紹介記事
デッキ構築+パーティ戦闘+エグいボスで死闘が楽しめる「クロノアーク」の話がしたい。キャラもシナリオもいいけど,何より死ねるバランスが好き
というわけで,本稿ではSteamで配信中のRPG「クロノアーク」の話をしようと思う。
率直に言って,筆者はこのゲームが大好きである。ハードモードで全部遊び尽くして,実績もすべて解除して,コンテンツが追加されるたびに攻略して……を繰り返し,大変にハマっている。
本作は,韓国のAl Fineが開発中の,2019年からアーリーアクセスが展開されているタイトルだ。現時点ではまだ正式リリースには至っていないが,9月1日に「次のアップデートでラストチャプターを実装する。少なくとも2か月かかる予定」というアナウンスがあったので,「それなら年末には大手を振って紹介できそうだな!」と喜んでいたのだが,残念ながら本稿掲載時点では未実装である。ううむ,見誤った……。
とはいえ,すでに一通りのコンテンツは揃っていてかなり面白いし,何よりこちらとしては,いちゲーマーとして広めたくてしょうがないので,正式リリースまで我慢ができない。皆さんも今のうちに遊び尽くして,共にラストチャプターを待とうではないか,と言い訳しつつ,本作の魅力をお伝えしていこう。
「クロノアーク」Steamストアページ
デッキ構築型のRPGながら,パーティ戦闘とキャラクター性,シナリオを取り入れた意欲作
本作がどのようなゲームか説明しようとすると,割とややこしい。
あえて分かる人には分かる言い方をしてしまうと,「Slay the Spire」のフォロワーの1つと言える。Slay the Spireは,自分の行動がカードで決まるターン制RPGだ。カードゲームらしいデッキ構築によるキャラクター強化システムと,ランダムで作られたダンジョンを進んでカードやアイテムを手に入れていくローグライクなシステムを組み合わせた作品となる。このデッキ構築のバランスが良く,プレイしていて大変中毒性があり,高い評価を獲得しているので,プレイした人も多いだろう。本作以降,カードゲーム要素を取り入れたさまざまなインディーズゲームが誕生したほどだ。
クロノアークもその例に漏れず,デッキ構築で強くなっていくローグライクゲームである。ただ,逆に言えばそれしか似ていないというか,プレイしてみるとまったく異なるアプローチを取っているのが分かる。
Slay the Spireは,主人公1人(のデッキ)をひたすら強化して戦闘を繰り返しステージクリアを目指す,バトルシステムに特化した作りだ。一方で本作は,最大4人でのパーテイ戦闘を採用し,さらにストーリーとキャラクターにも力が入っているのが大きな違いとなる。
プレイアブルキャラクターは現時点で18人。キャラクターデザインも,Slay the Spireやそのフォロワーがいかにも海外ゲームという感じでとっつきにくいものが多いのに対して,本作は韓国で開発されているからか,日本人でも受け入れやすいアニメっぽいテイストだ。
ストーリーとしては,遥かな昔,世界は黒い霧で包まれて歪んでしまった。霧から現れたものが人々を攻撃し,地上は人が住めない場所となり,世界で安全な場所は空の島「アーク」だけとなってしまったのだ。主人公の1人であるルシーは,「時計塔を起動させよ」という謎の記憶を持ったまま,歪みの地を進んでいくことになる。……というのが大雑把すぎる説明というかSteamのストアページに書いてある建前で,ゲームを進めていくとアレ? アレアレ? とどんどん怪しいことになっていく。ネタバレになるので何も書けないが,とにかく戦闘だけのゲームでないことが伝わればそれでいい。割とダークなお話だ。
メインストーリーの描写とは別に,世界観や「一体何があってこんなことになっているのか」が断片的に描かれる「記録物」の収集要素もあり,周回を繰り返していくうちに大枠が分かっていく。
歪みの地は,ランダム生成のダンジョンだ。といっても,形状や発生するランダムイベント,手に入るアイテムなどが異なるだけで,階層の数や登場するボスは同じ(階層によって複数からランダムで選択されることはある)。1つの階で発生するイベントや出現する敵の数は決まっていてるので,全部探索して得られるものを得てからボスに向かうのが,攻略の基本である。
パーティは,最初は自分で選択した2人でスタートするが,歪みの地の奥に進むにつれて1人ずつランダムで増えて,中盤で4人になる。
シナジーは薄いがそれぞれの役割分担が重要なパーティ戦闘
戦闘では,パーティメンバー全員の所持カードと,ルシーのカード(主にドロー系)が全部混ざった1つのデッキとなり,ここからカードを引いて手札にして戦っていく。それぞれのカードにはコストが定められていて,序盤はその支払いに使えるマナが少ないので大したことはできない。歪みの地を進んでルシーを強化していくことで,マナの最大値を上げたり,彼女のドロー系カードをデッキに追加したりできるので,1ターンに使えるカードの枚数も増えていく。
ただし,ルシーの強化に必要な「ソウルストーン」は,各キャラクターのレベルアップにも使う。レベルを上げるとステータスが上がるだけでなく,そのキャラクターの新しいカードをランダムで獲得できるので,誰にソウルストーンを使うかは大変悩ましい。ソウルストーンは敵を倒せば手に入るが,各階層での敵の出現数は決まっており,結果的に入手数も限られているため,無駄遣いはできない。
プレイヤーは毎ターン,マナを消費してコストが支払えるなら,何枚でもカードが使える。ただし,1枚カードを使うと,敵の行動カウントが1つ減り,これが0になると敵が動く。そのため,敵がいつ攻撃してくるかは,常に意識しながら戦わなければならない。また,カードを1枚使うと,そのキャラクターのほかのカードのコストが1ターンの間増えるペナルティもあり,ここでもいつカードを使うかの判断が必要だ。
さらには,あえて「待機」のコマンドを使ってカードを使わずに敵のカウントを減らし,攻撃のタイミングをコントロールしたり,そもそもカウントを減らさない効果の「迅速」を持つカードを使ったりなど,考えることはたくさんある。カードゲームらしい,じっくりと頭を使う1ターンを体験できるだろう。
パーティ戦闘でカードゲームとなれば,「これとこれを組み合わせて何かすごいコンボが」的なことを考えるかもしれないが,本作はキャラクター間のシナジーがかなり薄味だ。各キャラクターそれぞれがやりたいことは,基本的に単独で完結している。
例えば,もう1人の主人公であるアザールは,パッシブ能力やいくつかのカードの効果を用いた固有ギミックとして,コスト0で放てる便利な攻撃カード「幻影の刃」を生み出して戦う。このカードは1ターンで消えてしまうが,複数溜めてから使うと威力が強化されるカードや,手札にある幻影の刃の枚数を2倍に増やすカードなどもアザールは所持しているので,組み合わせれば自分だけでコンボが完成する。
それならパーティを組んでいる意味はどこにあるかというと,ターン制RPGらしい役割分担だ。本作では,キャラクターごとにアタッカー,ディフェンダー,サポーターと役割がある。アザールはアタッカーなので攻撃は得意だが,味方を守ったり回復したりはほとんどできないので,そこはほかのパーティメンバーのカードに頼りたい。
コンボの完成やダメージ効率に気を取られて,メインアタッカーばかりを強化すると,デッキの大半がそのキャラクターだけになってしまい,回復したいときにサポーターのカードが引けない,なんてことになりかねない。1人で戦うわけではないことを念頭に置いたデッキ構築が求められる。
これらカードゲーム要素とパーティ要素を組み合わせた結果,本作の戦闘は通常のターン制バトルと比べて,コマンド(手札)を使うタイミングや,そのターンにどれだけのコマンドを使うか(限られたコストを誰のどのカードに支払うか)の選択が非常に重要となる。敵も強く,一手一手がシビアなヒリヒリとした戦いが楽しめるのだ。
マゾい! 楽しい!!
ざっくりと基本的な部分を紹介したが,本作の最大の魅力がどこにあるかと言うと,やり応えと達成感のある戦闘バランスだ。
勝手ながらここからは,難度をハードにした体験談だと思っていただきたい。ハードを選んだ場合,敵のHPが増え,倒された仲間の復活回数に制限がかかるなど,しんどくなるだけだが,達成感を求めるタイプのプレイヤーにとっては,頭を使うことが増えてむしろご褒美。しかも本作は自己満足な特典として,ハードでクリアできたキャラクターは,選択画面で背景の色が変わるようになっていて,「あー,全員突破させたいなぁ!」と思わせるリプレイ性がある。
もちろん,ストーリーを楽しむのに難度を抑えたいという人は,わざわざヒドイ目に遭わなくてもまったく問題ないし,ゲーム中で難度の変更も可能なのだが,筆者としては「最初からハード選ぶのめっちゃ楽しい! マゾい! オススメ!!」と主張しておこう。
脱線したが,本作の戦闘で生き延びるには,ギミックの理解が何よりも大切だ。とくにボス戦は,どのような戦い方をしてきて,それに対してどう対処するかを覚えないと,理不尽なレベルであっさり全滅する。しかもローグライクゲームの宿命として,全滅するとレベルもアイテムも何もかも失うので,またイチから育成して挑まなければならない。
ただし,仮に全滅したとしても引き継がれるものがある。それはプレイヤーに蓄積された知識,戦闘経験だ。どのボスに対して,どのキャラクターやスキル,アイテムが有効なのか。どのカードをどの行動に合わせればいいのか。逆に何をしてはいけないのかを学んでいけば,必ず突破口が見えるようにできている。
例えば先のアザールの場合,幻影の刃をとにかく撃ちまくるのが基本戦術となる。このカードは一発の威力は低いものの,何枚も作成できるのでトータルのダメージは十分に高く,しかもほかの有用な効果も付いていて,さらにコンボパーツにもなるなど,とにかく便利で強い。
しかし本作には,カードを使うたびにそのキャラクターがダメージを受ける折損や,カードのコストを上げてしまう烙印など,さまざまなエグい状態異常があり,これらを駆使してくるボスも存在する。折損を受けているのに幻影の刃を連発すればあっという間に自滅するし,烙印でコスト0でなくったら最大の利点が潰されたも同然だ。そのため,アザールは相性が悪い相手には徹底的に悪いアタッカーということになる。
では,そのボスを突破するためにどのような対策をするのか。ダメージは回復すると割り切る,状態異常を解除できる手段を用意しておく,ほかに攻撃できるキャラクターを育てる,そもそもアザールを選ばないなど,ここだけでもさまざまなアプローチが考えられる。このように本作は,壁にぶつかったら1つ1つ解決法を見出し,倒せるボスを増やしていくゲームである。
もっとも,対策したつもりでいても,運悪く攻撃が集中するなどで“事故死”することも多々あるし,そもそも入手できるカードやアイテムの種類は運なので,なかなか思い通りにはいかない。そのため,本作をハードモードで遊ぶ場合,この事故死を減らす立ち回りを考えて,臨機応変な対応をしながら攻略を安定させていくことが非常に重要だ。
安定してボスを突破するために考えること,準備できること,手を付けられる要素はとにかく多い。パーティ構成や,誰をどれだけレベルアップさせるか(デッキをどう強化するか)を決めるソウルストーンの配分,消費アイテムや装備品の使い方,敵を倒して得られるお金をどこに回すか,ランダムイベントをどう活用するかなど,限られたリソースを使ってどうにか攻略の道筋を見つけていくことになる。
そもそも,パーティメンバーが使えるカードの効果を正確に把握するだけで,一度は全滅を前提にしたプレイが必要なぐらい,いろいろな面で複雑だ。さらに,何体もボスを相手にしなければならない都合上,「こいつを倒したい」と言うよりは「完走するまでの攻略プランはこれ」といった感じで,じっくり考える必要がある。ただ強いデッキを作ればいいわけではないあたり,デッキ構築型のRPGとしてはバランスも独特だ。しかも,要素が多いのにあまり説明してくれないので,手探りで覚えていかなければならない。
これを「不親切」と感じるか「攻略し甲斐がある」と感じるかは人それぞれだと思うが,後者のタイプであれば,どっぷりハマって「全員ハードでクリアしてやろうかな!」となるだろう。
ちなみに,やり込み要素はほかにもあって,特殊な条件でクリアを目指すチャレンジモードも用意されている。このモードは,攻撃と回復の効果が逆になったり,強化された1人のキャラクターだけでクリアを目指したりと,本作をよく理解していないと太刀打ちできない条件が課せられるうえに,この状態でもハードの難度を選べる。こちらも苦しくて楽しいので,ぜひ。
本作の不満をあえて挙げるとすれば,日本語の翻訳が微妙なことぐらいだ。意味は分かるし進行も問題もないので,プレイには困らないが,ストーリーを楽しんでいるときに怪しい日本語が出てくるのはもったいない。
今後,正式発売までに行われるアップデートは公開されており,まずはラストチャプターとラスボスの実装,エンディングがアナウンスされている。現状のラスボスもかなり強いのだが,さらに増えるとなると,楽しみでしょうがない。また,隠しボス2種も追加されるようだ。
さらに,パーティメンバーへの好感度システムやスキンなど,キャラクターを推せる要素も増えるようで,これもかなり嬉しい。プレイアブルキャラクター自体も1人追加される。そのほか,Nintendo Switchへの移植も予定されているので,PCゲームを遊ばない人も触れられるようになるだろう。
さて,散々死ねる戦闘バランスが楽しいと紹介してきたが,これはあくまで筆者の好み。開発者のコメントを見ていると,本作はあくまでストーリー重視のゲームとして作られている。本作を楽しむのに筆者のようなマゾゲーマーである必要はないと,フォローはしておきたい。ストーリーもちゃんと先が気になる内容で,ラストチャプターの実装は大いに期待している。
ただ,想像してみてほしい。気に入ったメンバーをあの手この手で育て上げて,そのパーティで絶対に負けたくないボス戦(なにせ死ぬと全部消える)に挑むというのは,大変アツいシチュエーションではないか。ここまで熱の入るターン制戦闘が楽しめるゲームはなかなか出会えるものではなく,「今ここで,ターン終了を押したくねぇ!」などと,敵の行動をお祈りしながら戦う体験を,ぜひ皆さんにも味わってほしいと思う次第だ。そして盛大に死ぬがいい。
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