インタビュー
[GDC 2023]もし自分の妻がゾンビになってしまったら? 「Into the Dead: Our Darkest Days」の開発スタッフに話を聞いた
「Into the Dead: Our Darkest Days」公式サイト
PikPokは,PCやコンシューマ機向けレーシングゲームなどの開発を行っていたSidheというメーカーが2012年,モバイルゲーム開発のために設立したブランドだ。まもなく本家のSidheは廃業してしまったが,PikPokは引き続き,「Flick Kick Football Legends」(2013年)や「Clusterduck」(2020年)など,評価の高いゲームを世に送り出し,存在感を示してきた。
「Into the Dead: Our Darkest Days」は,そんな彼らが2012年にリリースした「Into the Dead」から始まるシリーズ第3弾で,PikPokとしては初めてPCを念頭に開発を行っているという。
公開された情報によれば,「Into the Dead: Our Darkest Days」の舞台となるのは,1980年代のテキサスにある架空の都市ウォルトンで,突如として全米を襲ったゾンビアポカリプスで,日常は一変してしまう。無数のゾンビが街をうろつく中,わずかに残された生存者はシェルターに逃げ込み,外部の支援や救助が得られるあてもないまま,力を合わせて必要なアイテムを作ったり危険な探索で物資を集めたりしていくという。
横スクロール型の視点からは,「This War of Mine」を思わせるサバイバルや,困難な選択を迫られるといった内容が予想できるが,ゲームを進めると,やがて,その地域で物資を入手することさえ困難になり,いくつかのシェルターを移動しながら物語を進めていく。
会場で話を聞いたのは,シニアゲームデザイナーのドウェイン・カークウッド(Dwayne Kirkwood)氏とマーケティング&コミュニケーションマネージャーのリー・ラドモール(Lee Radmall)氏だ。制作を発表するトレイラーは約3か月前に公開されているが,以来,それほど多くの情報は発表されていないので,貴重なインタビューとなっている。
4Gamer:
「Into the Dead: Our Darkest Days」の情報はそれほど公開されていませんが,シリーズ従来作とは趣が異なるようですね。
リー・ラドモール(以下,ラドモール)氏:
ええ。ゾンビアポカリプスをテーマにしたゲームによくあるように,銃を手にして撃ちまくるというプレイではないですし,ゾンビについても,何の目的もなく徘徊し,生きている人を見ると襲ってくるといった描き方はしていません。ゾンビはかつては人であり,ひょっとしたら家族であったかも知れません。これまで10年近くにわたって「Into the Dead」シリーズはゾンビを描いてきましたが,この「Into the Dead: Our Darkest Days」では,ゾンビに新たな深みを与えようと思っています。
4Gamer:
ゾンビに同情してしまうというような。
ドウェイン・カークウッド(以下,カークウッド)氏:
我々の計画は,特定のシチュエーションにおいて,ほかのゾンビゲームにはないような,「引き金をひくべきかどうか」という選択を提供することです。
例えば,物資を探しに空き家に入ると,ゾンビが明らかに家族の肖像画の中に映っている女性であったりします。我々の描くゾンビはもはや人間ではないかも知れませんが,人間関係や風景の記憶を持っており,そうした記憶が自分の心に響くので,苦しんだり怒ったりしているという状態です。彼らの行動の理由は,プレイヤーにも理解できるようにしており,それらは,プレイヤーが判断を下さなければならない選択に関わってきます。つまり,プレイヤーが人間的な角度でゲームを体験できることを目標にしているわけです。
4Gamer:
なるほど。例えば,プレイヤーキャラクターがゾンビになった自分の家族に出会った場合,なんとか殺さない方法を見つけるとか,いっそのこと苦しみから解放してあげるとか,そうした選択が用意されているのですか。
カークウッド氏:
本作では,すべてのスカベジング(物資探索)ミッションにプレイヤーがつきあう必要はありませんが,例えばゾンビとなった自分の家族に出会ったキャラクターが,貴重な食料をシェルターから持ち出して,家族に分け与えるかもしれません。そのうち,食料の持ち出しがトラウマになり,シェルターから出て行くか,グループに引き留めておくのは難しいと判断されるかもしれません。
そこに正解はなく,プレイヤーは自分の考えに従って行動できるようになっています。感情的に判断しても良いですが,それは,生存戦略において合理的ではないかも知れません。
4Gamer:
時代設定は,1980年代となっていますね。
ラドモール氏:
ええ。レーガン政権下の1980年代は,経済が非常に悪い時期でした。暗い時代をサバイバルしている人に,新たにゾンビアポカリプスを生き残らなければならないという難題が突きつけられるわけです。
4Gamer:
やはり「This War of Mine」と比較してしまいますが,アクションの比率は高くなるのでしょうか。
カークウッド氏:
我々がインスパイアされた作品なので比較されるのはもっともですが,大きな違いは,危険なゾンビがいて,一方で,さまざまな動機によってサバイバルする人々がいることです。アクションの比重は多くなるでしょうね。探索は重要な要素ですが,ストーリーを進めるためだったり,何かを発見したりするためといった目的を含んでいます。
4Gamer:
ゾンビに支配された世界は崩壊していくだけだと思いますが,ゲームでは何を目標にプレイしていくのでしょうか。
ラドモール氏:
この画像を見ていただければ分かると思いますが,3人の生存者がビルの上からあたりを見回していて,奥のビルにはヘリコプターが不時着しています。プレイヤーは1つのシェルターで少しでも長く生き延びようとすることはできますが,周囲の物資が減り,ゾンビがシェルターに近付いてくるので,次の安全な場所を見つけて移動しなければなりません。最終的なゴールにはさまざまなオプションがあり,ヘリコプターやバス,ボートなどを見つけて脱出できるかもしれません。
4Gamer:
しっかりと計画を立て,移動していくようなシステムになるわけですね。
カークウッド氏:
はい。本作のスタート時点では,ランダムに選ばれた生存者たちがいて,彼らの発見や欲求に従って,移動ルートも異なるものなります。グループの誰かが,軍が指定する脱出地点をラジオで聞いたり,スタジアムが安全地帯だという情報を得たりすることで,そこまでどのよう到達するのかといった,ルートを決定するプランニングシステムが存在します。そのため,プレイヤーによってゲーム体験が大きく違うものになるでしょう。
4Gamer:
本作では,どれくらいの日数を生き延びることになるのでしょうか。
カークウッド氏:
今のところ,そうした調整を行う段階ではありませんが,今お話ししたように,そのあたりはプレイヤーの選ぶ道筋で変わってきますし,あえて情報を与えないようにしようと思っています。
自分の住む街でゾンビアポカリプスが発生し,パニックや偽情報で混乱し,希望が閉ざされていく中,なんとかシェルターを確保したのがプレイヤーが操作する集団です。
街を出れば助かるだろう,どこかで軍が安全地帯を確保しているだろう,といった夢や希望を持っても,それは崩れていくかもしれません。どこか,COVID-19と似ていますね。最初はテレビで見るだけだったのに,どんどん自分に迫ってくるような気がしてきて,やがて,近所の人や身内がなくなっていきます。ゾンビアポカリプスに終わりがあるのか,防ぐ方法はあるのか,プレイヤーは何も分からないまま,サバイバルのためにプレイを続けていくことになるのです。
4Gamer:
ゲームのグラフィックスは,公開されているトレイラーやスクリーンショットのような感じになると考えて良いのですか。
ラドモール氏:
はい。トレイラーやスクリーンショットは,我々が開発しているゲームからキャプチャーしたものです。我々と同じニュージーランドにある,「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズでおなじみのWētā FXを訪れて,モーションキャプチャーを撮影しました。ゲームのベースとなるレンダリングパイプラインはUnityを使っていますが,Unity Technologiesも我々ゲームに興味を示してくれました。GDC 2023でも高く評価されたことを,嬉しく思っています。
4Gamer:
夜のシーンは独特ですね。
カークウッド氏:
横からのカメラ視点なので画角は広く,単光源によるダイナミックな照明効果を使っています。例えば,旗が月に照らされて浮かび上がって見えたり,車のヘッドライトがゾンビを照らして,不気味に見えたりするんです。光と闇は,ホラーにとっては重要な要素ですからね。さらに,武器がない状態でゾンビともみ合いになり,家具を使って対処するというといった,環境を利用してのプレイも用意しています。
4Gamer:
「感情」とい側面を重視した,重いテーマのゲームになりそうですね。
ラドモール氏:
ええ。それこそ我々がPCをメインプラットフォームにしたゲームを開発しようとした理由です。
「Into the Dead: Our Darkest Days」は,誰でも楽しめるゲームではないかも知れませんが,どのような決断をするかはプレイヤー次第で,できるだけプレイヤーが遊びたいように遊べるオプションを増やそうと思っています。銃を乱射するようなゾンビゲームではありませんが,プレイヤーに問いかける作品になってほしいと思っています。
カークウッド氏:
ゲームの主軸はサバイバルです。悲しくなるような選択をしなければならない場面もあるでしょうが,それはプレイヤーが希望を持っているからです。シェルターにこもっていても悲惨な状況から逃れることはできません。何とかして生き永らえ,絶望を希望に変えるのが本作なのです。
4Gamer:
お忙しいところ,ありがとうございました。プレイできる日を楽しみにしています。
「Into the Dead: Our Darkest Days」の発売日は現段階で発表されておらず,GDC 2023でデモなどが紹介されなかったことから,完成までにはしばらく時間がかかりそうだ。ゾンビアポカリプスというおなじみのテーマをシリアスに描き,ストーリーやグラフィックスでも楽しめそうな作品だけに,気になる人はSteamのウィッシュリストに登録しておこう。
4Gamer「GDC 2023」掲載記事一覧
「GDC 2023」公式サイト
- 関連タイトル:
Into the Dead: Our Darkest Days
- この記事のURL:
キーワード
(C)2022 Prodigy Design Limited. Into the Dead and PikPok are trademarks of Prodigy Design Limited. All rights reserved.