プレイレポート
Nintendo Switch向け「even if TEMPEST 宵闇にかく語りき魔女」をプレイ。業火に焼かれた少女は“死に戻り”で愛を知る
ボルテージから2022年6月9日に配信されたNintendo Switch用ダウンロードソフト「even if TEMPEST 宵闇にかく語りき魔女」。本作は,さまざまな女性向け恋愛ドラマシリーズを手掛けてきたボルテージ初のNintendo Switch向けソフトだ。
魔女裁判や魔女狩りの慣習がある世界を舞台にしたダークファンタジーで,ディレクター/シナリオに潮 文音氏,イラストにのりた氏,背景美術に秋葉みのる氏,BGMに土屋俊輔氏といった実力派クリエイターが参加している。
今回は,そんな本作のプレイレポートをお届けする。
◆キャラクター◆
運命の輪を巡る紅蓮の魂
アナスタシア・リンゼル
※名前変更可
CV:ボイスなし
Age:18歳
Interest:鍛錬
「もう二度と『自分』を諦めない」
継母に疎まれ,幼い頃から不遇を強いられてきた少女。
埃かぶった屋根裏部屋だけが彼女の世界だったが,『死に戻り』という過去を変える力を与えられたことですべては一変する。
尋常ならざる力は彼女の運命を紅く染め上げ,そして新たな悲劇をたぐり寄せる。
弱きを知る変革の蒼
ルーシェン・ノイシュバーン
CV:石川界人
Age:18歳
Interest:猫
「貴女との約束が,僕をここまで生かしてくれた」
ヒストリカ国の心優しき第三王子。
母の身分が低いことを理由に親族から虐げられて育つ。
意気地がなく,泣き虫。王位継承権の保持者だが,誰からも期待されない。しかしヒロインの『死に戻り』後,その評価は逆転。有能かつ冷徹な人物へと変貌する。
何が彼を変えたのか,果たしてどちらが本当の彼なのか,時を変える力を持つ主人公すら分からずにいる。
心なき博愛及び欲深き情愛
クライオス・キャソロック
CV:古川 慎
Age:26歳
Interest:剣術
「どんな選択であっても,お前が選んだ道ならそれは正解だ」
女神の愛鳥ガルダを擁する翼騎士団の若き副団長。
整った顔立ちと紳士的な振る舞い,爽やかな笑みが,多くの女性を魅了する。女性人気の高さと飄々としたつかみ所のない性格のせいで,男性陣を敵に回しやすいが,部下たちからの信頼は厚い。
おおよそ欠点の見当たらない人物だが,その内面には底知れぬ虚無を抱えている。
正道の知者,悪夢の使者
ティレル・I・リスター
CV:杉山紀彰
Age:26歳
Interest:飲酒
「わめきたいなら,特別な部屋に招待してやる。鞭にギロチン,懲罰椅子……どれでも選び放題だ」
魔女を断罪する異端審問会のトップ。
磨き上げられた刃のような鋭い美と,類いまれな頭脳を持ち合わせているが,全ての長所の覆してしまうほどの毒舌家。彼の振るう鞭は苛烈を極め,人々を遠ざける。
クライオスとゼンが唯一の友人。
揺るがぬ意思と何者にも染まらぬ正義。しかしその首には,見えない首輪がかけられている。
遥か孤独の吊るし人
ゼン・ソルフィールド
CV:武内駿輔
Age:年齢不詳
Interest:放浪
「お前の刃はオレの心臓まで届くことはねぇ。――何なら試してみるか?」
出身地,家門,年齢,全てが謎に包まれた人物。
大柄で強面な顔立ち。無愛想で目つきも悪く,本人にその気がなくとも他者の威圧してしまう。
善悪の所在は不明。主人公にとって敵なのか味方なのかすら定かではない。
ゼンの正体を知るには,彼を味方に引き込むしかなく,ゼンを味方に引き込むには,彼が何者か暴く必要がある。
“魔女の道化”となった殺人犯を見つけ出す「魔女裁判(カーニバル)」
本作の舞台は“魔女裁判”や“魔女狩り”が当たり前のように存在する世界。主人公のアナスタシア・リンゼル(※名前のみ変更可)は侯爵家に生まれたものの,冷酷な継母によって幼い頃から屋根裏部屋での暮らしを強いられていた少女だ。
死んだはずのアナスタシアの前に現れたのは,異界カクリヨに住む謎の少年・ルーン(CV : 畠中 祐)。自らを魔女と名乗るルーンは,アナスタシアに再び人生をやり直す不思議な力「死に戻り」を与える。こうしてアナスタシアは幽閉される直前の過去へ戻り,自分を死に追いやった相手へ復讐するための新たな人生を歩み始めた。しかし,これは「破滅の魔女」がもたらす,さらなる悲劇の始まりに過ぎなかった……。
本作はプロローグの後に「翼の章」または「仇花の章」のいずれかを選び,物語を進めていくことになる。選択肢によって運命を左右する薔薇が赤や黒で表示され,どちらの薔薇を多く咲かせたかで結末も変化。死に戻りにより,せっかく育んだ絆や愛がなかったことになる喪失感や孤独を乗り越えながら最善のエンディングを目指そう。
とくに特徴的なシステムが「魔女裁判(カーニバル)」だ。物語を進めるうちに,魔女によって道徳心を蝕まれ「魔女の道化(メンブルム)」となった人物が殺人を犯してしまう。これと同時に,首に鎖が巻き付けられた5人の「被告人(サクリファイス)」が現れ,主人公はこの中に紛れた魔女の道化を見つけなくてはならない。
主人公は魔女裁判が始まるまでの間,被告人について調査を行う。彼らと直接会って様子を伺い,魔女裁判を戦うために必要な「スキル」や「証拠」といった情報を得るためだ。すべての相手に会う時間はないので,あらかじめ被告人がどのような人物か確認し,怪しいと感じた人物に絞る必要がある。
裁判は異端審問官が進行し,被告人同士の討議で行われるが,判決を下すのは300人の民衆だ。目的は魔女の道化を見つけるためなので,言動が怪しいと感じた相手を糾弾するのも間違いではない。ただし,例えば悲劇の渦中にあるような人物,民衆から信頼されているような人物に正論で疑念をぶつけても,かえって主人公側の心証が悪くなってしまう場合もある。嘘を言っていると感じても,あえて同調したり,擁護したりするのも選択のひとつ。発言には時間制限があるので,慎重かつスピーディに選ぼう。
魔女裁判では誰を信用すべきかと疑い合う空気の中,事実が発覚するたびに「あの人に会うのは時間の無駄だった」と後悔したり,「あの人に会っていなければこの証拠は手に入らなかったから,危なかった……」と安堵したりと,ほどよい緊張感を味わえるものになっている。
文字で見るとやや複雑に感じるかもしれないが,そもそも魔女の力によって全員の犯行当時のアリバイは不明瞭となっている。そのため被告人の言動を厳密にチェックして推理する……と頭をフルに使うような重いものでもない。実際にやってみるとかなりテンポよく進んでいくので,安心して遊んでほしい。
主人公を取り巻く、複雑な想いを秘めたキャラクターたち
ここからは主人公のほか,物語の主要な人物について紹介していこう。アナスタシアは継母によって屋根裏部屋という小さな世界に閉じ込められていたが,死に戻りの力でその状況を打破し,心身ともに逞しい女性へと成長。すべてを復讐に費やしているものの,その努力家でストイックな態度に周囲から自然と信頼を寄せられている。
とくに彼女の心の支えとなっているのは,リンゼル家に仕えていたメイドのマヤ・カークランド(CV : 三森 すずこ)だ。主人公の生母への恩から仕えるが,アナスタシア自身のことも深く愛している。アナスタシアにとって何よりも大切で,安らぎを得られる数少ないない相手となる。
ヒストリカ国の第三王子であるルーシェンは,美しい金髪が印象的な青年。プロローグで出会った時は,いざという時は自身を奮い立たせるものの基本的に弱気で泣き虫でもあり,周囲の誰からも期待されていない人物だった。
しかし死に戻りの後に出会ったルーシェンは,第一王子のコンラッドに負けないくらいの人望を集めるほど高く評価されている。一体どちらが本当のルーシェンなのか,そして主人公に抱いている強い感情はどこからきているのだろうか……?
クライオスは,この国で信仰されている女神の愛鳥「ガルダ」と共に生きる翼騎士団の若き副団長。整った顔立ちにスマートな立ち振る舞い,さらに剣の腕前もかなりのものと女性を魅了する要素はすべて兼ね備えている。部下には厳しいが寄せられる信頼は厚く,一見すると欠点らしい欠点が見当たらないパーフェクトな人物だ。一方そうした態度からは感じられないが,内面には複雑なものを抱えている。
今回プレイした範囲では,クライオスとのやりとりを楽しめた。これまで復讐のことだけを考えてきたため,色恋どころか他人への興味すらほとんどないないアナスタシアだったが,あるきっかけでクライオスに近づくことになる。女性慣れしていることもあってかクライオスからアナスタシアへのアプローチは実にスムーズで,知れば知るほど惹かれ合っていく2人の描写には心が温まる。
とはいえ,彼と親しくなったきっかけはアナスタシアにとって到底受け入れられないもの。いずれアナスタシアは死に戻りを選択し,この時間もすべて失うのかと思うと非常に切ない気持ちにさせられた。
ティレルは,魔女を断罪する「異端審問会」のトップ。彼が入管してからの魔女事件はすべて解決していて,今代で最も優秀と称えられる有能な人物だ。その類まれな頭脳により出来ないことはないようで,彼の望む対価を払えばどんなことでもやってのける。
厳しい目つきに加えて非常に口が悪く,態度も横柄のため友人はクライオスとゼンのみ。魔女として処断された主人公としてはどうしても複雑な感情を抱いてしまうが,意外と情もあり,付き合い方が分かれば頼もしい味方になってくれる。そんな揺るがぬ正義と共に堂々と生きているように思えるティレルだが,彼にも隠された謎があるようだ。
ゼンは何もかもが不明な人物で,プロローグをプレイするだけでもかなり驚かされる。その後も色々なことを知っているような態度を見せつつ,警告のような言葉を残すなど主人公にとって味方なのか,敵なのか一切分からない。かなりの強面だがどうしても悪人には思えず,掴みどころのない言動にはあえて言わない,もしくは言えない理由があるように思えてならない。ゼンがアナスタシアに本心を明かしてくれた時,どう印象が変化するのかが楽しみな部分だ。
メインキャラクターとの恋愛模様も気になるところだが,それ以上に心を揺さぶられたのはさまざまな立場のキャラクターが織りなす重厚なドラマだ。アナスタシア自身も復讐に燃えつつそれを忘れ,死に戻りで得た新たな人生や幸せを享受すべきか思い悩むこともある。それでも自分が信じた道を進むため必死にもがく姿は「頑張って!」と応援したくなるし,困難に立ち向かう勇気が貰える気がした。
また,アナスタシアにとって敵だと思っていた人物にも意外な弱みや脆さが隠れていたり,味方だと思って接していた相手にも計り知れない絶望や闇が巣食っていたりする。物語を進めるごとにキャラクターたちの新たな一面が見えてくるのも本作の魅力のひとつなので,恋愛はもちろん奥深いストーリーを堪能したいプレイヤーにもオススメの一作だ。
「even if TEMPEST 宵闇にかく語りき魔女」公式サイト
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