プレイレポート
[プレイレポ]古代中国を舞台とする都市開発シム「東方:平野孤鴻」は,美しいグラフィックスと骨太の難度が魅力
4Gamerではアルファテストが開始されたときに,本作の序盤のプレイレポートを掲載しているが,今回は製品版をじっくりと遊んでみたので,あらためて紹介してみたい。美しいグラフィックスが目を引く本作だが,非常に骨太でプレイヤーに放漫経営を許さないやり応えのある都市開発シムとなっている。
テンポの良さとシビアさが同居する都市開発シム「東方・平野孤鴻」先行テストレポート。古代中国で理想の都市を作り上げよう
西山居は2022年4月19日,「東方・平野孤鴻」(英題,Ballads of Hongye)のアルファテストをSteamにて開始した。本作は古代中国を舞台に,平和で豊かな巨大都市の開発を目指すリアルタイム制シミュレーションゲームだ。今回,アルファテストの直前に実施された先行テストに参加できたのでレポートしてみよう。
四季が大きな影響を与え,プレイヤーに慎重な都市開発を求めるシビアなバランス
本作の舞台は「鴻野県」と呼ばれる,古代中国の一地方だ。プレイヤーの分身である中年男性の「丁鴻」は,長官という地域開発の責任者でありながら,真っ当な業績を残せておらず,身内の長老衆からも呆れられる日々を送っていた。実際にゲーム開始直後の鴻野県はほぼ何もなく,民家とわずかな農地のみ。生きていくだけで精一杯という有様だ。
ある日,朝廷から復興用のまとまった物資が届き,にわかに鴻野県は活気づく。この物資を有効活用すれば,中国でも指折りの豊かな都市を築くことも夢ではない。こうして丁鴻と長老衆は一念発起し,これがラストチャンスとばかりに地元の開発に奔走し始める……というのが,導入部の展開だ。
冒頭で触れたとおり,本作は都市開発を目的とするシミュレーションゲームだ。プレイヤーは人口を左右する民家,資金を稼ぐ八百屋や劇場,食料を生み出す麦畑や果樹園などの農地,水を取得できる井戸や酒蔵,木材を調達する伐採場といった施設を“バランス良く”配置し,都市を発展させていく。施設は何らかの資源を生み出すが,同時に別の資源を消費するので,建設時のコストだけを気にしていると痛い目を見ることになる。
都市シムとしては建設関係の制限は比較的少なく,資源と平地(スペース)さえあればどこにどんな施設を配置してもいいし,配置後にも「移動」コマンドで自由に移動させられる。重要な人口も,基本的には「民家を建てればその分だけ素直に増加し,勝手には増えない」ため,コントロールは比較的容易だろう。経済の概念もあるが税収で間接的にまかなうといったルールではなく,施設からの資源や収益がそのまま入ってくる。“都市運営と企業経営を一手に担う”といった感覚に近い。
一方,資金と資源管理はシビアだ。本作は季節の流れが重要な要素となっており,暑い夏には水の消費が増えて,寒い冬は衣服を人々が多く使用する。資源の消費に大きな変動が生じるのだ。さらに施設からの資源の生産量も四季によってまったく異なり,例えば夏に多くの食料を生産する果樹園だが,冬の生産量はゼロになる。これが“バランス良く”と強調した理由であり,本作の特徴的かつ面白い部分だ。
生産量が多いときに,しっかりと資源の備蓄を作っておけばいい話だが,それができなければ季節が移り変わっただけで街はピンチに陥る。備蓄が少なくなれば市民の幸福度は落ちていくし,何より食料などが尽きればあっという間に街は棺桶であふれてしまう。さらに火災や疫病といったトラブルの発生率が高く,防災と災害対応を兼ねる夜番休憩所や医療所といった施設を適切な場所に建てておかないと,人口や収入が一気に減少してギリギリの状態の都市運営にトドメを刺しかねない。
とくに頭を悩ませるのは資金だ。施設の維持費と同時に,プレイヤーが任命する「策士」と呼ばれる役人には給料を払う必要がある。策士は都市の発展をスムーズにし,時には所有するスキルでピンチをしのいでくれる。だが,能力が高い策士ほど給料は高く,策士を長期間雇用し続けるのも財政の大きな負担になる。
もし施設の維持費と策士の給料を払えなくなると,その時点でゲームオーバーだ(後述する「挑戦」に参加しているときは即終了)。このあたりのバランスはかなりシビアで,筆者は何度も街の財政を破綻をさせてしまった。
この事態を防ぐためにも,“じっくりプレイする”ことを勧めたい。資金や備蓄に余裕があれば施設をどんどん建設し,急激な開発を行いたくなるが,それだと必要経費も増えて市民の食料や水などの消費量も増大する。やがて日々の収支がマイナスになって備蓄はみるみる減り,あっという間に街と長官を追い詰めていくだろう。さらに街の範囲が広がれば,防災施設の効果が及ばない施設も増え,災害にも弱くなる。
端的にまとめると,街の収支をしっかりと睨みつつ,足りない物資を増やすための施設を増設し,同時にそれが原因で消費が増える資源が在庫に影響を与えすぎないかをチェックする。こうした繊細な都市計画が必要になるのだ。
前述のとおり,自由度は高いので少々の強引な開発は可能だが,収支を度外視した放漫経営はすぐにピンチを招く。また,時間を停止している間は作業がほぼ何もできないので,(プレイヤーが操作している間の)時間経過も無視できない。慣れないうちは,とにかく慎重に開発を進めるのが都市を長生きさせるコツだ。
比較的余裕があるフリーモードと,歯ごたえのあるシナリオモードが一体化。メリハリの効いたプレイが必要になる
とにもかくにも地に足を付けた開発が必要になるわけだが,それだけでは街づくりは進まない。というのもチュートリアルを終えた直後の,鴻野県の開発可能な範囲は非常に狭く,建築できる施設の種類も非常に少ないからだ。本作には「野菜畑 → 八百屋」など,特定の施設を道路で接続すると収益が増える「産業チェーン」という仕組みがあり,収支を安定させる要素として必要不可欠。だが,建てられる施設が少ない状態だと,これをまともに機能させるのは難しい。
これらの問題を一気に解決する方法がある。それが「挑戦」と呼ばれる仕組みだ。
挑戦とは,「現在の都市を運営しつつ,別の地域をほぼゼロから開発して指定された目標を達成する」ものだ(最初のチュートリアルを除く)。一般的な都市開発シムのシナリオモードに相当するだろう。成功した暁には開発した地域が丸ごと鴻野県に組み込まれ,管理可能な範囲が一気に広がり,成功報酬として建築可能な施設が増える。都市開発をステップアップする方法として,避けては通れない存在だ。通常モードだけプレイしていると,変化が少なくプレイが単調になることもあるが,メリハリを生むという点でも面白い要素と言える。
しかし,挑戦モードは,いわゆる通常モードより難度がかなり高い。与えられる資源は開始時に鴻野県から切り崩した分しかなく,建設できる施設も限られる。食料生産ができる施設のバリエーションが非常に少ないといった,早々に開発が行き詰まるシチュエーションもよくある。
また,提示される目標も最初のうちは難しくないが,膨大なコストがかかる「奇観」(巨大な建造物)の完成を目指したり,大量に押し寄せる難民を何とかなだめつつ暴動と災害に耐えながら街づくりを進めたりと,どんどんクリアのハードルが高くなっていく。相当苦労するはずだし,個人的には難度調整が存在しないことが不思議に思えるほどだ。
挑戦は失敗してもゲームオーバーにはならないが,基本的には最初につぎ込んだ資金と資源が失われる。製品版になり,一部は戻ってくるようになったため,以前の“失敗すればすべてがパー”よりはマシになったが,それでも徒労に終わるとなかなかに悔しい。
なお,ゲーム開始時の難度設定では「田園モード」または「疾風モード」を選択できるのだが,後者は挑戦に時間制限が存在する。正直なところ,イージーな田園モードでも挑戦には苦労するので,疾風モードを選ぶのはゲームに相当に慣れてからにするべきだろう。時間制限があると,収支を安定させながらじっくりプレイすることができず,さらに難度が跳ね上がるからだ。
ちなみに,利用可能な施設を増やす方法は挑戦だけでなく,スキルツリーである「才能」でアンロックしたり,資金を投入してランダムで開発できる「設計図」から入手したりすることもできる。才能のアンロックを増やせば,挑戦の難度も間接的に低くなるので,そうした点でも注目したい要素だ。
ある種の戦争要素もあり。歯ごたえのある開発シムを求めているなら,ぜひ挑戦してみよう
本作には「都市ランク」という評価項目があり,鴻野県の発展度を測る一種の目安になっている。基準となるのは市民の幸福度や資金の保有量のほか,ランクが上がると納めることになる総納税額なども関係してくるため,思い立った時にすぐに高めることはできない。ただ,一部の才能や挑戦は都市ランクがアンロックの条件になっているので,無視することもできない存在だ。
都市ランクでアンロックされる要素には,軍事関係の施設もあり,これによってRTSのような戦争要素が利用できるようになる。一部の挑戦には,戦闘の勝利がクリア目標になっているものもあるのだ。
ただ,戦闘用のモードが用意されているのではなく,基本は都市開発のシステムと変わらない。住民用の住宅を施設によって兵士用の待機所に変更し,戦闘用の施設に兵士を補充,そこから敵に向かって道路を引いて相手に攻め込むという一風変わった仕組みになっている。戦闘だけでなく,戦線を維持するための開発も並行する必要があり,アイデアとしては非常に興味深い。
とはいえ,ルールが独特で理解するまでには時間がかかり,こちらも相当に難度は高い。筆者はコツを掴む前に敵に圧倒されるばかりで,ほとんど何もできないまま終わることがほとんどだった。
正直に言えば,基礎知識とルールを学べて何度もリトライできるチュートリアルを用意するといったテコ入れが必要だと思う。今後のアップデートでの対応に期待したい。
本作は目まぐるしく変わる季節を美しいビジュアルで描いているだけでなく,それが「四季による資源の生産量と消費量の変化」という理にかなった形でシステムに組み込まれている。都市開発シムでは最も効率が良い施設やユニットを量産しがちだが,“時間が経てば必ず季節が変わる”というルールを導入し,単調さから脱却するための工夫を施している。
また,同じ施設を建設し続けると過当競争になって収益が下がるため,これも考慮する必要がある。建築物のバリエーションを増やすための仕組みは,上手く噛み合っている印象を受けた。
挑戦に関しても,このジャンルにありがちな中だるみを抑制するという点で面白い要素だろう。都市の運営が上手くいっていると,資源が増えすぎて緊張感がなくなるが,挑戦では非常に限られた物資と施設しか持ち込めないため,自然と気合いを入れてプレイせざるを得ない。クリアの暁には“都市が一気に拡大する”というリターンもあり,達成感と爽快感を得られる。
一方で難度に関してはかなりシビアだ。序盤でも油断すると,あっさりとゲームオーバーになる。コツを掴めないうちはギリギリの都市経営になりがちだが,高頻度で発生する災害が財政や備蓄にとどめを刺すことが多く,気がついた時には手遅れであることも。なかでも落雷のような局地的な災害はどこで起こったのかが分かりにくく,施設が廃墟になっても探しにくい点は改善してほしいところだ。
また,一部の挑戦は非常に難度が高く,筆者は手も足も出ずに諦めることになった。製品版では,時間に余裕が生まれる田園モードを搭載しているものの,それでも歯ごたえのある難度であるのは間違いない。時間の停止中に建築ができないというのも難度に影響を与えているだろうし,頻繁に賃上げを求めてくる策士にはウンザリすることもしばしば。
逆に言えば,それだけ挑戦のしがいがある作品だと言える。都市開発シムに腕の覚えがあるゲーマーならば,時間制限がある疾風モードも楽しむことができるかもしれない。筆者は大きな不具合に遭遇することもなく,ローカライズに関しても支障となる部分は少なかった(一部の表現に怪しいところはあるが)。都市開発シムの初心者には少し勧めにくいが,一定の経験があるゲーマー,あるいは難しい都市運営に挑みたい人は,ぜひ鴻野県を訪れてほしい。
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