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[TGS 2017]台湾のゲーム業界人が日本へラブコール。「アジア太平洋ゲームサミット 2017 in TOKYO」レポート
このイベントでは,アジア圏におけるゲーム市場の現状と,台湾へ日本企業が進出するにはどうすればいいかという2つのテーマで,講演とパネルディスカッションが行われたので,その概要をレポートしよう。
日本市場は順調に成長するもガラパゴス化が進行。中国,インド市場は急速な伸びを見せる
上村氏は,「APAC(アジア太平洋地域)市場は全世界を牽引している」と語る。アプリのダウンロード数トップ10には,APACから5つの国がランクイン。収益に関しても,日本が1位,中国はiOSのみの集計で2位,そして韓国と台湾が3位と4位を占めているという。
ゲームアプリのプレイ時間に関しても,韓国と日本がトップ2で,それぞれアメリカの2倍近い時間遊び続けているというのだから,この指摘も頷けようというものだ。
続けて上村氏は,日本と中国,インドの各市場について説明した。
日本市場
年ごとのダウンロード数こそ,ほとんど変化が見られないものの,収益は大きく伸びている。1ダウンロード当たりの売上額は,アメリカの5倍にも達するという。
日本市場では,トップ10のアプリが稼ぎ出す金額が,全体の4割を占めており,寡占化が進行している状態ではある。ただ,セールスランキングにおいて「Fate/Grand Order」が「モンスターストライク」を抜くような現象も起こっており,「入れ替わりのチャンスは充分に望める」(上村氏)とのこと。
金額ベースで見ると順調に成長する日本市場だが,同時にガラパゴス化も進行していると,上村氏は懸念を示す。国内タイトルの海外進出がほとんど成功していないうえ,国内におけるゲームアプリ収益の7割以上を国内タイトルが稼ぎ出しているからだ。
このように海外からの参入障壁が非常に高い状態ではあるが,2016年夏ごろからは,中国のゲームアプリが存在感を増しているとのこと。
中国市場
中国のゲームアプリ市場は,2015年ごろより急激な伸びを見せている。しかも,この数値はiOSのみのもので,Androidは含まれていないというのだから驚きだ。
ARPU(ユーザー1人当たりの売上額)平均は月に25ドルと,日本のそれを凌駕。しかも,特定のアプリが高い売上を出して平均額を引き上げているのではなく,平均的に伸びているという。上村氏曰く「人口が多いから収益が多いのではなく,1人の支払い額が多い」とのこと。
中国のゲームメーカーは,海外進出も上手くいっているそうで,アメリカでの売上が多い。この辺りは,日本市場とは対照的と言えるだろう。
日中以外の市場
日中以外の市場に目を向けると,とくに成長著しいのはインド市場であるという。ダウンロード数は2015年から2017年にかけて,3倍以上に増えている。この後は「市場の成熟が進行,収益が増えるフェイズに入るのではないか」との分析を上村氏は披露した。
台湾のゲーム業界人が,日本のゲームメーカーにラブコール
台北国際ゲームショウ事務局 CEOの呉 文栄氏をモデレーターに,台湾コーエーテクモ 取締役副社長の劉 政和氏,WeGames Japan 代表取締役の陳 敏秀氏,そしてX-LEGEND ENTERTAINMENT JAPAN取締役社長の陳 建文氏が,日本企業が台湾へ進出することのメリットについて語った。
3氏らによれば,日本のゲームメーカーが海外に進出するに当たって,まず台湾を拠点にすると,メリットが大きいという。日本のゲームやアニメが台湾で受け入れられていて感性が近いうえに,優秀な人材が多いことがその理由だ。
また,日本よりも人件費が安く,公用語として中国語が使われているため,台湾でローカライズしたものを中国で展開するようなことも,比較的容易に可能なのだという。
日本には独特の企業文化があるため,海外進出しても現地企業とのコミュニケーションに支障を来すことが多い。しかし台湾は日本と頻繁に交流しており,こうした点に理解があるという。そのため,台湾で経験を積んでから他国へ進出すると,スムーズに行くのだそうだ。
台湾でマーケティングするときには,現地スタッフによる,地元ならではの「ホットマーケティング」を行うのも有効だという。マーケティングと言えばTVでCMを流したり,目立つところに看板を出したりというイメージがあるが,台湾の人からは,「温もりがない」とか「上から目線」という意味での「クールマーケティング」であると,ネガティブに評価されてしまうそうだ。
しかし,ある原作ものゲームで台湾の現地スタッフに任せたところ,台湾名物の夜市(ナイトマーケット)で宣伝を展開し,高い効果を得たという。日本人が夜市と聞くと,単に「ものを食べに行くところ」という先入観から,ゲームのマーケティングには適さないと判断してしまう。しかし,台湾の夜市は,食べるだけでなく,周囲を眺めつつ,ゆっくりと過ごす場所でもあるのだという。これは現地の人でないと分からない感覚で,海外企業ではなかなか気づかないところといえるだろう。
このように,日本と台湾は親和性が高い一方で,文化的な差違も存在しているので,進出するときには,こうした点を考慮に入れる必要があるという。たとえば,人の気質も大きく違っている。日本人は全てにおいて生真面目で,プロジェクトを立ち上げるときに計画をキッチリ決めたがるが,台湾人はフレキシブルなところがあり,臨機応変に対応していくそうだ。
通勤時間や余暇の過ごし方も異なっている。日本では,朝の通勤時間にモバイルゲームを遊ぶことが多いが,台湾だとバイク通勤も多いため,朝はそれほどアクセスが伸びないのだという。また,週末の金曜日も,日本人は飲みに行ってしまうが,台湾人は家でゆっくり過ごす習慣があり,ここでモバイルゲームを遊ぶ場合が多いとのこと。
休暇に関する考え方も違っており,日本人は仕事を最優先するが,台湾人は中秋や正月など,折に触れて有給をどんどん取っていく。また,就職の面接においても,台湾人は「どれくらい休めるか」「給料はどれ位なのか」といった質問を平気で投げかけてくるそうだ。これは文化や風土の違いで,どちらが正しいという問題ではないため,日本のやり方を強制すると進出自体が頓挫しかねない。時間はかかるものの,台湾のいい所も取りいれていくことが望ましいのだという。
また,日本の指示に従うだけの会社ではなく,主張するべきところはしっかり主張し,現地のやり方を教えてくれるところを選ぶと上手くいくことが多いのだそうだ。
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