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「かまいたちの夜」30周年インタビュー(前編)。“特異な書き手”である我孫子武丸氏と,常識にとらわれないスタッフが傑作を生んだ
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印刷2024/04/26 08:00

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「かまいたちの夜」30周年インタビュー(前編)。“特異な書き手”である我孫子武丸氏と,常識にとらわれないスタッフが傑作を生んだ

 今年(2024年)は,スーパーファミコン用ソフト「かまいたちの夜」の発売(1994年11月25日)から30周年にあたる。

 チュンソフト(現在のスパイク・チュンソフト)が開発した同作は,テキストの面白さを中心に据えた「サウンドノベル」というゲームジャンルを確固たるものとし,現在に至るまで数々の後継作がリリースされた。

 シリーズ累計販売本数は200万本を突破しており,今年3月には舞台「かまいたちの夜 〜THE LIVE〜」の上演が発表されるなど,今なお根強い人気を誇っている。

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 キョードーメディアスは本日(2024年3月27日),舞台「かまいたちの夜 〜THE LIVE〜」を,東京シアター1010と大阪COOL JAPAN PARK OSAKA TTホールで上演することを発表した。「かまいたちの夜 〜THE LIVE〜」では,原作者の我孫子武丸氏監修のもと,舞台オリジナルのストーリーが描かれる。

[2024/03/27 13:56]

 背景の一枚絵とともに画面全体に表示されるテキスト,場面に応じてタイミングよく再生される効果音,雰囲気を盛り上げる音楽が渾然一体になった同作は,サウンドノベルの第2弾にして,ひとつの完成形を見た。

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 「かまいたちの夜」は,なぜ数あるタイトルの中からサウンドノベルの代名詞的存在になり,後々まで語り継がれる作品になったのか。

 4Gamerは,「かまいたちの夜」メインスタッフへのインタビューを基に,作品の魅力を「シナリオ&ゲームシステム」「サウンド&グラフィックス演出」という2つのテーマから再検証する。前編はディレクターの麻野一哉氏,シナリオの我孫子武丸氏の証言を中心に,シナリオとゲームシステムの正体に迫る。

 なお,記事中には「かまいたちの夜」の衝撃的な隠し要素まで含めたネタバレが含まれるので,そちらを承知のうえで読み進めてほしい。

麻野一哉氏
チュンソフト在籍時に「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…」(1988年)でゲーム開発に初参加。サウンドノベル第1弾の「弟切草」(1992年)でシナリオ原案,「かまいたちの夜」ではディレクターを務めた。近年の代表作に,スマホ向け位置情報ゲーム「テクテクライフ」(2020年サービス開始)がある
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我孫子武丸氏
「8の殺人」(1989年)でデビューした推理作家。「かまいたちの夜」でゲームシナリオを初めて手がけ,以降のシリーズ作品にもさまざまな形で参加した。近年も「凜の弦音」シリーズ(2018年〜)や,「ライフログ分析官」(小説宝石にて連載中)など,新たな作品を発表し続けている
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「かまいたちの夜」30周年インタビュー(後編)。サウンドとグラフィックス双方に仕込まれた,巧みな恐怖演出

「かまいたちの夜」30周年インタビュー(後編)。サウンドとグラフィックス双方に仕込まれた,巧みな恐怖演出

 スーパーファミコン用ソフト「かまいたちの夜」の30周年に合わせたインタビュー企画の後編をお送りする。サウンドとグラフィックスの双方に仕込まれた工夫の数々と,その意図を加藤恒太氏と中嶋康二郎氏,麻野一哉氏に語ってもらった。

[2024/04/27 10:00]


“特異な書き手”の参加で始まった「かまいたちの夜」


 「かまいたちの夜」は,チュンソフト初の自社ブランド作品「弟切草」(1992年3月7日発売)に続くサウンドノベルシリーズの第2弾として生まれた。

 「弟切草」が提示したサウンドノベルは,選択肢を選びつつテキストを読み進めていくゲームで,例えるならゲームブックのデジタル版といった内容のもの。もちろん,ゲーム機ならではの画面と音の演出がテキストの魅力を引き立てており,1つのエンディングを迎えた後,条件を満たすことによって違った展開が楽しめることも特徴となっていた。

 こうした新機軸で「弟切草」は一定の成功を収めたが,その次の方向性を決めたのは,プレイヤーからから寄せられたアンケートハガキだったという。

麻野氏:
 「サウンドノベルの第2弾が出るなら,どんなジャンルの作品で遊びたいですか?」という質問への回答で圧倒的に多かったのが「ミステリー」とか「推理小説」だったんです。

 そこで当時のチュンソフトの営業部長だった中西一彦さんが,作家のみなさんに手紙を送って,返事をくれた人にスーパーファミコンと「弟切草」のセットを送ったんですよ。

 その作家のひとりだった我孫子氏から手紙の返事が届くことになるわけだが,結果的に「弟切草」を送る必要はなかったそうだ。

我孫子氏:
 もともとゲームが好きで,テキストアドベンチャーみたいなものにも興味があったので,「弟切草」は手紙をもらう前にプレイしていました。だから,「実はもうやっています」「自分だったらこんなふうにしてみたい」といった感想を書いて送ったんです。

 するとチュンソフトの方からさっそく連絡があって,僕の住んでいる京都まで会いに来てくださいました。

 そこからはとんとん拍子に話が進み,後に「かまいたちの夜」と名づけられるサウンドノベル第2作のシナリオは,我孫子氏が手がけることになった。

我孫子氏:
 ゲームを作る側のことはまったく知りませんでしたが,「弟切草」をプレイした段階で,こういうものであれば自分でもだいぶコミットできそうだな,とは思っていました。とはいえ,アドバイスやお手伝いぐらいかなと思っていたところに,(中村光一)社長から「お任せします!」と言われまして(笑)。

 自由にできるならその方がいい,という気持ちもあって引き受けましたが,結果的にほぼ全部を自分で書くことになっていた……というのが始まりでしたね。

 優れたミステリー作家の参加から始まった「かまいたちの夜」の開発。そのシナリオは,外部との連絡が絶たれた閉鎖空間で起きる事件や謎を描くミステリーの王道,クローズド・サークルとなった。

 具体的には,大学生の青年がガールフレンドとともに冬のリゾート地を訪れるが,宿泊先のペンションが大雪によって外界から閉ざされ,そこで猟奇的殺人が起こるというストーリーだ。楽しげな旅行が恐ろしい事件に変貌する序盤の展開は,多くの人にとって物語の世界に入り込みやすい仕掛けではないかと思う。

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 前述の通り,「かまいたちの夜」がリリースされたのは1994年だが,今振り返ると,1990年代前半は,若年層に広く浸透したミステリー作品が多数誕生した時代だった。

 我孫子氏ら当時20代の作家たちが1980年代後半に起こした「新本格ミステリー」のムーブメントは続いており,「金田一少年の事件簿」(1992年10月連載開始)や「名探偵コナン」(1994年1月連載開始)といった人気漫画もこの時期に生まれている。

 これらを鑑みると,ゲームという新しいメディアのミステリー作品である「かまいたちの夜」が1994年11月に発売されたのは,絶妙なタイミングだった。

 シナリオを担当した我孫子氏は,テレビゲームにマッチし,なおかつ普段小説を読まない低年齢層にも分かりやすい文章を意識したという。

我孫子氏:
 小説との違いで一番大きかったのは,解像度の問題で1画面に表示できる文字数が少ないことでしたね。僕は小説家の中でも長くて凝った文章を書かない方だとは思いますが,それでもあの画面内にすっきりと文章を収めて,かつ1文1文をテンポよく読みやすくするには工夫が必要でした。

 普段小説を読まない人に向けた部分で言うと,自分の小説だったらちょっとオーソドックスすぎてためらうような描写やトリックを,あえて用いていたと思います。そこを変に凝っても伝わりにくいでしょうから。

 サウンドノベルでは,主人公の心の声を述べるテキストが,プレイヤーにとって感情移入できるものであるかも重要になる。
 「かまいたちの夜」はその点でもよく練られており,殺人事件発生以降の緊迫したシーンはもちろん,序盤に交わされる他愛のない雑談や,そこで提示される(本筋とは関係ないものも多い)選択肢にも楽しさが散りばめられている。

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 本作のテキストの魅力について,ディレクターの麻野氏は次のように語っている。

麻野氏:
 我孫子さんの文章は特異だなと思うんですよ。いい意味ですごくドライというか,透明感があるというか。あっさりしていて,変なクセがない。我孫子さんの作品にはえぐい内容のものも多いんですけど,文章そのものはすごくサラッとしている。

 同じミステリー作家でも,例えば江戸川乱歩の文章からはもっと「怖がらせてやろう」という雰囲気を強く感じますけど,我孫子さんの場合はそういう文章ではないのに,じわじわと伝わってくるものがある。

 その点では「かまいたちの夜2」を手がけた田中啓文さんや,牧野 修さんとも違った個性があって,やっぱり特異だと思いますね。



犯人名入力シーンに込められたこだわり


 「サウンドノベルに合わせた文章」を書くことの難しさは,ほかにもあったようだ。

我孫子氏:
 ミステリーをゲームに落とし込む難しさを特に感じたのは,トリックうんぬんよりも,「プレイヤーにどうやって謎解きをさせるか」というところでした。

 選択肢は,真相をちゃんと見抜けている人には「これを選べばいい」と分かるものでありつつ,見抜けていない人には,選択肢自体がヒントにならないようにするのが難しかったですね。あとは“犯人名の入力”。これはどうしてもやりたかったんです。

 「かまいたちの夜」のクライマックスに訪れる犯人当ては,選択肢から犯人を選ぶのではなく,犯人だと思う人物の名前をプレイヤーが1文字ずつ入力する形になっていた。このため,総当たりや当てずっぽうでの正答を難しくするだけでなく,自分で考えた推理が当たったときの喜びや爽快感を高める仕掛けにもなっている。

 また,それまで選択肢を追ってきたプレイヤーの前に,50音の文字が並ぶ入力画面が突きつけられる瞬間そのものが,プレイヤーに驚きをもたらす演出になっていた。

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 ここは,ディレクターの麻野氏も重要視していた部分だったという。

麻野氏:
 選択肢にしてしまうと,当然その中からしか選べませんが,文字入力なら,例えば「ジェニー」(舞台となるペンションに住む黒ネコの名前)と入れることもできる。そういう一見関係ないような言葉を入れて,反応があったら面白いなと思っていたんです。

 文字入力というコマンドそのものも好きだったんでしょうね。僕の原体験として,初めて「ドラゴンクエスト」をプレイしたときに名前入力から始まったことに驚きがあって。それを引きずっていたんじゃないかな。

 犯人名の直接入力や,選択肢に仕掛けられた巧みなミスリードによって,本作の謎解きは歯ごたえのあるものになった。インターネットもない時代だっただけに,事件の真相にたどり着けないプレイヤーが続出したことは想像に難くない。

 その一方で,推理を間違っても,何らかのエンディングを迎えるまで物語が進行していくところもサウンドノベルならではの特徴だ。「かまいたちの夜」の場合,プレイヤーが重要な局面で間違った選択肢を選ぶことで事態が悪化し,次第にホラー色の強い展開となっていく。最終的にもっとも多くの犠牲者が出る「サバイバルゲーム」エンドの恐ろしさはかなりのものだ。

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 個人的な話になるが,筆者が「かまいたちの夜」にもっとも引き込まれた瞬間は,極限状態に置かれた人間の心理を描写した,この最悪のバッドエンドにたどり着いたときだった。ここで目にした恐ろしい展開から,いかにグッドエンドへの道を探し出せるか。その試行錯誤こそが本作の醍醐味であるように思う。バッドエンドに進むルートの中に,事件の全貌を知る鍵が隠されていることもあるからだ。

麻野氏: 
 ストーリーの分岐は,最初に上がってきたシナリオの時点である程度入っていました。犯人や犯行の手順を推理するシーンの選択肢もそうですが,それにプレイヤーが失敗することによってまずいルートに入っていくとか。そのあたりも我孫子さんが考えてくれたものです。

 スーパーファミコン版「かまいたちの夜」は,プレイ中に常時オートセーブが行われ,任意のセーブ&ロードはできない。このため,現在のノベルゲームなら当たり前の「直前のシーンに戻って選択肢を選び直す」ということができなかった。

麻野氏:
 このシステムは,今考えるとかなりプレイヤーに厳しかったなと思います。ただ,当時は「そんなものかな」というか……。「ポートピア連続殺人事件」なんて,中断しようものなら1からやり直しだったし,「かまいたちの夜」はセーブができる分マシかな,ぐらいの感覚でしたね(笑)。


スーパーファミコン版では,エンディングを見たあとのリトライ時のみ,章単位でのシーン選択が可能。以後は再びエンディングを見るまで後戻りができないので,章選択は慎重に行う必要がある
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 後にリリースされたPlayStationへの移植版「かまいたちの夜 特別篇」でフローチャートが追加されたことにより,以降のシリーズ作品では選択肢の選び直しが手軽になった。
 しかしながら,スーパーファミコン版では,簡単にやり直しがきかないこと自体が,ゲームをスリリングにしていたことも付け加えておきたい。


“本作最大のトリック”はどのようにして生まれたか


 本編である「ミステリー編」自体に複数のストーリーラインとエンディングが用意されている「かまいたちの夜」だが,ミステリー編をクリアすることで,通称「スパイ編」や「悪霊編」といった,まったく異なるシナリオへ進む新たな選択肢が開放される。

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 基本的な舞台設定や登場人物はミステリー編を踏襲し,「かまいたち」というキーワードもしっかりと織り込みながらも,オカルトあり,迷路探索ありと予想外の展開を見せてくれる。この説明で「お遊び」「おまけ」のように思う人がいるかもしれないが,読み応えはミステリー編に引けを取らない。

 こういったシナリオへの分岐や条件やなども,我孫子氏が執筆した段階で大部分が設計されていたそうだ。

我孫子氏:
 あるシナリオの犯人が,別のシナリオでかっこよく活躍したりすると,キャラクターが役者みたいに見えてくるのが面白いと思ったんです。

 プレイヤーはすでに全員ミステリー編を読んでいるはずですから,そのこと自体をレイヤーとして使った楽しみができるんじゃないかと思っていました。

 ミステリー編のクリアで開放されるルートすべてでエンディングを見ると,ゲーム画面上のセーブデータがピンク色に変化。この通称「ピンクのしおり」が出現することにより,さらに新たなシナリオに進めるルートが開放される。

「ピンクのしおり」出現以降は,ちょっとエッチな描写が加えられた隠しシナリオも読めるように。これは「弟切草」から引き継がれた要素で,以降もチュンソフトのサウンドノベルシリーズにはなくてはならないものとなった
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 ここから楽しめるものは,今度こそ「クリア後のおまけ」然とした内容となっていくが,そのボリュームや作り込みは,「おまけ」の範疇を明らかに超えており,もはや常軌を逸したレベルと言ってもいい。

 隠しシナリオのすべてに言及することは避けるが,「暗号編」に隠された大仕掛け,ここでリセットしろ(ここで理せっとしろ)のメッセージと演出は,実際に体験した人にとって忘れられないもののはずだ。

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 このメッセージは,あるシーンのテキスト上で“縦書き”されているもので,これに従ってスーパーファミコン本体のリセットボタンを押すと,驚くべきメッセージが画面に表示され,さらなる隠しシナリオへと進むことができる。

 当時,この隠しシナリオとメッセージを出すところまで到達できた人は相当限られていたはずだが,そこで実際にリセットボタンを押した人はさらに少なかったのではないだろうか。

 というのも,当時のプレイヤーの多くは,スーパーファミコンのリセットボタンを「ゲームを再起動するもの」と捉えていたため,押してしまったらゲームの進行を無駄にするかもしれないという心理的ハードルが高かったからだ。

我孫子氏:
 「総当たり」だけでゲームを解けないようにするため,プレイヤーに選択肢を選ぶ以外のことをさせたいと思っていました。その1つの答えがミステリー編の犯人名の入力でしたが,それ以外にも,何か特殊な状況で使えるものがないか,チュンソフトさんに相談したんです。

 そこで上がってきたのが,リセットボタンを使った仕掛けでした。これはシナリオを書き始める前の話です。

麻野氏:
 リセットボタンと聞いたら,ゲームの内容を文字通り全部リセットして,プログラムが1からやり直しになると思いますよね。でもスーパーファミコンのリセットボタンはそうじゃない,特定の状況のときに押すとメモリを保持したまま次のプログラムに飛ばすことができるって話をしたんですよ。

 それを聞いた我孫子さんが「じゃあ,それ用のシナリオを書きます」って。

 我孫子氏はリセットボタンという具体的な手段こそ知らなかったものの,隠しシナリオの方向性自体は,当初から考えていたという。

我孫子氏:
 「かまいたちの夜」という作品全体を通して,メタっぽいことをやりたいと最初から考えていました。雪山に迷い込んで,ようやくペンションに帰ってきたらみんな死んでいる話も,ゲームの登場人物たちがゲームをし始める話も,いきなり大阪に行って話が終わってしまう展開も,ある意味みんなメタ的なギャグだという意識がありました。

 ちなみに「ここでリセットしろ」のシナリオは,フレドリック・ブラウン(アメリカの推理/SF作家)の「うしろを見るな」という短編がすごく好きで,それを下敷きに考えたものでした。


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 本作はこれまでさまざまなプラットフォームに向けて移植されたが,リセットボタンがない,あるいはスーパーファミコンと同じ動作を再現できないといった理由から,移植版では別の操作を促すテキストに置き換えられている。

 ゲーム中のリセットボタンという,心理的に強く抵抗を覚える操作を,ここぞという場面で使った演出は,オリジナルのスーパーファミコン版だけが持つ特徴となった。

 ちなみに,この演出は開発スタッフの一部でしか共有されていなかったという。サウンドを担当した加藤恒太氏もその存在を知らず,開発終盤のデバッグで「暗号編」をプレイ中,作業を中断しようと何の気なしにリセットボタンを押したところ,隠しメッセージが表示されたため,本当に驚いたそうだ。


我孫子氏が語るシリーズ作品


 スーパーファミコン版「かまいたちの夜」は75万本を売り上げる大ヒットとなり,当然ながら続編の企画が持ち上がった。
 ここでは,移植やリメイクを除いた「かまいたちの夜」シリーズ作品を,そのすべてに関わりがある我孫子氏のコメントとともに紹介しよう。

●かまいたちの夜2 監獄島のわらべ唄
PlayStation 2,2002年7月18日発売

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 初代から8年の歳月を経て発売された第2作。プラットフォームがPS2になったこともあり,サウンドとグラフィックスは目覚ましく進化した。第1作のキャラクターたちが引き続き登場するも,単なる“前作の続き”ではなく,かつて私設監獄として使われていたという,いわくつきの孤島を舞台に猟奇殺人事件が再び起こる。

我孫子氏:
 チュンソフトの中村社長から,「かまいたちの夜」というタイトル名を使った続編が作れませんか,という相談を受けました。
 吹雪の山荘に代わるクローズド・サークルの舞台なら孤島かな,と思いましたが,その前に,1作目の登場人物が出ないと「かまいたちの夜」の続編にならないと考えたんです。

 とはいえ,1作目の結末によっては死んでしまっている人もいるし,「どこからつながる話なの?」という疑問も出てきてしまう。ということで,(第1作の物語自体がフィクションという)メタ的な構造にすることを僕から提案しました。

 このように,我孫子氏はさまざまな提案を行い,一部サブシナリオの執筆も手がけたものの,メインシナリオは田中啓文氏,牧野 修氏が担当した。

我孫子氏:
 第1作でいろいろなことをやり切ってしまい,僕からは新しいネタが出てこない状態だったので,ちょっとテイストの違う人に書いてもらうことを提案しました。

●かまいたちの夜×3 三日月島事件の真相
PlayStation 2,2006年7月27日発売

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 「かまいたちの夜2」の監獄島で起きた惨劇の後日譚。前作のベストエンディングで生還した人物たちが,それぞれの思いから再び監獄島へ出向くところから物語が始まる。
 前2作になかった特徴として,4人の主人公の視点を切り替えながら物語を解決に導くシステムがある。主人公はゲームを進めるまで判明しないようになっており,全貌が徐々に明らかになっていく構成がスリリングだった。

我孫子氏:
 「かまいたちの夜2」は,前作と違うテイストでパワーアップしたものになったと自分たちでは思っていたんですが,売れ行き的には第1作に及びませんでした。

 今思えば,そのことでスタッフ一同が打ちのめされたように思いますが,2のディレクターだった落合信也さんから,「3作目でリベンジをしたい」という話があったんです。落合さんが考えたシナリオ原案も非常に面白かったので,「これを僕の文章で書き直させてもらってもいいですか」と伝えて作り始めました。

 コンパクトに収まる内容になったので,まだ遊んだことがない人のために1と2のメインシナリオもセットにして,そこから「×3」(トリプル)というタイトルになりました。

●真かまいたちの夜 11人目の訪問者
PlayStation 3 / PlayStation Vita,2011年12月17日発売

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 連続性のあったナンバリングの3タイトルとは異なり,舞台や登場人物を一新したリブート作品。雪に閉ざされた宿泊施設で起きる猟奇殺人事件,どこかで見たようなキャラクター配置など,第1作を思わせる要素を散りばめながら,人気声優によるキャラクターボイスを部分的に導入するなど,新しい世代のプレイヤーを意識した試みも行われた。

 参加シナリオライターは7名とシリーズ最多で,我孫子氏や麻野氏が執筆を手がけたサブシナリオもあり,バラエティに富んだ内容となった。

我孫子氏:
 「かまいたちの夜」のタイトルは残したうえで,完全に仕切り直しをして新しく始めようということで始まった作品です。僕が知っているミステリー作家や,ゲームに興味がありそうな何人かの方に声をかけて,とにかくいろいろなシナリオを楽しんでもらえるゲームになりました。


 「かまいたちの夜」30周年企画の前編は以上となる。4月27日に掲載する後編では,サウンドを手がけた加藤恒太氏中嶋康二郎氏へのインタビューをメインに,本作の演出面でのさまざまな試みを紹介する予定だ。

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