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[NDC18]シナリオプランナーは“読んでいなくても記憶に残る”シナリオを作るべき。ベテラン開発者がその仕事を語った
カン氏は2007年にエムゲームに入社し,その後Nexon Koreaなどを経て,現在はBlueholeの新作モバイル用RPGでシナリオプランナーとして活動している。10年以上の経歴を持っているというわけだ。
では,シナリオプランナーとはどういった役割を担うのか。インターネットで検索をかけると,「企画者の説明を聞いて,チュートリアルを作り,詳細なシナリオを作る人」と出てくるが,カン氏によれば,これは間違いだという。氏の経験上,そもそも企画者からロクな説明がないこともあるからだ。
また,Wordを使って文章(シナリオ)を書く仕事だと思われがちだが,実際は世界観や種族といった細かな情報を開発メンバーに伝える仕事が主になるため,ExcelやPowerPointを使うことが多いという。シナリオをゲームに溶け込ませるために,ツールの画面ばかりを見ている時間も長いそうだ。
つまり,カン氏が考えるシナリオプランナーとは,文章を書く役割ではなく,文章を使って企画を考える役割なのだという。
そして,シナリオプランナーがすべきことは,大まかに3つに分かれている。1つめが,ディレクターのオーダーを受けて,チュートリアルを作り出すこと。2つめが,シナリオとストーリーを総括的に責任を持って担当すること。3つめについては,後で紹介しよう。
簡単そうに聞こえるかもしれないが,シナリオプランナーとして10年以上生き残ってきたカン氏は,そう甘くはないと述べる。ゲームにおいてシナリオは重要で,プレイヤーからの需要もある。ネットで検索すれば「シナリオの書き方」というような本も山ほど見つかる。しかしながら,韓国のゲーム業界にそれほどシナリオプランナーは存在せず,「ほぼ絶滅危惧種」となっているそうだ。
だが,シナリオプランナーを目指す人自体は多い。ゲームは好きだけど,コーディングはできないし,絵も描けないという人が,シナリオプランナーを選ぶからだ。
カン氏は,それならコーディングも絵もやってみて,1つずつ素質があるかどうか確認すべきであり,それによって人よりシナリオをうまく書けることが分かったのなら,シナリオプランナーを目指すべきだと話す。現在はWeb小説を書ける人も多く,「人よりうまく書ける」ということのハードルは高い。また,自分ならではのゲームが作りたいという欲求がある人なら,ディレクターを目指せばいいし,ゲーム世界を設計したいならレベルデザイナーという役割もある。
こうした理由から,最終的にシナリオプランナーになる人は少なく,市場の需要に対して,供給が追い付いていないのだそうだ。
それでもシナリオプランナーを目指したい人は,何を意識するべきか。
カン氏は,常に柔軟な対応を行うことが大切だと述べる。ゲームはチーム単位で作るものであり,その戦略もたびたび変わるものだからだ。
シナリオプランナーを目指す人の中には,シナリオを自分だけの作品だと勘違いして,必要なフィードバックですら“我が子”への攻撃だと思い込む人もいるそうだ。
あくまでチームで作っているということを忘れてはならない。カン氏の場合は,ラフの段階からできるだけチーム内で共有し,たくさんのフィードバックをもらうようにしているという。
また,カン氏は,シナリオを作るにあたって,複雑なものを単純に,単純なものを詳細に見せることの重要性を語った。シナリオは,あまり複雑だと読んでもらえない。しかしながら,プレイヤーは深みのあるシナリオが好きなので,どこかで掘り下げは必要だ。
そこで,シナリオプランナーがすべきことの3つめとして,「そのシナリオいいですね,読んではいませんが記憶に残っています」と言われるようなシナリオを作ることを挙げた。
そのために必要なのは,シナリオ自体は単純にしつつも,クエストやカットシーン,アイテム,モンスター,背景など,さまざまなゲーム内の情報をシナリオを描くための資源として活用し,シナリオを掘り下げていくことだ。プレイしているだけで記憶に残るようなシナリオを生み出すことこそが,シナリオプランナーの仕事というわけである。
最後にカン氏は,プレイヤーが面白いシナリオを求める限り,シナリオプランナーという仕事がなくなることはないとしたうえで,数少ないシナリオプランナーとして,現在開発中のBlueholeの新作をローンチできたら,その経験も伝えていきたいと語った。
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