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[GDC 2016]競争が激化し続ける中で,どんなゲームを作るべきか。リスクを最小限に抑え,完成させる手法をインディーズゲームの先駆者が語る
その一方で,「作り始めたが完成しなかったゲーム」の数も,かつてない規模で増大しているようだ。昨今,その手の炎上案件(クラウドファンディングで資金を集めたが完成しなかったとか,到底ゲームとして完成していないクオリティのものを販売して返金騒動になったとか)のニュースには,まるで事欠かない。
しかるにこれは,洋の東西を問わない話だ。日本においても昔から「同人ゲームは,完成したら奇跡だと思え(そういう覚悟で制作しろ)」と言われてきた。
だが言うまでもなく,これは到底,望ましい状況ではない。というわけで,Game Developers Conference 2016で行われた「あなたが最初にゲームを作るとしたら,どんなゲームを作るべきか」に焦点を絞った講演を,できるだけ詳しくレポートしてみたい。
リスクをヘッジせよ
「Deciding What To Make」(何を作るか決断する)と題された講演に登壇したのは,Finjiのディレクター,Adam Saltsman氏だ。いささか「分かる人なら分かる」作品になってしまうが,彼はワンボタン強制横スクロール型ジャンプゲーム「Canabalt」のデザイナーである(どうでもいい話だが,筆者は「Canabalt」の大ファンだったりする)。
その結果として,ゲームを完成させ,それをきちんと収益に結びつけるためのハードルは,かつてないほど高くなっている。大きな予算で動かすゲームはもちろん,小規模制作のインディーズゲームでも,その困難さは上がり続ける一方だ。ゲーム制作の現場(および作られているゲーム)がコントロール不能になり,スタジオが閉鎖されるという話は決して珍しくない。
それゆえに,最も重要なのは「危険を最小化すること」――つまり,リスクをヘッジすることだというのが,Saltsman氏の主張である。
だがいったい,何をどうしたらリスクヘッジが可能なのだろうか。
世で語られる「ゲーム制作において,これをしてはならない」を集めてくると,「クローンゲームはダメ」「F2Pはもう終わり」「カジュアルゲームはレッドオーシャン」「ハードコアゲームに未来はない」などなど。俯瞰して語るなら「ゲームなんて作るな」という結論に至るしかない,Saltsman氏は語る。それでもなおゲームを作るのであれば,何に気をつければいいのだろう?
リスクを縮減する4つの手法
ゲーム制作のリスクをヘッジするにあたって,Saltsman氏は4つの手法を提案した。
1つめは,「プラトン的指標の利用」である。いきなり難しい話になったが,Saltsman氏は「ゲーム制作の計画を,使える資金・使える時間・ゲームの品質という3つの指標で考える」ことだと説明している。
この3点によって構成される三角形は,当然,ゲームによって異なる。また,予算はあるが時間がないとか,時間はあるが予算はないとかいった形で,チームの体制によっても異なるはずだ。だが理想を言えば,この三角形が正三角形になっているのが,目指すべき制作の形だという。
このことは,とくにどのような仕様を取り入れるかを考えるときに,重要になってくる。品質を重視しすぎて,資金や時間を過剰に要求する仕様を盛り込めば,制作は必然的に行き詰まるだろう。
もちろん,この3点のバランスを完璧に調和させることなど不可能で,ある仕様がどれくらいの資金や時間を要することになるのかを正確に予測するのも困難だ。だが計画段階において,このバランスを意識することで,リスクを大いに縮減できるのである。
2つめは,「ゲームを逆ピラミッドの構造で作り上げていく」。いわゆる「小さく作って,大きく育てる」という話だ。
この手法の利点は,ある段階で「これ以上,開発を続けられなさそうだ」ということが判明したとしても,いま仕上がっているものを作品としてリリースできるということにある。したがって,制作イメージは以下の写真のようになる。
つまり,「必要とされるパーツを別々に作っていって,それを統合する」のではなく,「完成品を次のステップへと作り変えていく」のである。
この手法は,必然的にシステムベースで駆動するゲームとの相性が良くなる。自動生成・ランダム生成されるステージ,あるいはユーザー自身がゲームコンテンツを制作するサンドボックス型ゲームには,とくにこの手法はフィットする。これをSaltsman氏は「インディーズゲームでサンドボックスに人気がある,ひとつの大きな理由」と分析していた。
逆に言えば,このリスクヘッジの手法は,コンテンツで駆動させるゲームとの相性が悪い。また,ゲームはそもそも多元的なものでもあるので,逆ピラミッドを平面的に捉えるのではなく,プリズムのように立体的な逆ピラミッドとしてプロジェクトをマネジメントしていくことも意識しなくてはならないだろう。
3つめは,「クリエイティブなリスクは負うべき」ということだ。
一見すると「リスクヘッジ」という概念の真逆のようだが,クリエイティブにおけるリスクについては「積極的にリスクを取りにいったほうが,逆に安全だ」とSaltsman氏は語る。
というのも,現状においてゲームの成功の鍵を握るのは,「差別化要因」だからだ。困難な仕事であっても,新しいことに挑まないことには,大量に発表され続ける作品の中に埋もれてしまう。
ここにおいて,AAAタイトルを模倣するのも非常に危険だ。いまやAAAタイトルは膨大な予算と,高度な技術を注ぎ込んで制作されている。これを模倣すれば,どうしたって,AAAタイトルの劣化版ができあがる。作品の特徴が「類似作品に比べて,クオリティが低いことです」というのでは,勝負にならない。
4つめは,「外部にアピールするデザインを早めに行っていく」。いわゆる「マーケティング」のことである。
どんなゲームなのか,外から見たときに分かりやすいように作っていくというのは,非常に重要なことだ,とSaltsman氏は指摘する。
ゲームを氷山にたとえると,ゲーム体験そのものは水面下の90%である。だが,水上に出ている残りの10%を正しく作らないことには,肝心の部分は誰にも気付かれないまま終わってしまうのである。
また,制作中のゲームがどんなゲームであるのかを外部に伝える努力は,ゲーム制作の初期から行っていくべきだという。「こういうゲームなんだよ」と簡潔に(ここで多弁になってしまうデザイナーもいるが)説明できることは,チームにとっても意義がある。制作中のゲームに対して,次々に過剰な仕様を詰め込み,最終的に現場が大炎上するという事態を回避する一助となるのだ。
こと話がマーケティングとなると,思わず眉をひそめる制作者は,アメリカでも少なくないという。だが,Saltsman氏は「ゲーム制作において,マーケティングは不可分かつ自然なものと考えるべきだ」と語った。
「なるべく早期に,なるべく頻繁に」
講演の終盤,Saltsman氏は「こうしたリスクヘッジを,なるべく早期に,なるべく頻繁に行うことが重要だ」と強調した。
ゲームを制作していくなかで,状況は常に変化し続ける。1週間前には何も兆候が見えなかったところに,突然巨大なリスクが発生するということも,決して珍しくない。
そしてこのようなリスクは,実際に爆発してしまったが最後,もう事態は手遅れなのだ。予算を使い切り,締め切りも押し迫った状態において,まったく未完成なゲームを前に「何ができるだろう?」と考えたところで,もはやできることは何もないだろう。そうならないよう,先回りして,先回りして,常に先手を打ってリスクヘッジし続けることが,ゲームを完成に至らせる可能性を高めるというわけだ。
ことインディーズゲームにおいて,「自分が作りたいものを作る」という姿勢は,とても重要だ。だが,その「作りたいもの」が「某大型タイトルの,俺様流アレンジ」だったりすると,Saltsman氏の主張に則って考えれば,まず完成しないということになる(実際,そういうモチベーションで制作が開始され,完成しなかったゲームならたくさん見てきた)。
無論,完全に個人の予算と時間で制作されるゲームであれば,完成しなくたって構わない。だが,とにもかくにも作品を完成させるという経験は,制作者にとって何物にも代えがたい貴重なものであり,制作者を大きく成長させる。
もし,「ゲームを作ってみたい」という興味を越えて,「ゲームを作り続けてみたい」と考えるのであれば,何が何でも作品を完成させるべきだ。そして,そのゴールに向かうに道のりにおいて,Saltsman氏の講演は大いに役立つことだろう。
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