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[GDC 2017]VRはこう進化する。VRの未来形が語られたセッションをレポート
本稿では,イベント初日の北米時間2017年2月27日に行われた同トラックの1つ,「Four Futures of Entertainment and VR」を取り上げよう。VRという娯楽の,考えられる4つの未来形を提示するという内容のセッションだ。
スピーカーのCortney Harding氏は,ニューヨークのClive Davis School of Musicの教授を務めるかたわら,ハイテク産業に勤務し,音楽とVRに関するコンサルタント業を行い,本を執筆するという多才な人物で,こうした講演をいくつもこなしている。
つまり,ゲーム産業とは直接の関係は薄いものの,エンターテイメントの視点から見たVRの将来を語るというわけだ。
少々話はそれるが,今年のGDCはアナログゲームのトラックも行われるなど,積極的に間口を広げようという意図が感じられる。
それはともかく,Harding氏はまず,「ハリウッドはVRと映画をまったく違うものと考えており,VRをどうこうしようというアイデアはない」と述べ,「Fifty Shades Darker: The Masquerade Ball」というショートクリップを紹介した。
これは,「Fifty Shades Darker」という映画のプロモーション用に,映画で使われた素材を使用して作られたもので,見て分かるように,視聴者が仮面舞踏会に出席し,あたりを360°見回せるようになっている。
これがHarding氏の言う,VRの未来形の1つで,言ってみれば,普段の生活で体験できるような出来事のVRバージョンという感じだ。作るのも簡単で,他人に説明するのも容易だが,ユーザーはVRの檻に閉じ込められており,画面に出てくる人とのインタラクションもなく,最初は物珍しく感じてもやがて退屈になるという。それについては,同意する人も多いだろう。
2つめの未来形は,エキサイティングな現実に身を置くことができるというもの。ここで紹介されたのがBMWのコマーシャルフィルムで,高速で走る車に自分が乗っているような気分が味わえる。すでにあるものを使うという意味で,こちらも作りやすいし,理解しやすい。
しかし,ユーザーがVRに囚われている点では最初の未来形と同じであり,例えばコンサートやフットボールの試合をVRで見たとしても,そこでは友達とおしゃべりをすることはできないし,勝手に席を移ることもできない。要するに,テレビをVRで視聴するのと同じであり,だとすれば,わざわざ高価なデバイスを購入する意味はない。
という感じで,バッサリ切って捨てるHarding氏。VRの未来形については,これまでにない新しい文法が必要だというわけだ。
3つめの未来形の具体例としては,VR娯楽施設のThe Voidや,中国と台湾のViveportが挙げられた。これらは,武器を手に戦ったり,ランタンを持って洞窟を探検したりなど,数人での協力プレイが可能なもの。プレイヤーの動きによって仮想空間の流れが変わり,インタラクションも可能で,Harding氏によれば,近い将来におけるVRという娯楽の形だという。
問題は,それなりの施設が必要であり,また,移動できる範囲は施設の制約によることだ。
そして最後の未来形は,VRによってソーシャルな関係が生まれるというもの。具体的には,VRを使って遠く離れた人達が一か所に集まって会話を楽しんだりできるという。
これは,Oculus Researchのチーフサイエンティスト,Michael Abrash氏が提唱する「オーギュメンテッドVR」を思わせるもので(関連記事),オーギュメンテッドVRと同様,VRとAR(拡張現実)が混在する未来となる。Harding氏もホログラムを使った会話や,ユーザーが作ったAR/VRコンテンツを共有したりできる,VR版Facebookというビジョンを提示した。
この実現には,自然言語を使いこなすAIや,フォトリアルなアバター,優れたアイトラッキングシステムなどが必要になるが,こうした要素は進歩を続けており,実用化もそう遠くはないとHarding氏は述べた。
2016年に鳴り物入りで次々に市場に投入されたVRデバイスだが,当初予想されたほど普及は進んでおらず,キラーコンテンツと呼べるものも多くはない。こうした手詰まり感からか,GDC 2017では,さまざまなセッションで「VRの将来」が取り上げられており,Harding氏の描くビジョンもその中の1つだ。ゲーム業界の人ではないからか,ときどき「本当にそうかな」と思わせる発言もあったが,未来のビジョンがオーギュメンテッドVRに近いというのは,興味深いところだった。
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