インタビュー
[インタビュー]モンスター育成+オートバトル+ローグライクの合わせ技。「伝説の生き物II(Legendary Creatures 2)」とは?
インディーゲーム個人開発者のHideChara氏と,今作でパブリッシングを務めるThermite GamesのLi Xuan氏(李譞)に,ゲームの特徴をはじめ,中国インディーゲーム市場の今を尋ねてみた。
Steamで「非常に好評」を獲得したローグライクなモンスター育成ゲーム「伝説の生き物2」の制作が発表に。日本語対応で2023年秋リリース
パブリッシャのThermite Gamesは本日,個人ゲーム開発者HideChara氏の新作「伝説の生き物2」の制作を発表し,トレイラーを公開した。2020年にリリースされて好評を獲得した「Legend Creatures」の続編で,ランダムに生成されたマップを探索し,モンスターを集めて育成するという。
ほかとは違うなにかを求めて
4Gamer:
まずはお二方の自己紹介をお願いします。
Li Xuan氏:
Thermite Gamesはインディーゲーム専門のパブリッシャです。プラットフォームはPC / PS / Xbox / Switchなど全般的に取り扱っています。
HideChara氏:
私は前職,NetEaseでインディーゲームの制作プロデューサーをやっていました。ゲーム開発にはこれまで10年以上携わってきましたが,今はHideCharaとして,個人でクリエイター活動をしています。
4Gamer:
なぜ,プロデューサーからクリエイターに?
HideChara氏:
自分が考えたゲームを形にしたかったからです。自身の意志表現を優先するために,ゲームクリエイターとして独立しました。
以前はAAA級のモバイルゲームなどにも携わっていましたが,商業用のゲームにはどうしても資本の制約や意志が介入します。そのため,好きなゲームを作るということがなかなかできなかったので。
4Gamer:
もともと,ゲーム作りの技術はあったのですか。
HideChara氏:
学校を卒業して,ゲーム会社に入ったころは,もともとプランナー職をやっていました。プログラムやデザインもできますよ。
あっ,サウンドはぜんぜんできませんが。
4Gamer:
それでも十分マルチで。
あらためて,本作のゲーム内容を紹介してください。
HideChara氏:
基本は「チェス」と「ローグライク」を組み合わせたゲームです。プレイヤーはマップを探索しながら,幻の生物を見つけ出してチームを作り,スキルやバトルの戦利品で彼らを強化していきます。
大きな特徴は“オープンワールド型のマップ”であることです。オープンワールドとローグライクの組み合わせ自体,ゲーム市場ではあまり見なかったので,チャレンジのしがいがありました。
開発も基本的に1人でやっています。
4Gamer:
ちなみに,初代「Legendary Creatures」の反響というのは。
HideChara氏:
前作は違うパブリッシャから販売され,20万ダウンロードを達成しています。ユーザーさんからもたくさん反響をいただきました。
ただ前作はローカライズ面があまりよくなくて,海外のプレイヤーさんから「翻訳しましょうか?」と提案を受けたくらいでした。けれど,私たち側の言語の壁で,うまく交流することができずじまいで。
ですから今回は,「ちゃんとローカライズする」ことも大きな目標として,新たにThermite Gamesと手を組んだんです。
4Gamer:
声かけはどちらが先だったんでしょう。
HideChara氏:
Thermite Gamesからです。もともと個人的な知り合いだったのも関わっていますが,この会社ならローカライズにしっかりと対応してくれるだろうという信頼があったのも,大きな理由の一つです。
Li Xuan氏:
私は2が出ると聞いて,すぐさま声をかけましたよ(笑)。
実際にデモ版を触ってみて,期待と確信を持てました。
4Gamer:
Thermite Games的にはそのころ,どんなインディーゲームを求めていたのでしょう。指針などはありましたか。
Li Xuan氏:
弊社は中国でも“とくにスピード感のあるパブリッシャ”です。それを成すための共通意識として,3つの指針でゲームを見ています。
第一に「作品にクリエイターとしての特色が見えるか」。第二に「芸術表現」。これはアートやストーリーなど全般的な話です。
そして第三に「プレイヤーが遊びたがるゲームか」。サンドボックスだったり,サバイバルだったり,シミュレーションだったりと,中国市場における人気ジャンルであるかはあらかじめ見極めます。
4Gamer:
本作ではどんなゲーム体験を目指したのでしょう。
HideChara氏:
たくさんのキャラクターでチームを組み,自分なりのローグライク体験を味わってもらうことです。ゲームにおいてキャラは大切なので,作中にはさまざまな種族を登場させています。編成やスキルの組み合わせも多種多様なので,人それぞれのゲーム体験を楽しんでほしいです。
4Gamer:
ビジュアルは西洋風ですが,中国風にしようとは考えず?
HideChara氏:
そこは,グラフィックスの大半がオンラインショップで販売されている素材だからですね。個人開発ではやはり素材制作が大変で,むしろ使いたい素材を探してからゲームを形にしたくらいです。
一応,前作では自分でアート素材を制作したんですが,やはり倍の時間がかかってしまいましたから……(笑)。今回は外部の素材の力を借りつつ,ゲーム面のプログラミングに注力したわけです。
4Gamer:
最近はそういうゲーム作りもアリですしね。
HideChara氏:
そもそも昔はゲーム制作のための素材自体が見当たりませんでしたし。今はいろんなものが売っていて,すごいですよね。
そうだ。本作は将来的に「Steamワークショップ」に対応予定なので,ユーザーさんの自作素材なども導入できるようになります。
4Gamer:
いろいろMODで遊べそうな雰囲気ですし。
ローグライク的なおもしろさに関しては,どう追求しましたか。
HideChara氏:
まずはローグライクを作るうえでの基礎の値から用意し,それをベースとして,キャラクターごとに当てはめていきました。
そのうえで,本作では「キャラクターごとに2スキル」を用意し,強化要素はすべて2スキルの上に重ねていく作りにしています。
4Gamer:
最終的にどんなバランスにするか,悩ましかったりは。
HideChara氏:
ローグライクには“1+1が10になる”といった化学変化が求められるので,基底のバランス表を何枚も用意して精査しました。
ローグライクってバランスをすごく壊しやすいジャンルですし,進めば進むほどバランスがあってないような状況になりますし。
クローズドのプレイヤーテストも何度もやってきて,テスターの皆さんからのフィードバックをとても参考にしてしきました。
4Gamer:
プレイヤーからの声は,どこまで受け入れるのでしょう。
HideChara氏:
細かな要望はもちろん,場合によっては大きなフレームワークにも反映しますが,やはりバグを見つけてほしいのが本音です(笑)。
でも,主に聞くのは“意見ではなく体験”です。ゲーム開発に教わることはいろいろありますが,開発者というのはプレイヤーに教わりすぎると芯が揺らぐので,私は主に,体験への声を重視しています。
4Gamer:
例えば,商業向けのゲームの制約から逃れて,自分のゲームを追求できるようになったけれど,プレイヤーの声に左右されそうになる。
そうした葛藤もあったりするのでしょうか。
HideChara氏:
その点,私は初心でもある「おもしろいゲームを作ること」を大切にしています。人の意見でゲームの作りが変わったとしても,それを取捨選択するのは自分自身の判断。そして最終的に目指したいゴールに違いはないので,そこがブレずにいれば葛藤せずに済みます。
ただ皆さんからの要求は高まっているので,そこはがんばらないと。
Li Xuan氏:
HideCharaさんが言うように,プレイヤーの要望が強まっているのは,中国のゲーム市場が徐々に育ってきて,プレイヤー側も「前例の成功作品と比較できるようになってきた」からですね。
いいゲームへの期待や要求は,年々引き上がってきています。
4Gamer:
そんな中国のインディーゲーム界隈で,最近感じた変化などは?
Li Xuan氏:
まず市場規模が確実に大きくなりました。中国のインディーゲーム市場が本格化したのは2017年ごろの話ですが,その間にいろんなことが倍々化しています。あと,この国のゲームユーザーにとって大きな変化は,コンソールゲームの存在と「買い切りゲーム」の概念でしょうか。
みんな,当たり前のようにゲームを買うようになっていますので。
4Gamer:
なら,昨今のインディーゲームの定義に思うことなどは。
Li Xuan氏:
近年は「インディーゲームに外部の資金を入れてはダメ」といった意見が強まってきましたが,個人的にはそうは思いません。
インディーゲームだってそもそも,こうしたパブリッシングの提携が必須になりましたし,個人開発者であろうと開発資金が必要なのは同じです。人気タイトルともなると膨大な数が売れるビジネスですし。
そのうえで定義を語るなら“販売元や投資資金の有無に関わらず,外圧に影響されすぎた作品はインディーゲームではない”といった感情です。開発者の意志が最優先にあるならば,それだけでいいです。
HideChara氏:
私も,インディーゲーム開発者にとって大切なのは,好きなこと,違うこと,新しいことを模索する意志だと思っています。
売れるゲームを作ることも一つの道になってきましたが,私たちはほかとは違うなにかを求めてゲームを生み出すべきかなって。
4Gamer:
しかし,今は大手メーカーの参画も激化してきましたよね? 個人開発者でも同じ土俵で戦うことになるくらいに。そこはどうでしょう。
Li Xuan氏:
中国もだいたい同じような状況ですね。
おそらくご存じのように,今はTencentなどの大手企業の傘下にインディーゲーム開発スタジオが連なりはじめました。創作物こそインディーゲームのカテゴリですが,そのボーダーラインはハッキリしなくなっています。そういうこともあって,私も定義を考えはじめましたし。
けれど,どれだけ自由なクリエイティブを保証していても,給料をもらってゲームを作る人たちが,会社関係やオーダーを少なからずでも意識してしまうような環境ではダメでしょう。そうなると,自由な発想のインディーゲームというのは結果的に出づらくなるものです。
4Gamer:
なら,大手に押されているといった意識もなく?
Li Xuan氏:
押されている感覚はないです。そもそも,今はインディーゲームどころかゲーム自体が飽和している時代ですしね。
それでも,みんながよりよいゲームを作りたいと考えてきたから,そのエネルギーで市場全体が推し上がってきた。それが今の印象です。
4Gamer:
外部の所感よりも,前向きに受け止めていることがよく分かりました。それで,ゲームはいつごろリリースされるでしょう。
Li Xuan氏:
2023年末を予定していますが,具体的な日程はこれからです。
4Gamer:
ちなみに,ゲームのタイトル名称にはなにか思い入れが?
HideChara氏:
ああ。前作の制作時,キャラクターたちがどんどん強くなっていく体験で,“人それぞれの伝説”を感じてほしいなと名付けたものです。
4Gamer:
そういうことで。いや私,「Legendary Creatures」(レジェンド・クリーチャーズ)の名を初見のとき,「Legendary Creators」(レジェンド・クリエイターズ)と読み間違えまして。これはきっと,偉大なクリエイターになるぞ! という意気込みなんだろうと勘違いして(笑)。
HideChara氏:
やっ,ぜんぜんそういう意識はなかったです(笑)。
Li Xuan氏:
私はレジェンド・クリエイターだと思ってますよ(笑)!
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