インタビュー
「テイルズ オブ アライズ」を“好きだと言える作品”にしたかった。岩本 稔氏に聞く,クリエイター人生を懸けたキャラクターデザイナーとしての挑戦
「愛せない」とまで言われた,顔の分からない主人公
4Gamer:
5人紹介いただいたことですし,最後にアルフェンをお願いします。
岩本氏:
アルフェンは,初期デザインは「DARK SOULS」や「ゲーム・オブ・スローンズ」っぽい,ダークで大人な雰囲気でやってほしいと言われていたので,それらを取り入れつつ,「テイルズ オブ」でどこまでやっていいのかを試していました。色は真っ黒,カラフルな色は使わずに,表情も見えない。中に何があるか分からない,暗黒騎士をイメージしています。
4Gamer:
シンプルにかっこいいですし,私は好きですけど,「テイルズ オブ」の新作の主人公と言われたら「え?」ってなりますよね。
岩本氏:
「テイルズ オブ」のキャラクターって,基本的に個性をプッシュ(誇張)して作るんです。現実の誰々さんが元気になった感じ,みたいな。
一方,アルフェンは削ぐことから始めました。誇張するのではなくリアリティを持たせて,そのキャラクターはどんな生い立ちや背景があるのか,なぜ戦うのかを明確に決める。鎧も防御力が高そうで頑丈なものにして。剣もシンプルに。さらには,顔を見ても「テイルズ オブ」のキャラクターと分からないような鉄仮面も付けて……という具合です。
4Gamer:
顔まで隠しているのは徹底していますよね。異質な主人公にしよう,みたいなものがあったんですか?
岩本氏:
はい。初期の設定では,内に狂暴性を秘めていて,それを鎧や仮面で無理やり抑えているキャラクターだったんです。記憶がないので最初は善人なんですけど,話が進んで仮面が割れるにつれて狂暴になっていくという感じだったので,中に何があるのか分からない見た目にしたかったんですよね。
4Gamer:
性格からして違っていたんですね。
岩本氏:
こうした設定だったので,モチーフはドラゴンです。内なる強さを持っている狂暴な感じ,人ならざる超越したものをイメージしています。
4Gamer:
顔の見えないデザインの主人公を,キャラクターがウリの「テイルズ オブ」で出すのは,ずいぶん思い切った試みだと思いますけど,社内的には問題なく通ったんですか?
岩本氏:
賛否割れました。ダークにしてほしいと言っていた方は喜んでくれましたが,ほとんどの女性スタッフにはウケませんでした。「デザイン変えません?」「これは愛せないです……」ってめちゃくちゃ言われましたね。
4Gamer:
酷評ですね……。確かにプレイ中「あ,鉄仮面のまま進むんだ」と思いましたけど。序盤で仮面が割れて安心しました(笑)。
岩本氏:
アルフェンがお客様に受け入れていただけたのは,プロモーションの方のがんばりも大きいと思います。初期から仮面が割れた状態をうまく見せてくれて,本当に助かりました。ゲーム中,4時間ぐらい鉄仮面のままなので,途中でプレイをやめてしまう人も出るのではないかという懸念は,開発内であったんです。それでも,ここまで尖ったデザインにできたのは,プロモーションのおかげですよ。
4Gamer:
岩本さんとしては,本作では「テイルズ オブ」らしい部分とそうでない部分,どちらも取り入れるデザインを目指していたわけですよね。アルフェンは社内でも賛否あったとなると,どう調整していったんですか?
岩本氏:
誇張の効いた“らしい”デザインを,ファン目線でない人でも納得できる形にしていきました。
例えば髪形が分かりやすいんですが,本当は個性を出すために髪をツンツンに立たせたいんです。ただ,それをやると“らしい”側に寄りすぎる,つまりは“誇張しないデザイン”に反してしまいます。なのでアルフェンは,仮面で押さえられている部分だけクセがついている形にして,自然だけど個性のある髪形にしました。
4Gamer:
なるほど。あくまで,あり得そうな髪形に落とし込んでいるわけですね。
仮面が割れて眼帯風になるのも,キャラが立っていてうまいと思いました。
岩本氏:
もともとは,半分割れた状態を表現しようと思ったらこうなっただけで,眼帯にしたかったわけではないんですよ。でも,デザインができてから「中二っぽい」と言われて,ほんとだ! と(笑)。
岩本氏:
アルフェンは,企画初期段階では無口なキャラクターだったんです。記憶喪失で感情を制御されているので,怒らないし,正義にも燃えない。でも戦闘は得意。それをジルファに見込まれるって設定だったんですけど,これではさすがに主人公として操作していて楽しくない。そこで,人の痛みを自分のことのように感じられるいい子にして,それをどうしていいか分からないからジルファに導いてもらうという方向に変わりました。
4Gamer:
ああ,そういう流れだったんですか。確かに,今のアルフェンは親しみやすいですね。
岩本氏:
これがアニメなら,そうしたキャラクター性でも最初の15分とかで説明するので見てもらえるんですが,ゲームでは人物像が分かるまでが長いですから。そのあたりのさじ加減は,本当に難しいですね。
アルフェンのデザインは最初に始めたんですが,終わったのは最後です。ロウ,リンウェル,テュオハリムあたりはスっとできたんですけど,シオンとアルフェンはしんどかったです。
4Gamer:
「テイルズ オブ」のキャラクターって,主人公とヒロインは最後に作るんですか?
いえ,一番最初です。伝えたいメッセージを語ってもらう2人ですから。その後で周りをかためていくみたいな作り方ですね。ただ,今回はそのメッセージやテーマを,アルフェンのデザインにどう出すかで苦労しました。
4Gamer:
アルフェン単体で見たら,初期デザインも渋くてかっこいいですけど,シオンと合わせると今の方が安心感がありますね。
「アライズ」はキャラクターのカップリングが分かりやすいですけど,そのあたりは意識して男女比を決めているんですか?
岩本氏:
いえ,「アライズ」は珍しい例です。自分はユーザーさんに委ねたいタイプなので,デザインしたときはまったく意識していませんでした。ゲームのコンセプトから,今回はシナリオを分かりやすくしようとした結果だと思います。
クリエイター人生が終わるかもと思っていた
4Gamer:
本作は,プロモーションの段階から「今回のテイルズ オブは違うな」と感じていましたが,プレイヤーの反応としては「やっぱり違った」だったんでしょうか。それとも「いつも通りだ」だったんですか?
岩本氏:
プロモーション段階では,まず不安が大きかったと思うんですよね。自分の知っている「テイルズ オブ」シリーズとは違うんじゃないかと。
でも,プロモーションの方がちゃんと伝えてくれたおかげで,賛否両論はありつつも,「これもテイルズ オブかも」「まぁ見てみようか」と好意的に受け取っていただけることも増えていきました。今までのお客様に嫌われないかという不安はあったので,嬉しかったですね。
4Gamer:
実際,「アライズ」はこれまで以上に広い層が手に取ってセールス的にも成功したんですから,本作でのチャレンジはうまくいったのではないでしょうか。これまで触れてもらえていなかった層へのフックになったうえで,「やってみたらテイルズ オブだった」というのは,最高の評価だと思いますよ。
岩本氏:
そうですね。一番最初の実験段階だったときは,「ファンに200%喜んでもらおう」というところから始まりましたが,それだけでなく,今まで向いてもらえなかったお客様にも手に取っていただけたと思います。
自分の中では,物を作るときは「プレゼントを選ぶように」取り組むことにしているんです。どんなプレゼントなら喜んでもらえるかは,相手のことを知らないと分かりません。ですから,キャラクターデザインもアートも,どうしたらお客様に受け入れていただけるかをひたすら考えて,すごい試行錯誤をしましたね。
4Gamer:
そのチャレンジは,良い反応として返ってきたのでは?
岩本氏:
はい。やってよかったと今では思っています。
でも,本当に怖かったんですよ。正直なところ,ゲームクリエイター人生終わるかも,「岩本許さねえ」って言われるかもと思っていました。
4Gamer:
「アライズ」は,ブランドの存続に関わりかねないチャレンジをしているタイトルだと感じていました。傍から見ていてもそうなので,開発側はより不安だったでしょうね。
岩本氏:
この3年か4年は吐きそうな気持ちでデザインしていましたね。プレッシャーがすごかったです。発売から1,2か月経って,ようやくぐっすり眠れるようになりました(笑)。
4Gamer:
そこまで……。
岩本氏:
本当は,岩本って名前を出すかどうかも聞かれたんです。開発の人間なので,前に出る必要があるわけではないですから。
でも,クリエイター人生で最後のチャンスだと思ったんです。これに向き合わないと,何のためにがんばったんだ,何のためにお客様に喜んでもらいたいといろいろ考えたんだ。だから,出ますと。責任者として,何かあっても自分が矢面に立ちます,やりきりますみたいな気持ちでした。
岩本氏:
私は「アライズ」で,自分が好きなものを好きだと言えることを,お客様に伝えたかったんです。それなのに,自分が隠れて何も言わないというのは違うじゃんと思ったので。こうして,前に出るお仕事をいただけることをありがたく思いながら出ています。
自分は絵とかゲームに救われた側の人間ですから,そうした方々に「好きなものが見つかったら人生楽しいよ」と伝えるために自分にやれることがあるなら,やりたいと思っています。
4Gamer:
その結果,無事成功しましたから,大変なのは次ですよ。「アライズ」以上のものを求められるわけじゃないですか。
岩本氏:
そうですね。アートディレクター,キャラクターデザイナーの立場としては,開発が終わっても,ライフワークなので絵の研究はずっとやっています。キャラクターや戦闘,シナリオの魅力を伝えるために,ビジュアル的にできること,やってみたいことはまだまだあるので,今も磨いている最中です。
これは次の「テイルズ オブ」で,みたいな話ではないんですけど,本当は,UIや背景,エフェクトや物語,全部にキャラクター性を入れたいんですよね。
4Gamer:
どういうことでしょう?
岩本氏:
例えば,「迷いの森」ってダンジョンがあるとして,そこで霧が立ち込めていて,マップの右に行ったら左から出てきてしまう場所だとします。これだけだと,ただの攻略する対象です。
でも,ここに例えば,手前の村でお姉さんが「あそこに行かないで」と言う。無視して足を踏み入れると,女の子のお化けがいて,どうやらお姉さんの妹らしい。昔,迷って置き去りにされて死んでしまって,今でもお姉さんを探している。
こうした設定があると,この子を助けてあげたいという主体的な気持ちが濃くなって,ダンジョンにキャラクター性が乗るじゃないですか。
4Gamer:
ゲーム中のあらゆるものに感情移入できるようにしたいということですか?
岩本氏:
そうです。ダンジョンなら,プレイヤーに感情を乗せてその場所に立ってもらいたい。ご飯1つでも,技1つでも,ドラマというかキャラクター性を持たせて,感情移入してもらえるような表現をしたいんですよね。
私,UIはなんで画面にずっと出てるんだろうって思う人なんですよ。
4Gamer:
最近は,没入感を高めるためにUIが消えるタイプのゲームも増えましたけど,そういう話ではないですよね。
岩本氏:
どうして画面に文字やゲージが浮いているんだろうって思うんですよ。もちろん,ゲームだからプレイヤーに分かりやすくするための便利機能なんですけど,不自然じゃないですか。
これが例えば,「UIちゃん」みたいな精霊がいて,視覚的に補助してくれているって設定があってもいいわけです。体力ゲージや数値を表示しているのはUIちゃんの力。お金やアイテムはUIちゃんが一生懸命持っていて,新しいカバンを買ってあげると所持量が増える。そういうのができたら,UIをお世話する感覚になれるじゃないですか。UIちゃんが風邪をひいて体力ゲージが出なくなるとか。
4Gamer:
確かにそれなら,開くだけのUIに何らかの感情が湧いてきます。
RPGってなりきり体験なので,その世界で関わるものすべてに感情を乗せられるようにしたいんですよね。全セクションでキャラクターを立てたいです。
4Gamer:
それはつまり,岩本さんが開発のすべてを見たいという話では?(笑)
岩本氏:
それはそうなんですけど,チームには優秀な方が多いので,お任せした方が良いところもたくさんありますから。
キャラクターって,とにかく感情移入しやすいですし,応援できる存在です。ですから,キャラクターを通して世界を見ていって,愛情を込められる。そんな表現を目指したいですね。
4Gamer:
その方向性は「テイルズ オブ」シリーズと合っていそうですし,ほかのタイトルであっても見てみたいですね。岩本さんの次のタイトルに期待しています。
本日は長時間,ありがとうございました。
「テイルズ オブ アライズ」公式サイト
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Tales of Arise(TM)&(C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc.
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