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[CEDEC 2016]シリアスゲームやゲーミフィケーションデザインの新たな指針? EMCE Frameworkとは何か
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印刷2016/08/25 14:09

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[CEDEC 2016]シリアスゲームやゲーミフィケーションデザインの新たな指針? EMCE Frameworkとは何か

 CEDEC恒例のインタラクティブセッション(ポスター展示)には,今年もピンポイントで野心的なテーマのものが並んでいる。

 全体的にはVR関連が圧倒的に多いのだが,シリアスゲーム系の展示も少なからず存在した。その中に非常に興味深い発表があったので,本稿でレポートしよう。

画像集 No.007のサムネイル画像 / [CEDEC 2016]シリアスゲームやゲーミフィケーションデザインの新たな指針? EMCE Frameworkとは何か


行動習慣を変える「漬け物コレクション」


 今回紹介するのは,神奈川工科大学情報メディア学科の中村隆之特任准教授塩澤拓麻氏大竹聖也氏による「手段目的+原因結果関係に着目したEMCE Framework / 現実問題を解決するゲームの事例『漬け物コレクション』」というセッション。
 かろうじて「漬け物コレクション」のあたりだけ理解できそう,といういかめしさだが,詳しく話を聞いてみると,シリアスゲームやゲーミフィケーションを考えるにあたって,重要な観点が提示されていた。

神奈川工科大学 中村隆之特任准教授(右),塩澤拓麻氏(左)
画像集 No.006のサムネイル画像 / [CEDEC 2016]シリアスゲームやゲーミフィケーションデザインの新たな指針? EMCE Frameworkとは何か

 ここで示されているのは,簡単に言うと「現実世界においてAという行動をすることによって,Bという結果が出ることが分かっている」という関係性をゲームに利用しよう,という考え方だ。むむ,あまり簡単になってない。

 具体的に「漬け物コレクション」で見てみよう。
 「漬け物コレクション」はそもそも,「一人暮らしの人間が,特定の持ち物を部屋の中で行方不明にしない」ためのゲームだ。

 プレイヤーは,家(ゲーム内の家ではなく,現実世界の家)に帰ったら,樽デバイスの上に物(ここでは財布にしよう)などを置く。そうすると「漬け物が漬け込まれ始めた」情報がゲームに伝わる。財布が漬け物石の代わりという感じだ。
 一定時間を経過すると漬け物が漬かったことになり,樽デバイスから財布を取るとゲーム側で新たな漬け物がゲットできる。実にシンプルな構造のゲームである。

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 このゲームが優れているのは,「毎日同じ場所(樽デバイスの上)に大事な物を置く」と,「大事なものが行方不明にならなくなる」という,現実世界において明らかになっている因果関係をゲームに組み込んでいるということだ。

 そして「漬け物コレクション」は,「毎日同じ場所に大事なものを置く」ということによって起動し,それによって報酬が発生するようにデザインされている。つまり「毎日同じ場所に大事なものを置く」という行動を誘発するように作られているのだ。

 かくして「漬け物コレクション」のプレイヤーは,漬け物をコレクションするために,毎日決まった場所に大事なものを置くようになる。その結果,その大事なものが行方不明にならなくなるのだ。


「確実」なところからスタートする


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 ここまで読んで「なぜそんな分かりきったことを大げさに言っているのだ」という感想を抱くかもしれないが,これはシリアスゲームやゲーミフィケーションにおける「成功の方程式」となり得る構造である。

 例えば従来のシリアスゲームは,「ゲームを遊ぶ」と「特定の知識が得られる」といった構造が一般的だった。ワークショップなどでよく見る例としては,「RPG風味のゲームで,敵がクイズを出してきて,正解するとダメージを与えて敵を倒せる」といった構造を用いることで,プレイヤーに特定の知識を楽しく習得してもらおう,といった感じだ。

 しかしこの場合,「クイズに正解すること」と「正しい知識を得ること」が,本当につながっているという保証はない。
 テスト直前に一夜漬けをした経験がある人なら分かると思うが,たとえ正解できても,「Xという問いに対してはYという答えが正解」という単なる“組み合わせ”を覚えているだけで,「それはなぜか」を理解できていないケースは決して珍しくないのだ。

 このため,シリアスゲームにおいては効果測定が欠かせない。つまり「このゲームをプレイしたら,これだけできるようになりました」ということを測らないことには,プレイヤーがそのシリアスゲームを通じて本当に「学び」を得られたかどうか分からない。
 しかも効果測定の方法を間違えれば「組み合わせは覚えたが,知として獲得はしていなかった」ことがスルーされてしまう危険性もある。

 対して今回のセッションで提示されたフレームワークでは,「現実世界において,Aという行動をすれば,Bという結果が得られる(得られやすい)」という事実を前提とし,ゲームを使ってAという行動を促進するという形になっている。
 ゆえに効果測定としては,「どれくらいAという行動をきちんと行ったか」を測定すればよい。定量的な測定も容易なため,これをKPI(Key Performance Indicator,重要業績評価指標)としてゲームを改善することも可能だろう。

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 またこのフレームワークを,実際に成功したゲーミフィケーションの例に照らすと,きっちりフィットする例がすぐに見つかる。筆頭として思いつくのは,スウェーデンにおける安全運転促進のゲーミフィケーションだ。

 仕組みとしては簡単で,「ある事故多発区間において,法定速度を守って運転しているドライバーは,スピード違反したドライバーが払った罰金を,賞金として得ることがある」というもの。これによって,当該区間での平均速度は22%ほど低下したという。

 さて,この事例は,「法定速度を守って運転すれば」「事故は起きにくい」という,一定の相関が認められる組み合わせがベース,と考えられる。
 そして「法定速度を守って運転する」ことを促進するため,「法定速度を守っているドライバーは,違反したドライバーの罰金を,賞金として得られることがある」というゲームを実装した,と分解できる。実に綺麗に,このポスター発表のフレームワークに沿っているのだ。


潜在的な可能性は高そう。さらなる研究に期待


 中村特任准教授は,IoTやスマートフォンなどによって,このフレームワークのキモとなる「現実世界において,ある行為をすること」が,デジタル情報として取得しやすくなっていることを指摘する。
 つまりデバイスの発達や利用法の改善によって,現実世界における行動をデータとして取得しやすくなればなるほど,この構造によって解決できる問題も増えるということだ。
 中村氏はこの発表について「まだ完全なものではない」とはしているが,筆者としては非常にポテンシャルの高いものであるように感じた。

 興味深いことに,今回の発表は中村氏が「こういう構造があるから,それに沿ってゲームを作ってみよう」という課題を出した成果ではない,という。
 むしろ順番は逆で,「現実問題を解決できるゲームを作ってみよう」という課題から生まれた「漬け物コレクション」の出来があまりにも良かったことから研究を始め,今回の発表に至ったそうだ。

 ともあれ,シリアスゲームやゲーミフィケーションの設計や効果測定に対し,この発表は新しい(あるいは,自明だが言語化・理論化されてこなかった)視点をもたらしてくれる可能性に満ちている。より深い調査と考察を待ちたいところだ。

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