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Saashi&Saashiとittenに聞く,ボドゲづくりの秘訣とは。魅力溢れる2レーベルをゲームマーケット会場から紹介
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印刷2022/05/16 10:30

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Saashi&Saashiとittenに聞く,ボドゲづくりの秘訣とは。魅力溢れる2レーベルをゲームマーケット会場から紹介

 ここ10数年ほどで急成長を遂げ,ゲームジャンルのなかでも大きな存在感を持つようになったアナログゲーム。それはゲームマーケットの会場を眺めるだけでも明らかで,新型コロナ禍の影響が色濃いとはいえ,回を追うごとに華やかさを増しているのは間違いない。
 それは出展される作品についても同様だ。一昔前には見られなかった見栄えのするパッケージや美麗なインスト,あるいは大規模なブース出展やステージイベント,動画を使ったプロモーションも珍しくはなくなり,ゲームの内容についても,豪華なコンポーネントがふんだんに詰め込まれた,いわゆる“重たい”ゲームも少なからず登場するようになってきた。

画像集#016のサムネイル/Saashi&Saashiとittenに聞く,ボドゲづくりの秘訣とは。魅力溢れる2レーベルをゲームマーケット会場から紹介

 こうした傾向自体はもちろん歓迎すべきことだが,筆者がそんな中にあっても失われてほしくないと思うものに,アナログゲームでしか実現しえない“アナログゲームらしさ”がある。この“らしさ”を定義するのはなかなかに難しいが,例えばカードの手触りやダイスを転がしたときの感触であったり,場に配置されるボードやチット,コマなどによって形作られる風景がそれにあたる。そして,そういったものをひっくるめた世界観こそが,ボードゲームの真骨頂だと筆者は思うのだ。

 本稿ではゲームマーケット2022春の会場から,そうした強固な世界観を持った作品を作り続けている二つのレーベル「Saashi&Saashi」「itten」を紹介してみたい。掲載が少し遅くなってしまったが,ボードゲームファンには目を通してもらえたら幸いだ。

Saashi&Saashi 公式サイト

itten公式サイト



ゲームマーケットの1テーブルから世界へ――Saashi&Saashi


 Saashi&Saashi(サーシ&サーシ)は,メインデザイナーであるSaashi氏とイラストを担当する宝井貴子氏が2015年に設立したボードゲームレーベルだ。しばらくは個人事業として活動してきたが,2022年2月にSAASHI-ANDの名前で株式会社を立ち上げたという。
 自社タイトルの国内向け販売はもちろん,海外のショップへの卸しも行っており,今では売上の7割を海外向けの販売が占めるとのこと。なんでも一時期は,東地中海のキプロス島から問い合わせがあったこともあるそうだ。またいくつかのタイトルは,フランスのIELLOやMatagot,ドイツのdlpを通じて,各国のローカライズ版が海外で販売されている。

ゲームマーケット2022春での「Saashi & Saashi」ブースの様子
画像集#001のサムネイル/Saashi&Saashiとittenに聞く,ボドゲづくりの秘訣とは。魅力溢れる2レーベルをゲームマーケット会場から紹介

 そんな同社のタイトルの魅力は,コンポーネントに日本語のテキストがほとんど含まれない,言語依存性の低さにある。Saashi氏は当初は宝井氏と二人で遊ぶためにゲーム制作を始めたそうだが,京都への引越を機に,さまざまな国籍のプレイヤーが集う現地のボードゲームカフェ・Cafe Meepleを拠点にするようになり,そこでの経験が現在に活かされているとのこと。

 またSaashi&Saashiは,一風変わったテーマを扱った作品が多いことも特徴といえる。例えば処女作である「Aコードで行こう」はジャズの演奏をテーマにした作品で,ほかのプレイヤーと息を合わせながら,即興演奏を作り上げていくゲームだった。カードゲームの「フィルムを巻いて!」は,レトロなハーフサイズカメラでの撮影をテーマにした作品。扇状に広げた手札を移動させるアクションが,フィルムの巻き上げを模しているのが面白い。
 ほかにもエレベーターの順番待ちがテーマの「エレベータ前で」や,お客のニーズに応えながら路線図を書き上げていく「バスルートをつくろう」,友人との旅を振り返りながら街並みを再現していく「旅のあと」などがある。

Saashi&Saashiの処女作「Aコードで行こう」。ジャズをテーマにしたトリックテイキングだが,デザインの初期段階ではサッカーのオフサイドをテーマにしたタイトルだったという。しかしデザインの宝井氏から「気乗りしない」と言われたことから路線を変更。Saashi氏も,「広い層に遊んでもらうことを考えると,変更は正解だった」と語っていた
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 中でも筆者が気に入っているのが,コーヒー豆の焙煎をテーマにした1人用ゲームの「COFFEE ROASTER」だ。2015年に発売された同作は,焙煎士となったプレイヤーがひたすら最上級の豆を追い求めて焙煎を繰り返していく内容だが,これが時間を忘れるほど面白いのだ。

 例えば布製のバッグに入れた“豆チップ”をジャラジャラとかき回し,取り出すことで豆の焙煎度があがっていくところなどは,「焙煎機の中で豆が攪拌されている様子」が再現されていて,カフェでの勤務経験がある筆者にとって非常にリアルそのもの。Saashi&Saashi側でもコーヒー焙煎の関係者にプレイしてもらったことがあるそうだが,「ピッキングの部分をもう少し面倒くさくデザインしたら教材として使えるレベル」と太鼓判を押されたとのことだった。

※焙煎前に不良豆を手作業で取り除く工程。実際のコーヒー焙煎ではこの工程が実作業時間の8割を占める。

「COFFEE ROASTER」のゲームボードと,コーヒー豆の品種を示すビーンズシート。ゲームボードには,実際の焙煎でも重要になる“ハゼ(爆ぜ)”やカップテスト(試飲)といった工程が盛り込まれている。また豆の品種ごとに焙煎の難度や許容範囲,不良豆の数などで個性付けされているのも面白い(※画像のコンポーネントは2015年の初版のもの)
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チップが多いタイトルだけに,ボックスが区分けされているのが嬉しい「COFFEE ROASTER」。ちなみに本作も,制作初期にはコーヒーの焙煎ではなく,別のモチーフが採用されていたという。人生を終えようとしている老人が,一生の記憶を振り返っていくというようなもので,その方向で制作が進んでいたらどんなゲームになっていたのか興味は尽きない
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 なお「COFFEE ROASTER」はスマホアプリ版(iOS / Android)もリリースされているので,気になった人はこちらを試してみるのもいいだろう。もちろん気に入った人には,ボードゲーム版にもぜひ挑戦してもらいたい。

 そんなSaashi&Saashiの作品だが,どんな風に生み出されているのか。ゲームマーケット2022春の会場でSaashi氏に話を聞いてみた。まずゲームデザインにあたり,テーマとゲームシステムのどちらを重視しているのかという質問へは,「どちらも大事ではあるが,とくに重視するのは“最終的なたたずまい”」との回答が帰ってきた。
 例えば「バスルートをつくろう」の派生作にあたる「バスルートをつくろう・ダイス」では,箱のサイズや,そこに収められるコンポーネントの量から,帰納的に考えてゲームデザインしていったタイトルなのだという。
 さらに最新作である「ゲストがくる前に」も,前作にあたる「エレベータ前で」の家族が再登場することや,より分かりやすいゲームであること,また使用するカードの枚数や箱のサイズといった最終的なアウトプットのイメージから,逆算する形で生まれたタイトルとのことだった。

ゲームマーケット2022春では,最新作「ゲストがくる前に」「ゲット・オン・ボード:ニューヨーク&ロンドン 日本語版」の先行販売が行われた。一般販売は,それぞれ4月29日と5月末とのこと
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ゲームだけでなく,ボードゲームの持ち運びに便利な「ボードゲーム・バッグ」「小箱ゲームバッグ」といったグッズも手がけている。デザインと利便性を兼ね備えた,筆者もお気に入りのアイテムだ
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 またゲームデザインにあたっては肩肘を張ることなく,新作であっても“世の中で1万番目くらいに生まれるゲーム”のつもりで制作に当たるのが,氏のポリシーだという。これは世界でただ一つの独自性を追い求めるより,ちょっと変なところがあるゲーム,あるいはほかにないテーマを扱うことで個性を出していきたい。という意味のようだ。「“1万番目のゲーム”なのだから,気取らずに作りたい」との氏の言葉が,とくに印象に残っている。

Saashi&Saashiでは現在,公式サイトの改装を進めており,5月18日22:00に新サイトがオープン予定とのことだった。オープン後は,国内外からの直販にも対応するそうなので期待しておこう。

取材に応じてくれた,デザイナーのSaashi氏
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Saashi&Saashi 公式サイト



クリエイターとしての“こだわり”が生んだ「TOKYO HIGHWAY」――itten


ゲームマーケット2022春でのittenブース
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 手触りのいい木製コンポーネントが目を惹くittenは,2016年からゲームマーケットに参加している,今や老舗のボードゲームブランドだ。
 代表作である「TOKYO HIGHWAY」を携えてインディーズブースに当時初出展したittenは,初参加にも関わらず,短時間で在庫をすべて売り切ったという。製造過程でトラブルがあったそうで,持ち込み数は100ほどだったというが,それさえなければもっと売れていただろうことは想像に難くない。
 初出展の半年後には「2nd EDITION」も発売となり,その後は4人用のバージョンや,トラックやビルが登場する拡張セットも登場。今ではフランスのボードゲームメーカーAsmodeeから全世界でパッケージ販売が行われる大ヒットタイトルに成長している。

現在販売中の「TOKYO HIGHWAY 4人用」。同作はスウェーデンのゲーム賞Arets Spelにて,2019年の大人部門ゴールデンダイス賞を受賞している
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 このように当初はインディーズとして活動をスタートさせたittenだが,「TOKYO HIGHWAY」のライセンス販売を期に事業化。代表兼ゲームデザイナーの島本直尚氏によれば,元々は業務として町おこしやワークショップ,企業イベントの企画運営なども手がけていたが,現在ほぼボードゲーム事業のみに注力するようになったという。
 
 「TOKYO HIGHWAY」に代表されるように,itten作品の特徴がコンポーネントの美しさからくるビジュアルにあるのは疑いようもない。だが島本氏は,「優れているのはデザインだけではないという点もアピールしていきたい」と語る。氏はモノと空間,そしてテーマをゲームとして昇華させることに強いこだわりがあるといい,「モノとしての魅力」と「ゲームとしての面白さ」の双方で評価が得られるようなタイトルを目指しているそうだ。

 個人的な感想ではあるが,ittenのタイトルには確かに勝ち敗けを競うゲームの枠を超えた,不思議な魅力があるように思う。卓を囲んだプレイヤーと共に,何かクリエイティブな作業をしているかのような。「TOKYO HIGHWAY」などが持つビジュアルの“映え”は,むしろそうした要素によって逆説的に生み出されるものなのかもしれない。

「TOKYO HIGHWAY」後に制作されたタイトルの数々。人型を賑やかに飾りつけていく「トライブ」や,焚き火を囲みながらイヌを餌づけする「イヌがきた」,巨大タコの襲来をくぐりぬけて荷物を回収していく「クラッシュオクトパス」などなど,いずれも“映え”るタイトルが揃っている
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 そんなittenが昨年のゲームマーケット2021秋から展開しているのが,縦長で統一されたパッケージが特徴の「ファンブリック」シリーズだ。これは,外部のクリエイターとのコラボレーションを主軸としたシリーズで,インディーズなどで発売されたタイトルを,ittenのプロデュースでリパッケージしたものとなっている。

 切っ掛けとなったのは,ひとじゃらしが2015年に発表した「3秒ルール」と,居椿善久氏が同年発表した「競りゲーブブカ」で,そのユニークさに島本氏が感銘を受けたことからシリーズがスタート。元々は自社制作のタイトルのみを販売をしていたittenが,その方針を翻すことになった両作だけに,この2タイトルはそれぞれ「3秒トライ」「スティックコレクション」の名前で,「ファンブリック」シリーズに収録されている。またそのコンパクトなパッケージデザインは,ittenでグラフィックデザインを担当している富岡克朗氏の工夫が反映されているとのことだった。

「ファンブリック」シリーズ。タイトルも箱絵も,ファーストインプレッションでどんなゲームなのか想像がつくようにデザインされている。前述の3作品に「itten」オリジナルの「みんなのファイヤー」「ゴールドハンティング」を加えた5作品をローンチタイトルとして面展開した
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そのほかコラボ先のクリエイター陣には,ボードゲームファンなら誰もが知るライナー・クニツィア氏も名を連ねる。「クニツィア・ジレンマ」と呼ばれる計算しつくされたゲーム性が魅力だが,バランスゲームまで手がけているとは驚きだ。元となった「バイキングシーソー」。レゴブロックで作られており,ファンブリックシリーズと比較するとかなり大ぶりだ。ファンブリックシリーズには実物の石をコンポーネントとして導入したかったそうだが,コスト面により断念
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 現在は5タイトルがリリースされている同シリーズだが,ゲームマーケット2022春では新たに「ジャッジドミノ」「忍者マスター」の2作が発表され,そのモックが展示されていた。

 つきいようすけ氏の「チキンドミノ」を原案にした新作「ジャッジドミノ」は,その名のとおりドミノ倒しをテーマにしたタイトルだ。ドミノを並べたプレイヤーはもちろん,参加者全員が成功か失敗かを予想するフェイズが加えられているのがポイントで,失敗に張った人が多いほど,成功時の得点が多くなる仕組みが面白い。ドミノを並べるプレイヤーはギリギリで成功する並べ方が自然と求められるわけで,一風変わったバーストゲームに仕上がっていた。

モックが展示されていた「ジャッジドミノ」。倒し始めは必ず一番小さい数字からでなくてはならないので,写真の場合は“1”がスタートに。しかし“7”に届かないと思われるので,恐らく失敗だろう。もし“1”がなければ“5”がスタートなので,こちらは成功しそうである
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 ライナー・クニツィア氏のアイデアを元にした「忍者マスター」は,9つのダイスの出目によって最適な行動を選択するアクションゲームだ。基本的には,出目の色と同じ色の忍者コマを掴むことで,その出目の数が得点にプラスされるが,同じ色の“煙”の目が出ていると,出目の分だけマイナス得点になってしまう。しかし煙が偶数個なら,またプラスに転じ……といった具合に,素早い状況判断が求められるゲームとなっている。

 さらに最多得点者から得点を奪える“刀”の目や,それを阻む“手裏剣”の目もあって,奥はかなり深そうである。また「両手を使って一度に2つのコマを掴んでもよい」そうで,こうした要素を使った戦略を考えるのも楽しそうだ。
 まだルールは完成していないそうだが,聞く限りかなり練り込まれているように感じたので,今から完成が楽しみだ。

「忍者マスター」。最多得点プレイヤーは“刀”を取られるペナルティが大きいため,どうしてもこれを死守しなくてはならない。そのため得点効率はどうしても下がってしまい,それが逆転要素にもなっている
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 今回はゲームマーケットの数あるブースから,個人的にも推している二つのレーベルを紹介してみたが,いかがだっただろうか。いずれのレーベルも良作揃いなので,まだプレイしたことがないという人は,この機会にぜひプレイしてもらいたい。
 また今回は二つだけだったが,“アナログゲームらしさ”を独自の切り口で追い求めているレーベルやクリエイターは,当然ながらまだまだ数多く存在している。それらも機会を改めて紹介したいと思っているので,期待してほしい。東京ビッグサイト東ホールでの開催となる2022秋のゲームマーケットが,今から楽しみだ。

「COFFEE ROASTER」のパッケージ。左はドイツdlp gamesでローカライズ&リメイクされた「欧州エディション」。現在,国内でも日本語版が入手可能だ
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