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【岩田 聡氏 追悼企画】岩田さんは最後の最後まで“問題解決”に取り組んだエンジニアだった。「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」特別編
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印刷2015/12/29 00:05

インタビュー

【岩田 聡氏 追悼企画】岩田さんは最後の最後まで“問題解決”に取り組んだエンジニアだった。「ゲーマーはもっと経営者を目指すべき!」特別編

経営もプログラミングの発想だった?


4Gamer:
 岩田さんに関するお話で毎回不思議だなと思うのは,そのコミュニケーション能力の高さなんです。頭の回転が速すぎる理系のエンジニアが,周囲から「何を言っているのか分からない」と疎まれたりするみたいなのってお約束的な話じゃないですか。そういう部分も岩田さんがゲーム業界で学んだことなのかなと……。

田中氏:
 いやいや,最初から普通以上のコミュニケーションは取ってましたし。

石原氏:
 岩田さんは,私が知る中で最もコミュニケーション能力の高いプログラマーですよ。しかも,理系の人でないと分からなそうな話に対しても,仕組みから本当にわかりやすく説明してくれるんです。その結果,文系スタッフまでを含めたチームが一つに固まっていくという。マネジメントから開発環境の整備まで含めて,全体をコーディネートできる人でした。

4Gamer:
 それはやはり経営者の資質みたいなものなんですかね?

三津原氏:
 いやぁ。それでも私の中の岩田さんって,ずっとプログラマーのイメージですよ。だって,経営者になってからも考えの組み立て方が,全部プログラマーのそれでしたし。

4Gamer:
 それはどういった場面で感じられましたか?

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三津原氏:
 まず,問題の解決は自分がやるのが一番効率が良いという発想が,根底にあるんです(笑)。

田中氏:
 それ! それ!

一同:
 (笑)。

三津原氏:
 流れがそれこそゲームの開発プロジェクトの進め方と一緒なんですよ。問題がどこにあって,それを解決するにはどうすればいいかを,プログラマーがプロジェクトを進めるときの基本的な手順で,経営に関してもすごく着実に落とし込んでいく。

川上氏:
 あまり勘で動くことがなかった人なんじゃないか,と想像しているんですよ。あらゆる行動に理由があったような気がしますね。

三津原氏:
 ああ,そうですね。そういう姿をずっと見てきたので,彼の中ではプログラムもプロジェクトも経営も,何となく一緒なんじゃないのかって見えてしまうんです。

田中氏:
 あの,スタッフ個人の徹底したメンタル管理もそういう発想ですよね。プロジェクトのときと一緒で,まずはしっかりとヒアリングをするわけですよ。それを岩田さんは社長になったときに,任天堂でやっていた。百人くらいの開発者に対して,それを何回も。

石原氏:
 いつも,岩田さんはみんなと話していましたよね。

川上氏:
 社員の生活まで含めて開発環境を構築するのが「最適解」だと考えておられたんでしょう。

三津原氏:
 そうだと思いますよ。あれってそもそも,ハル研の社長になられたときに,全員と面談したことが始まりなんです。やってみたら驚くくらい色々なことがわかったらしくて,「あれはメリットしかない」とおっしゃっていた。そこから毎回やるようになったんです。こちらから見ていると本当に大変そうに見えるんですけど,長い人だと5時間くらいかかってましたから。

川上氏:
 どこにそんな時間があったのか(笑)。

4Gamer:
面接時の岩田氏を真似する三津原氏。実は「MOTHER2」にもハッピーハッピー教なるものが登場する
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 逸話としては聞いたことがあったのですが。本当にそこまでされていたんですね。

三津原氏:
 ちなみに,ハル研では企業理念に「お客さまと社員が共にハッピーになる」というものがあるので,面談に呼ばれると最初に,岩田さんがグイッと「ハッピーですか?」と,いきなり言ってくるんですよ(笑)

一同:
 (笑)。

三津原氏:
 社内では冗談で“ハッピーハッピー教団”なんて言われてましたよね(笑)。


「直感」だった山内時代と「科学」だった岩田時代


石原氏:
 まあ,そういう岩田さんを見ていると,実に自分はイイカゲンな人間だなあ,とは思ってしまいますよね。そもそも岩田さんって,私みたいに人間関係に「ケミストリー」を当てはめたりしませんし。

4Gamer:
 ケミストリー?

石原氏:
 「人には相性がある」みたいなことです。岩田さんは絶対そういうことを言わないんですよ。お互いが正反対のことを大事にしているような場合であっても,「では,そういう人がうまくいく方法を考えましょう」と進めるんですよ。

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川上氏:
 そこでもシミュレーションして,可能性を探っていくんですね。

石原氏:
 そうです。だから,「志向性が違えば衝突するのは当たり前です。それをわざわざぶつけさせるやり方を取るのが悪い」みたいに発想して,一つ一つ問題を解決していくんですよ。

川上氏:
 「混ぜたら危険」という話でもなくて,あくまでも「衝突しない共存を考える」ということなんですね。

4Gamer:
 社長ということなら山内前社長は,逆にとてつもない直感派だったわけですよね。お二人のコンビは,皆さんから見てどういうものでしたか?

石原氏:
 そうですねぇ。なんか山内さんの時代と岩田さんの時代を比較すると,山内さんの時代は直感というか錬金術に近い感じで,岩田さんの時代はサイエンスという感じがしますね。まあ,同じ会社でそれが両立しているのがとても不思議なんですが。

一同:
 (笑)。

石原氏:
 岩田さん自身,「私の役割は,山内さんの判断を科学的に説明することです」と話されていましたからね。ポケモンの英語版ローカライズにしても,そもそもは山内さんが強引に言ってきた話でしたし。しかも山内さん,ポケモンを全く遊ばずにあの判断を下していましたからね。

田中氏:
 本当にそのときの「勘」なんですよね。ファミコンの開発スタート時も,当時の業務用から全て撤退して突き進みましたけど,我々のような業務用のチームの社員はただただ,もうビックリですよ。

川上氏:
 でも,その「勘」はちゃんと大正解なんですよね?

石原氏:
 そうなんですけど,ロジカルな理由は聞かせてもらえないんです(笑)。まあ,山内さんに「ええからやれ」なんて言わたら,どうしようもないですし,その方が早いですからね。

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田中氏:
 私が近くで見た山内さんの決断で一番印象に残っているのは,ポケットカメラという商品を作ったときのことですね。
 黄色いケースで出そうと思ったのですが,山内さんは黄色が嫌いだという噂がありました。そこで,ビクビクしながらも何種類か色の案を持って行ったんですけど,山内さんが最終的に選んだのが黄色で,そのときは「ピカチュウの黄色ならええ」と言って通してたんですよ(笑)。公の仕事の中での判断理由がピカチュウの色って,ちょっと笑い話のように思えるかもしれませんけど。
 ただ,こういう緊張感をもった仕事場での「曖昧さ」は,我々からすると山内さんのありがたいところでもあって,逆に岩田さんであれば,もっと論理的で丁寧な説明が必要とされたように思いますね。

石原氏:
 だからこそ,あの二人は最強のコンビだったんですよ。山内さんが米国任天堂に出す指示も実に直感的なものでした。でも,それを岩田さんがちゃんと科学の言葉に直して,やり取りしたものを持ち帰ってくる。それを粘り強く繰り返されていました。山内さんが後継者を決めた理由は聞かせてもらえませんでしたけど,経緯で大きかったのはそこだったように私は思っていますね。

川上氏:
 噂では,岩田さんがハル研の社長を引き受けられることを条件に,山内さんが支援したという話もありますよね。その辺の事情って実際はどうだったのですか?

三津原氏:
 いやあ……さすがにヒラ社員でしたから,そういう細かい事情は把握していません。私としては,ある日突然岩田さんがエントランスにみんなを集めて「社長をやります」と宣言したのを見ただけなんですよ。当時は岩田さんが,「自分がやるしかないと決めたんだろう」と思っていたのですが,そこに至る流れは今でもよく分からないままです。ただ,ハル研が経営に困ったときに,任天堂から開発機材を貸していただけたことは事実です。でも,私もそういう一般的な推測しかできないような話なんですよ。

4Gamer:
 社員としては,そんな状況でも「岩田さんなら大丈夫だ!」みたいな?

三津原氏:
 いや,むしろ岩田さんが忙しすぎて死んでしまうのではないか,という心配のほうが(笑)。

石原氏:
 ああ……。当時からそうだったんですね。岩田さんの周囲にいる人はみんな,彼の常軌を逸した忙しさを見て心配していました。
 特に任天堂の社長になってからは,任天堂のグローバルプレジデントとして,欧州やシアトルを回るといったことを,毎月繰り返しながら,一方では,現場の開発者とも面談をしてますから。その上,新卒のリクルーティングでは岩田さんご自身が会社説明会を開催したりする。ちょっと,普通に考えの及ぶ仕事量ではなかったですね。

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三津原氏:
 決算説明会の原稿もすべてご自分で書かれていましたから。

川上氏:
 え!?

4Gamer:
 え? 法務とか経営企画室とか,そういうところではないんですか。

石原氏:
 あれは岩田さんですよ。会社説明会も決算説明会もプレゼンも,全部岩田さんが自分で書かれていて,その内容も頭のなかに入っているんです。
 自分も,質疑応答ではFAQを覚えておこうとするけど,全ては無理なんです。今日も答弁しながら(※),「ああ,きっと岩田さんならもっとうまくできたんだろうなあ」なんて考えていました。

※この対談は,Ingressとポケットモンスターの共同プロジェクト「Pokemon GO」のメディア向け発表会直後に,控室で行われた。同作は未来に向けてポケモンで何ができるのかを岩田氏が大変乗り気で考え,進めていた,肝入りのプロジェクトであったことを付記しておきたい。

三津原氏:
 岩田さんの場合は,ものごとを「覚えている」んじゃなくて,整理して理解した上で「腹の底に落としている」感じなんですよ。だから,常に自分の言葉として出ているんだろうと思います。

川上氏:
 岩田さんって,文章もしゃべった内容も完璧ですよね。普通の人は書き起こしてみると支離滅裂だったりするんですけど,岩田さんの話って,まるで文法チェッカーが入っているんじゃないかって思えるほど内容が整理されている。

石原氏:
 文章もあっという間に書くんですよね。驚くほど速い。プログラムと一緒なんですね。


ジャンプを読んでいないと怒られる


4Gamer:
 しかし,ここまでずっと岩田さんを振り返ってきましたが,プライベートの趣味だとかの話は一切出てないですね。

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石原氏田中氏三津原氏
 そりゃ,プログラムでしょう。

4Gamer:
 やっぱりそうなるんですね(笑)。

石原氏:
 卓球とかは一緒にしたことがあるけど……でも,岩田さんとは趣味の話なんてしないままだったなあ。確かに,仕事の話ばかりですよ。
 ただ,ご家族の話はよく聞きましたね。アニメ「ポケットモンスター アドバンスジェネレーション」から,ハルカの弟(マサト)が出てくるのですが,あれは岩田さんの息子さんがモデルですし。マサト君がかけている黒縁メガネは,当時の岩田さんがかけていたものです。ああいうキャラは岩田さんとの会話から生まれたものですが……って,やっぱり仕事の話だな,これも(苦笑)。

一同:
 (笑)

川上氏:
 そうですね。すべてが仕事に繋がっている。ただ,あまりオタクという印象はないですよね。三津原さんは,岩田さんと一緒にゲームとかをされたことはあるんですか?

三津原氏:
 あります。「MOTHER2」の開発で忙しかった頃,休みの日に出社したときなんかは,夜になると二人で決まったファミレスにご飯に行っていたんです。その後は隣にあるゲームセンターに何も言わずに寄って,当時流行っていた「デイトナUSA」をマジ勝負で必ず2回やって帰るんです。

川上氏:
 必ず2回(笑)。

三津原氏:
 「社長が訊く」とかを見ていると,本当にたくさんのゲームを中身まで知っていて,プレイされているはずなんです。でも,私の目に映っていた岩田さんは,休日もひたすらプログラミングすることばかりに夢中で,「いったいいつゲームなんてやっているんだろう?」という人でした。

石原氏:
 岩田さんは,やっぱり「ゲームを作る」ことが好きで好きで仕方なかった人なんですよ。ゲームをプレイすることが好きって度合いなら,私は岩田さんに勝てるかもしれない(笑)。

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4Gamer:
 石原さんのゲーマーとしてのエピソードも,どこかでお聞きしたいですね(笑)。それにしても本当に岩田さんは仕事に生きた人だったのかな,という気がします。

川上氏:
 まあ,でも岩田さんは,人生そのものを最適化ゲームとして楽しまれていたんじゃないですかね。

三津原氏:
 趣味と言えるのかどうかはわかりませんが,漫画の話はとてもよくされましたね。ある日突然,岩田さんに「今週のドラゴンボール,どうだった?」と聞かれて,「すいません。読んでないんです」と言ったら,なんかものすごく怒られた。「NARUTOの1話は読んだ?」とか,もう抜き打ちで聞いてくるんですよね。

4Gamer:
 それもやっぱり,仕事として必要だからということですか?

三津原氏:
 まぁ,そうでしょう(笑)。こういうエンターテイメントに関わる業界にいる人間が「週刊少年ジャンプ」さえ読んでいないとは何事だ,という話ではないのかなと。
 ただ,それは別にして,岩田さんは漫画が大変にお好きで,少なくともハル研の頃は,週刊で発売される漫画を一通り読んでいたと思います。高橋留美子さんの「めぞん一刻」がお好きなんですよ。あと,映画の「スタートレック」シリーズも好きでしたね。

4Gamer:
 その二つからコンテンツの好みを読み解くのは,至難の業ですね(笑)。

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田中氏:
 確かに,プログラミングの合間にも漫画はよく読まれてました。読むのも異様に速くてね,こう(※ また実演して)お菓子をバリバリ食べながらパパパって読むんです。

4Gamer:
 お菓子をバリバリ?

田中氏:
 岩田さんは,お菓子が本当にお好きで。ウチで役員をやっていたときも,とにかく冷蔵庫を開けたり閉めたりされて……。しかも,手づかみであの口いっぱいに麦チョコとかを頬張るんですね。

一同:
 (笑)

川上氏:
 いい話ですね。エンジニアにとっては糖分の供給って大変に重要な問題ですからね(笑)。

三津原氏:
 「スマブラX」を開発していたときも,岩田さんが視察に来るじゃないですか。任天堂の社員の方が「社長が来る! 何かお出ししないと!」と慌てているから,私が「麦チョコを出すといいですよ」と言うと,「麦チョコなんて……」と困惑して。でも,実際に岩田さんが来られて,とても嬉しそうに麦チョコを口に頬張って,パクパク食べている(笑)。

石原氏:
 岩田さん,もう食べるのがほんとうに速くてね。

三津原氏:
 もう一口で,「あむ」と食べるんですよ。最短のアクションでつまんで「あむ」と。

川上氏:
 食べ方も「最適化」されてる(笑)。

三津原氏:
 そんな感じだから,岩田さんの周囲の人は彼のお菓子の好みは把握していました。あのタイプのチョコ菓子なんて,岩田さんがあんまり食べるものだから,私は冗談抜きで世界の生産量の何%かをこの人が食べているんじゃないかと思ってましたから。

川上氏:
 でも,相当に脳が糖分を消費してそうですよね。そもそも,そんなに食べていたのに糖尿病にならなかったのも,やはりすべて脳内で使い切ってたからじゃないのかと(笑)。

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石原氏:
 そういえば,去年の夏に岩田さんが退院する直前,お見舞いに行ったら,奥様が気を利かせてくださって,病室に私と岩田さんの分のケーキを置いてくれたんです。
 私は普段の岩田さんの食べる速度に合わせて一生懸命食べていたのですが,岩田さんのケーキの進みがいつもの10分の1くらいで。岩田さんも「石原さんより食べるのが遅くなっちゃいましたね」なんて言ってくるものだから,本当に物悲しくなってしまってね……。

三津原氏:
 ああ,生前お会いしたときに,岩田さんから「石原さんに嘆かれた」と聞きましたよ。

石原氏:
 でも,あのとき,岩田さんは管から栄養を入れるところから,やっと食べられるところまで来ていたんです。一時期は本当に復活されていて,東京と行き来されるようにもなったから,「ああ,治ったのか」と少し安心していたんですけどね。


最後まで「問題解決」に取り組んだエンジニアの生き様


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川上氏:
 岩田さんの闘病生活というのは,どういうものだったんですか?

三津原氏:
 とりあえず,入院するとやたらと本を読むんです。

石原氏:
 そうそう。

三津原氏:
「MOTHER2」のときにも何かのご病気で入院されたのですが,数学書や物理学の解説本を買ってきてくれとよく頼まれました。

石原氏:
 昔は,技術書ばかり読まれていたんですよ。それが経営者になってからは,一般的なビジネス書,それこそ「ブルーオーシャン戦略」だとか「イノベーションのジレンマ」とかも読むようになって,しかも,そういう本を僕のところにも送りつけてくるんです。

川上氏:
 推薦じゃなくて,いきなり送りつけてくるんですか(笑)。

石原氏:
 ええ。しかも,それぞれの本に丁寧にコメントを付けてくださるんですね。それで僕が,「ありがとうございます」と言いながらも半分くらい読んだあたりで放置していると,「どうでした?」と聞いてくるんです。正直に「すみません」と言うと,「また気に入ったのがあったら送りますね」と淡々としている。もう,僕が読んだかどうかとか関係ないんです(笑)。

三津原氏:
 僕もおみやげに,いつも2,3冊持たされてました。

石原氏:
 ウチの社内でも,やっぱりそういう感じでした。

田中氏:
 でも,彼としては共通の理解ののりしろが出来ることで,自分の意見も伝えやすくなると思っていたんでしょう。

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川上氏:
 そういう意味では,それも「最適化」だったということですかね(笑)。じゃあ,入院生活の日々は,ビジネス書や科学書を読んで過ごされていたという感じなんですかね。

石原氏:
 ああ,いや……医学書ですね。

川上氏:
 え……?

石原氏:
 この話は表には出ていないですよね。実は,岩田さんはご自分の病気が何であるのか,告知を受けて正確に知っていたんです。
 そして,自分で最新の医学書とMacを病室に持ち込んで,自分の病状と今ある解決策を徹底的に学んだんです。それこそ医者より詳しくなるくらい,自分の病気に関して徹底的に研究していたんですね。
 そうして,私なんかが会いに行くと,「この病気で死ぬ確率と生き残る確率はそれぞれこれくらいあって,自分はこの線で行くのが最適解だと思う」と,いつもの問題解決を考えているときの調子で,楽しそうに話すんです。

川上氏:
 岩田さんの病気は相当に難しいものですよね。そのことをわかった上で……。

石原氏:
 ええ,全てわかった上で,まだこういう解決策があるはずだと,ベッドの上でいつもと同じように考え続けていたんです。
 最先端の治療を自分で試せないかと,様々なアイデアを主治医に相談したりもしていたそうです。私の知っている岩田 聡という人物は,そういうときに「人類の未来には,きっとこの病気は簡単に治るものになる。そのために今,自分は何をすればいいのか?」を考えていく人なんですね。彼は本当にエンジニアでしたから。

川上氏:
 ……。

石原氏:
 凄まじかったですよ。日々最新の医学書とネット情報を検索し,主治医をつかまえては議論するんです。岩田さんは自分自身の病気まで含めて,あらゆる「問題解決」について最後まで諦めませんでした。どこまでも前向きで,亡くなる直前まで解決策を考えていたんです。

川上氏:
 本当に人生のすべてが「問題解決」と「最適化」に向けられていた……。

4Gamer:
 最後までエンジニアらしく,問題の「解」を探し続けたんですね。

田中氏:
 そうです……ただ,私の中では岩田さんは「人間を理解したい」という気持ちがとてつもなく激しい人という印象も強くて,それがあれほどの「最適化」に行き着いた理由でもあるように思うんです。

4Gamer:
 それは,どういうことでしょうか?

田中氏:
 一緒に開発していると,岩田さんはとにかく担当者と話すんですよ。そして,その人が何かを発見したり,工夫して何かにたどり着いた話をするのを,本当に嬉しそうに楽しんでいるんです。我々に苦言を言うことも多かったのですが,そういうほかの人への想いは常に頭の中でグルグル回っていた気がしますね。

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三津原氏:
 岩田さんは,とにかく努力を怠る人には厳しいんです。しかも,そこで浅はかな回答を出すと,間髪入れずに見透かして真剣に怒ってくる。だからこっちも,常に必死で考えざるを得ない。……まあ正直,それを「面倒くさいな」と思っていた時期もありますけど(笑)。
 でも,こっちの話をすごく興味を持って聞いてくれるし,岩田さんの方でもいろんな話をしてくれるので,やっぱり楽しくて楽しくて仕方なくなってしまうんです。

田中氏:
 そうでしょう。なにかとてつもなく他者に興味のある人でしたから。

川上氏:
 でも確かに,そうでもなければ全社員と面談をするエネルギーなんて,ちょっと湧いてこない気もしますよね。

石原氏:
 さっき,岩田さんがEudoraをインストールして回ったという話をしましたけど……実は私,最初のうちはよくわからなくて,メールを開かなかったんです(笑)。
 岩田さんは「使っていただいていますか?」とメールを送ってくるんですけど,自分はそれが来ていることも知らない。すると今度は岩田さんが,わざわざ僕のところにやってきて,「石原さん,私のメールが届いてますよ」とおっしゃるんです。さすがに申し訳なくなってしまい,「すみません,ちゃんと返事を書きます」と言うと,岩田さんは「返事を書けば使い方がわかるので,お願いしますね」とキッチリと釘を刺してくるんです。

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4Gamer:
 そこまでの面倒見のよさって,ちょっとできるものではないですよね。

石原氏:
 でも,そういうやり取りを通して,だんだんメールの使い方を覚えるし,使う意味もわかってくるんです。それはいいんですけど,岩田さんはそのたびに「わかってくれて嬉しいです!」とか「素晴らしい!」とか,もう本当に心の底から嬉しそうに返信してくる。――「この人,まるでラブレターを書いているみたいだ!」と思ったんですよね。

一同:
 (爆笑)。

石原氏:
 本当に「わかってくれた! 嬉しい! 好き好き!」って感じなんです(笑)。たぶん,岩田さんにとって「最適化」と「人が好き」ということは繋がっていることだったんですよ。
 周りの人が便利な仕組みを使いこなして進歩していく。それに自分が関与することで前に進んでいる。そんな状況が何より好きだったし,それを実現することもたまらなく好きだった。岩田さんは,それを生き方として実践してきたように思いますね。

川上氏:
 僕にとって,岩田さんは本当に尊敬できる経営者でした。今回,生前の岩田さんのいろいろなお話を聞けて,さらにその思いを強くしました。みなさん,本当にありがとうございました。

石原氏:
 いえいえ。こちらこそ,ありがとうございます。この座談会を通じて,より多くの方に「岩田 聡という人間」のことを知っていただければ嬉しいですね。

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