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[CEDEC+KYUSHU]小倉康敬氏による基調講演「既存IPシリーズのリブートにおける再定義とARMORED CORE VI FIRES OF RUBICONのポジショニング」レポート
シリーズへの情熱と,「不変の芯」を見つめ直す分析でリブートさせる
ACVIについては,もはや説明の必要もないだろう。1997年から続くフロム・ソフトウェアのメカアクションゲーム「ARMORED CORE」シリーズの10年振りの最新作だ。シリーズは,パーツを組み替えて自分だけのメカを作り出し,さまざまなミッションに挑むという内容になっている。「好きな人には深く刺さる」という通向けなシリーズが10年ぶりに再始動するだけでも驚きなのだが,内容もしっかり現代に即したものになっており,プレイヤーたちは自慢の愛機を見せ合ったり,対戦をしたり,ストーリーやキャラクターに関する考察をしたりするなど盛り上がっている。
ACVIが好評を博し,ARMORED COREシリーズのリブートがうまくいったのはなぜだろうか? その秘密を小倉氏が語った。
小倉氏はもともと広告業界にいた人物だ。印刷を母体とする広告会社で営業マンとして勤務し,住宅メーカーや飲料メーカーなどさまざまな業種を相手に仕事をしていたが,ゲーム業界は未経験ながら,2003年にフロム・ソフトウェアの門を叩いたのだという。
フロム・ソフトウェアでは宣伝部へ配属され,「天誅」シリーズや「Another Century’s Episode」シリーズをはじめ、多数のタイトルプロモーションに従事。2018年にはARMORED COREシリーズ統括プロデューサーとなり,2023年に初プロデュース作品のACVIをリリースしている。開発経験がないところからプロデューサーになったため,苦労しつつも日々開発技術への知見を深めているのだという。
こうして小倉氏の経歴をまとめたのは理由がある。他業種である広告関係の業務を経験し,マーケティングに対して冷静な視点を持ったうえで,情熱を持ってディレクターをはじめ開発チームと一丸となってシリーズのリブートに挑んだこと。それがACVI成功の秘密の一つに感じられるからだ。
ゲーム開発における2大責任者といえばディレクターとプロデューサーだ。ディレクターはゲームのコンセプトや物語,ゲームシステムのデザインなどを行い,ゲームが持つ「作品」としての側面における責任を負う。そして,プロデューサーはゲームの品質やユーザービリティを保ち,予算管理も手がけるなど「商品」としての責任を負う。これがフロム・ソフトウェアにおける役割分担となる。小倉氏はプロデューサー業について「クリエイティブとビジネスのバランスを鑑みて,現場スタッフが十二分に開発に集中できるようにサポートすることが大事」であると指摘する。
小倉氏がARMORED COREシリーズ統括プロデューサーになったのは,タイミングとスキル,そして「思い」という条件が重なってのことであるという。ARMORED COREシリーズは,前任者の退職によりプロデューサー不在の状況が続いていた。このタイミングで小倉氏はシリーズ統括プロデューサーに立候補し,ACVIのプロデューサーも務めている。
小倉氏は,フロム・ソフトウェア創業当初からのIPであるARMORED COREシリーズの灯を絶やしたくないとの思いを抱いていた。また,フロム・ソフトウェア代表取締役社長である宮崎英高氏が手がける「DARK SOULS」「ELDEN RING」といったダークファンタジーものとは別ラインの作品が出ることは,フロム・ソフトウェアの多様性にプラスになると判断。そして,自らのスキルを活かし,これからのシリーズに商品性の観点から関われるのであれば……ということでプロデューサーになったのだという。
シリーズに熱い思いがあって理解度も高く,それでいて熱意だけではなくマーケティングや商品性という視点から見ることもできる。ACVIによるリブートには,小倉氏がマッチしていたということだろう。こうして開発プロデューサーでもありながら,本職でもあるマーケターも兼任するのは珍しい例と思うが,ACVIのマーケティング戦略を練る際には作品のコンセプトを深く知っていることが役に立ったという。
その一方で「そんなに大事なシリーズなら,なんで10年間も新作が出なかったんだろう?」「なぜ,商業的に成功を収めたダークファンタジー路線のゲームではなくACVIなのか?」という疑問も出てくるだろう。これについては何度か語られてはいるが,フロム・ソフトウェアでは常に複数本のゲームが開発されており,フェーズによって流動的に人材が配分されるためである,と改めて説明された。ARMORED COREシリーズには普遍的な面白さがあるし,これまでの開発で優秀な人材も育ち,社内でも作りたいというスタッフは多くいたという。それであれば作らないという選択肢はそもそもなかったそうだ。
ACVIの開発は,初期段階のイニシャルディレクターを務める宮崎氏のもと,ARMORED COREシリーズの面白さの根幹やコアコンピタンス(他社が真似できない強み)を改めて探ることからスタートし,テストビルドの制作や議論が行われていった。
こうして導き出されたシリーズのコアコンピタンス(核となるもの)は“プレイヤーが自分好みのメカをカスタマイズ(アセンブル)し,これがアクションに影響を及ぼすゲーム”だ。しかしながら,過去作においては両者の相互作用が「圧倒的に不足」しており,武器を変更するにしても,パラメータの変化がアクションに影響を及ぼしていなかったか,小さい変化だったため,シリーズが目指す面白さが伝わっていないところがあったと定義された。
そうした中でARMORED COREシリーズのコアコンピタンスを生かし,メカゲーでしかできない世界,メカだからこそを提示することが絶対的な必要条件である,という結論が出たという。その後2020年には「SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE」の開発を終えた山村 優氏がディレクターとして合流してACVIの本格的な開発がスタートした。
小倉氏からは,イニシャルディレクター陣が掲げたこれらのコンセプトがマーケティングの見地から見ても整合性があるものであったと語られた。
世間にはさまざまなマーケティングツールが存在するものの,フルに活用していくと逆に混乱する可能があると小倉氏は指摘する。複数のツールにおいて,同じテーマを名前が異なる形で取り上げているなどの問題があり,作業していくうちに“ツールへ落とし込んでいく”こと自体が目的化してしまうことも起こるという。そこで小倉氏は分析項目を「市場」「強み」「ターゲット」「立ち位置」にシンプル化した。
●市場
やり応えのあるアクションゲーム市場
●強み
近年のタイトル開発における知見と経験,フロム・ソフトウェアらしいアクションゲームのノウハウ
●ターゲット
遊び応えのあるアクションゲームを求めるユーザー
●立ち位置
強固なゲーム設計をベースに,ARMORED COREシリーズの根幹の面白さを現代に昇華したアクションゲーム
……とする分析を行い,「アセンブルとアクションの相互作用」「FPS由来のシューターではなく,自キャラが激しく立体的にアクションする,生身の人間には決して真似できない挙動やアクションの多彩さ」「今のフロム・ソフトウェアが作り出す,メカならではの銃撃戦によるアクションゲーム」とACVIのポジショニング(差別化すべきポイント,顧客にアピールできる製品の価値)を行った。
イニシャルディレクター陣によって大きな方向性が提示され,こうしてポジションが決まってから,ディレクター山村氏を中心に開発スタッフは次のようにゲーム内容をどんどん深化させていったという。
「アセンブルとアクションの相互作用」については,脚部パーツによる操作性の違いを「二脚」「逆関節」「四脚」「タンク」といった種類ごとに差別化したユニークなものとし,武器に関しても撃ち方や反動,弾丸の振る舞いに個性を付けていき,過去作以上にプレイフィールの違いで選んでいけるようにした。
また,メカであるという部分においては,生身の人間には不可能な「ブースト飛行」や「アサルトブースト」といった飛行系アクションや三次元立体機動によるメカならではの機動力で立体的で巨大なマップを自由に移動できるようにし,さらには複数武器の同時発射や,武器の命中で相手に「衝撃」を与え,これを蓄積して「スタッガー(行動不能)」にするといったフィーチャーを用意。攻撃しながら攻める,攻めながら回避するというアグレッシブなゲーム性を提唱し,バトル内において感情を激しく揺り動かすと同時に,どの武器でスタッガーさせ,そこにどの武器で追撃するかという複数武器の連携を組み立てるという新しいゲーム性を生み出している。
さらに,ディレクターである山村氏は,過去作のゲーム性を「自分の被弾率を下げて,相手のそれを上げる」というシューティング寄りのものであったと分析。そのうえでACVIは瞬間的に判断するゲームとするため,ゲームスピードを下げ,相手の挙動を見てから反応できるように戦闘距離を近くしている。戦闘は自然と激しく動き回るものになるが,ここでエイミングの負荷を下げてアクションに集中してもらうため,相手を常に視界に捉え続ける「ターゲットアシスト」を実装。さらにはチュートリアルも充実させている。
遊び応えのあるゲームを提唱するフロム・ソフトウェアだが,単に難度を上げるだけではなく,コンセプトに合わせてゲームスピードを下げたり,チュートリアルも充実させるといった配慮が行われているあたりもポイントだろう。
マーケティング戦略についても小倉氏が携わっているのは前述した通りだ。やがてゲーム開発が終盤を迎え,ゲームの軸となる要素やハイライトすべきことが見えてきたことで,先ほどのゲームコンセプトに対するバリューとして,「三次元戦闘」「アセンブル」「バトルデザイン」「世界観/物語性」という4つのピラー(柱)を立て,これ以外の要素を極力排除することでコミュニケーションを先鋭化させ,ゲームについてコンパクトかつダイレクトに伝えるという方向性を策定している。2022年のアナウンス,2023年の実機トレイラー,プレイ動画,ストーリートレイラー,体験会・イベント,ロンチトレイラー,ゲーム紹介PVといった施策でユーザー側の理解を深めていった。
こうしてARMORED COREシリーズを開発チームと一丸となってリブートした小倉氏は,IPやフランチャイズのリブートについて,時代に合わせて柔軟に変化させる部分の中に,変えてはならないが進化させるべき「不変の芯」が存在すると語る。
グラフィックスやシステム,技術などすべてにおいて今の時代に即している必要があり,そのためには柔軟な対応が必要ではあるものの,闇雲に変えてしまうとIPの良さを削いでしまうため,変えていいところとそうでないところを見極めることが非常に重要というわけだ。
そしてARMORED COREシリーズにおける「不変の芯」とは,「アセンブルでアクションが変わること」に集約される。キャラクタービルドのようでありつつ,状況に応じてまったく異なる姿形・性能になる様は,まさにメカのアセンブルならではであり,ゲームのメカニクス(仕組み)であると同時に,メカをいじる楽しさやプロの傭兵らしさといったフレーバー部分も演出している。
ゲームとしての面白さを醸し出すだけでなく,ARMORED COREの強みとなる独自要素の演出も同時に行えるというわけで,この分析が的確であることが分かる。そして,個人的にはこの「不変の芯」を正しく探し当てられたことがACVIにおけるリブートの勝因であり,それは客観的な視点だけでも,シリーズへの愛だけでも成しえなかったのではないかと感じられる。客観的な視点だけでは魅力を探り当てられないし,シリーズへの愛だけでは変化させるべき部分を見つけることができなかったのではないだろうか。
小倉氏は,IPのリブートについて「本質を見つめ直すことであり,見つめ続けることができるか,光り輝く原石を見つけ出せるか,そもそも存在することを確信できるかどうか」であると語る。もちろんここに辿り着くまでにさまざまな試行錯誤とスクラップ&ビルドを繰り返し,多難な道のりであったようだが,根幹の面白さ,変えていく部分とそうでない部分が,整合性をもって一つにつながったときに光明を見いだせたという。プリミティブな部分は,強固であるほど強い輝きを放つのだという気付きがあったのだそうだ。ゲーム開発以外にもいろいろな局面で苦労することはあるものの,そうした時は初心に立ち返ることが重要なのではないか,と小倉氏は聴講者に向けてのアドバイスで講演を締めくくった。
ARMORED COREシリーズのリブートとACVIのヒット,その陰にあったのは魔法のレシピでも秘密の近道でもなかった。時代に合わせて変えるべき部分と,変えてはいけないものを正しく分析し,ほかに真似のできない作品を作るという,当たり前だがなかなかたどり着けない理想を開発チームと一丸となって追求した結果であるといえるだろう。
小倉氏は作品性と商品性の両立が大事であると語るが,講演を聴いて筆者は,愛と客観性の両立も大事であると思えたのである。ゲームの歴史も長くなり,過去のIPがリブートされることも増えてきている。そうした現状において,本講演はARMORED COREシリーズのみならず,リブートという取り組み全体に役立つものであると感じられたのだ。
「CEDEC+KYUSHU 2023」公式サイト
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- ライター:箭本進一
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