インタビュー
[インタビュー]社長のボヤキ最終回+総集編。Yostarと4Gamerで,6回分ダラダラぼやいてみる
第2期 ちょっとだけ続けてみる
李氏:
けど,友達とかで普通の企業に普通に就職する人を見て,俺何やってるんだろうって思ったことなかったですか?
Kazuhisa:
あんまりなかったかなぁ……普通っぽい仕事はしたくなかったし。
李氏:
それならいいんだけど。
就職話でいまでも印象に残ってるのが,アズレンが2017年当時にまぁまぁヒットして,求人とか出来るようになって経理の募集をかけたときですね。
Kazuhisa:
はいはい。
李氏:
その時のエン・ジャパンさんのコメントに「いま社長がやっている記帳業務の引継ぎ」とか書いてあるわけですよ。で,とある掲示板の住民のツッコミが「この会社どんだけ零細なんだ」と(笑)。いまでもよく覚えてます。※
※2019年当時のエン転職のページがまだ残っていた。「当社の特徴は、少数精鋭で社内メンバーとの距離が近いこと。特に経理は代表とも密にコミュニケーションを取っています。現在、社内にいる経理は部長1名のみ。そのため、経営に関わる提案なども自由に発言できます。また、メンバーはゲームやアニメ好きばかり。和気あいあいと仕事しています。」とのことで,普通によさそうなんだけど……。
Kazuhisa:
まぁ確かに僕も記帳業務はしたことないかもしれない(笑)。でもそんなもんですよねえ? 大会社の中にいるわけじゃないんだし,繰り返しだけど社長なんて「万能の雑用係」だし。
李氏:
そうそう。そんなもんですよ。
Kazuhisa:
僕も,4Gamerが20人超えるくらいまで何でもやってたし。社長とは名ばかりで,原稿は書くし取材は行くし,全員分の原稿料のチェックはするし,写真は整理するし,イベントのときだってホテルの手配はするし全員分の飛行機の手配はするし,社内のNASの設定はするし,メーリングリストの設定だって自分でまとめてた。
今うち会社全体で50人くらいだけど,これぐらいが一番大変で面倒かもしれないですね,管理的には。大きくなく,かといって小さくもなく。一人で見られる範囲は超えてるけど,かといってチームをキッチリ分けるほどかというと,そうでもなく……。
李氏:
あーそれね(笑)。もうこれはお互い何回か話したネタで,この対談だからあえて言うけど,自分たちはもう50人突破したんで,諦めてます。「会社組織」にするしかない。もう200人近くになってるから,いいや。
Kazuhisa:
そこまで行けばねえ……。
李氏:
どうせ全員面談もできるわけないし。
Kazuhisa:
もう無理ですね。
李氏:
50人のころはまだギリギリできてた……かな? でもそれ超えたら面談しきれないので,結局部署のリーダーに任せるよりほかない。
Kazuhisa:
いや50でも実質無理ですよ。ほかの業務が何もできなくなる。4Gamerも,2人から始めていま会社は50人くらいになってるのに,なぜだか昔より今のほうが大変で忙しいんですよねえ。現場仕事から手が離れていくので,社長になったらちょっとは楽になるものかと……。
李氏:
分かります。自分も「大変」で。毎年順調にタイトルを増やしてるじゃないですか。スマホゲームって結構サーバーとかの問題でやらかすことが多いんだけど,大体そういうのって深夜まで続いて。それが1本しかなかったころは1本だけ心配すればよかったけど,それが5本だとしたら単純に5倍なんですね。
Kazuhisa:
確かに。
李氏:
すごい増えてる。去年もちょっとやらかしちゃったんだけど,運営のスタッフさんと,寝ずに朝の6時ごろまでなんか色々な方法を試したり,開発とコミュニケーションを取りながらあれこれやったりして。アズレンのときはまだ若かったんですよ。30歳ちょいだったし。でもいま35歳だから,もう体が持たない。
Kazuhisa:
いや,まだいけるでしょう?
李氏:
さすがにもう徹夜はちょっときついかな。
Kazuhisa:
徹夜は確かにきついけど,でもまだ35でしょう? 35歳って僕4Gamer立ち上げてから5年……いやあ結構無茶してた気がする。
李氏:
いやでも1日徹夜したあとはさ……。
Kazuhisa:
あ,2日連続はダメですよ?
李氏:
3日くらい使わないともとに戻らないんだよね。
Kazuhisa:
(胸を指して)このへんがバクバクいうんですよね。
李氏:
そう。心臓の鼓動が,自分でも聞こえる。
Kazuhisa:
うん,やばいのを自覚しますねあれは。
僕らの仕事だと,そういう「やばいとき」って,だいたいロサンゼルスのE3とかドイツのgamescomとか,海外ばっかり。せめて倒れるなら日本がいい……。
■ちょっと儲かるサークルみたいな感覚のときが一番幸せだった
李氏:
ていうかそもそもですね,社長っていう肩書きはみんな同じだけど,規模によって社長の役割って全然違うじゃないですか。
Kazuhisa:
確かにそうですね。
でしょう? いまウチもまぁまぁ会社大きくなったし,僕は割といろんな段階の社長を体験したつもりです。
Kazuhisa:
で,どの段階が一番良かったですか?
李氏:
5,6人ぐらいのときですね。
Kazuhisa:
話が戻ってる(笑)。
李氏:
一番楽しい時期は,5,6人の時代しかない。基本,仲間の集まりみたいなものじゃないですか。友達の起業メンバーみたいな。
Kazuhisa:
そうそう。
李氏:
で1週間くらいすごい頑張って,売り上げを見て。あ,今週頑張った! ってなったら秋葉原のロイヤルホスト行って,ご褒美として2000円ぐらいのセットを食べて,そんで解散する。そういうのが一番幸せだった。
Kazuhisa:
いやあ……いいですね。すごく分かりますそれ。
ーーーなんかすごくいい話です
Kazuhisa:
5,6人のころって,呆れるくらい忙しいし土日なんてあったもんじゃないけど,一番楽しいときですよね。
李氏:
そうそう! いろんなことやらなきゃいけない代わりに,いろんなこと吸収できるし。メンバーの意見も,一通り合わせられるじゃないですか。みんなの知恵が,最大限の効果を発揮できるタイミングのような気がします。
Kazuhisa:
確かにそういう側面もありますねえ。全員の知恵をちゃんと出し切ったうえでいろんなことが決まったり。
李氏:
売り上げ規模もそこまで大きくないし,ストレスもないし。なんかね,ちょっと儲かるサークルみたいな感覚のときが一番幸せだった。
Kazuhisa:
そうねー楽しい日々。やっぱそのへんは仕事は違っても同じなんですね。確かに10人くらいまでめっちゃ楽しかった。
李氏:
そう! ほんとそうです。
自分が前職を辞めるきっかけはそういう絡みだったんですけど,その時ヒットタイトルが出て,売上がちょっとこう……桁が違ってきた。数字見てて怖かったんですよそのとき。新しい人も次々入ってきて,そのときはもう15,6人ぐらいになってた。
Kazuhisa:
数字が怖くなってくる感覚はちょっと分かります。最近数字の大きさに慣れちゃってる自分が怖い。
李氏:
ね。いや,僕の器じゃこのメンバーは管理しきれないぞ,と(笑)。じゃあもう辞めるわ……と,色々葛藤の末に辞めたんです。見方によっては逃げたようにも見えると思いますね。それで,Yostarでまた5,6人のチームからスタートして(笑)。
Kazuhisa:
楽しい時期をもう一度。
李氏:
そうそう。ああいう状態ほんとに,最高でした。とんでもなく忙しいんだけど,一日が過ぎるのが早いから,充実してます。楽しいことばかりだし。
Kazuhisa:
すごく分かります。22年前に4Gamerを立ち上げたときって,物理的な「サーバー」を見たことがなかったんですよ。まぁ,あのころにサーバーを見たことある一般人ってそんなにいないと思うけど。
李氏:
そうね(笑)。クラウドじゃなくて,完全に物理でしょ?
Kazuhisa:
そう。ラックに入れるやつ。
李氏:
そうそう,ラック。なんか横長の変な薄いやつだ。
Kazuhisa:
4Gamerは最初ホントに「会社の事業」ではなかったので,直属の上司は存在を認めてはくれていたけど―――というかむしろ応援してくれてたけど―――その代わり金は出なかったんですよね,当初。全部自分で揃えなさいと。
まぁそれは仕方ないかと思ったので,とりあえず揃えることにして,何から買ってみようかと思ったときに,最初に思い立ったのがサーバー。Webサイトをやるんだからサーバーはたぶんなきゃダメだよね? みたいな(笑)。
李氏:
その当時はそんな感じだったのか……。
Kazuhisa:
というわけで買ったんだけど,なんか平べったい見たことのない変なやつが送られてきたわけですよ。これどうやって使うんだろう? みたいな。
李氏:
OSもWindowsじゃないですしね。
Kazuhisa:
そう。そこでLinuxをちょっとだけ勉強して。いまでもなんとなく覚えてるし基本の基本くらいは分かってるのですごく助かってます。ちなみにそのときは,社内の(ソフトバンクの)システム担当の先輩にこっそり連絡して,「この平べったいやつどうやって使うんですか?」「持ってこい,なんとかしてやるから」ってなりました。
李氏:
いい環境(笑)。
Kazuhisa:
20年以上前のソフトバンクって,それなりの規模だったのに,なんかまだイケイケ感のある頭のおかしいベンチャー企業だったので,すごく楽しかったですね。今でもそう……なのかな。
李氏:
今でもきっと……(笑)。
Kazuhisa:
たいがいのことは怒られなかったし,たいがいのことは社内の誰かがなんとかしてくれました。
李氏:
でもそういうプロセスがすごく楽しいわけさ。
Kazuhisa:
そりゃもう。
■どんなに偉そうなこと言ってても会社を潰したら負け
李氏:
それで,会社を軌道に乗せたら……儲かる仕組みまで作り上げて軌道に乗せたら,どんどん現場から離れていって……。
Kazuhisa:
僕もそうだけど,たぶん李さんも,会社を大きくしたいタイプじゃないでしょう?
李氏:
じゃないですよ!
Kazuhisa:
大きくなればなるほど,面倒が増えるし,だんだん仕事がつまんなくなってくるし。
ただ,僕も結構スタッフ達にも言ってあるんですが,この業界全体が右肩上がりじゃない限り,簡単に落ちていくから,行けるところまで行くしかない。ある程度の規模になる状態の前で落ちたら,会社を維持すること自体すらできないわけだから。マジで丁か半しかない世界ですね。
Kazuhisa:
でもきっといまはあれでしょ,気分的には「信長の野望であと九州が残ってるだけ」みたいな状態。
李氏:
いやいやいや(笑),全然そうじゃないです。だって最近は,業界のバトルが激しいじゃないですか。強いところもバンバン乗り込んできたし,スマホゲームも5,6年前とは比較にならないですよ。
Kazuhisa:
まぁ確かにそうですね。
李氏:
昔は,1枚絵で出してもまあ……月数千万円くらいは稼げるような感じでしたけど,さすがにもう,そういう時代はとっくに過ぎてるわけですから。
大体こういうときって,ふんだんにお金とリソースを持ってるところはさらにガンガンいくわけで,我々みたいな中小はやばいんですよね。
Kazuhisa:
確かに定義上は「中小」だけど,Yostarが中小企業って言われるとちょっとなんか違和感がある。
李氏:
中小企業ですよ,定義的には,従業員数も資本金も。
Kazuhisa:
まあでも,ゲームの開発費って上がりすぎてる気がしますよね。大手メーカーさんはもちろん問題ないと思うけど,一体誰が最新コンソールの開発費をほいほい出せるんだろう。
李氏:
そう!
Kazuhisa:
最新のゲーム機「らしい」それなりの大作をゼロから作り上げようと思ったら,うーん…… ざっくり20億くらいかかるとして,そしたらもう結構な規模の会社でも年間3,4本くらいしか作れない気がする。世界に売れるならいいんだけど,日本市場だけで見るとリクープできるかどうか微妙だし。
もちろん大きい会社の多くは,いまではゲームだけで売り上げを作ってるわけじゃないんだろうけど,いくらなんでも昨今ますます難しくなってるのではという気が。
李氏:
いやもう……厳しいですね。しかもこれ,購入するユーザーさんから見た8800円のソフトは,実際デベロッパーのところに入る金額はせいぜい5割くらいでしょう? きっと。
Kazuhisa:
流通おろしでたぶん6割くらいかな?
李氏:
じゃあ6割としましょう。
Kazuhisa:
9000円の6割として5400円。
李氏:
はいもう……厳しいじゃないですか。1万本売れても5400万円。うへえ。
Kazuhisa:
10万本売れて5億4000万円。うーん……。
ーーーなんかちょっと厳しそうですね……
Kazuhisa:
だから数字の話だけで突き詰めていくと,日本市場でコンソールゲームってどうなんだろう……っていう話になりがちなんですよね。
李氏:
僕からコメントするのは難しいです。
Kazuhisa:
実際にそう考えてる業界人は少なからずいるでしょうし,なんとなくそういう方向に動いている会社も多い気はしてます。でもこれはいいとか悪いとかじゃなくて,会社にかかる負荷の問題ですからねえ……。
李氏:
そうですね。もうそれは現実の問題として,ゲーム業界のビジネス環境はそういう収益モデルになってるわけです。もうこれは「会社を引っ張っていく」みたいなイメージは僕自身はずっと持ってないですね。とにかく会社を存続させるために頑張る。
Kazuhisa:
それそれ! ホントそれです。
李氏:
でしょう? ものすごく成長して上場したりとか,そういうことは一切考えてない。明日会社が消えたらね,困るから。スタッフの皆さんにも迷惑かかるし。
Kazuhisa:
それですよねえ,社員の生活がかかってる。あんまり分かってもらえないので,ちょっと同じ意見の人が聞けて嬉しい。
李氏:
いや,分かってもらう必要はないと思います。
Kazuhisa:
もちろんそうなんですけど……なんかこう,ちょっと分かってほしくないですか?(笑)。ウチも,明日から急に広告が全部ゼロになっても,社員全員に数年は給料を払い続けられるくらいのキャッシュは貯まったわけです。気分的にはちょっと一段落。もちろんスタッフはそんなことどうでもいいし関係ないだろうけど,ほら,僕ら経営陣はそれこそが仕事だから。
李氏:
そうそう,そうね。
Kazuhisa:
とにかく僕らは,どんなに偉そうなこと言ってても,夢と希望を語っても,ご大層なオフィスを構えても,会社を潰したら負けです。
李氏:
そうですよね。まあ上場もしないし,資金調達する手段も少ないし,自分達でなんとかしないと。
Kazuhisa:
いやでも現実問題,融資の必要ないですけど……。
李氏:
そう。使い道を考えないと(笑)。
Kazuhisa:
使い道がなんにもないから,融資受けたことないんですよね。受けておけばよかったとちょっと後悔。
李氏:
本当に明確なビジョンがあったうえで資金の使い道も想定できているなら,上場とかも正しい選択だと思います。
Kazuhisa:
でも「とりあえず上場だ!」みたいな会社多い気がしますよマジで。
李氏:
単純に「意識」が高くて,とりあえず「融資を受けろー,上場だー」みたいなことなら,まあ実行する気持ちすらないですね。意識低いので(笑)。
Kazuhisa:
同じくです(笑)。っていうかメディアは絶対上場しないほうがいいと思ってるし。
李氏:
株主からああしろこうしろ言われてもね。
Kazuhisa:
そう。だから逆に,アイティメディアの大槻社長※はある意味リスペクトしてます。ソフトバンクにいた時代が重なってるので,昔から「変な人だなー」とは思ってたけど(笑)。
※筆者(Kazuhisa)は,大槻氏がソフトバンクの出版事業部広告局長だったころに同社で雑誌を作っていたが,無理難題を,声を荒げることなく,決して諦めず,粘り強くぎゅうぎゅうと押し込んでくるそのスタイルが編集部の恐怖であったことを付しておく。
李氏:
幸いウチも,そういううるさいことあんまり言わない親会社だけど。
……ていうかこの2年間,本社に出張に出てなくて,ちょっと落ち込みます。
Kazuhisa:
海外取材もないし僕らも落ち込んでます。ていうか,なんで李さんが落ち込むの? 親会社にそんなに行きたいの?
李氏:
いやいや親会社じゃなくて上海に(笑)。もう……どれくらいかな。2年……2年2か月くらい戻ってないですね(※対談は2022年3月に行われてる)。
そういえば,社長というクラスで僕個人が一番嬉しいのは,上海に行きたい放題っていうところなんだよね。行きたい時に行ける!
Kazuhisa:
言いたいことは分かるけど,行きたい放題って何(笑)。
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