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[GDC 2013]世界的ヒットメーカーPixar流ストーリーの作り方「The 5 Key Plot Points」とはなにか。映画における物語のポイント
すべてのゲームに必ずしもあるわけではないが,ほとんどのゲームに用意されているのがストーリーだ。お気に入りのゲームの好きなポイントとしてストーリーを挙げる人もいるし,「Game Developers Choice Awards」(関連記事)のようなゲーム賞にも,ストーリーの出来を表彰する部門がある。ストーリーは,ゲームを構成する要素の中でも重要な存在といえるだろう。
Pixarといえば,「トイ・ストーリー」や「ウォーリー」などのアニメーション作品で知られる映像制作会社だ。興行的な成功だけでなく,年齢や性別を問わず,多くの人達が楽しめるストーリーが評価されているものも多い。そんなヒットメーカーで実際に現場に立つ人が講演をするとあって,会場は多くのゲーム開発者達であふれていた。
ゲームとアニメーション(映画)ではそもそも作り方が異なるので,あまり参考にならないのではないか,などと思っていたが,Luhn氏もそんなことは百も承知で,「いいストーリーは,いい映画,いいゲーム,そしていいおもちゃを作る」という力強い言葉で講演を開始した。
氏が考えるいいストーリーには,以下のように5つのキープロットポイントがあるという。
・Inciting Incident
・First Act Break
・Midpoint
・Second Act Break
・Climax
ちなみに,プロットポイントとは,ストーリーの節目にあたるもので,視聴者/プレイヤーが予測していない方向に話を持っていくものだという。プロットポイントにより,ストーリーが動き,興味深い展開をしていくそうだ。
だが,ストーリーに5つのプロットポイントを設ける前に必要なのがイントロダクション(導入)だ。ここで登場人物の設定や関係,背景となるストーリーなどを視聴者/プレイヤーに植え付けておく。
Luhn氏はPixarの映画「ファインディング・ニモ」を例に挙げ,イントロダクションを説明した。
ファインディング・ニモの導入部分は,ニモの父親であるマーリンとその奥さんが家を見つけ,卵の孵化を待つところからスタートする。そこにどう猛な魚が現れて,奥さんを殺してしまう。そしてマーリンは一つだけ残った卵(ニモ)とどうにか難を逃れる。こういった経験によってマーリンは絶対にニモを離さないことを決意するわけだ。ほんの数分のシーンだが,キャラクターの関係性が分かるだけでなく,マーリンがニモを溺愛する理由も描かれており,その後の展開に説得力が増すという。
次に説明されたのは,Inciting Incidentだ。これは直訳すると誘発事件となり,ファインディング・ニモで言うところの,ニモがダイバーに誘拐されてしまうポイントを指している。ここでニモが連れて行かれなければ,ただの日常になってしまい,物語は成り立たない。ニモがいなくなることでストーリーが動きだすのだ。
昔のゲームだと,いきなりお姫様がさらわれるシーンなどで始まるものもあったが,それがこのInciting Incidentの分かりやすい例かもしれない。なんだか分からないけど,とりあえず助けにいく感が強かったのは,ここで言うイントロダクションがなかったからだろう。
次のポイントはFirst Act Breakだ。ものすごく日本語にしづらいが,あえて訳すなら1幕めの終了といったところだろうか。演劇中に幕が下りれば,それは場面を変えるための準備なわけだが,映画やゲームだと一瞬ですむのであまり意識をしないかもしれない。つまりは,最初に舞台が変わるポイントを指しているわけだ。ファインディング・ニモでは,マーリンがニモを探しにいく決断をして,仲間のドリーと一緒に旅立つ場面。つまり,主人公の状況が変わり,目的が設定されるのだ。ちなみにストーリー上の新しい目標というのは,新しい障害とも言い換えられる。主人公は新たな障害を乗り越えるために行動を起こすのだ。
Midpointは,まさに真ん中のことを指している。Pixarの映画では,上映時間のちょうど半分に設定されていて,ここで主人公に新たな目標ができる。Luhn氏によると,どのPixar作品も必ず半分のところで主人公の目的が変わっているのだという。これはいわゆる中だるみを避ける目的もある。
続いて設定されるのは,Second Act Break。2幕めの終了となり,主人公には大きな選択が求められるのだという。ファインディング・ニモだと,マーリンとドリーが鯨に食べられそうになり,マーリンがドリーを必死に支え,飲み込まれるのをなんとか阻止する場面だ。
ここでドリーは,いっそ鯨に飲み込まれてしまおうという無謀とも思える提案をしてくる。当然マーリンは「そんなことできるか」と抵抗するのだが,最終的にはドリーの提案に従う。結局,飲み込まれたと思ったら潮吹きによって噴気孔から表に出されてめでたし,めでたしという展開になる。もちろん最終目的は達していないが,小さなゴールがあることで,視聴者/プレイヤーは安心感を得る。また,どっちを選択するのかというところで,ドキドキもできるわけだ。
最後はClimax(クライマックス)だ。ほとんど日本語のように使われる言葉だが,要は物語が一番盛り上がるポイントのことで,これまでにストーリー上に張られていた伏線が一気に回収される。ファインディング・ニモでは,マーリンがカモメや人間達の妨害を避け,なんとかニモに再会し,また海に戻っていくシークエンスがClimaxにあたる。さらに,再会したところで一旦安心させておいて,ドリーが網にかかってしまい,それをニモが助けに行くというシーンを足すことで,もう一押し視聴者に追い打ちをかける。最後に緩急をつけることで,盛り上がりを印象深いものにしているという。
以上が,ファインディング・ニモを例に挙げた,The 5 Key Plot Pointsの説明だ。Pixarではストーリーを作るうえでThe 5 Key Plot Pointsを常に意識しているという。映画というある程度決まった時間の中で物語を見せる媒体の場合,こういったポイントを意識し,それぞれに到達するまでにかかる時間を計算して対応するということなのだろう。限界があるとはいえ,作り手がある程度自由に時間を使えるゲーム作りにおいては,そのまま取り入れることは難しい。だが,別の業界の話も聞き,良いものは取り入れる,そういった試みへのヒントが得られるのも,GDCの利点といえる。今後も積極的に他業種からの講演者を招き,より良いゲーム作りに生かしてほしいものだ。
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