今は,3代目社長として活動するJ.アラン・ブラック(J. Allan Brack)氏を補佐するシニア副社長として,経営面からBlizzard Entertainmentに貢献しているアドハム氏。社史30年の半分近くは離れていた彼だが,「今後30年も今のように成長していくといいですね」とにこやかに話して今回のインタビューを結んだ。盟友であるマイク・モーハイム氏とフランク・ピアース氏が引退するのと入れ替わるように復帰したアドハム氏が,同社のルーツをしっかりと受け継ぎながら,ブラック氏ともに次の30年の礎を築き上げていくのは間違いないだろう。
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- ライター:奥谷海人
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