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インディーの予算でも「気持ちいい移動」は作れる。元Santa Monica Studioの開発者が語る,少ないリソースで実現するスムーズな移動の極意[GDC 2026]
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現在は4作目となる「Gunstoppable」の開発を進めている。AAAタイトルとインディーの両方を経験したKohari氏ならではの,実践的なセッションとなった。
ゲームでプレイヤーが最も頻繁に行うインタラクションは「移動」だ。Kohari氏は「Battlefield」「League of Legends」「God of War Ragnarok」といったタイトルを例に挙げ,これらは必ずしも移動を売りにしたゲームではないが,スライディングやマントル,グラップルといった移動のフィーリングがゲーム全体の体験を底上げしていると指摘する。
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気持ちの良い移動を実現するにあたって,AAAスタジオと同じ手法をとればいいのかというと,話はそれほど単純ではない。AAAタイトルではモーションマッチングやIK駆動の物理システム,膨大な専用アニメーションデータを駆使しつつ,ナビゲーションリンクを手作業やプロシージャル(プログラムによる自動生成)で配置していく。
インディーの規模ではそのアプローチは現実的でないため,ゲームエンジンの既存機能を活用しつつ,基本的な物理原則で移動を組み立て,「ジュース」と呼ばれる演出やエフェクトで手触りを補うのが有効だとKohari氏は語る。
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講演は,コア原則(用語定義,パラメータ,入力設計),物理の基礎(運動学),メカニクスの実例(ジャンプ,グラップル,ジェットパックなど),そしてポリッシュ(演出やプレイテスト)という4部構成で進行した。
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Kohari氏はまず,講演における用語の定義を明確にした。ここでいう「ムーブメント(Movement)」とは腕や脚を振るアニメーションのことではなく,キャラクターをA地点からB地点へ移動させることを指す。
「ロコモーション」は歩く,走る,ジャンプといった基本的なナビゲーションで,「トラバーサル」はグラップリングやスライディング,ウォールランなど人間離れした,誇張された移動を意味する。
「物理」については,現実世界の値やシミュレーションではなく,ゲームを面白くするための「偽の物理」,つまり任意の定数を差し込んだ計算のことだと強調した。
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移動の心地よさを決定づけるのは,ベース移動速度や重力,加速度,ジャンプの高さ,空中制御といったコアパラメータだ。Kohari氏はこれらをゲーム開発の早期に固めることの重要性を強調した。
なぜなら,パラメータが固定されないままレベル(マップ)を作り込んでしまうと,空間が広すぎたり狭すぎたりして,取り返しのつかない手戻りが発生するからだ。メカニクスの選定についても,「なんとなくクールだから」ではなく,ゲームプレイ上の目的に沿って厳選すべきだとKohari氏は述べた。
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パラメータ調整で陥りがちな罠として紹介されたのが「アンカリング効果」だ。現在の値を基準に「10%だけ上げてみよう」と微調整を繰り返しても,最適値にはなかなかたどり着けない。むしろ2倍や3倍といった極端な値を試し,二分探索的に詰めていくほうが圧倒的に速いという。
実際に「Gunstoppable」の初期プロトタイプでは,プレイテスターから「ふわふわしている(Floaty)」「もっさりしている(Sluggish)」「水の中を歩いているようだ」というフィードバックが寄せられた。
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そこでKohari氏は,ベース速度を倍増させ,重力を地球の4倍に引き上げ,さらに地上ではスティックを倒した瞬間にトップスピードへ達するよう水平方向の加速をできる限り速くした。
空中制御やダンピングにも調整を加えた結果,プレイテスターの評価は「テキパキした(Snappy)」「速い(Fast)」「満足(Satisfying)」へと変化した。
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プレイヤーの意図を正確に拾い上げるために欠かせないのが入力バッファリングの仕組みだ。有名な「コヨーテタイム」(足場から落ちた直後でもジャンプ可能な猶予)はその一例で,リロード完了直前の射撃入力やグラップル射程に入る直前の入力なども同様にバッファリングすべきだという。
実装のポイントは,「具体的な失敗ごとに処理を分岐させる」のではなく,「アクションが成功したかどうかを毎フレームチェックし,失敗なら0.3秒程度保持する」というシンプルな設計にすること。特定のケースごとにバッファ処理を書くと際限なくコードが膨らむため,この汎用的なアプローチを推奨するそうだ。
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操作面では,1つのボタンに「短押しでトグル,長押しでホールド」のように複数機能を持たせるテクニックや,「視点操作と同時に行うアクション(スライディングなど)は右手ボタンではなく左手側に配置する」といったエルゴノミクスの考え方も紹介された。
コントローラのボタンは有限なので,「気持ちよく押せるかどうか」まで踏み込んで設計する必要があるわけだ。
アニメーションに頼らずA地点からB地点へキャラクターを移動させる仕組みには,運動学(Kinematics)が大いに役立つ。Kohari氏が示したのは「開始速度」「終了速度」「加速度」「距離(オフセット)」「時間」の5パラメータのうち3つを固定し,残り2つを数式で導出するという手法だ。
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グラップルの実装を例にとると,直線的に一定速度で引き寄せる方式(「Just Cause 2」など)もあれば,自然な弧を描く方式もある。
Kohari氏が採用したのは後者で,水平方向については開始位置と終了位置,開始速度,終了速度を固定して「時間」を算出し,垂直方向では加速度(重力)を固定したうえで水平方向の計算結果から得た「時間」を使って速度を導出するという二段構えの計算が行われる。水平と垂直を個別に計算して合算することで,プレイヤーの現在速度をブレンドしつつ加速するスムーズな弧が完成するという。
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なおAI(LLM)にこれらの物理方程式を解かせる試みも行ったそうだが,後から調整しづらく,意図しない挙動などが紛れ込むことがあるため,手書きでの実装を推奨していた。
ジャンプ,ダッシュ,スライドは実装ロジックに共通部分が多いメカニクスだという。ジャンプは上昇,頂点(Apex),下降の3ステートに分け,上昇中は下降中より重力を大きくすることで「重くて気持ちいい」操作感を実現する。プラットフォームアクションでは,頂点で一瞬だけ無重力にして制御しやすくする「ハングタイム」も有効だという。
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ダッシュでは,コントロールベクター(入力方向)と現在の進行方向の関係を内積(Dot product)で判定し,同じ方向なら現在速度に加算,逆方向なら瞬時に方向転換できるよう最低速度で上書きする設計を採用した。
スライドもダッシュと同様のロジックに加えて,重力を重くし(とくに開始時),摩擦やダンピングを下げることで「滑っている感覚」を演出するとのことだ。
講演で「実装とチューニングが最も困難だった」と紹介されたのがウォールランだ。「Gunstoppable」ではすべての壁で走行可能(除外したい壁にタグを付けるオプトアウト方式)にしたため,発動条件の設計が肝になったという。
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具体的には,壁が垂直から12度以内であること(床や天井との誤判定を防ぐ),カメラが壁に対して直角に向いていないこと(30度のしきい値),コントロールベクターとカメラが同じ方向を向いていること(後ろ向き走りの防止)の3条件を設け,「プレイヤーが意図していないのに暴発する」事態を抑えている。
維持と終了の設計も重要だ。アートを入れたレベルではコリジョンに隙間が生じやすく,壁の判定が一瞬途切れただけでウォールランがキャンセルされる。そこで0.2秒の「粘着タイマー」を設け,判定が消えても短時間はウォールランを維持するようにしたという。
最大時間は3秒に制限し,残り時間はカメラの傾きとサウンドで伝える。UIに頼らないフィードバック設計は「Titanfall 2」から着想を得たとのことだ。
曲線状の軌道(スプライン)に沿ってキャラクターを移動させるメカニクスには,大きく2つのアプローチがあるとKohari氏は述べた。
1つは「位置を直接指定する方式」で,「Sherwood Extreme」のジップラインがこれにあたる。タイマーや速度をもとにスプライン上の座標を決定するため,キャラクターが今どこにいるかを正確に把握できる。そのため予測しやすく,マルチプレイとの相性がいい。
これはまた,ロープを掴む演出など,見た目の位置合わせが重要な場面にも向いている。進入時/離脱時にはブレンドをかけて,キャラクターの速度をスムーズに遷移させるのがコツだ。
もう1つは「速度を制御する方式」で,「Gunstoppable」のレールグラインドで使われている。
こちらは物理ベースで,スプラインの現在地点の方向と少し先の方向をブレンドしてキャラクターの速度を更新し続ける。位置を直接指定しないため,どの角度からでもスムーズに乗り移れるのが利点だ。重力をわずかに残すことで,下り坂では自然に加速し上り坂では減速するという物理的な実在感が生まれる。
ただし,垂直速度にはクランプ(上限)をかけ,猛スピードで落下中にレールを突き抜けてしまうような事態を防いでいるとのこと。
「Sherwood Extreme」で最後に追加されたジェットパックは,すでにコントローラのボタンを使い切った状態で実装する必要があった。そこでKohari氏は「Halo: Reach」を参考に,ジャンプの頂点でジャンプボタンを長押しすると自動発動する設計にしたそうだ。
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水平移動には一切干渉せず垂直方向の力だけを加え,水平速度が速いときは垂直の力を弱めてグライダーのように機能させる。燃料の消費量に応じて出力が減衰するため,ボタン連打よりも長押しで一定量を使うほうが効率的に飛べる仕組みだ。
ビジュアル面では,水平速度と垂直速度に応じてキャラクターモデルの傾き角度を変えることで,速度の変化を視覚的に伝えている。
しかし,こうしたメカニクスを実装しただけでは「気持ちいい」にはならない。視覚,聴覚,触覚によるフィードバック,つまり「ジュース」が不可欠になる。
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サウンドは入力時とインパクト時の両方で再生することが基本で,ジャンプのような単発音とスライディングのようなループ音を使い分けている。グラップルなら,フック発射時に単発音,着弾時にも単発音,引き寄せ中はループ音という三段構えが効果的だという。
VFXではスピードラインや火花を,UIでは要素をポンッと一瞬だけ拡大/縮小させる演出で状態変化を伝える手法が紹介された。
コントローラの振動はアクションの重要度と発生頻度に応じて変化させ,多用しすぎてプレイヤーを疲労させないことが重要だとKohari氏は注意を促した。
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カメラ制御は特に奥が深い。シェイクには「高周波・高振幅(衝撃用)」と「低周波・低振幅(スプリント等の継続用)」があり,ロール(横回転)はシューターと相性がよい。画面中央の照準がずれないため,壁走りなどで傾けても操作性を損なわないからだ。
FOV(視野角)の動的変更も速度感を演出する強力な手段だ。グラップルやスライディングでFOVを一時的に広げると,世界が引き伸ばされるように感じられ,加速の臨場感が増す。
なお投影方式には,直線を保つが端が歪む「Rectilinear投影」と,オブジェクトのサイズを保つが直線が曲がる「Panini投影」があり,両者を組み合わせることでバランスのとれた速度感を実現できるとのことだ。
また,プレイヤーは完璧には操作できない。だからこそシステム側で補正をかける必要があるという。
例えばグラップル先がレッジ(縁)なら自動で上に乗せる,ギリギリのジャンプは届かせる,レイキャストではなくスフィアキャスト(円柱状の判定)を使って少し的を外しても当たるようにする――こうした「見えないアシスト」の積み重ねが,快適な操作感を支えているのだ。
空中ではキャラクターの当たり判定(カプセル)を短くしてレッジに乗りやすくし,元に戻す前にレイキャストで障害物がないか確認してスタックを防ぐ工夫も披露された。
モメンタム(勢い)管理については,アクションを連続で行うと速度が加算されていく仕組みを採用しつつ,速度が上がるほど加算量を減らす「収穫逓減」で無限加速を防いでいるという。
講演の締めくくりでKohari氏が最も力を込めて語ったのが,プレイテストの重要性だ。開発者は操作に慣れすぎるため,開発1週めのプロトタイプから即座にテストを始めるべきだという。
フィードバックの集め方は3種類紹介された。「感触による調整(Tune by feel)」はライブプレイテストでプレイヤーの表情や行動を観察する方法。「数値による調整(Tune by numbers)」は平均速度や各アビリティの使用頻度をログで分析するアプローチ。そして「印象による調整(Tune by perception)」はSNSでの反応を活用する手法だ。
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家族や友人は忖度しがちなので,SNSやRedditの「r/destroymygame」のような場で厳しいフィードバックをもらうことをKohari氏は強く勧めた。実際にYouTubeのコメントで「Spaceキーを連打しないと動けなさそう」と指摘されたことが,重力を倍にするきっかけになったという。
Q&Aセッションでグラフィックスと開発の優先度について問われた際は,「立方体だけの状態で移動が楽しければ,ビジュアルを入れたらもっと楽しくなる。逆にビジュアルを先に入れると,見た目に騙されて操作性の本質が見えなくなる」と回答し,移動の手触りこそが最優先であるという信念を改めて示した。
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インディー開発者にとって,移動システムは限られたリソースの中で最大のリターンを生む投資先といえるかもしれない。「気持ちいい移動」の追求に終わりはないが,そのためのヒントが本講演にあったのではないだろうか。
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