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迷走した「リズムで英語 ビートトーク!」の開発過程が紹介された,ゲーミファイ・ネットワーク 第16回勉強会聴講レポート
このセミナーでは,ギフトテンインダストリ 代表取締役の濱田隆史氏が,同社のSwitch用ソフト「リズムで英語 ビートトーク!」の企画意図や試作中の迷走,反省点などについて語ったセッション「施策を作り続けた迷走の7ヶ月を振り返る」を行った。
「リズムで英語 ビートトーク!」は,11月11日にニンテンドーeショップにて配信を開始した英語学習を目的とするタイトルだ。濱田氏によると,本作の試作には,濱田氏を含む2名の開発者が7か月間フルタイムで取り組んだとのこと。ギフトテンインダストリでは,1つのタイトルの試作にかかる期間は通常2〜3か月とのことだが,本作は試作中に迷走を重ねた結果,実に通常の2倍以上の期間がかかったのだという。
ギフトテンインダストリが学習ソフトに取り組むきっかけとなったのは,2020年春にコロナ禍で,全国の小中高校が一斉休校になったことだ。それにより,濱田氏自身の小学生のお子さんも自宅で長い時間を過ごすことになってしまった。
そこで濱田氏は,一斉休校中の小学生の学習に役立つアプリを作ろうと考えたという。その第1弾が,外国人児童とのコミュニケーションをテーマにしたWebアプリ「コトバハカセ」である(関連記事)。
コトバハカセには,小学校の教師から多くの反響が寄せられたという。そうした教師の中には,多言語学習を推進している人もおり,濱田氏は「外国語学習をすると,母国語の理解力が上がる」という研究結果があるということを知ったそうだ。
そこで濱田氏は,「次は多言語学習をテーマにしたゲームを作ろう」と考えた。「コトバハカセ」は無償で提供したが,今回は収益が出るよう,Switch用の有料ゲームにすることに決め,2020年5月に開発をスタートさせた。
最初の試作バージョンは,電車の車窓からの風景を背景に,多言語を使って単語合わせをするシューティングゲームのようなものだった。背景を車窓からの風景にしたのは,コロナ禍で海外に行けなくなった当時,旅行気分を味わえるようにと考えたからだそう。
このバージョンは,単語の意味や文法などもしっかり頭に入り,「覚える」という点では悪くなかった。しかし,大量の単語をアイコン化する必要があったり,概念的なものなどアイコン化しにくい単語があったり,動詞の変化など正確な文法に対応できなかったりと,解決できない課題があり,ボツになったという。
2020年6月には,新しいネタを探すため全言語に共通する「発話のタイミング」に注目して調査と実験を開始する。これは,どの言語も発話するときには音程やタイミングがあるので,それをデータ化することで何かヒントが得られないかと考えたために行ったそうだ。
その結果,国や地域それぞれの“言葉らしさ”は,それぞれのリズムや発音のコツによって表現されていることが分かったという。
“リズム”という言葉から着想を得た濱田氏は,続く2020年7月に,会話分析法のトランスクリプトを応用して洋画のシーンを会話分析し,リズムゲーム化を行った。
この試みは一定の手ごたえがあったそうで,とくに英語だとリズミカルな要素が非常にマッチしており,楽しいものになったそうだ。しかし,“世界一早口の言語”とされる日本語はこのゲームの速度感にマッチしなかったこと,何よりどの言語でもゲームを“やらされている感”が強く出てしまうことが課題となり,こちらも製品化には至らなかった。
日本語の速度感と“やらされている感”を解決するべく,2020年8月には“発話の使い分け”と“真似”を組み合わせたゲームを試してみることに。ここでは,スピーカーから発話される言葉のピッチの工程や声調,タイミングを真似して入力するゲームを試作してみたという。ヒントになったのは,対戦相手の動きを再現することで敵を倒していくゲーム「スペースチャンネル5」だったそうだ。
結果,日本語と中国語はタイミングに加えて,ピッチや声調の使い分けという要素によって面白くなったが,今度は英語がタイミングだけのゲームになってしまい,面白さがあまりなくなってしまった。
“やらされてる感”については,自分のペースでスタートできる点もあってかなり軽減でき,ハイスコアを目指すために繰り返しプレイするので,学習効果の高まりも実感できたそうだ。
2020年9月は,英語のパートを面白くするために,“音の長さ”を取り入れることを考えた。最初は音の長さを決める“押す”と“離す”のタイミングを実験するため,モールス信号を使って試作し,手ごたえがあったので英語字幕に変えてみたという。
これによって面白さは改善され,繰り返しプレイによる学習効果の高まりも期待できるようになった。
“真似ゲーム”が日本語,中国語,英語で形になってきたことを受け,2020年10月には,シナリオとアートワークを組み合わせたバージョンを作り,大規模なテストプレイを実施した。
しかしテスターの反応は,「繰り返し作業が地味で,楽しさが分かるまでに時間がかかる」「英語の発話のタイミング判定に納得がいかない」「魅力的な世界観になっているのか疑問がある」など,あまり芳しくなかったという。
テストプレイの結果を受け,多言語学習の実現が難しいと改めて認識した濱田氏はここで大きく方針を転換し,2020年11月に比較的反響の良かった日本語学習に特化したゲームの試作を開始した。これは音程を聞き取って文字を並び替えていき,最終的に意味のある単語にするというパズルゲームだった。
このバージョンは,数問であれば面白いものの,“1文字めと2文字めは必ず音程が変わる”といったコツを掴んでしまうとすぐにクリアできるという問題があり,ゲームとしての深みが足りないものになったとのこと。さらには,ターゲットとするプレイヤー層が分かりにくいという課題もあった。
結局ニーズがあるのは英語だろうということで,2020年12月には英語学習に特化することに決定。2020年7月に作ったリズムゲームをベースにしたバージョンの英語は面白くプレイできたので,結局そこに立ち返ることになった。
ゲーム内容が二転三転したが,ようやくここで仕様が固まり,製品版の企画書が書けるようになったという。
以上を振り返り,濱田氏はなぜ本作の試作期間が,通常の2倍以上になってしまったかを分析し,2つの反省点を挙げた。
1つは,濱田氏がすぐに試作版の制作を始めてしまったことだ。これには「プログラミングが楽しいので,それ自体が目的になりやすく,時間が消費される」「作業者がプログラミングのできる人に限られる」「試作の手応えが良くても,企画書に落とし込めなくて頓挫する」という問題点を挙げた。
もう1つの反省点は,試作がボツになるのに伴い,多数のアートワークが無駄になったことだ。目的が不明瞭のまま,試作を繰り返してアートワークがボツになっていくため,アーティストのモチベーションもかなり下がっていたという。
そうした反省を踏まえ,濱田氏は次回作の開発に向けて2つの方策を立てた。1つは「試作期間は全員が参加できるようにする」というもので,具体的には,物理試作の手法を導入する。
これは書籍「中ヒットに導くゲームデザイン」の内容に基づいたもので,カードやボードを使って試作し,アーティストに無駄な作業をさせない狙いがある。
試作版の制作手順も,一度アイデアを物理試作して流れを確認し,ゲームの進行を把握してから企画書を作り,それから初めてデジタル試作に入りゲームの手触り感を作っていくというものに変えていくとのことだ。
もう1つの方策は,「企画書を積極的に作る」ということ。これにより「誰に向けての商品なのか」「尖った世界観になっているか」「1つの仕組みでレベルデザインの量産は可能か」「これまで作ったゲームのアセットを使い回せるか」といった項目をはっきりさせる。
とくにレベルデザインの量産については,ゲームは鑑賞者の目を数分惹けば十分なメディアアートとは異なり,繰り返しプレイも含めて少なくとも5時間は遊べるものを作れなければならないと濱田氏は語っていた。
「ギフトテンインダストリ」公式サイト
- 関連タイトル:
リズムで英語 ビートトーク!
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