インタビュー
[インタビュー]社長のボヤキ最終回+総集編。Yostarと4Gamerで,6回分ダラダラぼやいてみる
第5期 “意識高い系”の二人
李氏:
分からなくはない(笑)。自分は会社たたんだことないですけど,自分の手で登記して畳まれた会社はあります。ちょっと複雑な気分になりますね。
Kazuhisa:
やっぱり複雑ですよねえ。勢いで作った個人サイトが22年も経って大きくなって,もうここまでくると,自分以外の人が畳むのはちょっとガマンならないなって。最期は自分の手で首を絞めたいというか。なんか表現が過激だけど,まぁ実際そんな気持ちかもしれない。
李氏:
うん,その感じは僕らも結構近いかもしれないです。ゲーム会社なんていつだってクローズへの距離は近いし。やばいやばい。
Kazuhisa:
いやさすがに御社はやばくないでしょう?
李氏:
安定はしないですから。
Kazuhisa:
あー,安定はね……。
李氏:
なのでまあ,岡田さんの気持ちはとても理解しますけど,フラグを立てるつもりはないですよ(笑)。
Kazuhisa:
いやいや僕だってないですよ(笑)。でもほら,この時期(※対談は3月に行っている)になると,来期予算を組むわけですよ。で,親会社から僕に送られてくるメールに「目標成長率:20%」とか書いてある。
何それ。毎年20%成長する会社ってあるの? おとぎ話の中だけじゃなくて?
李氏:
それね! 超共感しますね! だって,数字遊びじゃないですかそれ。
Kazuhisa:
そう。最後は結局,数字遊びでしかないんですよ。
李氏:
僕コンサルにいたからよく分かりますよ。結局,数字で遊んでるだけなんです。ただのモデルでしかないし。
Kazuhisa:
そうなんですよねえ。
李氏:
世の中,そういう理想的なモデル通りに推移するわけないんですよ。なので今,仮に「予算もうちょっとなんとかして」とか言われたら,絶対怒ると思う。そんなことやってなんか意味あんの?
Kazuhisa:
ね。
李氏:
僕らの人件費は,さすがにそこまで安くはないんだから,まぁじゃあ仮に予算表の修正に6時間を使って,そのぶんの元が取れるのかっていうと,たぶん取れないですよね。欲しい数字があるなら,まぁじゃあ今年の売り上げはたぶんこれぐらい,利益はこのぐらい,の二つの数字ならすぐ言えますよ。根拠は別にどうでもいいでしょう。
Kazuhisa:
そうね。だって根拠なんてないし。
李氏:
そう,ないっすよ。大ヒットしたゲームが毎年5本出たら,もう会社畳んでもいいでしょ。何もしなくてもいい。でもそういうものは予測なんかできないじゃん。
Kazuhisa:
でもあれ,それでも作れって言ってきますよねえ。まぁ「作れ」って言うのが仕事なんだろうから仕方ないのかもしれないけど。
李氏:
なので,僕はスタッフの皆さんに求めないです。
Kazuhisa:
僕もしないですよ。編集部に売り上げを求めたこともPVを求めたこともないし,逆に数字も一切明かしてこなかった。でも最近それは間違いだったのかと思ってて。みんながあまりにもお金に無頓着で(笑)。
李氏:
いや,無頓着でもいいのでは。儲かってるんだったら,結果オーライです。
Kazuhisa:
それは,儲からないときを経験してないから,李さんには分からないのでは!
李氏:
いや経験したくないです(笑)。
Kazuhisa:
まあね。もう二度とごめんですね,あれは。でもまぁ確かに,とくにウチは編集部だから,あんまりカネカネ言ってるのもちょっとどうかな,と思ってはいます。でも感覚ゼロだと困る……。
李氏:
いや,分かりますよ。でもまぁ人件費削減とか,この数年間無縁だし,たぶん4Gamerもそうでしょう?
Kazuhisa:
あー,そのへんはうちも無縁ですね。幸いそこまで追い詰められたことはないので。
李氏:
まあ皆さんが残業しすぎると怒りますけど。もちろん金銭面での意味じゃなくて,精神衛生と体と,あとーーー。
Kazuhisa:
あと法律。
李氏:
そう,法律。
まぁでも逆に一回くらい,キチキチでもう本当に調整効かないレベルのタイトな予算とか,ちょっと挑戦してみたい気分が……なくはないかも。
Kazuhisa:
それはゲームとして,でしょ?(笑)
ウチもそうだけど,お金がないころを経験してるから,「まあここまでならザルでもいいか」みたいな感触があるわけじゃないですか。それがないなら「ただのザル」だから。なので最近ちょっとだけ反省してます。スタッフにもちゃんとお金ないころを見せておくんだったなー,って。
李氏:
まあ,僕らの仕事はお金を見るだけですから。
Kazuhisa:
まあそうなんですけど。あがいてたことを知らないのは,それはそれでよくなかったのかな,ってちょっとだけ思ってます。
李氏:
そういえば岡田さんがさっき言ってたけど,日本の企業さんって大体3月決算じゃないですか。Yostarは本社が中国企業なので,グループとしての決算は12月なんですね(編注:普通の中国企業の決算月は12月)。でも普通は日本のユーザーさんはそれが分からないですよね,大体は3月決算だと思ってるでしょうし。
Kazuhisa:
確かに接したことがないと分からないかもしれませんね。でもなんで急にその話を?
李氏:
去年年始の時にお恥ずかしながら,一時的にドタバタした時期ありました。そしたら,あんまり弊社のこと好きじゃないユーザーさんが「3月の決算に間に合わせるために無理やり詰めすぎだ」みたいなことを言ってて。
Kazuhisa:
あぁ……なるほど。
李氏:
俺たち12月決算なのに! 計画通りに出してるだけなのに!
Kazuhisa:
アメリカも中国も普通は12月決算ですからねえ。
そういう意味では日本がおかしい。しかも僕らは親会社が2つあるけど,一つは3月決算で,もう一つは2月決算なんですよ。超めんどくさい……。
李氏:
2回提出するんだ? 面倒くさいな(笑)。
あと12月決算は,すごくいいんですよ。税理士さんにまあまあ余裕があって。
Kazuhisa:
確かに!
李氏:
だから結構力入れて見てくれるわけですよ。3月決算だったら,おそらく同じクオリティでは見てくれないだろうなぁ,と思います。
Kazuhisa:
年明けてからの税理士さんってホント大変そうだし……。
李氏:
なので12月決算で助かってる部分が結構あります。決算が余裕を持ってスムーズに(笑)。
Kazuhisa:
決算終わって年明けっていいですね。
李氏:
まあ儲かってるうちはね。赤字が出たら,絶対ツラい年末年始に……。
まぁなので,話が大きく戻っちゃいますけど,何をやっても,そんなことがなくても,なんでも悪い方向に解釈する人って絶対いますからねえ。
Kazuhisa:
いますねえ。
李氏:
でね,僕は目線が結構そっちに行くほうなんでツラい。
Kazuhisa:
影響されちゃダメですよ。
李氏:
自分でもそう言い聞かせるんですけど,最終的にはうまくいかない。
Kazuhisa:
根が真面目なんですねえ。
李氏:
そうでもないと思うんですけど。
Kazuhisa:
でも取り入れようとするわけでしょう? そういう意見を。
李氏:
そうね。本当に言ってることが正しいのなら,言ってる場所がおかしかったり言葉遣いが汚かったりしても,それは聞くべきです。
Kazuhisa:
それはおっしゃるとおり。4Gamerにも愚痴とか文句とか脅迫とかいっぱい来ますけど,確かに耳を傾けるべきだというものはあります。
李氏:
それでね,この2,3年のコロナの間で,昔気付いてなかった部分で気付いちゃったことがあって。
Kazuhisa:
なんですかそれ。
李氏:
なんかね,会社だけじゃなくて自分個人としても,結構意識高い部分があったんだなぁと思い至ったんですよ。
Kazuhisa:
意識高い系?
李氏:
はい,意識高い系……いやちょっと違うけど(笑)。
具体的に言うと,コロナの間ってオフラインイベントが出来なかったじゃないですか。誤解されるかもしれないけど、あえてそのまま言うと,オフラインイベントって準備するのも大変だし,グッズを売って収益を得たとしても,正直スマホゲームの収入金額のレベルと比較すると……。
Kazuhisa:
まぁそうですね。
李氏:
だから会社的に言うなら,オフラインイベントってめちゃくちゃコスパが悪いんですよ。同じ労力をかけてゲーム内イベントを仕込んだり,マーケティングに力を入れたりすれば,売り上げに乗っかる金額はもう文字どおり桁違いなわけで。
Kazuhisa:
すごく分かります。
でもこの2,3年はオフラインイベントやってないんですよ。
そんで,データを見るじゃないんですか,超ドでかい稼ぎの。結構な数のDAUの変動から,お金の流れが見えるわけですよ。でもまあ実感全然湧いてこないですね。ちょっとおかしい,こんな桁違いの数字見たって。
Kazuhisa:
あぁ,“そこ”に気付いてしまったんですね。
李氏:
俺,この仕事をやってていいの? ホントに会社に貢献してんの? という。オフラインイベントができてたときは,我々のタイトルが好きなユーザーさんが直接来られて,そこで皆さんの笑顔とかを見られるじゃないですか。それで,自分の仕事の肯定感をたくさん生み出せるわけですよ。
Kazuhisa:
それ,すごく分かります。
李氏:
僕がやってることはこれでよかったんだな。少なくとも現在この空間のこの瞬間は,皆さんに喜んでもらえているな,って。
でもこの2年間は……。いや本当に,軽く億単位の金が延々と流れてるんですけど,僕がこれやってる意味あるの? みたいな(笑)。
Kazuhisa:
オレがやってもやらなくても同じじゃないか,と。
李氏:
そう,それ。この疑問は最近2,3回出てきた。そこで気付いちゃった。僕,案外意識高いなって(笑)。
Kazuhisa:
いやーYostarほどじゃないけど分かりますよ。例えば昔だと,Radio 4Gamerでやったオフラインイベントとか,最近だとMusic 4Gamerっていうクラシックのコンサートとかやったとき,当たり前だけど,来てくれてるのはまぁたぶんみんな4Gamerの読者……少なくとも近しい人達なわけじゃないですか。
僕らもほら,直接お客さんとは接することがないから,ああいうとこに行くとテンション上がりますよね,やっぱ。あ,この人たちが僕らのお客さんなんだって見えるのは,結構でかい。
李氏:
そうそう! 見えるんですよ。ケーブル通じてモニター越しでは見えないものが。今のビジネスモデルは,生身の人間の喜びを感じられないんですよね,やっぱり。
Kazuhisa:
ね。単にExcel上で数字が動くだけなんですよね。
李氏:
そうそう。そこは感覚がおかしくなっちゃう。
Kazuhisa:
わかるー。
李氏:
データを見るのはいいことだけど,やっぱ生身の人間なんで,感情で動く部分だって結構多いわけじゃないですか。
Kazuhisa:
ましてエンタメですからねえ。
李氏:
そうですね。感性が問われる業界なので。
Kazuhisa:
まぁでもそれって「意識が高い」んじゃなくて,我々のモチベーションですよね,きっと。だって社長のモチベーションなんて,そういうとこくらいでしか維持できないじゃないですか。
李氏:
そうですねえ……。
Kazuhisa:
あぁこのままやってていいんだ,という安心感。
李氏:
そこはありますね。
Kazuhisa:
だって僕らは何も生み出さない人だし(笑)。お金が増えるの見たって別に楽しくもなんともないし。
李氏:
ほんとそれ(泣)。
Kazuhisa:
下手すりゃ単なるコストセンターですよ。
李氏:
価値を生み出したいよね,なにか。
Kazuhisa:
生み出したいですね。社員には迷惑だろうけど。
李氏:
たぶん岡田さんもそうだろうけど,昔5,6人の時は運営もやって,マーケティングもやって,ヒューマンリソースの管理もやって,カスタマーサポートもやって……第一線で戦ってたわけだから,ちゃんと会社に貢献してた。
Kazuhisa:
貢献してたっていう実感があったよね。
李氏:
そんで偉くなって徐々に現場から離れたら……オレは何をやってるのか(笑)。
Kazuhisa:
そう。何やってるんだっけ?
李氏:
みなさんの悩み相談とか,仕事の調整とか……まぁでも頻度としても少ないか。この2,3年,ホントにレギュラーの業務がなくて。ブラウザ開いて,まあ色々メールとか見て,BIの数字を見て。でも頭真っ白になっちゃうんですよね。僕なにやってんだろ,本当に。
Kazuhisa:
まぁ最近は確かに,GmailとSlackとChrome,あとExcelがメインかな……。
李氏:
そんでマーケティングの管理ツール見て,最近はこんぐらいの単価のユーザー獲得なのかー,へーって。
Kazuhisa:
へーって(笑)。
李氏:
……この6,7年ずっとやってることだけど,改めて考えると何やってるんだろう。
Kazuhisa:
だからさっきのは,意識が高いんじゃなくてモチベーションが欲しいんですよ。
李氏:
なるほどそういう解釈の仕方はできるのか。
Kazuhisa:
僕たちはモチベーションに飢えてるんですよきっと。読者のために,プレイヤーのためになってるんだと思える成果が欲しいんじゃないかなぁ。
李氏:
確かにそうか。
スタッフの皆に対しては,自分からよくやったとか,でかしたとか,まぁ褒めたりするわけですけど,それを僕に言う人いないもん。
Kazuhisa:
まぁ誰も僕らには言ってくれないよね(笑)。どんなに稼いでも。
李氏:
で,皆さんが仕事でへこんだら慰めたりするじゃないですか。でも僕だって結構へこむし,誰が僕のこと慰めてくれるの。
Kazuhisa:
確かに僕らも毎日のようにへこむけど,慰めてほしいんですか?
李氏:
いや僕ら一番へこむじゃないですか?
だって部署ごとのやらかしとかも,全部見ちゃうわけですから。でも例えば5つの部署があったとして,それぞれ1個やらかしたとして,普通の社員なら1個だけですよへこむの。でも僕は5件へこむんです。
Kazuhisa:
それは,意外と気付かれない中小企業の偉い人あるあるです。
―――なるほど確かに……
李氏:
頻度がとにかく高いですから。
Kazuhisa:
結局各所の問題を全部吸収するわけで。
李氏:
そうそう。
それで先の話に戻って,僕らだって疑問も持つし,へこむ。
Kazuhisa:
でも誰もそれを聞いてくれない。……まぁ社員に話せるようなことはあんまりないけどね。
李氏:
そうね。例えば社員さんの仕事に対する悩み相談とか,話したり調整したりできるんですよ,いくらでも。でも自分を調整してくれる人間はいないから……。
Kazuhisa:
たまに本当につらいよね(笑)。
―――私たちはとても助かってます
Kazuhisa:
僕らがもらってる高めのギャラは,きっと「それも含めてがんばれ」っていうことなんだけど,なんかちょっと納得がいかない。とくに僕も現場出身なので,ほんとつまんないですよね。
李氏:
わかるー。
Kazuhisa:
自分は一体何に貢献してるんだろう?
李氏:
さっきも言ったけど,5,6人の時,マーケティングのプランを代理店と一緒に作って,直後に新しい面接やって,運営のローカライズの仕事も手伝って,時間の合間にカスタマーサポートの仕事もやって,毎日朝から23時ごろまでやってたのが一番楽しかった。
Kazuhisa:
常にモチベーションMAX。
李氏:
そこまでランニングコストもデカくはないし,まあまあの売り上げなら全然食っていけて,なんか一番安心感がありましたよね。
Kazuhisa:
変なプレッシャーもないしね。
李氏:
一番楽しかったー……。
Kazuhisa:
たぶん僕らはそれに飢えてるんですよ。
李氏:
周りからはどう見られてるんだろう?
Kazuhisa:
毎日何してるんだか分かんないけど,ヒマそうでいいなって思われてるんじゃないかな(笑)。
李氏:
まあ,そうだと思いますね。
Kazuhisa:
なんなら親会社もそう思ってるかもしれない。
李氏:
それはひでえ(笑)。
Kazuhisa:
いやいや,あり得なくもない気が……。
李氏:
たぶん岡田さんだって,書いたけど出してない原稿とかいっぱいあるでしょう?
Kazuhisa:
そりゃもう,ありますね。
李氏:
我々もそう。いっぱい仕込んでるけど,結果的に世の中に出してないものも,いっぱいあるんですよ。でも結局見える部分の仕事の量は,(両手を狭めて)これぐらいしかないじゃないですか。でも実際は(両手を広げて)ここまでやってるんですよ。
Kazuhisa:
そりゃそうですね。仕事が10割,表に出るわけないし。
李氏:
なのでもしかしたら,外野から見れば楽に稼いでるな,と思われてるかもしれない。でもいろんなことがあって,やってることの6割とか7割ぐらいのものは表に出ないんですよ。
Kazuhisa:
あれ,そんなにあるのか……。
李氏:
少なくとも半分くらいは絶対あると思いますね。なので,そこまで気軽じゃないわけですよ。
Kazuhisa:
でも,そうは見られない。
李氏:
なんか新車のBMW乗って出社して(笑)。
Kazuhisa:
いい生活してんなおい,くらいの。
まぁ「いい生活」しているのはいいことだと思いますよ。社長がいい生活してない会社なんて,社員さんになんの夢もないでしょう?
Kazuhisa:
まぁきっと悲しくなっちゃうよね。社長が「iPhone買い替えようかなどうしようかな」とか迷ってる会社,イヤでしょう?
李氏:
そうそう。とか言いながら,僕は毎年やってたPixelの乗り換えを迷ってるけど。最近のPixelはあんまワクワクさせてくれないっすね……。
Kazuhisa:
あれ,そうなのね(笑)。
李氏:
……っていうかさ,結局何一つシナリオ通りにしゃべってないけど,いいのこれホントに。
―――いやでもだいぶ面白い話が(笑)
Kazuhisa:
あそこに次のカンペが出てますよ。
李氏:
どれどれ……「何かムカついたことはありますか」……これ聞いちゃうの?
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