インタビュー
PS4でゲームはどう変わるのか。SCE Worldwide Studiosの吉田修平氏インタビュー
吉田氏はハードとソフト両面の質問に答えてくれたが,ときおり,実に思わせぶりな回答を返すことがあった。吉田氏の真意を探りたいという人は,じっくりと読み込んでほしい。
PlayStation 4の正式リリース到着,ハードウェアスペックも公開
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吉田氏:
いい質問ですね(笑)。このチップは,本体のCPUが落ちている(※編注:スリープ状態にある,の意)ときにバックグラウンドで動き続け,ネットワークにつないだり,データをダウンロードしたりといったことを可能にするものです。
――メインのプロセッサと同時に動かすことはできないのでしょうか。
吉田氏:
基本的にはできませんが,私はソフト周りが専門で,余計なことを言って混乱させるわけにはいきませんから,ここまでにしておきます(笑)。
――海外のサイトを中心に,PS4では中古ソフトが動かないといった報道を見かけます。この真偽を教えてください。
吉田氏:
「ゲームのディスクを買って,ほかの人が持っているPS4で動かせるのか」と聞かれれば,動きますと答えます。
――たとえばIDとひも付けされて,他人のPS4では動かないというわけではないのですね。
吉田氏:
現時点では,「動く」とだけお伝えしておきます。
――つまり,「“何かがある”かもしれないけれど,とりあえずは動く」ということですか。
吉田氏:
そこはご想像にお任せします(笑)。
――PlayStation 3(以下,PS3)のときには,NVIDIAのグラフィックスコアが使われており,PS4ではAMDのAPUになりました。PS3にはソニーと東芝,IBMが協力して開発した「Cell」(Cell Broadband Engine)が搭載されていますが,そこから(PCアーキテクチャへ)変更した理由を教えてください。
吉田氏:
Cellは,それはそれですごいものだと我々は思っています。「The Last of Us」といったゲームを見ると,Cellを使いこなしていくといろいろなことができるというのを感じられますよ。ですが,Cellを使いこなすのは非常に難度が高く,慣れているデベロッパでも苦労しています。
今のゲーム開発は規模が大きくなっており,サードパーティは複数のプラットフォームに同じゲームを出すというのが当たり前になっています。そのときに,プレイステーションプラットフォームのフォーマットだけ,(開発の)労力が余計にかかってしまうというのはありえない話です。こちらとしても,そこに(=Cellへの最適化に)力を入れるくらいなら,ゲームそのものの開発に力を入れてほしいという思いがあります。そういったなかで,複数のデベロッパと話し合い,これだというものを決めた結果ですね。
――PS4のCPUはJaguarコアが8基と発表されています。率直に述べて,コアあたりの性能はCellよりも低いのではないかと思いますが,その点はいかがでしょうか。
吉田氏:
残念ながらその質問にはお答えできません。ただ,SPUのように,「特別なメモリを持っていて,そこで動かさなければいけない」(※編注:PS3では,CPUコア「SPU」で統合される7基のSPEそれぞれに,容量256kBのローカルメモリが用意されている)ものと,Jaguarコアのように,大きな(メイン)メモリを利用できるものとでは使い勝手はまったく別だとだけ言っておきます。
――PS4では,CellがSPUでやっていたような超並列の概念は,GPGPUでやりましょうという発想になっているわけですよね。
吉田氏:
「チャレンジしがいのある山がありますよ」と言ったら,「登る登る」と答えるようなプログラマーがうちのスタジオには多く,そういった人達のために用意したといった感じです。
――Gaikaiのアーキテクチャを使うという話がありましたが,仮にGaikaiサーバーをAMDのプロセッサで実現しようとすると,ソフトウェアエミュレートになってしまうわけで,現実的ではありません。となると,GaikaiのサーバーにCellが載っていると考えるほうが自然だと思いますが,それでいいでしょうか。
吉田氏:
ご想像にお任せしますが,答えは一つしかないですよね(笑)。
――それをどこの会社がやるのかも気になりますね。
吉田氏:
Gaikaiはそういところに集中している会社なので,GaikaiとSCEのメンバーが一緒に開発しています。
――イベントで制作が発表された「Knack」は,どれほどの開発期間を掛けて作られているタイトルなのでしょうか。
吉田氏:
2〜3年といったところだったと思います。
Knackは,マーク・サニー(Mark Cerny)がディレクションとゲームデザインを担当しています。クラッシュ・バンディクーなどはそういった形でゲームを開発していたのですが,プロデューサー的な業務や,PS4自体の開発の仕事が増えたときに,あらためてしっかりとゲームを作りたいという話が出たので,SCE Worldwide Studios JAPANスタジオでやってもらうことになりました。
――それもあってJAPANスタジオが開発しているのに,ワールドワイドで受けそうなテイストになっているわけですね。
吉田氏:
PS4向けのゲームは,日本の市場だけでリクープ(recoup,開発費用を回収する意)するというのは難しいと考えています。ですから,基本的には全世界でヒットするものを作る,というのが大前提としてあります。
――Knackの開発に2〜3年かかっているということですが,最初からPS4用ソフトとして企画されたのでしょうか。
吉田氏:
はい。PS4をターゲットにしていましたので,最初の頃はPCで開発をしていました。
――それはPS4の性能を想定したうえで開発を進めていたわけですね。
吉田氏:
そうです。マークもハードの開発だけをやっているとゲームクリエイターとしての腕がなまってしまいす。それを避ける意味もあって,Knackを作り始めたんです。
ちなみにマークは,Knackの開発に関してはSCE Worldwide Studiosと契約をしており,PS4の仕事はSCEIと契約しています。
――KnackはPS4のローンチタイトルだと考えていいでしょうか。
吉田氏:
そこはまだお伝えできないんですよ。
――どんなところでPS4のゲームらしさを出そうと考えていますか。
吉田氏:
たとえば,たくさんのオブジェクトが一気に大きくなったり,回転したりっていうのはPS3にはできないので,そういった要素をゲームデザインに組み込んでいます。
――PS4用ソフトとして,「Driveclub」というドライブゲームが発表されました。ですが,日本にはポリフォニー・デジタルがあり,多くの人が“あの”レースゲームの発表に期待を寄せていると思いますが,そのあたりはいかがでしょうか。
吉田氏:
ポリフォニー・デジタルのキーメンバーはPS4とPS Vitaの開発そのものに関わっています。肝心の「グランツーリスモ」はどうなっているのかということを聞きたいのだと思いますが,それについては,代表の山内一典氏によってそのうち明らかにされるでしょう。
吉田氏:
DUALSHOCK 4の開発では,いろいろなアイデアをゲーム開発者とハード開発者が出し合い,さまざまなプロトタイプを作るという作業を2年以上続けてきました。最終的な形に落ち着く前には,突飛なデバイスを載せてみたり,それで動かすゲームを作ってみたりということもやっていたんです。そういった作業を繰り返すなかで,スマートフォンやタブレット端末がこれだけ普及しているから,タッチインタフェースは欲しいという意見が多く出ました。
とはいえ,「基本はスティックとボタンであり,そこがしっかりしているものを作ろう」となりまして,そのうえで空いたスペースにタッチパッドを用意したという感じです。
――タッチパッドに注目が集まり気味ですが,メインではないわけですね。
吉田氏:
ええ,「タッチパッドがあるからゲームが変わる」みたいなことは思っていません。「スワイプやピンチなど,スティックではやりづらいことへの入力手段も用意しましょう。ゲームによって,場面によって使いたければ使ってください」という位置づけで用意してあります。
――DUALSHOCK 4のライトバー(関連記事)でできることは,PS Moveとどれくらい差があるのでしょうか。
吉田氏:
びっくりするほど「差はない」のですが,あえて挙げるとすれば,奥行きの測定精度でしょう。その代わりというわけではないですが,X軸とY軸の測定精度は非常に高いです。加えて,DUALSHOCK 4には,PS Moveよりもいいセンサーを入れていますので,すごく微妙な操作ができるようになっています。
吉田氏:
いえ,できます。ただし,正確性がPS Moveよりはちょっと劣りますね。
――つまり,DUALSHOCK 4は「PS Move的なことがほぼできる」と考えていいわけですか。
吉田氏:
そうです。一方でラケットのように,片手で使うモノに見立てるなど,PS MoveにはPS Moveの良さがあるので,PS4でもそのまま使えるようにしました。
ちなみにPlayStation 4 Eyeでは,カメラの解像度も,PlayStation Eyeのそれよりも上げ,さらにアングルも広げたので,PS Moveの性能をさらに引き上げられます。DUALSHOCKのほうでは,PS3でできていなかったことや,なかったものを補う形で開発しました。
――そうなるとカメラの製造コストはかなり上がっているのでしょうか。
吉田氏:
そうですね,センサーが2個になったので多少は上がっていますが,ビックリするほどではありません。安い部品で性能を出すことにかけては自信がありますので(笑)。
――PlayStation 4 Eyeは本体に同梱されるのでしょうか。
吉田氏:
いまの段階では,「DUALSHOCK 4と,それにつなげるヘッドセットを同梱させる」というのはお伝えできます。ですが,PlayStation 4 Eyeも含めて,それ以外の何が入って,最終的にいくらになるというのはまだお答えできません。
――この戦略は重要ですよね。PlayStation 4 Eyeが同梱されるのか,オプションなのかでゲームの設計が変わってくると思うんです。
Xbox 360にはHDD搭載モデルと非搭載モデルがあったために,開発者はHDDなしでも動くようにゲームを設計する必要がありました。その一方で,PS3はすべてのモデルがHDDを搭載していたので,開発者はかなり助かったと聞いています。
これと同じことがPlayStation 4 Eyeにも言えると思うのですが。
吉田氏:
すべてのPS4で使えるようにするのが必須だとは思っていません。
いろいろ使える要素があればアタッチレシオ(attach ratio,ハード1台に付属する割合。アタッチレートともいう)は上がっていくでしょう。ほかにもカメラでやりたいことはいろいろあって,たとえば顔認識でログインしたり,音声認識でゲームを操作したりといったことは面白そうだと思っています。
――でもコントローラのライトバーはカメラのためにあるわけですよね。
吉田氏:
いえ,カメラがなくても使えます。プレイヤーごとに色を変えて認識しやすくしたり,プレイヤーキャラの体力が減るに従って緑を赤に変えるような演出をしたりといったことが可能です。体力による色の変化はPlayStation Meetingの「Killzone Shadow Fall」のデモでお見せしていたんですが……。
――ちょっと画面に集中していて気付きませんでした。
吉田氏:
LEDライトの配置にも気を遣っていて,コントローラを真上から見た状態だとライトが隠れるようになっているんですよ。でも,あのライトはけっこう明るいので,手に持ったとき,指の内側が照らされて光ったようになるんです。
――光の強弱もコントロールできるのでしょうか。
吉田氏:
ゲーム側でコントロールできるはずです。
――「Knack」にもこういった要素が取り入れられるのでしょうか。
吉田氏:
そうなると思います。「思います」というのは,私が知っているのは「Killzone Shadow Fall」と「InFAMOUS: Second Son」の2つだからなんです。この2つは違った形でこれらの要素を取り入れていているのですが,その詳細は次に公開されるプロモーションムービーで明らかになるはずです。楽しみにしてください。
――先ほどHDDの話が出てきましたが,HDDが載せ替え可能なPS3の仕様はそのままでしょうか。
吉田氏:
そこはまだお答えできないですね。調べてみると,PS3のHDDをいっぱいになるまで使っている人はそれほど多くいませんでした。「torne」でテレビ番組を録画しているような人はさすがに容量ギリギリまで使っているようですが,ゲームが中心の人は余らせているんです。
PS4の場合,ほぼ全タイトルでダウンロード販売が行われるので,HDD容量が必要になりそうですが,その一方で,ゲームの冒頭をプレイしながら残りをダウンロードする,ということも可能になるので,場合によっては「(当座)必要のない部分をHDDから削除する」ということもあり得る。であれば,それほど容量は必要ない,という考え方もできるわけです。
――外付けHDDという選択はありませんか。
吉田氏:
ないと思いますが,まだ正確にはお答えできないです。
――ストレージをSSDにする,という計画はありませんでしたか。
吉田氏:
あったと思いますが,最終的には何らかの理由で見送られたはずです。
――PS3ユーザーには「HDDが壊れたから換装した」という人が多かったようですが,それよりも強い理由があって(SSDではなく)HDDを採用した,ということでしょうか。
吉田氏:
SSDはコストも高くなりますし,書き換え寿命の問題もありますよね。とはいいながら,ヨーロッパ向けのPS3でSSD搭載の実績はあるんですが(笑)。
――PS4の魅力として,1番分かりやすいのが「4K2K」(※編注:4096×2160ドットや3840×2160ドットといった高解像度表示)対応だと思うのですが,4K2Kのゲーム開発というものを,どのように捕らえているのでしょうか。
吉田氏:
PS4は4K2K出力をサポートしていますが,それは今のところ,写真やビデオなどのパーソナルコンテンツに限られていて,ゲームは対応していません。
1080p対応のPS3用ゲームでも,720pで作って,その分ゲームをよく動かそうとするデベロッパが多くて,高解像度の要望はあまり高くないんです。
――では,PS4タイトルではどれくらいの解像度とフレームレートをターゲットにしたタイトルが多いのでしょうか。
吉田氏:
1080p,60fpsのものが多いですが,「30fpsでいい」と言う開発者もいますね。これはゲームのジャンルにもよってくると思います。
――出そうと思えばゲームでも4K2K出力は可能なのでしょうか。たとえば,線画のようなシンプルなグラフィックスにするとかして。
吉田氏:
「PixelJunk」シリーズで出てきそうですが,対応していないので,それは不可能です。
――PCゲーム用として,120Hz駆動のディスプレイなどが人気ですが,こういったハイフレームレート表示はPS4で可能でしょうか。
吉田氏:
それはちょっと聞いたことがないですね。対応しているかどうかはちょっと分かりません。
――立体視はどうでしょうか。
吉田氏:
対応しています。
――PS3ではリモートプレイに対応しないタイトルが多かったように感じたのですが,PS4ではほとんどのタイトルでリモートプレイが可能になるようです。これは開発の要件にリモートプレイ対応が入っているという理解でいいですか。
吉田氏:
いえ,要件ではありません。これはシステム側ですべてやっているので。とくにリモートプレイを意識せずに開発してもリモートプレイできるんです。
――ではデベロッパが「リモートプレイは絶対に嫌だ」と,非対応にすることもできないと。
それは絶対許しません(笑)。まぁそれは冗談として,カメラを使ったゲームなど,(物理的に対応できないような)一部の特殊なタイトルを除き,リモートプレイが可能になります。
開発の要件としているのは,PS Vitaでプレイするときに,ボタンのマッピングを変えるということですね。プレイヤーがいちいちカスタマイズすることなく,自動で最適なボタン配置になるようにお願いしています。
――マニュアルに「Vitaで操作するとき」といったようなページができたりするのでしょうか。
吉田氏:
はい。そうですね。
――PlayStation Mobile対応端末など,ソニーのスマートフォンやタブレットでリモートプレイが可能になるといった計画はありますか。
吉田氏:
考えていません。SHAREではスマートフォンやタブレットと連携しますが,基本はPS4とPS Vitaだろうと。
リモートプレイでPS VitaをPS4のコントローラのように使うと,少ないと言われているPS Vitaのタイトルラインナップに,PS4タイトルが加わるような感覚が生まれるかもしれません。
――そのPS Vitaですが,販売がどの地域でも低調なので,吉田さんにはぜひPS Vitaの再活性化をお願いしたいと思っています。
吉田氏:
はい。先日値下げを発表したように,いろいろなことを地道にやっていくしかないなと思っています。なぜ値下げがこのタイミングになったかというと,タイトルが揃ってきたので,ここで目先を変えるようなことをしたい,と思ったからです。
「ペルソナ4 ザ・ゴールデン」のように,日本のヒット作が欧米でも売れる,ということもあるので,日本が引っ張れればいいなと思っています。
――PS Vitaへの不満の1つに,外部出力ができないという点があるんですが,PS4のシェア機能を逆に使って,PS Vitaのプレイ映像やスクリーンショットを配信するということはできないでしょうか。これができれば,外部出力ができないという不満が減ると思うのですが。
吉田氏:
確かに……。どうでしょうねぇ(笑)。そういえば,PlayStation Meetingの冒頭で,アンドリュー・ハウスが話した内容がヒントになるかもしれません。
――では聞き返してみますね。ちなみに,現在ジャパンスタジオでは,PS4向けタイトルのラインはいくつ動いているのでしょうか。
吉田氏:
正面から来ますねぇ(笑)。けっこうありますよ。数えたことはないですが,数えないといけないくらい,という感じです。
――PS3用ソフトとして開発されている「人喰いの大鷲トリコ」がPS4用ソフトに変わる,ということはないでしょうか。
吉田氏:
えーと(笑)。この前上田さん(※編注:上田文人氏)がメッセージを出しましたが,技術的なことでやり直しをしていますので,それができたときに情報をお伝えしたいと思っています。
――それでは時間的に最後となりそうなので,PS4を待っているみなさんにメッセージをお願いします。
吉田氏:
PS4の魅力は,グラフィックスが良くなったことではありません。もちろんグラフィックスも重要な要素ではありますが,大事にしているのは,遊びやすさです。自分のゲームがそこにあって,待ち時間もなく,他の人とコミュニケーションできることです。
ゲームを遊ぶだけでなく,ゲームを遊んでいないときでもゲームに触れることができる,何がはやっているのかが分かるといった「ゲームとのふれあい」が,スマートフォンなどを通していつでもできる,というところに注目してもらいたいです。
それとPS Vitaです。PS Vitaを買った人は,半分PS4を買ったようなものなんです。PS Vitaを持っている人がPS4を買うと,ゲームライフが充実しますよ。
――ありがとうございました。
PlayStation 4の正式リリース到着,ハードウェアスペックも公開
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