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ワールドクラフトRPG「神箱 KAMiBAKO」,神崎喜多氏&今井秋芳氏(東京魔人學園伝奇)の開発秘話インタビュー
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印刷2022/11/16 16:00

インタビュー

ワールドクラフトRPG「神箱 KAMiBAKO」,神崎喜多氏&今井秋芳氏(東京魔人學園伝奇)の開発秘話インタビュー

 グラビティゲームアライズの新作「神箱 KAMiBAKO - Mythology of Cube -」(以下,神箱)は,シングルプレイのワールドクラフトRPGで,PC / PS5 / Switch向けのコンシューマ展開と,iOS / Android向けのスマホ展開が予定されている。

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「神箱 KAMiBAKO」プロデューサーの神崎喜多氏
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 本作は3Dフィールドを移動し,“パズルで土地を修復”しながら仲間探しや町作りをしていく,バトルあり育成ありのRPGだ。
 今回はそんな神箱の内容に関して,プロデューサーの神崎喜多氏に加え,ディレクターの今井秋芳氏(※)にインタビューを行った。

 ゲームの根幹を成すテーブルトークRPG(以下,TRPG)の要素や作品のルーツ,制作のアプローチはなかなかに興味深い。

※今井秋芳(いまい しゅうほう):「東京魔人學園伝奇」シリーズや「九龍妖魔學園紀」など“ジュブナイル伝奇”と呼ばれるゲームジャンルを開拓したゲームクリエイター

なお,今井秋芳氏は顔出しNGのため,右の椅子からオーラだけ感じ取ってほしい
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 TGS 2022のグラビティゲームアライズブースで,同社のインディーズゲームブランドで展開するRPG「KAMiBAKO - Mythology of Cube -」がプレイアブル出展されていた。土地を修復して,そこから集めた資源を使って村を作り,探索範囲を広げていく“ワールドクラフトRPG”だ。

[2022/09/18 15:13]



「KAMiBAKO - Mythology of Cube -」公式サイト



グラビティゲームアライズが手がける
ワールドクラフトRPGという新ジャンル


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。
 まずはお二方の制作における役割を聞かせてください。

神崎喜多氏(以下,神崎氏):
 プロデューサーの神崎です。僕はプロデューサーと言いつつ,原案や世界観設計,キャラクターデザインなども担当しています。

今井秋芳氏(以下,今井氏):
 ディレクターの今井です。神箱では主にゲームデザインやシステム面など,遊びの設計部分を担当しています。

4Gamer:
 “あの今井秋芳がファンタジーを”と聞くと,驚く人もいそうな。

今井氏:
 私がこれまで手がけてきた作風とは少々異なっていますからね(笑)。でも私自身,昔から栗本薫先生の小説「グイン・サーガ」がとても大好きでして,テキストに込めるファンタジー感といった一面はもともと,栗本先生の影響を強く受けているんです。
 それに神崎さんとは「貞子M 未解決事件探偵事務所」でご一緒し,脚本と演出を担当しましたので,一緒にゲームを作るのも2作品目になります。1作目とは趣が異なりますが,今は神箱に神経を集中しています。

神崎氏:
 ちなみに神箱のストーリー脚本は,TRPG界隈で“大多数に名前を知られている”著名な方々に執筆していただいたものです。

4Gamer:
 テーブルにTRPGのゲームブックやファンタジー系の資料本が並んでいるのは,そういった理由からなんですね。

神崎氏:
 僕がこれら資料をもとに世界観を構築して,ゲーム的になにをどこまで取り入れるかのディレクションを今井さんが担当しているんです。

4Gamer:
 プロデューサーでありつつ,引き続きクリエイターもやると(同社の貞子Mなどでも,プロデューサーでありながら,世界設定やキャラクター原案などの実務を神崎氏が実施していた過去から)。

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神崎氏:
 神箱の成り立ちからお話しすると,「四角い箱で遊びを作って。できればパズルがいいんだけど」というザックリとしたアイデアからはじまりました。それでスタートしたはよいものの,過去に2回ほどゲームを作り直すはめになってしまい,方向性で悩んでいたとき,今井さんに声をかけたら快諾してもらうことができた,という背景なんです。

今井氏:
 私がプロジェクトに入ったとき,すでに世界観設定などはできていたんですが,それをゲームに落とし込むので難航していた感じでした。
 神崎さんは「1を2にするのではなく,0から1を生めるクリエイターでないと無理だ」と思っていたようです。私は基本的に0から1を生んでゲームを制作してきた人間なので,まずはそこからスタートしたんです。

4Gamer:
 当初のパズルゲーム作りで難航した結果,今井さんが参加したと。

今井氏:
 それときっちり用意されていた世界観やデザインなどの資料のなかに,“神箱のワールドガイド”というのものがありました。それを見たとき,パッと「なんかTRPGっぽいな」と思ったんです。
 私は昔から「ダンジョンズ&ドラゴンズ」(以下,D&D)や「ルーンクエスト」といったTRPGが好きで,神崎さんもTRPGファンだったため,話も自然と“TRPGチックな作り方”に流れていきまして。

4Gamer:
 となると,システム面にTRPG要素が盛り込まれているのですか。

今井氏:
 方向性はそうです。RPGを作るうえでも,一般的な「3Dフィールドを歩き回る探索」だけでは魅力に欠けるかなと思ったので,フィールド移動時に“未知の地図上を探索していき,現地の風景を発見する”という,土地を開拓するようなマッピングのロマンを盛り込みました。
 マップデザインにしても「マジック・レルム」のようなTRPGのヘックス(六角形)タイルを組み合わせるイメージで,分かりやすく神箱のフィールドはスクエア(四角形)タイル状で構成しています。

神崎氏:
 マップをそうした理由は世界観にも起因しています。神箱の物語は,もともと一つだった世界が大昔に分断してしまい,「修復者」と呼ばれる者たちが各地を(2マッチパズルで)修復していくというものです。
 プレイヤーは修復者としてこの世界を練り歩くことになりますが,昔の地図から「おおよその地形」は予測できるものの,分断後の世界とあって「実際の地形」がどうなっているかは分かりません。
 そういう物語上の設定がゲームシステムに反映され,今井さんが表現する土地を修復し,開拓していくシステムへとつながりました。

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4Gamer:
 分断された世界を旅して,パズルで土地を修復していく。
 世界を直すゲームだから,ワールドクラフトRPGなんですね。

神崎氏:
 ええ。でも世界を直していくだけではなく,直したあとに“世界をつなげて作っていく”という意味合いも大きいです。

今井氏:
 本作のマップ上では,プレイヤーがどこにでも町を作れるようになっています。町には「宿屋」や「鍛冶屋」といった,ファンタジーではおなじみの設備を建築し,恩恵を得ていきます。お店の一つ一つにもたとえば「黄金のたてがみ亭」だとか,自分の好きな名前を付けられて,それらは店の看板などにしっかりと反映される仕組みです。
 ゲームサイクルとしても,フィールド移動時は食糧を消費するため,移動先で新たにベースキャンプなどを作っていきます。そのうち,いくつもの町や設備が建っていくため,識別する名前が必要なわけです。もちろん,単に「自分だけの名前を付けられる」ことも目的ですが。

4Gamer:
 作成できる町には,種類などはありますか。

今井氏:
 海岸沿いなら「港町」を作って漁業をさせたり,交易させたりすることができます。農業を重視した「農村」なども作ることができるので,その土地の性質に合わせて町の産業を発展させられます。

神崎氏:
 農業,漁業,林業といった数々の産業の技術は「開拓ツリー」から発展させていきますので,シミュレーションっぽくもありますね。

4Gamer:
 システムがかなり練り込まれているイメージですが,そこはスマホだけじゃないコンシューマ展開を見込んだからでしょうか。

神崎氏:
 というよりも,神箱はもともとスマホ向けに制作を進めていたものの,ゲームシステムを充実させていくうちに,一般的なスマホゲームのようにマネタイズを考慮するのが面倒になりました(笑)。そこで,運用型を諦めて,売り切り型のシングルプレイゲームにしようと切り替えたんです。弊社としては今回が初のコンシューマ向け内製タイトルと言えます。

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4Gamer:
 ストーリーはTRPGの作家陣が担当しているとのことですが,神崎さんが用意した世界観を膨らませてもらった形ですか。

神崎氏:
 はい。ここにある本のなかに非公開のインナー資料があって,そこに書いてある世界の成り立ち年表などをもとに,すばらしいストーリーを起こしてもらいました。


世界観と調和した開拓+町作り+バトル


4Gamer:
 ゲーム内ではさまざまな場面でパズルを行い,土地を修復したり,資源を獲得したりするようですが,どんなアイデアから生まれましたか。

今井氏:
 私が参加する以前からパズル要素は決定事項だったので,そこから北欧神話との関連性も加味して,ケルト諸語文化圏には石にルーン文字を刻んで動かす占いがあったことを思い出しました。それをヒントにパズルを作れば,世界観とマッチすると考えたんです。
 神箱の世界では“マナが力の源”であり,修復者が冒険していく土地はマナが枯渇してしまった場所となっています。

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神崎氏:
 キービジュアルで描かれているように,神箱には「水」「木」「雷」「炎」といったさまざまなマナが登場するんです。

今井氏:
 マナが枯渇した土地は,木や水などの資源が減り,そのうちモンスターが出現するようになってしまう断片化を引き起こす。つまりプレイヤーの旅は,世界のマナを取り戻すための冒険です。
 ちなみに,マナが枯渇してしまった世界で魔法使いが試行錯誤する,といった創作における世界設定は,ラリー・ニーヴンの小説「魔法の国が消えていく」が初出だと記憶しています。

神崎氏:
 日本の文化圏では,D&Dの影響を受けた「ドラゴンクエスト」に端を発するJRPGが一大ジャンルとしてありますが,神箱も北欧神話をベースにしつつ,そういったJPRGの原点を忠実に守っていきたいんです。

今井氏:
 幻想文学などの原点を忠実に守る,という観点で一つ言っておきたいことがありまして。日本のファンタジーゲームは横文字の固有名詞が多いんですよね。でも,〜〜マウンテンとかじゃなくて,邦訳版「指輪物語」における“滅びの山”とか“裂け谷”とか,私は日本語訳ならではのネーミングがすごく好きで,そこにファンタジーのロマンを感じるんですよ。だから幻想文学の原点を忠実に守るというのは,原語に対するリスペクトだけではなく,当時の日本語訳のオマージュも含んでいます。

神崎氏:
 タイトルが日本語で神箱なのも,そのロマンあってのことです。

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4Gamer:
 パズルのほか,バトルはどのような設計ですか。

今井氏:
 モンスターとの戦闘は基本,ターン制バトルとなります。ただ,通常の3DRPGバトルに見えて,実は「マジック・ザ・ギャザリング」(MTG)のようなカードゲームをイメージして考えています。つまりターンの頭でマナを出し,それを使って行動するというバトルです。
 TRPGチックにしようと,盤面から遠い場所にカメラを置くような構図も考えたのですが,昨今のゲームとしてのキャッチーさも考慮して,一般的な3DRPGのようにキャラクターの背後にカメラを置き,画面上で敵と対峙するような視点を採用しました。

神崎氏:
 構造はTRPGを目指しつつも,見た目はTRPGにこだわりすぎないようにしています。というのも現在はゲームのクオリティがどんどん上がっていて,世代によってはオープンワールドも当たり前ですからね。
 なるべく現代的で親しみやすい見た目を目指したわけです。

今井氏:
 それと私は“世界が生きている雰囲気”を感じ取ってもらうことが重要だと考えているので,システム的にも影響がある「雨」や「霧」といった天候要素を,グラフィックス表現にも取り入れました。
 山に登ると風景が霞む演出もありますし,気温・降雨量・風向きなどは地域ごとに細かく設定しており,産業にも影響を及ぼします。

4Gamer:
 見た目とシステムが両立した天気なんですね。

今井氏:
 そうなります。ゲーム攻略的にも,風がよく吹く場所には風のマナが宿っているため,風の魔法や技を使いやすくなるといった要素があります。町作りは土地の修復パズルやモンスターとのバトルにも相互作用するので,いろいろな要素がマッチする楽しみを味わってほしいです。

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4Gamer:
 水が少ない乾燥地帯では,水の魔法が使いにくいし,水関連の産業の発展も難しくなるとか,考えることは多そうですね。

今井氏:
 マナに関しては町作りの方針で改善できるので,乾燥地帯で貯水池を作って灌漑し,水のマナを増やす。火山地帯に町を作り,鉄鉱石を産出させ,より高品質な武器を制作するなども可能です。こういったシミュレーション部分の遊びで,パズルとバトルを有利に進めやすくできます。

4Gamer:
 ちなみに作った町や施設では人々の営みを感じられますか。

今井氏:
 ええ。宿屋や酒場を作ると,さまざまな人たちが集まるようになったり,鍛冶屋を作ると,武具を買いにきた客から新たな情報を聞けるようになったりと,RPGらしい文法でにぎやかさを演出します。

神崎氏:
 僕が言うのもなんですが,神箱は令和の時代に作られたゲームとは思えない文法なんですよ。ただ,最初はスマホゲームとして開発していたことで,これまで語ってきたシステム面も視覚的に取っ付きやすい作りになっています。複雑に聞こえるシステムも細かく設定しているだけで,要素を把握せずともゲーム進行に大きな問題が出ないような,そういう“誰でも遊べる万人向けのJRPG”の作りは徹底しています。
 一方で,シミュレーション面を深掘りすれば相応のやり込みを楽しんでもらえるため,コアなプレイヤーにも応えられるはずです。

4Gamer:
 神箱にはRPGのルーツやリスペクト,思っていたよりも重層的なシステムが組み入れられていることがよく分かりました。
 そんなお二人にとって,TRPGのベストブックはなんでしょう?

今井氏:
 私はD&D……と言いたいところですが。実は「クトゥルフの呼び声」が一番好きです(笑)。2位が「ルーンクエスト」,3位がスペースオペラものの「TRAVELLER」です。D&Dも古典として好きなものの,自分好みなのはより細かいシステムを備えたTPRGなんですよね。

神崎氏:
 私もまったく違う系統で,ファンタジーとサイバーパンクものが融合した名作「シャドウラン」が一番好きです(笑)。
 もしくは「ソード・ワールド」が自らの原点ですかね。

4Gamer:
 世代や嗜好が垣間見えてきます(笑)。
 最後にお二人からメッセージを一言ずつお願いします。

今井氏:
 私はゲームの作り手として,作品を遊ぶことで「現実に即した知識をプレイヤーに経験してもらう」ことが大切だと思っています。
 例えば神箱のなかで「ビール」を手に入れるにも,アイテムを買って入手ではなく,まずは麦汁を仕込み,発酵させ,酒場で提供するなど,ゲームをとおしてリアルな知識を体験してもらいたいんです。
 本作も北欧神話の知識はもちろん,降雨と作物の関係などをリアルに寄せていますので,意識して遊んでもらえたらうれしいです。

神崎氏:
 国産のワールドクラフトRPGという,新たなゲームジャンルを楽しんでみてください。神箱の今後に関しては,2022年12月中に体験版のリリースを目指しています。もしかしたら間に合わないかもしれませんが……ぜひご期待していただけたら幸いです!

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