レビュー
インテル入ってるAndroidで,ゲームはどれだけ動くのか
ASUS Fonepad ME371MG
国内正規流通するタブレット端末でSIMロックフリーというだけでもなかなか異色なのだが,とくにユニークなのが,SoC(System-on-a-Chip)としてIntelの「Atom Z2420」を採用していること。QualcommのSnapdragonシリーズに代表されるような,ARMアーキテクチャのSoCが支配的なAndroidタブレット市場において,FonePad ME371MGで採用しているCPUアーキテクチャはx86というのが,決定的に異なるポイントである。
実際,Fonepad ME371MGのバッテリー駆動時間は3Gデータ通信無効時で最大10.5時間なので,7インチクラスのAndroidタブレットとして,ARMアーキテクチャのSoCを搭載したモデルと大差ない。
そんなFonePad ME371MGについては,発表会の時点で動作検証レポートをお届けしているが(関連記事),当たり前のようにAndroid OSが動作し,予想以上にキビキビした挙動を示していた。
ただ,そうはいっても,CPUアーキテクチャが異なる以上,アプリの互換性に不安を持つ読者も多いだろう。Intelの日本法人であるインテルは,開発ツール「Android NDK」やC言語,C++言語で開発されたアプリのほとんどが問題なく動作すると,不安の払拭に力を入れていたが,メモアプリやカメラアプリなどといったものとは異なり,複雑な構造をとることが多いゲームアプリも本当にきちんと動作するのかといったところは,やはり気になるところだ。
果たして“インテル入ってる”Androisタブレットで,ゲームはちゃんと動作するのか。今回はこの点を中心に,Atom Z2420,そしてFonePad ME371MGの性能をチェックしていきたいと思う。
いきなりだがFlashは諦めよう(基本的には)
PCでのプレイを前提としたブラウザゲームの多くは,Flash単体かFlash+Active Xベースのタイトルであり,いずれも,一時期市場を席巻して,そのまま消えていったAtom搭載Netbookや,ARMアーキテクチャのCPUコアを1〜2基統合するSoCを搭載したAndroid端末では動作が厳しいほど,負荷が高い。現行世代のCPUを搭載したPCならなんの問題もなく動作させられるが,タスクマネージャを見てみると,そのCPU使用率は意外に高かったりもする。
さて,AndroidでFlash系ブラウザゲームをプレイするときは,以下の作業が必須だ。
- Adobe Systems(以下,Adobe)のWebサイトから「Flash Player for Android」のアーカイブ版APKファイルをダウンロードしてインストール(Adobeによる解説ページ)し,
- さらにAndroid版「Firefox」(とアドオン「Phony」)など,User Agent(ユーザーエージェント)を変更できるWebブラウザを使って,PC用Webブラウザに偽装する
これで,最新世代のSoCを搭載したAndroid端末の多くで,やや“重い”ながらもFlash系ブラウザゲームの多くをプレイできるようになる。Atom Z2420がARMアーキテクチャのSoCと高い互換性を持っているのであれば,同様の方法で動作すると考えたわけだ。
Firefox Betaはインストールできた。次期正式版Firefoxは導入できるようになるかもしれない |
ただ,Firefox BetaからはFlashを利用できず。サポートされていないと言われてしまった |
念のため艦これにログインしたが,公式ページでもFlash Playerが未導入と表示された |
これはどういうことか調べてみたのだが,すると,FonePad ME371MGでFlashを動作させるには,標準的なAndroid用Flash Playerではなく,x86版のFlash Playerが必要という情報を発見できた。
ただし,この作業にはroot化が必須であり,しかも部分的にシステムファイルを上書きする必要もある。ASUSの保証がなくなり,しかも失敗したらまったく動作しなくなる危険もすべて覚悟した人なら,自己責任で試してみる価値はあるかもしれないが,基本的には「Flashベースのブラウザゲームは動作しない」と考えておいたほうがいいだろう。
もちろん,将来的に何らかのアップデートがあれば動くようになる可能性はあるのだが,Adobe自体がAndroid用Flashの事業から撤退している――だからFlashはアーカイブ版しか提供されていない――ので,あまり期待しないほうがいいと思われる。
次にチェックしたのは「Xbox SmartGlass」アプリだが,「Forza Horizon」との組み合わせで確認したところ,「Forza Horizon SmartGlass Experience」を除いて,機能を使用できた。まあ,Forza Horizon SmartGlass Experienceは利用可能条件がいまいち不明ということもあり,初めからあまり期待していなかったので,ほぼ予想どおりの結果といったところか。
Xbox SmartGlassでのリモート操作は,ARMアーキテクチャベースのAndroidタブレットと同じように行えた |
Forza Horizon SmartGlass Experienceには対応せず。一応「Xbox 360側でプレイ中かどうか」は表示されたのだが |
これは,スカートをめくるとメモリを解放するという,とても明快かつ男児の魂を揺さぶるものだが,これは問題なく動作し,スカートめくりもメモリの解放も行えた。
エリシアオンラインは起動時のローディング20%時点で必ずフリーズしてしまった |
今回,記事に使うスクリーンショットのファイル移動に「ファイルマネージャーHD」を使っていたのだが,本アプリでも使用できない機能はなかった。このあたりで「だいたい動くんじゃないの」と思えてきたりしている |
ひょっとしてオンライン系は苦手かと思い,今度は「オルクスオンライン」をインストールしてみたが,こちらは問題なくプレイできた。このあたりは,アプリの作り込みに左右されているのだろうか。グラフィックス品質によるのかというと,エリシアオンラインとオルクスオンラインのグラフィックスは似た傾向にあるので,そういうわけでもなさそうだ。また,やたら作り込まれた印象のある「斑鳩」も問題なくプレイできたので,グラフィックスや,ゲーム自体の作り込みによって,動作できたりできなかったりするわけでもなさそうだ。
このほか,「Race Illegal: High Speed 3Dや「Final Defense」「Galaga Special Edition Free」「PAC-MAN +Tournaments」も,すべて動作した。
「動作しないトリガー」が何なのかは正直,はっきりしないのだが,この時点で,インテルの言うとおり,大半のタイトルは動くような気がしてきている。
Androidゲームアプリ200タイトル弱のチェックから見える,ちょっとした共通項
タイトル数は197。200タイトルを目指したのだが,リストが完成した時点で配信が終わってしまっていたタイトルが2タイトルと,うっかり重複してしまったのが1タイトルあったので,197となる。そのリストが下記のとおりで,一言でまとめると,動作に難があったのは18タイトルだ。うち,起動しないのは10タイトルだったので,全体の9%に何らかの難があり,約5%が動作しなかった計算になる。
表 Android用ゲームタイトル197本での動作検証結果(あいうえお順)
※以上は,2013年7月中旬から下旬にかけて,4Gamerで実際に検証した結果です。テスト時点でGoogle Playから入手できたアプリを用いて検証したものであり,今後のアップデートで対応状況に変化が生じる可能性があります。4Gamerでは今回のテスト結果に関していかなる保証も行いませんので,この点は注意してください。
有名どころもそうでないものも,負荷の高そうなものもそうでないものも一切区別せずのテスト結果となるが,まず,Adobeの「Air」を採用したタイトルは動作しないということが言えるだろう。前述のとおり,Flash Playerもx86版でなければならないことが確認されているので,Airも同様ということなのだと思われる。逆にいえば,すべてを覚悟してroot権限を取得し,一部ファイルを書き換えれば,Air準拠のタイトルも動作する可能性がある。
なお,パズル&ドラゴンズは,ASUSから貸し出しを受けた状態のFonepad ME371MGでは動作しなかったが,ファームウェアを最新の3.2.3にアップデートしたところ動作した。その間にパズル&ドラゴンズ自体のアップデートもあったため,その時点で対応機種としてリスト入りした可能性もあるのだが,ファームウェアやアプリ側の対応次第で,いま動かなくても今後動くようになる可能性が見えたというのは収穫である。
「ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生」はイレギュラーな理由でプレイができなかった唯一のタイトルだ。タイトル画面とオープニングは表示されるのだが,本編に入るとブラックアウトしてしまう。
ただ,タップでシーンが進行したり,セリフが再生されたり,BGMが再生されたりするため,描写のみ失敗している印象だ。ファームウェアを3.2.3へアップデートしても状況に変化はなかったが,今後,ファームウェアのアップデートでグラフィックスドライバが更新されると,動作するようになるかもしれない。
続いては,「プレイは行えたものの,途中で問題が生じたタイトル」を見ていこう。
「ブルーオデッセイ」は,キャラクター作成時にアプリが落ちるものの,リトライを繰り返すと作成できた。「キングダム&ドラゴン」はキャラクター作成終了後にアプリが終了するも,もう1度起動するとすんなりとスタート。「ダークアベンジャー」は起動に失敗することもあるが,何度かリトライすると遊べるといった具合だ。
これらが単純に互換性の問題によるものなのか,処理的な問題によるものなかは謎だが,
そのほか,処理落ちするタイトルや,ときおり一瞬だけブラックアウトするタイトルもあったが,エンカウント率は極めて低い印象。少なくとも,Android 2.x時代までにあった互換性問題のひどさと比べれば,Fonepad ME371MGは遙かにマシである。Android 4.x世代のAndroid端末でも,機種によっては動作しないアプリと遭遇することがまだあるので,ARMアーキテクチャのSoCを搭載したタブレットと変わらない感覚で使えると考えていいのではなかろうか。
7インチで持ち心地はよくパネル感度も上々
最も気になる互換性のチェックを終えたので,次はハードウェアをチェックしていこう。まずスペックは以下のとおりだ。
●Fonepad ME371MGの主なスペック
- 型番:ME371-GY08
- OS:Android 4.1.2
- SoC:Atom Z2420(※ベースクロック1.2GHz,1C2T,L2キャッシュ容量512KB,PowerVR Series5 SGX540統合)
- メインメモリ容量:1GB
- ディスプレイ:7インチワイド液晶パネル,IPS方式,800×1280ドット,グレア(光沢)加工,10点マルチタッチ対応
- ストレージ容量:8GB(+容量5GBの「ASUS WebStorage」永久無料版)
- 無線LAN:IEEE 802.11g/n
- 対応通信方式:W-CDMA(HSPA+/3G) 850/900/1900/2100MHz,GSM/EDGE(2G) 850/900/1800/1900MHz
- Bluetooth:Bluetooth 3.0
- 内蔵センサー:GPS(A-GPS&Glonass対応),電子コンパス,光,加速度,近接
- インタフェース:microSIMカードスロット,USB Micro-B端子,microSDカードスロット
- カメラ:アウトカメラ300万画素,インカメラ120万画素
- バッテリー駆動時間:無線LAN通信時約10.5時間,モバイル通信時約9.5時間
- サイズ:120.1(W)×10.4(D)×196.6(H)mm
- 重量:約340g
- 主な付属品:USB−ACアダプターセット
キズの心配もあるのだが,ジャケットレスで運用したほうが持ちやすさはよい印象だ。
重心をやや下に持ってきているのは,テコの原理で重く感じさせないためであると思われ,また体感的に「ちゃんと持とう」と思わせてくれる重心だ。感覚的な部分だが,ゲームハードとして見るとAndroidタブレットは,本体が画面にしてコントローラともなるため,SNSやウェブブラウズ中心の運用よりも重要度は高い。
本体上側側面(左)と下側側面(右)。外部からアクセスできるインタフェースは下側のUSB Micro-Bとヘッドセット接続端子のみだ | |
本体左側側面に電源/スリープ用とボリューム調整用のボタンを搭載(左)。右側面にはとくに用意されていない |
タッチパネルの感度や連射の対応性能ををチェックしてみよう。タブレットでゲームをプレイするにあたって,グラフィックス性能と並んで重要になるのが,タップに対する反応とマルチタッチの精度,タッチポイントの精度だからだ。
ここで用いるアプリは「ぺしぺしIkina」。連射アプリは数多く登場しているが,多くは感度が悪く,50連射あたりがカウントの上限に設定されている。一方,ぺしぺしIkinaは,限界まで連射をカウントしたあとに飽和が起きる。この飽和はハードウェアとOS側のチューニングに依存するため,特定速度で連射していけばある程度の性能を判断できるのが,本アプリの強みだ。
さてその結果だ,1分間に96回程度の連射を行ったところ,結果は「89」となった。処理の飽和は32前後で生じており,発表会時のテストよりも反応速度がよくなっている。
開発者向けオプションにある「ポインタの位置」にチェックを入れるとテストを行える |
連続ドラッグチェック。とくにドラッグし損ねている部分もなく,とてもいい結果である |
結果は右スクリーンショットに示したとおりで,とくに問題は認められない。
もう1つ行ったのは,パネル全体の感度検証だ。主にスマートフォンで狭額縁仕様が流行し始めてから,歩留りが悪くなったのか,画面上の特定部分や末端部の反応が鈍い機種が散見されている。タブレット端末の場合は筐体自体が大きいため,それほど心配することもないのだが,ゲームアプリの場合,画面の両端にインタフェースが集中する傾向にあるため,これも開発者オプションから,指を横方向へジグザグに動かして,反応が鈍いところがないかをチェックした。
その結果を示したのが左下のスクリーンショットだが,先ほどのドラッグチェックと合わせて見ると,まんべんなくきれいにタッチパネルが反応していると分かるだろう。
さらに5点タッチ状態で円を描いてみたが,ここでは少し反応が鈍くなり,画面右上あたりで取得漏れが少し確認された(右下のスクリーンショット)。これはパネルの右上の反応が鈍いというよりは,いわゆる処理負けの可能性が高く,パネルのどこかで起きるものと思われる。5点タッチをするようなゲームアプリはあまりないが,ちょっと覚えておくといいだろう。
画面端の反応をチェックしたもの。これもとくにエラーは起きていない。先のドラッグチェックと合わせてみると,まんべんなくきれいに反応しているとわかるハズだ |
5点タッチでのドラッグチェック。画面右上あたりで取得ミスが生じた。ただし,画面右上の反応が鈍いわけではなく,1分ほど5点タッチしていると画面のどこかで生じるタイプのミスである |
Flash周りが気にならないなら,Atom搭載タブレットであることを意識する必要はほとんどない
Flashが基本的に動作しないのを致命傷と見る人はいると思うが,Androidの世界におけるFlashは,近い将来,使われなくなる技術だ。それを踏まえられるなら,互換性は“インテル入ってる”ことを意識しなくていいレベルにあると述べていいのではなかろうか。
タッチパネルの感度も上々なので,Fonepad ME371MGは,アーキテクチャ的にユニークかつ実用的なタブレットとまとめられそうだ。また,今後のAtomタブレットにも期待できそうである。
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