インタビュー
「PS Vitaに[L2/R2]トリガーを追加するグリップ」はいかにして誕生したのか。上越電子工業の“コアゲーマー開発者”に聞く
今回4Gamerでは,上越電子工業で実際にグリップカバーを開発した藤川英希氏と,販売を行うアンサーの本田 薫氏に直接話を聞く機会を得た。聞けば聞くほど,藤川氏は“タダモノではない”逸材だったので,たいへん興味深いその内容をお届けしてみたい。
「Vサターン製造工場」の二代目がPS Vita用グリップを生み出す
4Gamer:
今回は,インタビューの申し込みを受けていただき,ありがとうございます。
何よりもまず伺いたかったのは,「上越電子工業とはどんな会社なのか」です。まずは,会社のご紹介をいただけますか。
基本的には,電子回路基板の設計や開発,最近ですとLEDライトの設計・開発です。そういった製品の受託生産がメインの事業になりますね。
4Gamer:
Webサイトにあるご説明と同じで,やはり,ゲーム業界とは無縁な印象を受けます。どういう経緯でPS Vita用のグリップカバーを作ることになったのでしょうか。
藤川英希氏:
開発するきっかけは,私が欲しかったからなんです。
4Gamer:
欲しかったから,ですか。
藤川英希氏:
はい(笑)。
自分も一人のユーザーとしてPS4やPS Vitaで遊んでいるんですが,PS Vitaでリモートプレイをするとき,背面のタッチパッドを利用するゲームがたまにありますよね。そういうとき,「本当にプレイしづらいな」とずっと思っていて,どこか大手さんがそれを解決するグリップを出してくれないかなと待っていたんです。
4Gamer:
テストレポートに対する読者の反響にも,「何でこれがソニー・コンピュータエンタテインメント(以下,SCE)から出なかったんだろう」って声がありました。
藤川英希氏:
そんな折,会社のほうでも,メーカーさんへの協力だけではなく,自立して何かの製品を作ろうという方針が立てられて,既存の業務以外にも何かか始めたいということで,社長――私の父なんですが――が,「自社ブランドを立ち上げよう。何か新しいことはできないか」と,模索していました。
その「新しいこと」の1つとして,ゲーム関連事業というか,グリップの話を提案した,ということですか。
藤川英希氏:
そうです。
ちょっと昔話をさせていただくと,私自身は小学校に入ったくらいに「ファミリーコンピュータ」を手にして,1日中プレイしているような子供でした。そのあとは「スーパーファミコン」を飛ばして「セガサターン」に行ったというか,正確に言うと,「Vサターン」(※日本ビクターがセガのライセンスを受けて市場展開していたセガサターン100%互換機)に行ったんです。
4Gamer:
Vサターン! 久しぶりにその名前を聞きました。
藤川英希氏:
その頃,弊社は日本ビクターの協力工場として動いていまして,弊社で生産していたんですよ。そういうこともあって,Vサターンを買って持っていました。
4Gamer:
まさか,2015年になって,Vサターン製造工場の裏話が聞けるとは(笑)。
しかし,そのお話だと,ゲーム業界と上越電子工業さんって,完全に無関係だったというわけではないんですね。
藤川英希氏:
そうですね。Vサターンの件があったので,今回のグリップカバーについても,「また何かゲーム関係のOEMをやるのかな」程度に社長は受け止めていたみたいです。それもあって,社内で反発が出ることもなく,企画にゴーサインが出たという。
4Gamer:
それでもVサターンって相当昔の話ですよね。事実上の異業種参入なわけで,新規事業として取り組むには尻込みするケースが多いと思うのですが。
その点は,弊社の社風があるかもしれません。うちはもともと電子回路基板が専門で,先ほどお話したLEDライトの設計・開発も,そのなかで新規事業として展開してきたものだったりするんですよ。LEDライトのように,新しいことでも,やれるのならやろうという社風があるので,今回も「いいんじゃないの」という判断で動き始めたところはあります。
4Gamer:
たとえば,メイン事業として回っているLEDライトを自社ブランドで,という選択肢はなかったんですか。
藤川英希氏:
そういう企画はありました。ただ,弊社はある自動車部品メーカーさん向けのLED車載ライトを生産していますが,そういった大手メーカーが大きなシェアを確保している市場に,まったく知られていない自社ブランドで製品を展開するというのは,販売戦略的にはとても厳しいんです。
あと,そういうビジネスを続けてきた関係で,弊社は流通周りがすごく弱いんですね。そういった状況で,大手メーカー製品と似たようなものを自社ブランドで展開しても,成功するのは難しいでしょう。
4Gamer:
つまり,PS Vitaに[L2/R2]トリガーを追加するグリップはどこにもないから,チャンスがあると。
ええ。トリガーを追加できるグリップカバーは定番の製品ではありません。そして,私は自分のことをコアゲーマーだと思っていますが,そんな自分が欲しいと思っている以上,世界中にも,私と同じように,欲しいと思っている人がもっといるはずだと考えました。実際,調べる……といっても限界があるので,インターネットくらいでしか調べてはいないんですが,それでも,オンラインで調べてみると,(トリガーを追加できる)PS Vita用グリップを望む声はけっこう見つかりました。
「ならば,ここを狙うべきで,ここを狙えば注目もされるんじゃないか」と。そんな感じですね。
4Gamer:
ちなみに藤川さんは,どのゲームをプレイしていて,このグリップカバーがあればいいなと考えていたのですか。
藤川英希氏:
自分は,「The Last of Us Remastered」とか「KILLZONE SHADOW FALL」といったシューター系のゲームをリモートプレイしていて,[L2/R2]付きのグリップカバーが必要だとずっと思っていました。
海外のゲームは,PS4リモートプレイにあたって背面タッチパッドを操作させるものが多いんですよね。だから,海外でもこのグリップカバーに対する需要はあるとも考えていたりします。
4Gamer:
話を聞けば聞くほど,藤川さんって相当なゲーマーなんじゃないかという思いが強くなるわけですが,印象に残っているタイトルって伺えますか。
藤川英希氏:
先ほどお話ししたセガサターン時代だと「ガーディアンヒーローズ」とかコアなゲームが好きでした。逆に有名なゲームってあまりプレイしたことがなくて,ファイナルファンタジーシリーズも最初にプレイしたのは「ファイナルファンタジーVIII」だったり,ドラゴンクエストシリーズに至っては手を出したこともないんですよ。
若い頃は周囲に“FF派”“ドラクエ派”がいましたが,その意味だと自分は「ブレス オブ ファイア」派でしたね。
4Gamer:
ああ,聞いてよかった(笑)。
藤川英希氏:
そういうタイプのゲーマーである自分が,会社の事業として何を提案できるか考えたときに,自分が意見を出していける分野はやっぱりゲームだったんですよ。
4Gamer:
ちなみにアイデアは100%藤川さんのものなんでしょうか。それとも,社内のゲーム好きが集まってアイデアを出したとか。
藤川英希氏:
社内にはゲーム好きが全然いないんですよ。せいぜいカジュアルゲーマーが一人二人といったところで,私のように「(期待のタイトルが出たら)発売後すぐ購入する」ようなタイプの人間はいませんね。
4Gamer:
となると,今回のグリップを開発したのは藤川さん一人ということになりますか。
藤川英希氏:
そうですね。正確を期すと,私に3D CADで図面を引く技術はないため,知り合いの会社の人に頼んでいますが,それ以外はほとんど自分一人です。
4Gamer:
その知り合いの方というのは,過去に何かの事業でご一緒にされた方なのですか。
藤川英希氏:
私が入社する前からの付き合いらしいので,詳しいことは分かりませんが,かつて一緒に仕事をしていたとは聞いています。その方の会社は金型工場で,成形できてCADもできるということでお願いしたところ,「せっかくの機会なのでやりましょう」と,受けていただけました。
4Gamer:
では,その方を勘定に入れても二人……? となると,専門部署もなく?
藤川英希氏:
とくに作ってはいないですね。自分と,弊社開発部門の部長の二人でいろいろ議論し,そこに協力会社の方も加わって,最終的には3人がかりですが。
PS Vitaに[L2/R2]トリガーを追加するグリップが完成するまで
4Gamer:
グリップカバーの開発が始まったのはいつくらいなのでしょうか。
藤川英希氏:
だいたい1年ちょっと前くらいです。(資料を確認し)2014年の1月31日にグリップカバー自体のアイデアを会社に提案していますね。
4Gamer:
その後は,どんな流れで開発が進んでいったのか,ざっくりと聞かせていただけますか。
1月末に社内で企画提案をして通った後は,本当に一人でグリップの形を作る作業を繰り返していました。“ひどいとき”だと,朝出社して,帰宅するまでずっとグリップの形に悩んでたりしましたね。ざっくり4月いっぱいまでかかったと記憶しています。
4Gamer:
それは,[L2/R2]トリガーが動作する機構までひとまず形になったのが4月ということですか。
藤川英希氏:
そうですね。そして,ある程度形が決まって,今度は図面化する会社が必要になりまして,先ほどの協力会社の方に企画への参加をお願いしました。
並行して,3月くらいから権利関係に着手したり,先ほどお話したとおり,私達には流通部門がないので,5月くらいからいろいろなところに営業をかけてみたり。
4Gamer:
代理店はアンサーさんですが,こちらはどういう経緯で決まったんですか。
藤川英希氏:
営業をかけてみても,当然のことながら弊社はゲーム業界では名前を知られていませんので,当然ですがほとんど反応はなかったんです。
4Gamer:
最近はクラウドファンディングもありますよね。とくにハードウェアのそれは盛況ですが,そのタイミングでそちらは考えなかったのですか。
藤川英希氏:
Kickstarterとかですよね? お恥ずかしい話なんですが,弊社内に英語の達者な人材がおらず,Kickstarterみたいなものはよく分からなかったんですよ。
あと,PS Vitaが売れている日本国内でまずは売りたいという思いが自分のなかで強かった,というのはあります。「最初から海外」とは考えませんでした。
4Gamer:
そうなると,やはり国内での販売代理店探しというわけですね。アンサーさんとの“出会い”はどんな感じだったのでしょう。
2014年の6月くらいですが,代理店を探している最中にふとアンサーさんのWebサイトを拝見したら,ほかとは違って作りがフレンドリーな感じがして面白かったんですね。そこで,「今こんなグリップカバーを作っています」というメールを送ったところ,社長さんがメールを見て返信をくださって,流通をお願いするという形になりました。
4Gamer:
代理店契約の締結は夏くらいですか。
藤川英希氏:
7月ですね。
そこでアンサーとしては,2014年9月の東京ゲームショウ2014の時点である程度の完成度のものを用意してくださいとお願いしました。ご存じのとおり,展示はしませんでしたが,商談の場には用意しまして,販売店さんから聞く生の声を開発に盛り込んでもらえればと。
4Gamer:
アンサーさんとしては正直,年末商戦に間に合わせたかったんじゃないですか。
本田 薫氏:
商売上,そういう考えがなかったとは言いませんが,「想い」を込めて作っている製品なので,納得のいくものができないと意味がない。発売優先にすると,価値が損なわれる恐れがありますから,今回は上越電子工業さんが納得いくまで待たせていただくことになりました。結果,今月(※2015年4月30日)の販売開始となった次第です。
4Gamer:
東京ゲームショウ2014からここまで半年以上かかっています。ファーストインプレッションのときも,導電部はまだ開発が終わっていないため掲載NGという扱いでしたが,やはり,開発にあたって最も苦労したのは導電部ですか。
藤川英希氏:
導電部ですね。
「開発中,グリップカバーを装着した状態でヘッドフォンを接続すると,背面タッチパッドが反応しにくくなる」という現象が発生しまして,導電ゴムの面積や形状についての正解を探すのに,かなり苦労しました。
4Gamer:
東京ゲームショウの後,ずっとその問題こ取りかかっていた?
藤川英希氏:
そうですね。おそらくは,ヘッドフォンの駆動に電力が持っていかれてしまって,背面タッチパッドの反応が鈍くなるのだと思うのですが,これへの対処がとにかく大変でした。
とくに,去年の12月あたりは,ずっとタッチパッドと格闘していた感じです。
今回は最終製品版と開発途上版プロトタイプを両方お持ちいただいていますが,確かに製品版ではゴムの形状が変わっていますね。長方形だったのが,PS Vitaのタッチパッドと触れる部分の面積が増えたというか。この,最後の調整は,どういう意図によるものなのでしょう。
藤川英希氏:
[L2/R2]トリガーを押下するとグリップ本体に力がかかり,結果として,ゴム部分が少し浮き,背面タッチパッドに触れることになるのですが,このとき,ゴム側の面積が狭いと,接触が弱くなり,入力が反映されないことがあったんですね。その解決策を探していたのですが,下方向への面積を確保するとよくなるということが分かりまして,形状をいろいろ試行錯誤し,最終的に,大きくなりすぎず,かつ,十分に良好な反応が得られるところに落とし込んで,最終製品の形状に落ち着いています。
4Gamer:
この導電ゴムでは,上越電子工業さんがこれまでの事業で培ってきたノウハウが生きているという感じですか。
藤川英希氏:
いえ,全然ないです。
4Gamer:
え!? てっきり,ノウハウを応用していったものかと……。
藤川英希氏:
設計と並行して導電ゴムの勉強をしていました。
導電率が高ければいいんだろうと思っていたんですが,高くしすぎると材質に含有されるカーボンの割合が多くなるため,使っているとPS Vitaの背面がすごく汚れてしまったりするんですよね。汚れないラインはどこかと,複数のゴムメーカーの方とミーティングを重ねたりもしています。
最初から導電ゴムを使った機構を考えていたのですか。
藤川英希氏:
最初は,内部にフレキ基板※を通して,背面タッチパッドを電気的に[L2/R2]トリガーまで引き回し,「トリガーをタップ」するようなものを考えていました。
ですが,フレキ基板の耐久性が低く,動作は問題ないものの,安定性には問題があったんですね。フレキ基板をPS Vitaの背面タッチパッドに直接貼り付けるような実装も考えたのですが,フレキ基板だと点接触になってしまい,うまく反応しないことがありまして。それで,フレキ基板を使うアイデアを捨てて,メッキ加工した[L2/R2]トリガーと,面接触になる導電ゴムを使う方式に変更したという経緯があります。
※フレキシブルプリント配線板(FPC)のこと。プラスチック製の絶縁フィルムで,“基板”と同じ機能を持ちながら,折り曲げることができる
4Gamer:
その決断を下したのはいつ頃ですか。
けっこう初期の段階です。初期にはそのほか,「ボタンを押すと内部の歯車が回転して,その先が動き,背面タッチパッドをタップする」という仕組みとか,チューブ状のゴムを背面タッチパッドから[L2/R2]トリガーの場所まで通して,「[L2/R2]トリガーを押すとゴムの片方が潰れて,もう片方が膨らみタップ操作を行う」なんて仕組みも考えたりしたのですが,前者はコスト,後者は実現性の問題から排除していたりもしますね。
実のところ,今回取得した実用新案には,いまお話した内容も盛り込んであるのですが,今回発売するグリップカバーでは,「軸を入れて,テコの原理で導電ゴムを押す」という,最も実現しやすい機構を採用しています。
4Gamer:
その[L2/R2]トリガーですが,DUALSHOCK系の場合,押下感はほかのボタンと比べると固めですよね。それに対して,グリップカバーのトリガーはそれと異なる感触になっていますが,その意図は何でしょう。
そこも最初は,参考にした「DUALSHOCK 3」と同じにしていたんですよ。ただ,D
その“重さ”でゲームをプレイしていると,私自身の感覚とゲーム中の動きとの間にズレが生じて,気持ち悪かったんです。そこで,[L2/R2]トリガーはDUALSHOCK 3のそれと比べて軽くしてあります。
4Gamer:
それは,ご自身でいろいろなゲームをプレイしてみて決めたということですか。
藤川英希氏:
ええ,それこそThe Last of Usなどで試しながら探っていきました。トリガーが重いと,押すタイミングとゲーム中で撃つタイミングにズレが生じてしまったりもしたので。
DUALSHOCK 3と比べて軽い感じがイヤだと思う人はいるかもしれませんが,今回は入力のストレスを減らすことを優先していますね。
4Gamer:
[L2/R2]トリガーが持つDUALSHOCK 3との違いというと,トリガーが幅広というのもありますよね。
(開発の経緯からして)自分の手しか基準がないですから,自分の手を標準ということにして,まず,[L2/R2]トリガーの位置を決めました。ただ,当然のことながら,私よりも手が大きい,あるいは小さい人がいます。そこで,自分よりも手が大きい人や小さい人でも問題なく押せるようにと,[L2/R2]トリガーの面積を横方向に広げ,幅広にしました。同時に,自然な形で指を添えることができるよう,丸みを帯びた形状にしています。
驚くほど握りやすいグリップの秘密
4Gamer:
個人的には,タッチパッド以上に,グリップの握りやすさに惹かれたのですけれども,グリップの形状はどうやって決定したのでしょうか。
いろいろな人に意見を聞けば,十人十色の回答が返ってきます。なので,アンケートするようなことはあまり考えず,自分が使いやすいと確信できる形状にすれば,それを評価してくれる人はいるだろうと信じ,そこは割り切っていますね。最初は市販のグリップカバーに粘土を付けて,形を作っては実際に握り,試行錯誤していました。
4Gamer:
コアゲーマーたる自分がいいと思えば,同じように感じてくれる人がいるだろう,と。
藤川英希氏:
はい。開発中には,市販のグリップカバーをいくつか購入してきて,それを実際に握り,善し悪しを分析したりもしましたね。実のところ,DUALSHOCK 3を参考にして,グリップの部分が大きく突き出るような格好から最初はスタートしていたりします。
4Gamer:
そう考えると,最終製品はずいぶん形状が変わりましたね。
ですね。グリップカバーをPS Vitaに装着して,[L2/R2]トリガーをPS Vitaのバンパーボタンの下側に配置する場合,グリップが手前に突き出していると,握りが手前になって,指が[L2/R2]トリガーに届かないんです。そこで,PS Vitaの形状に合わせて,プレイしやすい感覚を追い込んでいった感じです。
自分には,データみたいなものは出せないので,実際の使用感をとにかく重視しています。
4Gamer:
「[L2/R2]トリガーを使えて,持ちやすいこと」に集中したって感じでしょうか。
藤川英希氏:
ええ。
実のところ,開発当初のグリップにはスタンド機能が付いていたのですが,1回冷静になって考えたときに,PS Vitaをスタンドに立てかけたい人は,もうそういう製品を購入済みだよなと。それに,スタンドを使いたいとなると,充電しながらビデオを見たいとか,そういうニーズも出てくると思うんですが,コストや開発期間の面からは欲張る意味がないんですよ。
今回,最終的には付加機能はばっさり削って,(開発期間の後半は)[L2/R2]トリガーを利用できるようにするPS Vita用グリップとしての,基本機能の追い込みに使わせてもらいました。
4Gamer:
それがこの形状であると。
はい。(4Gamerでインプレッション記事が掲載された後)グリップカバーに対しては,「形がダサい」という声をいただきました。そういう指摘があるかもしれないというのは,当初から懸念していた点の1つではあるのですが,このグリップカバーは,見た目よりも持ちやすさ,使いやすさを重視して作っていますから,手にとっていただければ,そのよさが分かっていただけると思います。
4Gamer:
個人的な興味で聞いてしまうのですが,[L3/R3]ボタンを利用するための機構を用意しなかったのも,同じ理由ですか。
藤川英希氏:
自分の経験上,[L3/R3]ボタンは,ゲーム中,緊急を要する操作には使われないケースがほとんどなんですね。急がないなら,PS Vitaの背面タッチパッドで問題なく操作できますから,[L3/R3]を用意する必要はないと判断しました。
それに,[L3/R3]ボタンまで物理的に用意すると,グリップカバーが大きくなってしまって,携帯性が損なわれるというのもあります。
PCH-1000用グリップカバーは出るのか。そして今後は?
4Gamer:
今後の話も聞かせてください。最初に確認しなければならないのは,今後,PCH-1000に対応する予定はあるのか,ということです。使ってみたときのレポート記事に対する反響としても,最も多かったのは,PCH-1000対応への要望なのですが,この点はいかがでしょう。
私としてもできることならPCH-1000用も作りたいのですが,1つはコストの面から,もう1つは,PCH-1000が,もう市場在庫しか流通していないということから,今回はPCH-2000への対応に絞りました。既存のユーザーを切り捨ててしまうのは心苦しいのですが,今後の市場の伸びを考えるとPCH-2000のほうが可能性はあるという判断です。
4Gamer:
PCH-2000用のグリップカバーが大ヒット商品となった暁には,PCH-1000対応版も検討する,といった感じでしょうか。現状だと。
藤川英希氏:
もちろん,そういう嬉しい事態になれば考えます。自分も欲しいので。
4Gamer:
ちなみに藤川さんがお持ちなのはPCH-2000ですか。
藤川英希氏:
PCH-1000とPCH-2000両方持ってます。
4Gamer:
それは,PCH-1000を使っていたけれども,PCH-2000が出たのでとりあえず買った,的な? あるいはグリップ開発用に入手したとかですか。
藤川英希氏:
いえ,合計4台持っていて,ゲームごとに使い分けているんですよ。これはこのゲーム専用,これはリモートプレイ専用,これはアーカイブス専用,みたいな。
4Gamer:
ガチすぎる(笑)。
さて,今回のグリップカバーを第1弾として,今後第2弾,第3弾と製品を開発する予定はあるのでしょうか。
藤川英希氏:
やりたいですね。このグリップカバーの売り上げがどうなるかにもよりますが,ゲーマーのニーズがあれば,「定番ではないもので,今後新しく出るものの補助となるような製品」を作っていきたいと考えています。
4Gamer:
何か具体的な案とかはあったりしますか。
藤川英希氏:
いま販売されている据え置き型ゲーム機に対して何かあるかというと,ないのですが,今後おそらく登場するのではないかと思われる新型PS Vitaですとか,任天堂の「NX」(開発コードネーム)に対し,何か補助できる製品を開発できたらとは考えています。
また,弊社はモータースポーツ用のLEDライトを開発している都合上,サーキットの試験走行に立ち会ったりもしているんですね。そうしたノウハウがあり,加えてクルマ好きの人間が社内にけっこういますので,レースゲーム用となるリアル志向の周辺機器を作りたいという案も,社内では出ています。
4Gamer:
それはそれで楽しみですね。
最後の質問となりますが,グリップカバーの開発にあたっての反省点と,それを踏まえた今後の展望があれば,それを聞かせてください。
そうですね……。
今回のグリップカバー開発は,“お金の計算”とかをまったく考えない状態でスタートしました。経営的な観点からすると,やり方として正しくはないと思います。また,開発に1年以上かかったというのも,時間をかけすぎです。
結果として,PCH-2000の発売からかなりの時間が経ってしまったというのが,今回の大きな反省点です。今後,新しいゲーム機が登場するときは,臨機応変に対応できるよう,社内の体制を整えていきたいと思います。
ともあれ,今回は,リモートプレイやアーカイブスと,PS Vitaで遊べるコンテンツが増えてきたところで,より楽しんでもらうためにグリップカバーを作ったので,それがゲーム業界活性化の一助になれば最高です。
PCH-1000用グリップが登場する可能性があまり高くなさそうなのはやや残念ながら,PCH-2000のユーザーは,藤川氏が傾けた情熱の結晶に触れてみる意味でも,一度グリップカバーを手に取ってみるといいだろう。
(ハードウェア静態写真撮影:佐々木秀二,インタビュー撮影:佐々山薫郁)
「L2/R2ボタン搭載 グリップカバー ブラック」をAmazon.co.jpで購入する(Amazonアソシエイト)
「L2/R2ボタン搭載 グリップカバー ホワイト」をAmazon.co.jpで購入する(Amazonアソシエイト)
アンサーの L2/R2ボタン搭載 グリップカバー 製品情報ページ
上越電子工業 公式Webサイト
上越電子工業 公式Twitterアカウント
- この記事のURL: