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[SIGGRAPH]NVIDIAやImagination,ARMの最新製品が競演。「Exhibition」展示セクションレポート(前編)
Kepler世代Tegra「Logan」と,GK110コアの「Quadro K6000」をアピールしたNVIDIAブース
最も目立つ位置に展示されていたのは,Kepler世代GPUコアを搭載した次世代Tegraこと,開発コードネーム「Logan」だ。
LoganのGPUコアはKeplerコアベースであり,シェーダプロセッサとして「CUDA Core」を192基搭載する。ついにCUDA Coreを搭載したことで,GPGPUプラットフォームとして利用できるようになったと,NVIDIAは強調している。
OpenGL対応も強化され,「OpenGL ES 3.0」に対応しただけでなく,最終仕様がほぼ決まった「OpenGL 4.4」にも完全対応する予定とのこと。Tegra 4がOpenGL ES 3.0に対応しないことが明らかになったときには,「どうしたNVIDIA!」という不満の声も聞かれたものだが,すべてはこのLogan登場までの“溜め”だった,ということだろうか。
Loganに関する説明を担当したSridhar Ramaswamy(スリドハー・ラマスワミー)氏によれば,FLOPS値で言うと,LoganはPlayStation 3(以下,PS3)のGPUである「RSX」(GeForce 7800ベース)と比べて,約1.5倍の性能があるとのこと。スマートフォンやタブレットでも,PS3並みのゲームグラフィックスを,十分に動作させる性能があるとアピールしていた。
デモ機は,K6000を搭載したDellのワークステーション「Precision T7600」と4Kテレビを接続した解像度3840×2160ドットの環境で,4K環境でも快適なグラフィックス制作が行えると,NVIDIAは主張していた。
そのほかにNVIDIAブースにあった興味深い展示を,まとめて紹介しよう。
Christie Digital Systems製のプロジェクタ4台と,型番不明のQuadroを搭載したワークステーションによる,プロジェクションマッピングによるデザインレビューシステム。中央に見える粘土製の自動車に映像を投影する |
Epic Gamesの「Unreal Engine 4」ベースの技術デモ「Infiltrator」の動作デモも公開。GeForec GTX TITANを2枚使ったSLI構成の上で動作していた |
PowerVR 6の新作デモを公開したImagination Technologies
NVIDIAのDigital Iraに対抗したわけではないだろうが,Imaginationブースでも,PowerVR 6によるOpenGL ES 3.0ベースの新作技術デモとして,スキンヘッドの中年男性モデルによるフェイシャルアニメーションが披露されていた。
このデモは,顔のアニメーション技術をアピールするためのもので,主にOpenGL ES 3.0の「Transform Feedback」(トランスフォームフィードバック)機能を使用している。Tranform Feedbackとは,頂点ステージの処理結果を頂点バッファオブジェクト(Vertex Buffer Object,VBO)に格納する機能で,DirectX 10のジオメトリシェーダにある「Stream Output」に相当するものだ。まずは,下のビデオを見てほしい。
表情の変化前と変化後にアニメーションさせるときに,顔を構成する全頂点に対して,いちいち頂点ブレンディングの処理を行っていたのでは,メモリバス帯域幅の消費が大きい。そこで,ある時点におけるアニメーション結果をレンダリングパイプラインの最初に戻し(TransformをFeedbackして),「その表情から動く頂点」に対してだけ,変移を更新するという仕組みを取っているそうだ。
ライティングやシェーディングに関しては,「自己遮蔽項」(注:光ではない)を焼き込んだアンビエントオクルージョン効果のほかに,デプスシャドウ技法によるセルフシャドウ付き影生成や,画面座標系ブラー適用による簡易型皮下散乱表現を用いているという。
最近のスマートテレビでは,3Dグラフィックスアプリケーションや3Dユーザーインタフェースを採用した製品が増えている。とくにLGは,「Magic Remote」という,Wiiリモコン風のモーション入力型テレビリモコンを採用しており,これを使った3DグラフィックスのWii風ゲームアプリを,自社のスマートテレビに搭載していた。つまり,テレビとしては異例なほど3Dグラフィックス性能を要求するので,ハイスペックなPowerVR 6を採用したということのようだ。
Imaginationによれば,ソニーの液晶テレビ「BRAVIA」の上位モデルにも,PowerVR 6搭載のSoCが採用されているとのことだ。今後はこうした事例が増えていくのだろう。
一方,先代のPowerVR5に関するデモでは,ヘッドマウントディスプレイ(以下,HMD)の「Oculus Rift」(以下,Rift)を使った,バーチャルリアリティ(VR)のデモという興味深いものがあった。
Rift自体は,今やSIGGRAPHの来場者にとって珍しいものではないが,その映像を出力しているのがSamsung Electronics(以下,Samsung)製スマートフォン「GALAXY S4」と聞けば,ちょっと驚くのではないだろうか。ちなみに,デモに使われたGALAXY S4はNTTドコモ版(Snapdragon 600搭載)とは違い,PowerVR 5をGPUコアとして搭載するSamsung製SoC「Exynos 5 Octa」を,SoCに採用したモデルである。
デモ映像自体は,海中を泳ぐサメを追いかけるだけのシンプルなものだったが,スマートフォンで立体視のVRが楽しめると考えれば,なかなか興味深いデモと言えるだろう。
3月から出荷を開始したレイトレーシングアクセラレータも展示。写真はレイトレーシングユニット(RTU)を1基搭載した下位モデルの「R2100」 |
こちらはRTU2基搭載の上位モデル「R2500」。16GBメモリを搭載し,1億2000万ポリゴンをオンメモリで処理できる |
独自GPUコア「Mali-T628」の実力をアピールしたARMブース
分かりやすいベンチマークテストを披露して注目を集めたのは,ブース内のSamsungのSoC
Nexus 10の搭載SoCは,Samsung「Exynos 5 Dual」で,GPUにはARMが開発した4コアGPU「Mali-T604MP4」を採用している。これに対して10インチタブレット試作機は,新しい6コアGPU「Mali-T628MP6」を採用している。
Mali-T600シリーズは,OpenGL ES 3.0世代のグラフィックスプロセッサだが,デモに使われていたベンチマークソフトは,OpenGL ES 2.0ベースの「GFXBench」だった。
テスト中の2台を撮影したビデオを,下に掲載しておく。左がNexus 10で,右が試作機だ。テスト解像度はどちらも2560×1600ドットで,試作機のほうが明白に高いフレームレートを実現している。ベンチマークテストの測定結果は,Nexus 10が7.9fps,試作機は15fpsで,2倍もの性能を実現したわけだ。
また別の展示コーナーでは,2台のNexus 10を使って,ゲームエンジンの「Unity」による3Dグラフィックス技術デモ「Chase」の,OpenGL ES 2.0版とOpenGL ES 3.0版の品質比較デモが出展されていた。
「Chase」は,2013年3月に開催された「Game Developers Conference 2013」(以下,GDC 2013)で初登場したものだが,そのときに公開されたバージョンは,OpenGL ES 2.0版だけだった。
しかしその後,人物キャラクタモデルやライティングモデルの変更,アニメーションの改善などが施されたOpenGL ES 3.0対応版が開発されたというわけだ。
新しいOpenGL ES 3.0版では,画面内に登場するエアバイクの数が増えており,1フレームあたりの総ポリゴン数は約25万ポリゴンとなった。なお,1キャラクターは約4万ポリゴンで構成されているという。レンダリングエンジン部には,物理ベースのシェーディングモデルを採用。画面座標系のブラーを使った簡易型の皮下散乱シミュレーションを適用したほか,映画撮影用カメラに使われる「アナモルフィックレンズ」によるフレア効果など,ポストエフェクトもリッチに進化している。間接照明のライトマップへの描き込みも修正されて,背景やキャラクタの陰影は,より味わい深いものとなった。
ちなみに,OpenGL ES 2.0版では無骨なマッチョ風だった主人公の顔も変更されて,渋い親父風味に変わっている。
デモのレンダリング解像度は2560×1600ドット。モバイル向けGPUでさえ,表現力と性能がここまで来ていることには,改めて驚かされたものだ。
左がOpenGL ES 3.0版で,右がOpenGL ES 2.0版。キャラクターモデルの造形やライティングモデル,ライトマップも変更された |
ARMブースにあるとはいえ,Mali-T600シリーズに関連しているわけではないのだが,USBスティックサイズのゲーム向け超小型Android端末「GameStick」が,物珍しさで人気を博していた。イギリスの新興ベンチャーであるPlayJamの製品である。
GameStickの搭載SoCは,日本ではあまり見かけない「AMlogic 8726-MX」。CPUはCortex-A9を2基集積し,GPUにはMali-400を採用しているそうだ。あまりに小さいので「クラウドゲーミング端末かな」と思うかもしれないが,中身は普通のAndroid端末で,8GBの内蔵フラッシュメモリと,最大32GBまでのmicroSDHCカードに,Android用ゲームをダウンロードして楽しめるゲーム機である。
ちなみに,インディー系の家庭用ゲーム機としては珍しく,子供向けのレーティング(年齢制限)機能を標準搭載しているのが特徴だそうで,年齢別の表現規制の厳しいイギリスやヨーロッパでは,この点が高く評価されているという。アメリカでは79.99ドルで8月から発売予定とのことで,PlayJamでは東京ゲームショウ 2013のイギリスブースへの参加も検討しているそうだ。
最後に,思わぬ企業がARMブースに出展していたので報告しておこう。それは,大局照明ミドルウェア「Enlighten」で一躍有名となったGeomericsだ。
「Battlefield 4」や,「Mirror's Edge」の続編にも採用が決まっているというEnlightenだが,今後はスマートフォンやタブレット向けのモバイルゲームグラフィックスにも進出を予定しており,ARMのMaliシリーズに向けた最適化を進めているのだそうだ。
ARMブース内の展示コーナーでは,Enlightenの技術デモではお馴染みの,石造りの屋敷をリアルタイム間接照明で描画するデモを,Nexus 10の実機で動かすプレゼンテーションを行っていた。この様子であれば,リアルタイム大局照明がモバイルゲームにやってくる日は,遠くなさそうだ。
Exhibition|SIGGRAPH 2013
SIGGRAPH 2013 公式Webサイト
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