テストレポート
「PlayStation 4 Pro」分解レポート。「ソニーが今後もPS4の性能向上を続けていく可能性」に期待できるハードウェア設計だ
4Gamerでは発売と同時に何台か確保し,そのうち1台をさっそく分解してみたので,内部構造をレポートしてみたい。
なお,4Gamerでは先に,初代PS4「CUH-1000」と,2015年10月に登場した2回めのマイナーチェンジモデル「CUH-1200」,2016年9月の“小型版PS4”こと「CHU-2000」と,標準スペックのPS4(以下,標準PS4)を分解済みだ(※マイナーチェンジ1回めの「CUH-1100」は分解を試みていない)。本稿では適宜参照することになるので,可能であれば,過去記事をWebブラウザのタブで開きながら,本稿を読み進めてもらえれば幸いだ。
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※注意
ゲーム機の分解はメーカー保証外の行為です。分解した時点でメーカー保証は受けられなくなりますので,本稿の記載内容を試してみる場合には,あくまで読者自身の責任で行ってください。分解によって何か問題が発生したとしても,メーカーはもちろんのこと,筆者,4Gamer編集部も一切の責任を負いません。また,今回の分解結果は4Gamerが入手した個体についてのものであって,「すべての個体で共通であり,今後も変更はない」と保証するものではありません。
PS4初代機と比べ,半周りほど大きくなったPS4 Pro
具体的にはオンラインユーザーズガイドへの案内があるのだが,そちらを読むと,同一の家庭内LAN環境に既存のPS4とPS4 Proをつないでユーザーデータの転送を行う方法などを確認できるので,一度チェックしておくといいだろう。
CUH-1200までで採用してきた「本体を横切るLEDインジケータ」や「着脱できる上部パネル」のないルックスはCUH-2000シリーズと共通なので,CUH-2000を大きくして,3段重ねにしたような見た目とも言えるだろう。
以下,本稿では標準PS4を代表して初代機であるCUH-1000と比較してみたいと思うが,横置き時で言うと,本体サイズはPS4 Proが約295(W)×327(D)×55(H)mmなのに対し,CUH-1000だと同275(W)×305(D)×53(H)mm。なので,3段重ねというインパクトに反し(?),大きくなったのは横置き時の横幅(=縦置き時の高さ)と奥行きということになる。
PS4 Proの前面側を突っ込んで見てみると,横置き時の左側,3段重ねの最上段と2番めの段に挟まれたところにBlu-ray Discドライブのスロットインドライブがあり,2番めの段には左端に電源,中央よりやや右寄りのところにドライブのイジェクト用となるボタン――今回もタッチセンサーではなく物理ボタンだ――がある。
イジェクト用ボタンの右にUSB Type-Aポートが2つ並ぶのは標準PS4と同じ。仕様としては3.1 Gen.1対応なので,これもCUH-2000と変わらないことになる。
スロットイン型光学ドライブと電源ボタン |
イジェクトボタンとUSB Type-Aポート |
一方,HDMI出力をはじめとする主要なインタフェースは本体背面側に集約されている。
標準PS4との大きな違いは3点で,1つはACケーブルの接続端子が3P風のACインレットになったこと。入手したモデルは,中性線がない日本のコンセントに合わせた「3P形状の2Pインレット」になっているが,海外モデルでは3Pインレットを採用しているはずだ。
PS4の発売前に,SIE(当時はソニー・コンピュータエンタテインメント)で筐体設計を手がける鳳 康宏氏は,避けたいものの1つとして「大型の3P式ACインレット」を挙げていたが(関連記事),2Pのメガネ式インレットで対応できるのは消費電力で250Wまでだ。PS4 Proは公称最大消費電力が310Wだから,やむなくの採用となったようである。
もう1つは,HDMI Type Aポートが4KおよびHDRに対応した2.0a仕様になったこと。そしてもう1つは「PlayStation VR」の接続を意識したと思われる,追加のUSB 3.1 Gen.1ポートを初めて採用したことだ。CUH-2000で省略となった光角形デジタルサウンド(S/PDIF)出力端子が復活している点も含め,上位モデルらしい装備と言っていいのではなかろうか。
なお,「PlayStation Camera」用のAUX(auxiliary,補助)端子を持つ点と,1000BASE-T対応のRJ45端子を持つ点は,標準PS4から変わらずである。
「標準PS4から変わらず」という話を続けるなら,エアインテークとなるスリットが,本体周囲の凹んだところにある構造もそうだった。
相変わらず目立たないので外観はすっきりしているが,3段重ねの上下段にスリットがあるので,結果として開口面積はかなり大きくなっていると言える。本体の厚みが大して増していないにもかかわらず3段重ねデザインを採用した理由は,開口部を稼ぐためではないだろうかとすら推測してしまいたくなるほどだ。
カスタムAPUの性能が上がっているだけに,高速なSSDへの交換効果もこれまでよりあるかもしれないが,いずれにせよ,従来同様の親切設計で,ユーザーの自己責任によるストレージの交換をサポートしている点は評価されるべきだろう。
というわけで全体としては,PS4らしさを残しながら,シンプルな見た目というか,CUH-2000に近い印象を指向した筐体と言っていいのではないかと思う。上位モデルらしさを演出しているのは3段重ねデザインと銀色に輝くPSロゴくらいで,コストを抑え,なるべく特別感を出さないように配慮している印象を強く受けた。
シンプルながらPS4シリーズらしい,PS4 Proの筐体設計
ここからは分解パートだが,本稿は読者に分解を推奨するものではなく,あくまで,本体の構造を検証するものであることから,詳細は分解手順はあえて省略している部分がある。また本稿では以下,「上」などといった位置関係を示す言葉は横置き時を前提とするので,これらをあらかじめお断りしておきたい。
底面パネルを外すと,シールドに覆われた基板へアクセスできるようになる。シールドの下に見える基板はマザーボードで,シールドを外せば,割とあっさり基板を拝むことが可能だった。
シールドの下から出てきた基板は,かなりの部分がもう1枚のシールド板に覆われているが,これはシールド兼放熱板で,取り外すと,標準PS4が採用するのとよく似た「カスタムAPUとパッシブヒートシンクを固定する金具」にアクセスできる。
この状態で,マザーボードはごっそりと外れるのだが,実はここに至って,“正式な分解手順”――というのもおかしな話だが――は,逆側から始めるというものだったことに気付いた。
後知恵の結果論だと断ってから続けると,いま紹介してきたような,底面側から外してしまうのは,分解方法としては不正解だ。というのは,マザーボードと上部の電源ユニットが従来のPS4と同様に2本のブレード+小型コネクタで接続されており,それを底から引き抜くのは構造的に少し無理がある(とくに小型コネクタは底からだと引き抜きにくい)からである。
底面パネルを外したタイミングでひっくり返して上面パネルも外し,先に上面側で電源ユニットを取り外してから,再度背面側に戻るというのが正解だったようだ。
マザーボードを取り外したところ。シリコングリス付きのカスタムAPUがいよいよ登場だ。また,筐体側に残ったシールド部を見ると,カスタムAPU用の枕が銅製であることや,電源部の熱をシールド側で受けていることも確認できる |
シールド側には,こちらの面からもカスタムAPU周辺をすっぽりと被う小型シールドがあるのを確認できた。写真はそれを取り外したもの |
上面パネルを外すと,これまで4Gamerの標準PS4分解記事を見てくれていた人なら見覚えがあるだろう,薄い金属シールドで被われた電源ユニットや,ブロワーファン,ブロワーファンへ外気を送るべくさまざまに段差の着いた内部カバーの存在を確認できる。
エアフローとしては,本体上部のスリットで吸気して,内部の隙間を通してブロワーファンへ送り,パッシブヒートシンクと電源ユニットを通して後方排気という,初代PS4からの設計を忠実に守っているわけだ。
上面の樹脂にはスリットからエアーを取り込むため,突起や段差がさまざまに設けられている。なかなか芸が細かい |
ファンの奥に,底面側の基板を被うシールドが見える。基板シールド側からのエアも取り込み,基板から発生する熱も逃がす仕掛けになっているのだ |
ともあれ,これで電源ユニットやブロワーファンを取り外せる。電源ユニットは,2本の長ビスで底面のシールドに固定するという,これまでの標準PS4と共通の仕様だったことを付記しておきたい。
電源ユニットは,最大310Wという容量の割に,薄型で軽量だ。出力は12V 23.5Aと4.8V 1.4Aの2系統なので,定格出力容量は289.2Wという計算になる。昨今のスイッチング電源の効率を考えるに,AC側の消費電力が310Wに達するのは稀なケースではないだろうか。余裕を見た公称消費電力なのだろう。
SIEのことだから,シミュレーションなどを繰り返して,最適なファン形状を決めているはずで,エアフロー量を増やすためにファンの設計を見直した結果が,これということなのだろう。
ファンが生じさせるエアフローを受けるパッシブヒートシンク部も,実測サイズで118(W)×53(D)×31.57(H)mmと,歴代PS4の中で最大のものとなっている。
また,先にカスタムAPUと触れる枕は銅製プレートだと述べたが,それだけに留まらず,ヒートシンクではそこから実測約6mm径のヒートパイプが3本,U字状に延びて,放熱フィンへ熱を拡散する構造になっており,カスタムAPUによる発熱がかなり大きいことが窺える。PS4 Proで筐体を大型化しなければならなかった最大の要因が,この冷却システムにあることは明らかだ。
以上,本体中央のフレームにはBlu-ray Discドライブが組み付けてあったが,Blu-ray Discドライブはとても壊れやすいため,万が一を考えて手を付けなかったが,それを除き,ひととおりの分解を終えてみた。
分解してみて感心したのはビスの数が少ないことと,モジュール化の徹底が進んでいて構造が非常にシンプルになっていることだ。同時に,初代PS4からの伝統を受け継ぎ,各モジュールがそのエアフローを考慮した形状なっている点が目を惹いた。
また,マザーボードにつながっているケーブル類の数がとても少ないのも印象的で,おそらく,組み立て工程はかなりシンプルだろう。
筐体の最適化により,製造コストはそこそこ抑えられていそうに思えるので,PS4 Proのトータルコストは,基板側の比重が大きいのではないかという気がする。
カスタムAPUとメモリ,電源部以外,実はあまり変わっていないマザーボード
では,ここからPS4 Proの基板を見ていくことにしよう。以下本稿では便宜的,カスタムAPUが実装されている側を「部品面」,されていない側を「パターン面」と呼ぶことにする。
カスタムAPUが載る部品面。基板自体の型番は「NVA-001」のようだ |
パターン面。GDDR5メモリチップが載っている |
ただ,ダイサイズはCUH-2000のCXD90043GBと比べるとかなり大きい。たいていの場合,デジタルノギスを用いたダイサイズ計測だと実サイズより大きめに出るので,あくまでも参考程度だと断ってから続けると,CXD90044GBのダイは実測約22.8×14.6mm。面積にすると約321.9mm2となる。CXD90043GBは同212.5mm2なので,約1.57倍の大きさだ。
ただ,冷静になってみると,CXD90044GBはCXD90043GBと同じ16nm FinFETプロセスを用いて製造され,統合するシェーダプロセッサ数は2304基と,CXD90043GBの1152基比で2倍になっている。にもかかわらずダイサイズはざっくり1.6倍弱なので,まずまず小型だと言っていいかもしれない。
さらに言えば,初代PS4であるCUH-1000のカスタムAPU「CXD90026G」は,28nmプロセスを用いて製造され,ダイの面積は約361mm2と,CXD90044GBよりも大きかった。そう考えると,16nm FinFET技術の効能で,ダイサイズはかなり小さくできているともまとめられそうだ。
4Kディスプレイに対応するのにHDMIトランスミッタが変わっていないことに驚くかもしれないが,実のところ,初代PS4が登場したときから「PS4は4K出力に対応できる」と言われていた。筆者も「HDMIトランスミッタは4K対応」と関係者から聞いたことがあったりするのだが,その話は本当だったということなのだろう。
カスタムAPUの高性能化と,やや規模が大きくなった冷却システムから推測できるように,PS4 Proの電源部はかなりの強化となっている。見る限り,おそらくは6+1フェーズという理解でよさそうだ。
フェーズコントローラとしてInternational Rectifier(現Infineon technologies)製の「352118」を採用していることも,基板からは確認できる。
初代CUH-1000は,前面USBポートのため,マザーボード上にUSBハブを載せていたが,CUH-1200シリーズで採用を確認できたSIE製のカスタムLSIはUSBハブを統合したようで,USBハブは外付けになっていなかった。つまり,PS4 ProではあらためてUSBハブが復活したわけだ。
考えられる最もシンプルな搭載理由は,「SIE製のカスタムLSIに統合されるハブが2ポートしかなかった」というものである。本稿の序盤で触れたとおり,PS4 Proでは背面にUSB 3.1 Gen.1を1ポート追加しているので,そのためにハブを用意する必要があったのだと筆者は推測している。
部品面にはあと2つ,大きめのチップが見えるが,「RENESAS」「SCEI」刻印入りのLSIはルネサス エレクトロニクスとSIE(正確には当時のソニー・コンピュータエンタテインメント)が共同開発したBlu-ray Discドライブコントローラ「R9J04G011FP1」だ。型番自体は,CUH-2000が採用するものと同じである。
もう1つ,Serial ATA(以下,SATA)ポートの近くにSamsung Electronics製のLSIが見えるが,これは4GbitのDDR3 SDRAM「K4B4G0846E」だ。これが何に使われているかは後述したい。
ルネサス エレクトロニクスとSIEの共同開発による,Blu-ray Discドライブ制御用マイクロコントローラ |
SATAポートの近くにあるメモリチップは,容量4Gbit(=512MB)のDDR3 SDRAMである |
こちらで目立つのはカスタムAPUを囲む8枚のグラフィックスメモリチップだが,これらはSamsung Electronics製で7GHz相当(実クロック1.75GHz)対応のGDDR5 SDRAM「K4G80325FB-HC28」だった。PS4 Proのメモリクロックは6.8GHz相当(実クロック1.7GHz)なので,メモリチップのスペックで問題なく賄えていることになる。
ちなみに,K4G80325FB-HC28という型番のメモリチップは,4Gamerで分解したCUH-2000に載っていたものと同じである。
CUH-2000を分解した時点で筆者は,「コストや安定供給性といった調達上」の都合ではないかと推測していたが,PS4 Proと同じメモリチップを搭載する以上,CUH-2000で,そのメモリスペックを大きく上回るK4G80325FB-HC28を搭載していた理由はやはり,PS4 Proと一括して調達することによるコスト削減を狙った結果ということになりそうだ。
標準PS4と異なるのは,CXD90036G用のローカルメモリが,同LSIの近くにあるK4B4G0846Eと,先ほど紹介した部品面側のK4B4G0846Eで計2枚となり,トータルで8Gbit(=1GB)と,総容量が従来比で4倍に増えていることだ。このあたりはすでに西川善司氏がレポート済みだが,確かにレポートどおりの仕様になっているわけである。「ではこの1GBを何に使うのか」といった話は,氏のレポートが詳しいので,そちらを参照してほしい。
西川善司の3DGE:知られざるPS4 Proの秘密(1)メモリ増量に,Polarisと次世代GPUの機能取り込み!?
妙なのは,SIEがわざわざ記事の訂正連絡までして「SATA 6Gbps対応」と述べていたにもかかわらず,基板パターンを見る限り,PS4 ProでもCXD90036GとSATAポートは直接つながっているようにしか見えない点である。
これには以下のとおり,3つの可能性が考えられる。
- CXD90036GはもともとハードウェアレベルでSATA 6Gbpsに対応しており,SIEは公表していなかった
- CXD90036GはもともとハードウェアレベルでSATA 6Gbpsに対応しており,PS4 Proで初めて有効になった
- そもそもSIEによる訂正連絡が誤りだった
どれが正しいのか,分解しただけの現時点では何とも言えないが,少なくともハードウェア的には,「SATAポート周りの仕様で,PS4 Proと標準PS4(のCUH-1200以降)との間に違いはない」としか言いようがないというのが,正直なところである。
システム制御用のマイクロコントローラと見られるA02-COL2は,PS4 Proで初採用となったLSIである |
CUH-2000が採用するのと同じ無線LANモジュールを搭載していた |
CUH-2000では「A01-COL2」だったので,プリフィックス側の型番が異なっている。おそらく,新しいカスタムAPUに対応するため,システム制御用のマイクロコントローラも改定が必要だったのだろう。
パターン面側に残る最後の大型部品は無線LANモジュール「J20H091」だ。これはCUH-2000シリーズに採用されていたものとまったく同一で,IEEE 802.11acに対応する現行世代のPS4共通のモジュールとして採用しているのだろう。別基板とせず,マザーボード上に実装しているのがゲーム専用機らしい。
PS4 ProのアプローチでSIEは今後も性能向上を図るかも
現時点で残る主だった謎は,SATA 6Gbps周りくらいである。
ともあれ,PS4 Proで重要なのは,特別なハードウェアなしに性能強化を果たした点だろう。PS4 Proはどこまでも「標準PS4の性能強化モデル」であって,そこには誇張も,PlayStationプラットフォームの今後を左右しうる実験的な仕様の追加もない。シンプルに標準PS4との100%互換を保ちながら性能強化のみを図ったのがPS4 Proといったところか。
将来的にもPS4シリーズは,PS4 Proに見られる方法で,互換性を維持しながら性能を上げていく可能性がありそう,と感じさせる製品である。
SIEのPS4公式情報ページ
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