イベント
[TGS 2013]ソーシャルゲームの未来はいかに? グリーブースでヒットタイトルのプロデューサーが語った
パネリストは,グラニ 代表取締役兼エグゼクティブ・プロデューサーの谷 直史氏,KLab 専務取締役の森田英克氏,バンダイナムコゲームス第1事業本部 第8プロダクション ゼネラルマネージャーの坂上陽三氏の3氏。モデレータはグリー メディア事業本部 Japanゲームスタジオ ゲームスタジオ部部長の下村直仁氏が務めた。
スマートフォンの普及と機能向上,そして個性的なヒットタイトルの出現により,モバイルソーシャルゲームは「ダイヤルボタンの5を押しているだけのゲーム」から大きく変化した。では,これからのソーシャルゲームは,どこを目指していくのだろうか。熱い議論が交わされたパネルディスカッションの模様をお届けする。
3氏が今注目するソーシャルゲームは
まず最初に語られたのは,パネリストの3人が注目するソーシャルゲームタイトルだ。
谷氏は印象に残ったゲームとして,セガネットワークスの「チェインクロニクル」(iPhone / Android)をピックアップ。従来のモバイルソーシャルゲームはストーリーを軽視していたが,チェインクロニクルはカードすべてにストーリーがあり,重厚さを感じるという。「昔,ファミコンでファイナルファンタジーを遊んだ時のような感覚がある」とは谷氏の言葉だ。
ちなみに,森田氏が所属するKLabの人気タイトル「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル」(以下,ラブライブ!。iPhone / Android)は,新しいスタイルを打ち出したモバイルソーシャルゲームとして話題になっているが,これについて森田氏は,「プロデューサーがもともとコンソールの開発者だった」と明かした。「彼にしてみればラブライブ!はそんなに難しい仕事ではなく,しれっと作ってしまった。だが僕らから見ると凄い仕事」と語る。
坂上氏は注目ゲームとして,そのラブライブ!を挙げた。坂上氏はアイドルマスターの総合プロデューサーだが,やはり同じ“アイドルもの”のラブライブ!は,気になる存在のようだ。また氏は「艦隊これくしょん -艦これ-」(BROWSER)にも注目していて,「戦艦のような,男の子がかつて好きだったけど,今となってはその“好き”を忘れているものを,ソーシャルという枠組みでゲームとして成立させた」ことは大きいと指摘した。
ファンに愛されるタイトルを作るには
ディスカッション2番めのテーマは,「ファンに愛されるソーシャルゲームとは」だ。
谷氏はまず,「ユーザー同士の密接なコミュニケーションとコミュニティが重要」で,チームを組んで戦うようなゲームであれば「チーム内のコミュニケーションをいかに濃くするか」を重視するという。「ログインして,そこでだべっているだけでも楽しいゲーム」になっていることが,ユーザーに愛されるゲームとなる秘訣というわけだ。
一方森田氏は,「ゲームとして細部までしっかり作りこんでいることが一番」とした上で,「自分たちの場合は,IP※1をお借りしてゲームを作ることが多いので,その魅力をしっかり伝えることを意識している」と述べ,「例えば『キャプテン翼』のゲームを作るにあたっては,担当スタッフ全員で1か月間ひたすら原作を読んだし,ラブライブ!のときはDVDを何周も見た」という裏話を披露した。「ユーザーの期待に沿うような形でキャラクターが使えていれば,評価してもらえる」というわけだ。
※1 ここでは,他社が権利を持つコンテンツの意味。
なお「アイドルマスター」はアーケードに始まり,コンシューマやソーシャルへと多面的に展開しているが,それぞれにおける愛され方・楽しまれ方は「けっこう一緒」とのこと。アイドルマスターはゲームからライブイベントに至るまで,一貫してユーザーを「プロデューサー」として設定しており,これが継続してプレイされる大きな要因になっていると氏は分析している。
ソーシャルゲーム運営の秘訣
まず谷氏は,「ユーザーが求めるものをやっていくのが当たり前」で「コアユーザーの声を聞くのはもちろん」としながらも,「直接運営側に要望を出すことこそしないものの,継続してプレイしてくれている人に,いかに続けて遊んでもらえるようにするかも重要」と語った。
また,リリースから時間が経つにつれてユーザー層は変わるもので,リリース直後から長く活動しているプレイヤーと,最近始めたばかりのプレイヤーとでは感覚が異なるので,そこにおける差にも気をつけているそうだ。
運営の姿勢としては,そもそもグラニのメンバーは谷氏を含めて「昔からオンラインゲームをよく遊んでいたゲーマーであり,今でもモンハンや新生FFXIVを遊んだりしている」ため,「時間を作ってゲームを遊ぶというより,忙しくても自然にゲームを遊んでいるユーザーとしての感覚があり,その感覚を自分のゲームにも向けている」とのこと。
「ゲームのバランスにしても,ユーザーとしての視線で見ている。社員を納得させられないなら,ユーザーを納得させることもできない」と語る谷氏は,「ユーザーの目線で運営というよりも,ユーザーそのものになって運営している」と語った。
森田氏は「谷さんの話の後だと,言うことがもうないですね」と笑いつつ,「最近はソーシャルゲームにおいても,アップデートの期待感を煽っていきたいと思っている」と語った。MMORPGやMOアクションにあるような,「バージョン○○のアップデートが,○月に到来」という盛り上げ方を,ソーシャルゲームにも持ち込みたいということである。
従来,ソーシャルゲームはイベント直前までその作りこみをしていることが多かったようだが,ネイティブアプリ化が進むにつれて,より長期的な計画性が必要になったということも背景にはあるようだ。
坂上氏も「今までの話が,まさにそれ」と同意したうえで,イベントを盛り上げるためには他のタイトルとのクロスや,旬の話題の取り込みが重要だとした。とはいえ季節ものや,旬なものを取り込むにはスピードが必要だし,「外すと寒い」と課題も指摘した。
これからのソーシャルゲームとは
ソーシャルゲームをめぐる環境は変化を続けており,ユーザーの要望も細分化が進んでいる。そんななかで「次の一手」として,何が構想されているのだろうか。
また,現在グラニがサービスしている「神獄のヴァルハラゲート」(iPhone / Android)では,「ヒットしたヴァルハラゲートはほどほどにして,次のタイトルに力を入れるといったことはしない」と断言。むしろ,「ヴァルハラゲート内部に新しいタイトルを作るような気持ちで,コンテンツを追加していく」方針とのことで,コンテンツを追加するにあたっては「ユーザーが話題にしやすいか・ユーザー間の会話が促進されやすいかを意識している」と語った。
この「ひとつのタイトルを磨き上げる」プロセスにおいて,谷氏がポリシーとしているのは,氏自身の苦い経験だという。「自分が20歳くらいの頃,ドリームキャストでオンラインゲームが出て,その後,FFXIにもハマった。あの感覚がまず自分の中にある。けれど自分の年代だと,周囲の友人はあまりゲームを遊んでいなくて,『こんなにも面白い』と言っても周囲は理解してくれず,自分はオタク扱い。当然ゲームも遊んでくれないという状況があった。その感覚にはしたくないというのが,根底にある」という言葉は,「ユーザーの視線ではなくユーザーとして運営する」という姿勢に通じているように感じられた。
その上で,実際に何を作るのかという問題になるが,森田氏は「キーワードは,よりゲーム的に,より面白く,より深く」であるとし,「カジュアルなユーザーを対象に,カードバトルよりは簡単で,LINEゲームよりやり込めるゲームをやってみたい。またそれとは別に,もっとゲームとして深みのある,それこそ同期型のゲームも作りたい」と語った。また「この路線は,コンシューマゲームメーカーとは完全にガチンコになるが,やります。勝負としてやれるかどうかわからないけれど,あがいてみます」と宣言した。
坂上氏は「アーケードを作って,コンシューマゲームを作って,20年間いろいろなゲームを作ってきたが,ゲームは結局テンポだ」と指摘する。そして「テンポが新しいもの,テンポが面白いものは,必ず市場を獲る。なぜなら,ユーザーが最初に違いを理解するのはグラフィックスではなく,『この流れで遊ぶと楽しい』というテンポだからだ」「そのテンポをどう掴んでいくかは今も模索しているし,これをアイドルマスターにもうまくあてはめていきたい」と語った。
テンポといってもただ速い遅いではなく,ゲームのコンセプトにあったものでなくてはならないという。そこがズレていると,ユーザーは違和感しか感じないのだそうだ。
デベロッパーがいまグリーに望むもの
最後のテーマは,グリーに対してデベロッパーが期待することだった。
谷氏は「グリーさんとは二人三脚でやっているが,あまり焦らないでほしいという気持ちがある」と述べた。氏は「市場は変化しているし,市場におけるプレイヤーも増えている。これは当然起こることなので,変に焦って,熟慮していないことに踏み出さないでほしい」と述べる。また,「グリーの社長さんと話をすると,非常に広い視野で冷静に考えていらっしゃったので,心配はしていないが,とはいえ一般の社員さんまでその冷静さが行き渡っているかというと,また別ではないか」と指摘した。
森田氏は,KLab社内のプロデューサーからの意見という形で,要望書を持ってきていた。いわく「プラットフォームなので,人を集めて流してほしい」「送客とPRプランの充実」「サードパーティへの送客・プロモーション支援」が要望であるという。比較的似た話が出ているあたり,なかなか生々しい。
一方,坂上氏は,「グリーはソーシャルゲームの地盤をしっかり作っているのだから,焦らないでほしいというのは同感」と述べる。続けての「まだまだ市場は大きいのだから,じっくりやっていくべき。今も『アイドルマスター ミリオンライブ!』担当の人と仕事をしているが,ゲームや運営について深い知識を持っていると思う。そこを大事にしてほしい」というコメントは,単なるリップサービスではないだろう。
ただし,「国内にもばっちり集中してもらって,みんなで盛り上げていきたい」という言葉は,人によっていろいろな見方のできるコメントであろうか。
最後に,筆者個人の意見であるが,モバイルソーシャルゲームは「昔からゲームを作ってきたデザイナーのカンや経験」だけでなく,統計や市場調査といった数字を用いて,面白いゲームがちゃんと作れることを証明してきたと考えている。であるならば,「自分たちは面白いゲームを今も作っているし,これからも作っていく」ことに対しても,結局は数字で証明するしかないのではないだろうか。
明暗さまざまなニュースが行き交うモバイルソーシャルゲーム業界に,今後も注目していきたいと思わせるセッションであった。
- この記事のURL: